2015年08月15日

「新時代の刑事司法制度」ー検察司法復権とえん罪の危険度

「新時代の刑事司法制度」を作るというテーマで取り組まれてきた一連の刑事手続のあり方を変える立法改正案が,衆議院を通過して,参議院に送られた。おそらく今回の通常国会で成立すると思われる。
 共同通信がこれを取り上げて各誌に配信したところ,例えば,次のような記事が掲載されている。

「司法取引17年にも導入/取り調べ可視化法案/衆院を通過、成立へ」
岩手日報2015/08/08 (朝刊)
「警察と検察による取り調べの録音・録画(可視化)の義務付けや通信傍受の対象拡大を柱とする刑事訴訟法などの改正案は7日、衆院本会議で与野党の賛成多数で可決された。参院での審議を経て今国会で成立する見通し。新たに導入される司法取引制度は2017年をめどに始まる公算だ。
 司法取引は、容疑者や被告が共犯者の犯罪を解明するために供述したり証拠を提供したりすれば、検察が起訴を見送ったり取り消したりできる制度。弁護士や刑事法学者からは「虚偽の供述で無実の人を巻き込み冤罪(えんざい)を生む恐れがある」との指摘も出ており、参院での審議の焦点となる。
 取引の対象は財政経済事件や薬物・銃器事件などに限られ、弁護士の同意が必要となる。また、公判で証人に対し、罪に問わないことを約束する代わりに犯罪への関与など自分に不利益な証言をさせることができる規定も盛り込まれた。
 改正案は付則で「公布の日から2年を超えない範囲で、政令で定める日から施行する」と規定しており、法務・検察当局は警察と連携し改正法成立後すぐに準備作業を始める。
 可視化の対象は裁判員裁判対象事件と特捜部などが手掛ける検察の独自事件に限られ、全事件の3%程度。逮捕した容疑者の取り調べの全過程で実施する。
 犯罪捜査で電話やメールを傍受できる対象は薬物犯罪など4類型に限られているが、これに組織性が疑われる殺人や詐欺、窃盗など9類型を追加。NTTなど通信事業者の立ち会いは不要になる。
 公判前整理手続きで検察官保管証拠の一覧表を被告側に交付することや、勾留された全容疑者に国選弁護人を付けることなども盛り込まれた。
 可視化義務付けは改正法の公布から3年以内、通信傍受の拡大は6カ月以内に施行される。」
 これについて,各誌で採用されている編者のコメントは以下の通りである。
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■冤罪危険性高める
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話 司法取引が導入されると、事件の見立てに沿った取引をする権限を検察に与えることになる。容疑者や被告が捜査機関と一体となって他人を犯罪に巻き込む供述をした場合、後に弁護人が覆すことは困難だ。改正法案は、こうした新たな捜査手法を認める一方、取り調べの可視化は一部の事件に限定している。全体として見れば冤罪(えんざい)の危険性を高める内容で、疑問が残る。
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 追加の感想は以下の通りである。
 今,参議院に回っている一連の刑事訴訟法関連改正法案は,裁判員裁判制度導入=市民主義原理の導入に対向する「検察司法」復活=官僚司法主義復権を狙ったものであり,これからはその対抗軸がどのおような運用を生むのか見守り,また,市民主義原理を活かす運用を広げられるかその実践力の出所が試される時期に入る。
 その意味で,ふたつの司法取引(証人=刑事免責,被疑者・被告人=訴追合意)を軸とする事件解決のあり方がどうなっていくのか,に限らず,その周辺で起きる「勾留全件国選」制度,捜査資料一覧表開示,裁判員裁判対象事件限定録音録画(おそらく他の事件に広がらざるを得ないし,そうした運用を押し上げる機動力が必要になる),他方での,通信傍受の通常捜査化などなど全体を見つつ,今回の改正法案の行方をみる必要がある。

 *なお,2015/08/08 長崎新聞などにも掲載されている。
posted by justice_justice at 12:58 | TrackBack(0) | ■刑事訴訟法一般 | 更新情報をチェックする

2015年08月09日

乳児「窒息死」事件と逮捕権限濫用

残念な記事が大阪読売2015年8月6日(朝刊)に紹介されている。
 「乳児『窒息死』と特定/新潟地検/施術の元理事長逮捕」
 「新潟県の男児(当時1歳)にマッサージのような施術をして死亡させたとして、新潟地検がNPO法人元理事長を逮捕した事件で、同地検は5日、検察審査会による『起訴相当』の議決後に男児の死因を窒息死と特定できたことが逮捕の決め手になったことを明らかにした。同地検はいったん元理事長を不起訴にしていたが、大阪地裁が4日に別の男児の事件で有罪判決を言い渡した直後に逮捕した。
 新潟県の男児は2013年2月、同県上越市のNPO法人(解散)元理事長・姫川尚美被告(57)の施術を受けた後に死亡。新潟県警が同年11月、姫川被告を業務上過失致死容疑で書類送検し、新潟地検が翌12月、不起訴(嫌疑不十分)にしたが、新潟検察審査会が今年6月5日付で「起訴相当」と議決した。
 新潟地検の稲葉一生検事正は不起訴の理由について「司法解剖など必要な捜査はしたが、当時は死因の特定が困難だった」と説明。議決後に捜査をやり直した結果、窒息死と特定できると判断し、施術が死亡を招いた業務上過失致死の疑いが強まったとした。ただ、窒息死とする根拠は明らかにしなかった。
 一方、姫川被告は今年3月、神戸市の生後4か月の男児を死亡させたとして業務上過失致死容疑で大阪府警に逮捕され、4月から大阪地裁で公判が始まっていた。今月4日午前、禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決が言い渡されて釈放されたが、閉廷から数時間後、新潟地検検事が大阪地検の庁舎内で逮捕したという。
 検察審査会法は、議決から原則3か月以内に起訴するかを判断するよう検察に求めており、新潟地検は今後、刑事処分を決める」。
■ 新潟地検の逮捕は暴挙であり許し難い。刑事裁判は真相解明を前提にして,犯行の重み,被告の処罰の要否を判断して量刑を決める。今回の執行猶予付有罪判決でも過失の重みを判断する際に新潟の事件を経験したことも考慮され,量刑でも言及されているなどしており,重ねて裁判にかけて有罪にすることは,実質上二重処罰に等しい。
 同時に審理すれば,二度同じ事件を繰り返した被告にふさわしい量刑も期待できたはずで,執行猶予であったとしても禁錮ではなく懲役に,またより長期の刑罰が科された可能性も否定できない。
 国家機関である検察庁が強制捜査を予定しておきながら,同種事件の裁判の終了を待って直ちに被告の身柄を拘束するのは,被告の防御の利益を踏みにじる一方で,刑事裁判で真相を明らかにし事件全体にとって相応しい厳正な刑罰を実現することを期待する国民の信頼を裏切るもので,訴追権の濫用だ。被告側は,起訴されても,公訴権の濫用として手続打ち切りを強く求めるべきだ。
 市民が参加する検察審査会の意向を反映して再捜査をするのは検察庁の当然の責務であるが,法律のプロとしての責任で行うべきで,裁判所が反省し更生の余地があると認める被告を,再度同種事件で逮捕するなど正義の実現にはほど遠いし,被告の改善更生にも全く役に立たない。必罰を狙う今回の措置は納得できない。
■ 掲載コメント
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「二つの事件を併合して審理していれば、執行猶予が付いても禁錮刑より重い懲役刑になった可能性がある。一方で、別々に審理されると被告が事件全体を踏まえた主張をしにくくなり不利益にもつながる。大阪、新潟両地検はもっと連携して対応すべきだった」と話している。
posted by justice_justice at 08:13 | TrackBack(0) | ■裁判員裁判ー一般 | 更新情報をチェックする

2015年08月07日

■裁判員裁判の落とし穴ー審理のやり直しはできるか?

●中国新聞2015年7月7日朝刊は,次のような興味深い事例を紹介している。
 「東京地裁(田辺三保子裁判長)で開かれた強盗致傷事件の裁判員裁判が3月から約4カ月間ストップし、6日に一部の裁判員を選び直したことが分かった。裁判員の入れ替えは異例。審理中断は、被告が起訴内容を認めた後に新たな争点が浮上し、進行を見直す必要が生じたためだった。7日に再開する。
 再開後は、元の裁判員と新しい裁判員の前で冒頭陳述などをやり直す。既に終えた証人尋問は、やりとりを録画したDVDを法廷で再生する。
 被告のルーマニア人の男(26)は、東京都世田谷区の信用金庫前で、男性から現金4300万円が入ったかばんを奪ったとして強盗致傷などの罪に問われている。3月にあった公判に被害者の男性が証人として出廷。弁護側は、男性の証言はかばんの形状が実際と異なり、信用性に疑いがあるとして、起訴内容を争う方針に転換した。
 検察側がこれに応じ、追加の証拠提出などに時間を要するとしたため公判は中断。この後、裁判員と補充裁判員計8人中3人が辞任を申し出て地裁が解任した。開廷に必要な人数を下回ったため、地裁は今月6日、裁判員と補充裁判員計4人(1人追加)を選び直した」。
●やはり疑問が残る。そもそも強盗事件の被害品の存在と形状について客観的に食いちがいがあったのに,被告人が基礎内容を認め,後にその点が公判の進行途中で争点として浮かび上がってくると言うのは,公判前整理手続段階の準備不足の観を否めない。他に,やむを得ない事情があったものかどうかは,新聞取材の限りでは分からないようだ。ともあれ,理由がなんであれ,一部の裁判員のみ交代させる審理形式は適切ではない。プロの裁判官の交代と同じ発想方法で裁判員の交代を認めることは裁判員の間に情報の格差を生じるし,ないよりも,一緒の法廷で一緒に確認した情報のみを証拠とするという公判中心主義,そして,厳格な証明手続による立証を経て事実を認定する自由心証の根本を覆すものだ。
 相当期間の延期が見込まれた段階で,日本で言えば,いったん公訴棄却とするなど手続を打ち切る処置をするべきだ。また,将来は,かかる場合に備えて,「審理無効宣言」を宣告する裁判形式を採用するべきだあろう。
 とまれ,こんなコメントを掲載してもらっている。

●甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「被害そのものが公判開始後に議論になるのは公判前の準備不足だ。裁判員は既に有罪という前提で審理に臨んでおり、原理原則からすれば、起訴をいったん取り消して、完全にゼロから裁判を実施するのがふさわしい」と指摘している。
posted by justice_justice at 07:17 | TrackBack(0) | ■裁判員裁判ー一般 | 更新情報をチェックする
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