2018年03月29日

■佐川宣寿氏前国税庁長官の国会証人喚問に寄せて〜黙秘の権利再考

 ○佐川氏は,刑事訴追のおそれがある事項と政治家の関与はないという犯罪に関わらない事実を分けて明確に証言し,今回の書類書き換えが財務局と近畿財務局が招いた組織ぐるみの犯罪であったことを明確にした。
 偽証罪の制裁のおそれがあり,国民注目の中で,国会で積極的に虚偽を述べるとは考えにくい。証言には一定の信用性を認めるべきだ。
 ○一転して,理財局と近畿財務局の関係,関係者の指揮命令系統などについて佐川氏は国会では語っていない。
 共犯と疑われる可能性がある以上,犯罪関与に関連する証言を控える権利が憲法と法律で認めらている。この選択は是認するべきものである。憲法も自己に不利益な供述の強要を禁止しているが,ここから被疑者・被告人の黙秘権が生まれてくる。市民が,国家権力に対して自己防衛する最小限度の防御権が「黙る」権利であることを再確認するべきだ。その趣旨に照らしても正当な権利行使だ。
 新聞報道などみていて気になるのは,自らの犯行関与の可能性のある事実関係に関しては黙秘した事実から,翻って,政治家の関与については否定した証言について,嘘をついている,とうがった評価をすることだ。これは,現行の議院証言制度を否定するのに等しい。
 同じように,証言を拒絶したから,文書書き換えにも加担していると疑いを濃くするのも憲法の精神を踏みにじるもので許しがたい。
 ○各党の議員が,国会の場で,「今回の書き換えには,政治家が関与している」という「見立て」を押しつけるかのように,佐川氏に証言を迫る姿は,密室で自白を迫る取調べ方法とよく似ている。
 これらは,刑事事件で容疑者や被告が黙秘するから犯人だと決めつけるのと同じで,証言拒絶権・黙秘権ともに憲法38条に由来する権利であってその正当な権利行使を本人の不利な事実に扱うことは許されない。
 刑事免責の制度も用意せずに,証人が憲法でも権利として保障されている「黙秘」を選択したことをいろいろな角度から非難し,証言したこと,しなかったことについて不利益な扱いをすることは,憲法の精神そのものを踏みにじる暴挙だ。
 ○今回のように,官僚と政治家による不正事件の疑いが濃く,政権のあり方に関する国民の選択にも関わる事件なのであれば,国会の場でこそ真実の証言が欲しい。
 国会が国権の最高機関であり,その機能を十分に果たすための国政調査権は,刑罰権を実現するための捜査権に優位すると考えてもおかしくない。
 そうであれば,憲法上の黙秘する権利,自己に不利益な供述を強制されない権利を実質上保障する措置が必要で,それが昨今導入された刑事事件における訴追に関する司法取引や証言に関する刑事免責である。
 国政調査権の円滑かつ公正な行使によって,国政の根幹にかかわる情報を提供させることが最重要なのであれば,国会で証言しても刑事事件の責任追及の資料にできないとする免責制度を導入しておくべきだ。
 国政に関わる事実を証言した場合,犯罪に関わるものであっても,刑罰権より国会の調査機能を優先させるという選択は,合理的である。
 そうした刑事免責制度や国会証言に関する刑事免責の制度のもとで佐川氏が証言したのであれば,今回証言を拒絶した多くのことについて,事実をあきらかにした可能性がある。
 国会での証人喚問のあり方をこの機会に見なすべきである
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2018年03月28日

佐川宣寿氏の国会証言について

第1 「関与者の範囲(共犯の確定)」の解明
(1) 財務省理財局と近畿財務局を中心とする「組織ぐるみ」犯罪であることは明白である,
 だが,なによりも,端的に,誰が書き換えを発案し,本省から近畿財務局に伝達したのか明らかにする必要がある。
 むろん,書き換えがあったとき,理財局長であった佐川宣寿氏が,その立場から,局内の指揮命令系統を通じて,近畿財務局に書き換えの指示命令を出したのか否かを解明する必要がある。
 佐川氏から現場で書き換え作業を行った職員まで,いかなる経路でこれが伝達されたのかも調べなければならない。
 つまり,近畿財務局の執務室の現場で書き換え作業を行った職員の特定は当然に行わなければならない。その現場に書き換え作業を指揮命令した中間か離職は誰なのかも特定するべきだ。
(2) 財務省内部の流れと別に,理財局長等に文書書き換えを依頼・打診・指示・示唆などした政治家はいたのか否か,も解明しなければならない。
 つまり,「政・官」ぐるみ犯罪としてなされた隠蔽工作なのか,「官庁の勇み足」犯罪であったのか。いずれにせよ,自民党の安定政権の元で起きた「官僚の驕り犯罪」であることは明白である。
 それにしても,理財局長が歯止めにならなかったこと,書き換え作業を黙々とこなす体質であったこと,その反応の背景はなんであったのかも明確に解明する必要がある。
(3)次に,国会に書き換え文書を提出するにあたり,佐川氏が,書き換え済み文書であると認識しながら,提出方を指示ないし許可していれば,行使罪にも問われる。書き換え指示とは異なるルートで,書き換え文書の国会提出がなされているはずで,その組織系統図も明らかにするべきだ。
(4)こうした書き換えから国会提出による行使まで,犯罪の系統図,つまり関係者の位置づけを解明し,刑事責任を追求するべき人の範囲を確定すべきだろう。つまり,「共犯」」の人的範囲の確定である。
第2 「何罪になるのか(刑法の擬律判断)」 では,佐川氏について,何罪で問責できるか・すべきか。
(1) 近畿財務局において,当初の決済文書などを職務上作成した者が現場で自ら一部削除などの書き換えをしたのであれば,同人らは直ちに公務員・公文書変造罪(刑法156条)に問える。
(2) その指示命令を佐川氏が行っていたのであれば,佐川氏と現場の職員の間には共犯関係が成立する。佐川氏は,公務員・公文書変造罪の共謀共同正犯として問責されることとなる。
(3) 次に,この書き換え文書を理財局の総務課などを介して,国会に提出している。佐川氏は,変造された公文書であることを知りながら,これを真実のものと偽り,その元で国会審議が進むことを認識しながら,提出を是認している。したがって,同行使罪(刑法158条)についても共謀共同正犯としての責任を負うことととなる。
(4)以上の擬律判断にあたり,次の点を検討しておく必要がある。
 ア:近畿財務局において,配置換えで当初の担当者は交替している可能性が高い。その場合にも,文書の管理に関する役職・権限と責務は引継ぎがなされている。事務継承があった上で,前任者の作成した文書を後に配置された職員が書き換えたのであれば,実質上同一の作成名義人たる公務員による変造とみてよく,公務員・公文書変造罪,同行使罪に問責してよい。
 イ:一般の公文書偽造変造罪,同行使罪と,公務員・公文書虚偽作成・変造罪,同行使罪は,法定刑としては同じであるが,宣告刑の段階では,犯人が公務員である場合,罪状はより悪質であって量刑に影響を与えることとなる。156条で刑責を問うことを優先するべきである。
 ウ:末端で書き換え作業を行った公務員も,仮に上司の命令に従っただけだと弁解しても,責任は軽くない。
 まず,文書書き換えが違法であることを認識しながらこれを行った以上,責任は重い。
 しかも,国家公務員は,公文書管理法上行政上の契約に関する書類などについても跡付け・検証ができるように書類を適正に作成管理することが義務づけられている。
 刑事訴訟法239条により犯罪の告発義務も負う。行政文書の作成・管理に関する重い責務を個々の公務員も負っている。
 そうした中で,明白に虚偽である文書に作り替え,しかもこれを国会の場に出すことを知りながら加担した以上,仮に末端の職員であったとしても,佐川氏とともに「正犯」としての責任を問われてもやむを得ない。
(5)(補足) 本庁の財務省理財局ー地方の近畿財務局の権限関係は解明しておく必要がある。
ア:書き換え当時理財局長であった佐川氏と国有財産処分に関する現場での処分権限を持つ近畿財務局との権限関係も明確にしなければならない。
 事実上理財局の指示命令が一般的に一定の拘束力を持っていると推測出来るが,この場合,佐川氏の指示を理財局内部で近畿財務局に伝達した職員,これを受けて部下に書き換えを指示して作業を行わせた近畿財務局の幹部,そして現場の職員は,共謀による正犯として扱ってよい。役割に応じて量刑が軽くなることは是認できるが,他方,こうした組織ぐるみ犯罪を行う指揮命令を行った佐川氏の責任は重大である。
イ:書き換え文書の行使については,総務課などの関与がうかがわれる。書き換え文書であると認識しながら,国会に提出したのであれば,これに関与した者も,佐川氏とともに,実行正犯,または共謀共同正犯として責任を免れることはできない。

第2 犯罪の成否
(条文)
 ●第155条(公文書偽造等) 行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3前二項に規定するもののほか、公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者は、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
 ●第156条(虚偽公文書作成等)公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは、印章又は署名の有無により区別して、前二条の例による。
(解説)
ア:「偽造」とは,新たに虚偽文書を作成すること。「偽造」=「偽ニセを造る」こと。「変造」は,すでにある文書を「造り変え」こと。
 今回の事例では,既存の決裁文書の書き換え,つまり「造り変え」なので,155条でも156条でも,「変造」にあたる。
イ:155条は,公務員以外の者が,「公務員が作成している」という「形」が「有る」ように見せかける。だから,「有形」偽造・変造という。156条は,そもそも公務員が主体であり,一般的な作成権限があるから「公務員の振りをする『形』」は「無い」ので「無形」偽造・変造という。
ウ:(補足) *今回は無関係
 上記以外に,署名押印などがあって,文書作成名義の同一性,文書の正確性・信用性あるいは公定力が担保されていることが通常である。こうした「有印」文書と誰が作成したかは文面上解るが署名押印まではない「無印」文書によっても犯罪の軽重,処罰の要否が別れている。

第3 国会での証言拒否と犯罪捜査
(1)
 ・佐川氏が証言を拒否した場合、国会での真相解明は期待できない。検察の捜査に期待することとなる。
 ・従来型の密室での取調べで検察の「見立て」に従って供述を強制する手法は時代遅れだ。録音録画が導入されている時代には,こうした手法はとれない。
(2)
 ・他方,今年6月から,検察はあらたな捜査権限を駆使できるようになる。まず,公文書偽造罪などを含む一定の犯罪では,犯人が同種関連事件の解決について捜査協力をすると本人の訴追に関して有利に扱われる司法取引を行なう権限を行使できる。
 また,検察官は,証人が自己の犯罪も告白しながら共犯者の関与を証言する場合,当該証言は証人自身に対しては有罪証拠に使わない刑事免責を裁判所に請求できる権限も使える。
 こうした「損得勘定による自白」,「取引司法」の実際を国民が是認するかどうか,安定した運用が定着するかどうか見定めるのには時間がかかる。
 それはさておき,今回の財務省内部の組織犯罪解明には,「損得勘定による自白」を検察が関係者に求める権限を行使することで真相に迫ることを是認せざるを得ない。
 今後,内偵捜査により,関与者の概要がつかめた段階で,刑事責任の追及を断念しても国民も是認する末端に近い職員もでてくる。
 彼らに対しては,上記の司法取引の他,刑事免責の提供を活用し,財務省と近畿財務局それぞれの密室でのできごとを浮き彫りにさせることができる。
 むろん,実は,佐川氏自身も万が一にも政治家の関与があったときに,検察が,供述を得るにあたり,捜査協力・訴追合意や刑事免責の「損得勘定自白」を提供することもあり得る。
(3)
 ・但し,司法取引・刑事免責の運用は,検察主導の取調べで,えん罪を生む危険も高まる。
 指示命令の有無という客観証拠では立証しにくい事案であるだけに,任意の取調べ段階から取調べの全過程録音録画を行っておくべきであろう。
 
第4
1:前提〜刑罰権よりも国政調査権優先の証人尋問制度を作るべき〜
(1) 国家体制を維持・発展させる上で,国会による国政調査権と,刑罰権のどちらを優先させるべきか,という観点から考えるべきテーマ。現在は,刑罰権を優先する。
 だから,国会の証人尋問も,自己負罪供述の拒否を認め,捜査機関が捜査し,検察が起訴して,裁判所が裁き刑罰を科す手続を国政調査権によりも優先している。
 真相解明を国会の場ではなく,司法に委ねる構造となっている。
(2) しかし,刑事裁判において,検察官が刑事免責の請求権を持ち,司法取引の権限を与えられているのもひとつの法政策に留まる。これと同じく,国政調査の徹底,国会における真相解明,国政のあり方に関わる真実は国会で明らかにするという憲法41条の趣旨を体現した制度があってもおかしくない。
 国会議員が国会で発言したことについて,基本的に刑事責任の追及はされない(憲法51条)。
 同じく,憲法上の制度たる国会における証人尋問における証言に関して,国会での真相解明を優先し,ここでの証言は,同人の刑事訴追において証拠としない,という国会証言についての刑事免責制度を導入するべきだ。
 さもなければ,国政の最高機関が,別の国家機能である刑罰権を優先して国政の利益が損なわれることに甘んじなければならない。しかも,刑事裁判は,刑事罰を科すのに必要な限度でしか事案解明を行わない。民主主義の基盤を守るため,国民の知る権利に必要な情報が収集される訳でもないし,裁判後に,証拠が開示されるわけでもない。国民にとって納得しがたい。
(参考ー議院証言法)
第一条の五 証人には、宣誓前に、次に掲げる事項を告げなければならない。
一 第四条第一項に規定する者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのあるときは、宣誓又は証言を拒むことができること。
二 第四条第二項本文に規定する者が業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについては、宣誓又は証言を拒むことができること。
三 正当の理由がなくて宣誓又は証言を拒んだときは刑罰に処せられること。
四 虚偽の陳述をしたときは刑罰に処せられること。
(参考ー憲法)
●41条 国会は国権の最高機関である。
●62条 そのために国政調査権がある。証人尋問を行える。
2:佐川の証言拒否のもたらすもの
(1)政治家の関与,財務省の関与などが選挙で国民が選んだ代表のいる国会で解明されず,結局は,検察の訴追権に委ねることで,実は与野党一体となって事件をベールにくるむことを是認しているのに等しい。
 国家のあり方に関わる事件の真相が,結局,国会の場から遠ざけられることとなる。与党・野党を問わず,政治家の政治責任の追及ができなくなる。
(2)現下の国際情勢の中で,真剣に議論しなければならない国家にとっての緊急の課題は放置されることとなる。
 国有財産の一部の処理というきわめてローカルな土地問題の扱いのため,国会が時間を使わざるを得ない状態にある。
 それが,首相の進退,内閣の再編成などなど政情不安をもたらしかねない。
 他に深刻に真剣に,与野党挙げて国のあり方とからめて国会審議を深めるべきテーマがまったくなおざりにされている。国民を愚弄するものだ。
 そうした状態を官僚が造り,首相,内閣がコントロールできないという情けない状態となっている。
 国際緊張も日々変化する中,国会では,内輪もめの議論が続く。国民はしらけた気持ちで論争をみている。
 所詮,真の政治「家」(せいじか)ではなく,政治「屋」(せいじや)政治にすぎないことを露呈している。
(3)こうして,財務省の信用失墜,納税義務の意識低下,民主主義国家を支える基盤〜選挙による信頼できる政治家を選ぶこと,納税の義務を尽くすこと,勤労によって民主国家の基盤を作ること,こうした民主主義3原則が,国会の場での茶番劇をみせられことによって崩れていく。
posted by justice_justice at 07:42| ■刑事訴訟法一般 | 更新情報をチェックする

2018年03月17日

司法取引,いよいよ始まる

 新聞報道では,先年改正公布されていた刑訴法規程中,いわゆる司法取引などの規程群が6月1日から施行される。
 立体的に検討しなければならないが,当面,司法取引について,疑問点を列挙する。

 表題的に言えば,次の疑問だ。
  ○虚偽供述を生む密室取調べの合法化のおそれ
  ○犯罪の迅速な摘発と同時にえん罪の構造化の危険を伴う立法
  ○市民が納得できる量刑ができるのか疑問

(1) 司法取引は,他人の犯罪の捜査や公判での立証に協力すれば,犯人が自己の事件で有利な扱いを受けることが正当化されるが,虚偽供述による「えん罪」を生む危険性が大きくなる。取引対象になる犯罪も主に経済関連犯罪であるが,贈収賄事件や覚せい剤など薬物事件も含まれ,範囲は広い。捜査機関の権限濫用,えん罪の危険が高まる。
 また,司法取引後の量刑の正当性について,市民は本当に納得するのかも疑問が残る。
(2) 捜査機関が取調べで提供する利益供与も幅広く,他人を犯人に仕立て上げる危険性が大きい。
 検察官は,取調べの場面で,有利な扱いをえさにして自己の「見立て」をほのめかして供述を引き出すことが容易にできる。村木事件などで批判されてきた検察えん罪の構造がそのまま正当化されることとなる。
(3) 取引をする犯人の弁護人も,標的にされた事件の容疑者・被告の弁護人も,困難な弁護活動を強いられる。合意事件の弁護人は,標的となった事件についての情報は皆無である。標的事件に関する証拠開示をうける立場にもなく,自分の依頼者の供述の信用性を点検する手段はない。にも関わらず,合意は弁護人の同意を必要的なものと定める。この結果,これまでとは異なり,弁護人がえん罪を生む構図の中に巻き込まれることとなる。
(4) 容疑者・被告にとっては,自己の事件だけではなく,他人の犯罪についても情報提供することで早期の社会復帰の機会を得ることができる。それだけに,身近な者を犠牲にしてでも刑を免れたい誘惑に駆られる。虚偽供述は新たに犯罪として重く処罰されることを自覚するだけではなく,市民のモラルが問われることを深く自覚して自制するべきだ。
(5) 標的事件の弁護人は,常に引っ張り込みの危険を警戒し,慎重な弁護活動が求められる。必ず公判前整理手続を申し立てて十分な証拠開示を踏まえて,虚偽供述に基づくえん罪の危険性を暴く高度の弁護活動が日常的に求められる。安易に「自白事件」「争っても無駄な事件」という姿勢で臨むことは許されない。
(6) 裁判所の事実認定面で,客観証拠がない限り有罪にできないなどの歯止めもなく,これまでの裁判所の運用では,供述の信用性判断だけでも有罪を認めている。犯人が共犯者との犯行を自白する型であっても,この自白に物証など自白の信用性を裏付けられる信頼できる証拠は必要とはされていない。司法取引による供述を有罪の柱とする検察側立証については,取引過程自体の録音録画記録の提出を求め,事件性を裏付ける他の客観証拠がない限り「合理的疑い」が残るものと扱うべきであろう。
(7) 裁判所の量刑も困難に直面する。
 被告が犯罪を認め,反省と悔悟,被害弁償などの救済をしていることなど主に改善更生の有無・程度を量刑の重要な要素としてきたこれまでの量刑相場なり量刑分布とは全く異質の要素によって量刑を決めることとなる。
 捜査協力の程度,他事件解明の貢献度などの効率性を考慮せざるを得ない。これは,伝統的な正義観とは相容れない事情で量刑を軽くすることを余儀なくされる。
 基準がなくなり,量刑による正義の実現に対する市民の信頼が損なわれる危険がある。
 例えば,オレオレ詐欺などの犯人が同種事犯を犯している他のグループの情報を提供すると,小さな事件と扱われたり,軽い量刑になる。被害者などからみれば,全く納得のできない理由による不当に軽い量刑となろう。
 司法取引の合法化は,我が国の司法の世界の正義観を覆しかねない。
posted by justice_justice at 08:35| ■刑事訴訟法一般 | 更新情報をチェックする

2018年01月19日

学者のランク付け方法

  学会や研究会で、学者の値踏みをよくする。報告を聞いていない証拠であり、こんな学者が三流であることは、当然の前提である。
   質問によって、分類する。
  報告に対して、即時に、「なるほど!」と唸らせる質問をする学者が一流。どう消化していいか、思いあぐねて学会二日目になってようやく「なるほど!」と思える質問を思いつくのが、二流の学者。
   学会が終わってしばらくして「なるほど」と思われる質問に思い当たるのは、三流以下の学者。
    学会報告直後に、さも尤もらしくどうでもいい、非本質的な質問をするのは、「似非学者」とか「おしゃべり学者」とか分類する。
posted by justice_justice at 07:39| ■刑事訴訟法一般 | 更新情報をチェックする

2015年08月15日

「新時代の刑事司法制度」ー検察司法復権とえん罪の危険度

「新時代の刑事司法制度」を作るというテーマで取り組まれてきた一連の刑事手続のあり方を変える立法改正案が,衆議院を通過して,参議院に送られた。おそらく今回の通常国会で成立すると思われる。
 共同通信がこれを取り上げて各誌に配信したところ,例えば,次のような記事が掲載されている。

「司法取引17年にも導入/取り調べ可視化法案/衆院を通過、成立へ」
岩手日報2015/08/08 (朝刊)
「警察と検察による取り調べの録音・録画(可視化)の義務付けや通信傍受の対象拡大を柱とする刑事訴訟法などの改正案は7日、衆院本会議で与野党の賛成多数で可決された。参院での審議を経て今国会で成立する見通し。新たに導入される司法取引制度は2017年をめどに始まる公算だ。
 司法取引は、容疑者や被告が共犯者の犯罪を解明するために供述したり証拠を提供したりすれば、検察が起訴を見送ったり取り消したりできる制度。弁護士や刑事法学者からは「虚偽の供述で無実の人を巻き込み冤罪(えんざい)を生む恐れがある」との指摘も出ており、参院での審議の焦点となる。
 取引の対象は財政経済事件や薬物・銃器事件などに限られ、弁護士の同意が必要となる。また、公判で証人に対し、罪に問わないことを約束する代わりに犯罪への関与など自分に不利益な証言をさせることができる規定も盛り込まれた。
 改正案は付則で「公布の日から2年を超えない範囲で、政令で定める日から施行する」と規定しており、法務・検察当局は警察と連携し改正法成立後すぐに準備作業を始める。
 可視化の対象は裁判員裁判対象事件と特捜部などが手掛ける検察の独自事件に限られ、全事件の3%程度。逮捕した容疑者の取り調べの全過程で実施する。
 犯罪捜査で電話やメールを傍受できる対象は薬物犯罪など4類型に限られているが、これに組織性が疑われる殺人や詐欺、窃盗など9類型を追加。NTTなど通信事業者の立ち会いは不要になる。
 公判前整理手続きで検察官保管証拠の一覧表を被告側に交付することや、勾留された全容疑者に国選弁護人を付けることなども盛り込まれた。
 可視化義務付けは改正法の公布から3年以内、通信傍受の拡大は6カ月以内に施行される。」
 これについて,各誌で採用されている編者のコメントは以下の通りである。
***********************
■冤罪危険性高める
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話 司法取引が導入されると、事件の見立てに沿った取引をする権限を検察に与えることになる。容疑者や被告が捜査機関と一体となって他人を犯罪に巻き込む供述をした場合、後に弁護人が覆すことは困難だ。改正法案は、こうした新たな捜査手法を認める一方、取り調べの可視化は一部の事件に限定している。全体として見れば冤罪(えんざい)の危険性を高める内容で、疑問が残る。
*************************
 追加の感想は以下の通りである。
 今,参議院に回っている一連の刑事訴訟法関連改正法案は,裁判員裁判制度導入=市民主義原理の導入に対向する「検察司法」復活=官僚司法主義復権を狙ったものであり,これからはその対抗軸がどのおような運用を生むのか見守り,また,市民主義原理を活かす運用を広げられるかその実践力の出所が試される時期に入る。
 その意味で,ふたつの司法取引(証人=刑事免責,被疑者・被告人=訴追合意)を軸とする事件解決のあり方がどうなっていくのか,に限らず,その周辺で起きる「勾留全件国選」制度,捜査資料一覧表開示,裁判員裁判対象事件限定録音録画(おそらく他の事件に広がらざるを得ないし,そうした運用を押し上げる機動力が必要になる),他方での,通信傍受の通常捜査化などなど全体を見つつ,今回の改正法案の行方をみる必要がある。

 *なお,2015/08/08 長崎新聞などにも掲載されている。
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