2018年03月24日

リニア 談合事件を考える〜「司法取引」実質開始

 日経のネット配信ニュースでは「リニア談合 ゼネコン4社と鹿島・大成幹部を起訴 東京地検」と報じられている(2018/3/23 15:42)。本文は,以下の通り。
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 リニア中央新幹線の建設工事をめぐる入札談合事件で、東京地検特捜部は23日、大林組鹿島清水建設大成建設の大手ゼネコン4社と、鹿島と大成建設の幹部2人を独占禁止法違反(不当な取引制限)罪で起訴した。2人は大成建設の顧問で元常務執行役員の大川孝容疑者(67)と、鹿島の土木営業本部専任部長の大沢一郎容疑者(60)。 一方、両被告と共謀したとされ、在宅で調べていた大林組と清水建設の担当者2人については特捜部は起訴を見送った。

 起訴内容は2014年4月下旬ごろ〜15年8月下旬ごろの間、4社の担当者は共謀し、東京都内の飲食店で面談するなどしてJR東海が発注する品川駅(東京・港)と名古屋駅(名古屋市)の新設工事の受注企業を事前に決定。予定通り受注できるような価格の見積もりを行うことで合意し、自由な価格競争を妨げたとしている。

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 こんな断片的な感想を持った。

 基本的には,「司法取引」は「企業犯罪」にふさわしい捜査・訴追の手法とドライに割り切って捉えたい。

 今回の検察官の判断は今年6月から正式に開始される刑訴法上の司法取引を先取りした形であるが,企業犯罪については,企業に対する巨額の課徴金制裁,関係した会社人・会社自体に対する刑事罰を免除するのに代えて,「損得勘定による自白」を求める割り切った「司法取引」が有効だ。                                              
 殺人罪などでは,犯人の「反省悔悟による自白」を求めて自白すれば刑の減軽などの利益を与えることは是認されている。同じように,「企業」が経済活動の主体となっている時代には正義の実現方法も変わる。今回も大林組などが率先して事件を申告したから事態が明らかになり,不正な工事発注の拡散と継続をいち早く断ち切ることができた。司法取引の手法は,埋もれた犯罪をあぶり出し正常な取引市場を回復するのに必要・有効な手法と割り切って受け入れるべきだ。
 ただ,今回の事件では,検察主導の捜査が行われており,他の談合を不問にするなどの利益も与えながら,検察の見立てに沿って関係者に虚偽供述をさせたり他社を巻き込む供述をさせたえん罪のおそれも残る。そうした権限濫用を疑われないためには,検察は,関係者の供述については録音録画を証拠として示し,また談合を裏付ける客観証拠を固めて,供述に過度に依存しない立証をするべきだ。
 裁判所は,関係者の供述の有無に拘わらず,談合が行われていなければあり得ない事実を客観証拠で証明しない限り,「合理的疑いを超える証明」が足りないとみるべきだろう。

posted by justice_justice at 07:03| ■裁判員裁判ー一般 | 更新情報をチェックする

2018年03月23日

■川崎老人ホーム転落死事件〜死刑宣告を考える

  川崎市幸区の有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で,2014年11〜12月、当時86〜96歳の入所者の男女3人がホームの居室のベランダから転落して死亡した事件について,横浜地裁での裁判員裁判で,2018年3月22日,被告人に対して死刑が宣告された。
 新聞では,判決では,ネット配信記事では,裁判長は3件の殺人罪の成立を認め、「人間性のかけらもうかがえない冷酷な態様には慄然(りつぜん)たる思いを禁じ得ない。死刑のほかに選択の余地はない」と述べたという。判決の概要を読みながら,こんなことを考えた。

(1)自白頼みの死刑宣告に危うさもあるが,母親に家族に飛び降りを手伝ったと述べたり,自分が殺したと述べるなどの経緯が証言で語られている。本人の警察への自白の信用性はひとまずおいても,被告が犯人でないのであれば捜査機関と別に家族に犯行関与を告白することは良識的には考えられない。
 家族へ犯行関与を告白した事実は,最高裁が求める「犯人適合事実」と捉えていい。つまり,被告が犯人でなければありえないとみていい事実が公判廷での母親での証言で立証されている。そうであれば,市民目線で状況証拠と本人の捜査初期の自白をみたときに,被告が被害者等を次々と投げ下ろしたイメージがくっきりと浮かび上がるとみてよい。市民参加型の裁判員裁判が求める「合理的疑いを超える証明」の水準を示したものだ。
(2)事実認定の水準は,今のところ,取調べの録音録画,可視化がない時代に作られた。
 従来,ややもすると,密室での厳しい取調べで,場合により暴力,脅迫,利益誘導も加わり,捜査機関の見立てにそって作られた詳細な自白があること,これを前提にして作られてきた面がある。被告に「真相を語れ」と期待する世論もそうした背景から生まれてきた。自白すれば死刑になる事件でも,被告が公判廷で黙秘することを許さない雰囲気がある。
 しかし,有罪立証の責任は国にある。同時に,有罪立証の水準も,詳細な自白に期待できない範囲で,慎重な判断がなされれば足りる。最高裁判例の言う,犯人適合事実の署名を含めた立証の水準,という枠組みは納得でき,今回の判断もこれを満たしている。
(3)死刑について,執行までの手順・手続,それまでの処遇,万が一にも恩赦の可能性はないのか,えん罪のおそれを避ける運用はあるのかなど死刑執行に至る課程について,情報を公開するべきだ。
 市民を交えた裁判で極刑の選択を求めるのであれば,死刑執行が適正手続を守って行われていること,政治家の恣意的な判断で執行がなされたり,遅れたりすることがないこともまた公判廷で明らかにするべきであった。
 極刑が予想される事件で被告が無罪を主張するときに,有罪か無罪か判断する証拠と併せて,遺族などが量刑に関する証言や意見陳述を裁判員と裁判官が聞くのは妥当ではない。
 被害者への同情が証拠評価を歪めたのではないかという疑いを残す運用はあらためるべきで,処遇に関する説明の必要性も考えると,早急に,有罪・無罪を判断する手続段階と量刑に関する事実調べを行う手続を分ける立法を急ぐべきだ。
(4)裁判員裁判対象事件と取調べの可視化の意味をどう考えるか。
 当初から裁判員裁判対象事件が疑われる事件では,警察段階でも,検察段階でも被疑者との対話場面はすべて録音録画するべきだ。容疑者が,容疑に対してどのような態度をとるのか自体が証拠になる。初期のリアクションは特に大切で,警察がドタバタ騒ぎの中で,どんな問い方,情報提供をしたのかもきちんと記録に留めることが,容疑者の防御権の行使にとっても重要だ。取調べの録音録画について,立法では,任意性があることを証明するのには録音録画が必要だとされているが,これに留まることなく,罪体立証・情状立証の実質証拠として録音録画を利用するべきで,容疑者は弁護人の助言を得て対応を決める法文化を確立する必要があるし,さらには,容疑者取り調べには,弁護人の立会を認めるべきである。黙秘権行使についても,弁護人の適切な助言の元に判断できる運用を確立するべきだ。
(5)自閉スペクトラム症が被告の判断に影響を与えた可能性までは認められたが,他方,福祉の現場での仕事を選んだ被告がなぜ入居者の連続殺害というおぞましい選択をしたのかという「心の闇」については,解明はできていない。
posted by justice_justice at 17:54| ■裁判員裁判ー一般 | 更新情報をチェックする

2018年03月18日

少女監禁2年,実刑9年・・・不可解な量刑理由

 2018年3月12日に,さいたま地方裁判所で,2014年に行方不明になった当時中学1年の少女が約2年後に保護された事件について,未成年者誘拐と監禁致傷などの罪に問われた寺内樺風(かぶ)被告(25)に対して、懲役9年(求刑・懲役15年)の有罪判決を言い渡した。
 実際のところ,判決を聞いて驚いた。今回の事件については,求刑を大幅に下回る判決は,社会良識ともずれるもので納得できない。
 ナンバープレートを複数枚盗みこれを使った車両で被害少女を連れ去るなど犯行の計画性は顕著であるし,当初からマインドコントロールによって脱出・逃亡の意欲を削ぐという極めて悪質な計画をもっていた。
 少女は2年の間監禁されたが,心の傷害は,刃物で身体に傷つけられた場合に比較にならない。併合罪として処理するのは,こうした複合的な悪質な犯罪の特質に沿った処罰をするためである。
 他事件との均衡といった裁判官のみが分かる事情で,本件の証拠には出てこない事情を重視するのも,正義の実現の点で問題を残す。
 さらに,裁判官らは,被害少女が一度外に出たが,周りの人が助けてくれず,また元に戻ってしまった点を捉えて,うまく脱出しなかったから監禁が長期化したとわざわざ指摘している。極めて不相当だ。マインドコントロールの恐ろしさを軽視したもので社会も納得しない。
 PTSDを伴わない監禁は考えにくく,裁判所は特に減軽するべき事情がない限り検察官の求刑である15年を出発点にするべきであった。
 立法のあり方としても,監禁致傷罪固有の被害状況を反映させた法定刑を独自に定めるべきで,傷害罪に比して上限を決める規定は改正するべきだ。
posted by justice_justice at 15:15| ■裁判ー起訴された事件 | 更新情報をチェックする