2010年10月22日

■誤訳えん罪の発生ーベニース事件ー

■ネット配信、共同通信より。

「通訳ミス」の主張認めず 一審裁判員裁判の控訴審
 覚せい剤取締法違反(営利目的密輸)などの罪に問われ実刑判決を受けたドイツ国籍の女が「一審の裁判員裁判で通訳ミスが多く、正当な裁判を受けられなかった」として審理の差し戻しを求めた控訴審の判決で、大阪高裁は22日、懲役9年、罰金350万円とした一審判決を支持し、被告側の控訴を棄却した。

 控訴審でガルスパハ・ベニース被告(54)側は、一審の被告人質問で、取り調べの際の心境について「とても悪い気分になった」と訳すべき部分を「申し訳ないと感じた」とするなど誤訳が多かったと主張したが、湯川哲嗣裁判長は「ニュアンスの違いを指摘したにすぎず、被告の言い分と異なる通訳がされたとはいえない」と退けた。

 弁護人は「裁判員裁判で克服すべき問題に高裁が向き合わなかった」と批判している。

 同被告は南アフリカ出身で英語が母語。判決によると、昨年5月、ドイツから関西空港に到着した際、小分けした覚せい剤約2・9キロをスーツケースに隠して密輸した。

2010/10/22 18:09 【共同通信】
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2010年09月23日

◇ベニース事件と「誤訳えん罪」ー弁護人弁論

■ネット配信の産経ニュースより
「裁判員裁判の誤訳、差し戻しを要求/大阪高裁]
−2010.9.22 21:19−
 覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの罪に問われ、1審大阪地裁の裁判員裁判で懲役9年、罰金350万円の判決を受けたドイツ国籍のエステティシャン、ガルスパハ・ベニース被告(54)の控訴審第4回公判が22日、大阪高裁(湯川哲嗣裁判長)で開かれた。弁護側は「正確に通訳されなかった」と主張、1審判決を破棄して地裁に差し戻し、能力のある通訳人で裁判員裁判をやりなおすよう求めて結審した。判決は10月22日。

 弁護側は最終弁論で、湯川裁判長が1審の裁判員裁判を録画したDVDを証拠として採用しなかったことを「誤訳を重ねる様子を証拠にせず、見るべきものを見なかった」と批判。その上で「誤訳で1審の裁判員と裁判官は、被告を信用できない気持ちを強くした可能性が高い。新しい形の『誤訳冤罪』を生み出してはならない」と訴えた。

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2010年08月18日

■ベニース事件再論ー手続の正義

■日経の記事からー「裁判員裁判で誤訳指摘/法廷通訳技量アップ急務、資格創設の動き(フォローアップ)」
2010年8月16日日経(朝刊)の記事を以下に引用する。
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日程集中増す負担
 外国人被告の裁判員裁判で多数の通訳ミスが指摘されたことをきっかけに、法廷通訳のレベルアップを求める声が高まってきた。裁判員裁判は日程が通常の裁判よりも集中しており、通訳の負担増がミスを招くとの指摘もある。司法関係者らは「技量向上と人材確保が急務」と、資格制度の創設に向けて動き出した。
 昨年11月、大阪地裁での裁判員裁判の一場面。知人女性らから依頼され、関西国際空港に覚せい剤入りのスーツケースを報酬目的で持ち込んだとして、覚せい剤取締法違反罪などで起訴されたドイツ国籍の女(54)に、裁判員の目は注がれた。
 「違法な薬物が入っている認識はなかった」と無罪を訴える被告に対し、弁護人は「結果として、覚せい剤を日本に持ち込んでしまったことをどう考えるか」と質問。被告が「I felt very bad」と答えたところ、通訳人は「非常に深く反省しています」と訳した。
 しかし、控訴審から弁護人に付いた渡辺ぎしゅう弁護士はこの通訳内容は誤りで「反省ではなく、『とても悪い気分になった』と訳すべきだった」と指摘。取り調べ段階で容疑を認めた理由の「because I gave in」を「あきらめてしまったから」と訳したのは、「『(取調官に)屈服したから』と訳すのが正しい」(渡辺弁護士)とする。
 このほかにも誤訳や訳し漏れが多数あるとされ、専門家に被告人質問の録音の鑑定を依頼した結果、長文での誤訳は公判全体で6割に及んだことが分かったという。
 一審判決は被告に懲役9年、罰金350万円を言い渡した。渡辺弁護士は「スーツケースに覚せい剤は入っており、冤罪(えんざい)を主張するつもりはない」としつつも「誤訳で被告の公平な裁判を受ける権利が侵害された。一審に差し戻すべきだ」と訴える。
 もともと裁判員裁判は、連日開廷で準備時間が減るなど、通訳の負担が増す懸念はあった。
 「裁判員裁判は、書面から口頭でのやり取り中心の裁判へと変わり、通訳の難度が増した。人材のレベルアップが急務だ」。金城学院大の水野真木子教授(通訳論)は今年6月、「法と言語学会」(東京都)などが主催した裁判員裁判での通訳のあり方を検討するシンポジウムで強調した。
 法廷通訳には資格は不要で、面接などで適正と判断された最高裁の候補者名簿の中から各裁判所が事件ごとに選任する。ただ名簿に登録されてもいつ選ばれるかは不明で、優秀な人材が集まりにくい事情もある。日本司法通訳士連合会の天海浪漫会長は「通訳人の間で法廷通訳は敬遠され、優秀な人材は会議通訳に流れる」と指摘する。
 同連合会は昨年5月21日の裁判員制度開始に伴い、法廷通訳の技量向上を目的に司法関係者らが設立。今秋からは独自に資格試験を始め、法廷通訳の技量向上と育成を図る計画を立てている。
 弁護士や学者で構成する法廷通訳研究会も法律の専門知識と職業倫理、実技の3つを柱とした資格試験の実施を検討。メンバーの池田崇志弁護士は「法廷通訳の希望者のやる気や意識は基本的に高い。受け皿として資格試験や研修制度の確立が不可欠」と話している。
 ▼法廷通訳 審理に立ち会い、日本語が分からない被告と裁判官らとのやり取りなどを通訳するとともに、起訴状や供述調書などを翻訳する。
 最高裁によると、4月1日現在、名簿に登録されているのは58言語、延べ4076人。2009年に全国の地裁で法廷通訳が付いた外国人被告は4000人で、北京語の通訳を必要とする被告が1185人と最も多かった。
 広島女学院大の長尾ひろみ学長(通訳論)によると、米国や英国、オーストラリアは法廷通訳の資格試験や公的認定制度を整備。通訳技術や専門知識、守秘義務などの倫理観の有無を見極めている。
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 ちょっとコメントを要する。
 本件を「えん罪」とは呼んでいない。後に覚せい剤であることが判明したものを現に所持して来日したことは明白だ。その状態を、犯罪とみるかどうかは、法適用、事実の解釈の問題である。我々弁護人は、故意を欠く以上無罪であると主張している。彼女が、内容を確認しないまま、スーツケースに組織の人間といまでは思われる女性が抛り込んだビニール袋入り覚せい剤を持ってきた状態を、なお「故意」があるとみるかどうかは、そうした彼女の主張の信用性の問題と、次に、「知らない」というのが事実でも、なお「違法名もの」程度の認識があると証拠上評価できる場合かどうかが問題となる。この場合には、我が国の判例のはばの広い「故意」の解釈の枠内に収まるものかどうかを見極めることとなる。
 その意味で、テクニカルには、無罪の合理的な理由があると判断している。しかし、まったく事実無根の犯罪について、理由もなく罪に問われる「えん罪」とは異なる。
 ベニース事件では、無罪を主張する。「えん罪」を暴く事件ではない。しかし、ふたりの英語通訳人の誤訳のために、彼女の人格に対する信頼性も、彼女の言葉に対する信頼性も大きく損なわれた。
 その状態で、裁判員が裁判官と判断した事実認定も量刑判断も、誤っている可能性が高い。
 我が国司法は、自己の過誤、瑕疵を率直に認めて、外国人に対し、そして国際社会に対して、手続の正義を貫く姿勢を示すべきだ。
 事件は破棄差戻とされて、もう一度裁判員裁判を行うべきだ。
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2010年06月07日

□ベニース事件控訴審第1回公判ー10年6月2日

 ベニース事件の控訴審第1回公判の様子について、各紙などが以下のように紹介している。資料として引用掲載する。
 我々は、裁判員を愚弄する誤訳だらけの一審の判決を破棄し、再度の裁判員裁判を求める。
 
■時事ドットコム(2010/06/02-13:33)
「通訳が誤り」、一審破棄求める=裁判員裁判で実刑、控訴審−大阪高裁
 覚せい剤を密輸したとして覚せい剤取締法違反などの罪に問われ、一審の裁判員裁判で懲役9年、罰金350万円の実刑判決を受けたガルスパハ・ベニース被告(54)の控訴審が2日、大阪高裁(湯川哲嗣裁判長)で始まった。弁護側は「通訳人の誤訳で誤った情報が与えられた」として、一審判決の破棄と審理のやり直しを求めた。
 同被告はドイツと南アフリカの両国籍を持つ。一審では男女2人の通訳が日本語から英語、英語から日本語への通訳を担当。弁護側は「男性が初歩的な通訳ができず、女性が何度も訂正した。その訂正も中途半端で、被告の主張が正確に伝えられなかった」と主張した。
 公判後に記者会見した弁護側は「(誤訳のせいで)被告の人格はゆがめられて裁判員に伝わった。一審に審理を差し戻し、人格を回復すべきだ」と述べ、質の高い通訳人の採用を要望した。

■産経ニュース 2010.6.2 13:30
裁判員 大阪高裁】「誤訳だ」差し戻し主張 英語使う独人被告側
 覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの罪に問われ、1審大阪地裁の裁判員裁判で懲役9年、罰金350万円の判決を受けたドイツ国籍のエステティシャン、ガルスパハ・ベニース被告(54)の控訴審初公判が2日、大阪高裁(湯川哲嗣裁判長)で開かれた。弁護側は「裁判員は誤訳で誤った情報を与えられ、被告の人格と主張がゆがめられた」と主張、1審判決を破棄して地裁に差し戻し、質の高い通訳人で裁判を行うよう求めた。
 湯川裁判長は冒頭、1審とは別の通訳人1人を選任。弁護側は「被告が信頼する通訳人の選任が不可欠」と主張、通訳人のレベルを確認するための尋問や、通訳の正確さを確認するために被告を弁護人の隣に座らせること、通訳人を2人に増やすことを求めたが、湯川裁判長は退けた。
 検察側は1審の通訳について「正当な意訳だった」と主張。弁護側は1審の録音資料をもとに「通訳は正確でなかった」とした言語学者らの鑑定書5通を提出し、1通が証拠として採用された。
 弁護人によると、ベニース被告の母国語は英語。捜査段階から一貫して無罪を主張するとともに、1審での通訳人に不信感を抱いていたという。

■YOMIURI ONLINE 読売(2010年6月2日 読売新聞)
 「法廷通訳の誤訳多い」、ドイツ人被告が1審破棄要求/覚せい剤密輸」
 関西空港に覚せい剤約3キロを密輸したとして覚せい剤取締法違反などの罪に問われ、1審・大阪地裁の裁判員裁判で懲役9年、罰金350万円の実刑判決を受けたドイツ国籍、ガルスパハ・ベニース被告(54)の控訴審が2日、大阪高裁で始まった。被告側は、1審を担当した2人の通訳人のうち1人について、「2文以上で成り立つ発言の65%に誤訳があった。裁判員が誤解して判断した危険性がある」と主張、1審判決を破棄し、審理を地裁に差し戻すよう求めた。
 弁護人によると、被告は日本語が話せないため、1審では被告人質問などに英語で答え、男女2人の通訳人が交代で通訳した。判決後、被告が「男性通訳に間違いが多かった」と主張。専門家に鑑定を依頼したところ、「I felt very bad(とても悪い気分になった)」を、「非常に深く反省している」と訳した個所などがあったという。
 被告側はこの日、「違法な薬物だと思わなかった」と、1審同様に無罪を主張した。弁護人は控訴審の通訳人の能力を試すための尋問を行いたいと主張したが、認められなかった。
 一方、検察側は「事実認定に影響を及ぼすような誤訳はない」と反論した。

■共同ニュース >47NEWS  2010/06/02 12:21
 「外国人被告、誤訳裁判と無罪主張 一審実刑判決」
 裁判員裁判で通訳ミスが多く、正当な裁判を受けられなかったとして、ドイツ国籍の女が無罪を主張している覚せい剤密輸事件の控訴審初公判が2日、大阪高裁であり、被告側は懲役9年とした一審判決の破棄と差し戻しを求めた。
 湯川哲嗣裁判長は、弁護側が請求した「一審の通訳に問題があった」とする学者の鑑定書を証拠採用した。検察側は控訴棄却を求めた。
 覚せい剤取締法違反(営利目的密輸)などの罪に問われたガルスパハ・ベニース被告(54)は南アフリカ出身で英語が母語。弁護側は一審の被告人質問で、取り調べ時の気持ちについて「とても悪い気分になった」と訳すべき部分を、裁判所に選任された通訳が「申し訳ないと感じた」とするなど誤訳が多かったと主張している。
 ベニース被告は捜査段階から無罪を主張。二審から担当する弁護人は、裁判員らが誤訳を通じた弁解をもとに、量刑を決めたとして「正当な裁判を受けられなかったのは憲法違反に当たる」と控訴趣意書で主張した。

■朝日新聞2010年6月2日(夕刊)
 「ドイツ人被告側「誤訳」訴え 審理差し戻し求める」
 覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の罪に問われ、一審の裁判員裁判で懲役9年罰金350万円の判決を受けたドイツ人女性(54)の控訴審第1回公判が2日、大阪高裁であった。弁護側は「一審の司法通訳人による通訳ミスが裁判員の判断をゆがめた可能性がある」と指摘。一審判決を破棄し、審理を大阪地裁に差し戻すよう求めた。
 弁護人の渡辺ぎ修(ぎしゅう)弁護士は同日、「一審の法廷内のやり取りが録音されたCDを分析した結果、被告の比較的長い発言のうち65%で意味の取り違えや訳し漏れがあった」とする専門家の鑑定書を提出。これに対し、検察側は「司法通訳人が意訳した部分があるが、誤訳にあたらない」とする答弁書を出し、被告側の控訴を棄却するよう求めた。
 今回の問題をめぐっては、一審の審理の映像が記録されたDVDの閲覧を渡辺弁護士が高裁に申請したところ、拒否されている。

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2010年05月07日

■高裁の「誤訳」隠蔽ー記録媒体隠匿の事実

■asahi.com(関西)のネット配信で、2010年5月7日付け、「裁判員裁判の映像の閲覧、2審で認めず/大阪高裁」という記事が出ている。

 これはブログ編者が、弁護士として受任している事件に関する記事だ。
 裁判員裁判で裁かれたドイツ国籍の黒人女性、英語を話す被告人の事件。
 彼女のために配置されたのは、ある関西で有名な旧帝大で、通訳学など専門にもしている男性通訳人。
 しかし、被告人の英語を訳す技法は、あまりにずさんででたらめ。
 聞くに耐えない通訳だ。
 そんな通訳から得た心証で、裁判員が有罪無罪、量刑を決めている。被告人にとってはたまらない。
 では、どれだけの誤訳があるのか、裁判員にはどんな影響があるのか。
 これを審理するのが、控訴審だ。
 ところが、だ。
 実は、驚いた。
 市民の代表が、評議にあたり、裁判官とともに、評議室でみたはずの被告人質問の模様を記録したビデオー記録媒体といって裁判員法65条で正式に作成することとなっている記録ー、これを高裁の3人の裁判官はがんとして見せないのだ。

 そんな馬鹿な話はない、と思って、なんども角度を変えて、閲覧謄写を認めるように働きかけてきた。
 しかし、「なにもしない」という態度をとって、かたくなにDVD(になっているはずの記録媒体)を抱え込んだまま、絶対に被告人と弁護人に見せようとしない。
 結局、『誤訳問題』を隠蔽することと同じ姿勢だ
 公正な裁判を求める外国人被告人の最低限の要求は、「質の高い通訳人」による「正確な通訳」だ。
 それを保障できなかった事実。
 高裁の3人の裁判官のかたくなな態度は、国際社会の水準に満たない我が国刑事裁判の恥部を守りに守ろうとする効果を生んでいる。
 「汚い裁判」をやろうとする高裁の裁判官達。
 その姿勢は、今回の裁判で最後まで糾弾する。

 、、、という前置きと一体として、以下、ネット配信記事の全文引用をするが、今回のブログコメントの主たる内容が、以上の弁護人としての主張にあるとみてもらって、著作権法が認める正当な引用と扱ってほしい。 

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 裁判員が被告の発言や表情を評議の場で再確認するために記録されたDVDの閲覧をめぐり、控訴審の弁護人と大阪高裁が対立している。一審で司法通訳人に「誤訳」されたとするドイツ人被告の主張を検証するため、弁護人が閲覧などを求めたところ、高裁が却下。高裁段階で裁判員用のDVDに関する規定がないことが背景にあるとみられる。制度導入からまもなく1年になる裁判員裁判での判決を不服とした控訴事件が増える中、新たな課題が浮かび上がった形だ。

 このDVDは、裁判員裁判がある地裁や地裁支部に導入された「音声認識システム」で記録されたもので、裁判員が評議で被告の発言や表情、振る舞いなどを確認するために使われる。「裁判員の職務の的確な遂行」をうたった裁判員法に基づく対応だ。

 大阪弁護士会の渡辺ギ修(ぎしゅう、ギは「凱」のへんに「おおがい」)弁護士は、大阪地裁の裁判員裁判で覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)罪に問われ、昨年11月に懲役9年の判決を受けたドイツ人女性被告(54)の控訴審の弁護を受任。被告が一審の司法通訳人2人による誤訳を訴えたことから、公判中の通訳の正確性が問題となった場合に備えて音声だけが録音されたCDを地裁から借り、専門家に鑑定を依頼した。

 その結果、「とても悪い気分になった」を「非常に深く反省しています」と訳すなど、主語と述語がそろった文を二つ以上含む被告の発言の65%(61件中40件)で意味を取り違える誤訳や、訳の一部が欠落する訳し漏れがあった疑いがあることが判明した。
 渡辺弁護士は「正確な分析のためには、被告の口元や表情、手ぶりの検証も必要」と判断。3月中旬、地裁からDVDを引き継いだ高裁に閲覧とコピーを認めるよう申し立てたが、「必要ない」として却下された。さらに最高裁に特別抗告したが、4月12日に退けられたという。

 日本弁護士連合会裁判員本部の小野正典本部長代行によると、音声認識システムで記録されたDVDは、「裁判員裁判中は弁護人にも貸し出すことができる」とした運用が定着している。DVDを立証活動に不可欠な「資料」ととらえ、審理の当事者であれば誰でも閲覧することができるべきだとの考えに立った対応だ。

 これに対し、裁判員が参加しない控訴審では、このDVDの取り扱いのよりどころとなる規定がない。控訴審から担当した弁護人が「事実上の裁判記録」として閲覧などを求めた場合、認めるかどうかの判断は各高裁に委ねられているのが現状だ。

 渡辺弁護士は「控訴審で争点となる誤訳の有無が詳しく分析できず、弁護活動に支障が出かねない」として、大阪高裁に改めて閲覧・コピーを求めたが、今月6日に再び拒否する回答があったという。
 大阪高裁の広報担当者は朝日新聞の取材に「個別の事案については答えられない」と話している。(阪本輝昭)
     ◇
 〈音声認識システム〉 昨年5月の裁判員制度スタートに合わせて最高裁が約4億円をかけて開発し、裁判員裁判が開かれる各地裁・支部に配備された。被告の発言や表情、振る舞いなどをマイクとカメラで記録し、裁判員が評議で有罪、無罪や量刑を決める際に利用する。被告の言葉などを入力すれば、視聴したい場面もすぐに再生できる。

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2010年03月27日

■通訳人の居直りープロフェッショナリズム欠如

■こんな記事が見つかった。
 asahi.com/MyTown新潟/2010年03月21日である。タイトルは「【裁判員法廷@新潟】1人通訳、負担重く」である。
 新潟地裁のロシア人被告人の法廷における通訳の様子を取り上げている。富山栄子准教授・事業創造大学院大のコメントを交えながら、次のような運用状況と問題点を摘示し、大変興味深い。
 以下、引用する。
*************
■被告人質問 ロシア語に
 新潟地裁で開かれている県内初の裁判員裁判で、ロシア語の通訳を担当するのは1人の女性だ。被告や裁判員などの発言をズレなく伝えるため苦労を重ねている。連日朝から夕方まで審理が続くため、裁判長も休憩を多めに取るなど通訳人の負担を考慮しているが、裁判員裁判の通訳経験者からは「通訳は2人必要」との声も上がる。(大内奏、富田洸平)
   ◇
 19日の被告人質問。検察官が「箱のテープを最後まであけませんでしたね」と質問すると、通訳人が「最後までというのは?」と質問の意図を聞き返した。検察官の「捕まるまでということです」との説明を聞いて、通訳人は被告に伝えた。
 やりとりを傍聴した事業創造大学院大の富山栄子准教授は検察官の「最後」の意味を「箱の端から端の最後まで」と受け取った。「通訳人が確認したおかげで、『最後』の意味がわかった」という。
 富山准教授によると、通訳人は難しい質問や発言があると、理解できない部分や意図を質問者や被告に聞き返していた。被告の話が長くなると、訳せるところまでで遮り、少しずつ訳していた。被告が「意味が分からない」というと、訳し方を変えていたという。
 富山准教授は「法廷通訳は直訳だけでなく、発言者の意図をくんで補う必要がある。集中力が必要で、すごい負担になる。自分もかつて2、3時間やっただけでも意図がわからなくなることがあった」と話す。発言の流れをつかむため、通訳人は1人で担当した方が円滑にできるというが、「丸1日は可哀想」と負担の大きさに同情を寄せる。
 18日の被告人質問では通訳人の疲労も見えた。午後3時ごろ、質問が長引く検察側に裁判長が「あとどれくらいかかるか」と聞いた。検察官は「10分」と答えたが、山田裁判長は「通訳人どうしましょう」と気遣い、通訳人の求めで15分の休憩が取られた。
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■ 以上の記事は、専門家の適切な摘示とともに、たいへん勉強になるものである。
 ところで、私が疑問に思ったのは、これに付け加えられた、次の取材部分だ。

 「昨年11月、大阪地裁で英語通訳を介して行われ、被告が実刑判決を受けた裁判員裁判では、被告が控訴し、弁護人が今年2月、通訳論の専門家に通訳内容の鑑定を依頼した。専門家は誤訳や訳し漏れを多数指摘。「裁判員の判断に影響を与えた可能性が大きい」と結論づけたという。
 通訳を担当したのは2人。そのうちの一人の通訳人は「2人で誤訳を指摘しあって最善を尽くしたが、法廷で録音をじっくり聴き直して通訳するわけではない。色々な種類、程度の誤訳は起こりうる。通訳は常に、限界を抱えている」と話し、1人では負担も大きく、誤訳の可能性も高くなると懸念している」。

 つまり、今、控訴審で問題を提起しているベニース事件の一審通訳人は、法廷通訳はもともと誤訳があることが前提だ、という居直りをしていることとなる。
 また、お互い頻繁に誤訳を指摘しあうほどレベルが低かったことを自認していることとなる。
 もっとも、私は、一方の通訳人の英語通訳に顕著な誤訳、省略、いいよどみがあったとは思っていない。
 この通訳人は、自己の誤訳の正当化のために、「通訳は常に、限界を抱えている」と述べたようだ。
 しかし、その通訳人は、実は、そんな高次元での誤訳、省略をしていたわけではない。もっと初歩的なレベルでの誤訳を繰り返していた。
 こんなきれい事でかたずけられては困る。
 また、自分の力量にこんな限界があると思っていたのなら、通訳人を下りるべきだった。他に力量のある英語通訳人は現にいる。 
 なにより、外国から来たアフリカ出身の女性、ドイツ国籍の外国人が、日本の裁判所で孤立無援で、裁判を受ける、その重要な橋渡しを通訳人がしているのだ。
 その通訳人が、誤訳があってよいという意識では困る。
 こんなプロフェッショナリズムに欠けた発言をもし本当に取材記者にしていたのだとしたら、それこそ通訳人失格である。
 二度と、法廷通訳の場に立つべきではない。


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2010年03月23日

■裁判員裁判と司法通訳のレベルー弁護人とマスコミ(下)

■2:英語通訳の失敗ーふたり通訳配置の落とし穴

■弁護人とマスコミへの情報発信
 今回、誤訳問題を追及する弁護人の控訴趣意書とその疎明資料である鑑定書などの基本資料をマスコミに提供したのは、弁護人である。
 ところで、元来、弁護人は法律が定める手続の枠内でしか職責を果たせない。「プロ」性は、ここでしか発揮できない。
 法律のどこにも、弁護人がマスコミに情報発信をした場合、いかなる効果を生じるか、定めていない。被告人にいかなる悪影響があるか、予想もできない。
 だから、責任のとれない情報発信を、弁護人はしてはならない。
 ただ、被告人が情報発信を希望するとき、一番困る。
 確かに、広い意味での防御活動の一環だからだ。
 マスコミへの情報発信の効果・不効果、なによりも、弁護人としては、責任を負いきれなくなることを十分に説明しなければならない。
 しかし、「やらない」とか、「だめだ」とかいう押しつけはしない。
とくに本件被告人のように、勾留されて身柄を拘束されている場合、その意思を尊重せざるを得ない。
「自分でやれば」と放置することは弁護人の責務違反だ。

 なぜなら、弁護人は被疑者・被告人の”Hired Gun”だからだ。

■被疑者・被告人の「包括的防御権」と弁護人の「包括的代理権」
 被疑者・被告人は、いつでも、必要なときに、必要な場面で、必要な相手に対して、防御活動をする広い権限がある。憲法上「包括的防御権」が被疑者・被告人たる地位に内在している。
 そして、弁護人は、これに対応して、「包括的代理権」をもつ。弁護人の地位の本質は、この「包括的代理権」にある。固有権ではない。従属代理でもない。
 つまり、十分なコミュニケーション、情報提供と納得、議論と説得、、、そして、最後の選択は、被疑者・被告人がする。その選択にしたがって、最大限に防御の効果を挙げるのが弁護人の役割だ。
 被告人が、マスコミへの情報提供を弁護活動、防御活動の一部として求めるとき、弁護人はその意思にそって動く。

 今回、弁護人としてマスコミに情報を発信したのも、被告人との協議と同意に基づく。
 被告人が「もう十分!」と言えば、その瞬間に情報発信は止める。
 だが、逆に、被告人が求める限り、必要な時期に、必要な情報を、必要な報道機関に、提供する。

 その他の防御活動も行なう。

■ 被告人は、女性。アフリカ生まれ。英語はイギリス風。
 発音もきれいで、なまりの少ない聞き取りやすい英語だ。かつ、話す内容も明解である。弁護人としての接見には、通訳人を必要としない。ブログ編者も英語はできる。
 ただし、自分の専門領域について必要な情報をおおまかに聞き取る限度の会話力である。司法通訳などできるレベルではない。

 被告人は、結果として大量の覚せい剤を日本に運んだ。
 事情はいろいろある。 
 問題は、公判廷の通訳だ。その事情を説明する被告人の英語が的確に正確に日本語にされなかった。
 それどころか、ひどい。
 ふたりの通訳人が配置された。男性通訳人が、被告人の英語を日本語に変える通訳を担当した。女性通訳人が、他の関係者の日本語を英語にする役割を分担した。
 男性通訳人は、通訳技法をそもそも身につけたことがあるのか疑問が生じるような初歩的なミスが頻発している。
 聞き漏らし、訳し落とし、省略、並べ替えなどなど。
 さらに、プロの通訳人が禁止されること、「あのー、えー」など「言いよどみ」を勝手に加えること、これを連続している。
 このため、通訳人の日本語を介したとき、被告人の説明は、あいまいで、辻褄があわず、自分の犯罪をごまかそうとしていると受けとめられてもしかたがないものとなっている。

 女性通訳人のレベルの高い通訳と各段の差が歴然としているだけに、男性通訳人のレベルの低さは隠しようがない。

 
■ 裁判員裁判の場合、誤訳の介在は、致命的である。
 何故なら、審理の後、直ちに評議に入る。誤訳を訂正する手だてはない。現に、この裁判でも、男性通訳人の質の低さは、公判前整理手続でも、法律家の目に明らかであったはずなのに、誰も、その交代を求めていない。裁判所も放置した。
 その状態で、裁判員に審理に臨ませた。誤訳が事実認定、有罪・無罪の認定、量刑にどう影響したか、誰も測定できない。
 「影響がない」などと傲慢なことを、法律家が言える立場にもない。
 今までのように、プロの裁判官のみであれば、強引にごまかせた。
 「大勢に影響なし」と。
 しかし、市民良識を信頼し、尊敬し、尊重する新しいシステムの元で、質の低い通訳に基づく評議を強いた法律家の責任は重い。
 裁判員裁判の精神を冒涜し、市民の良心を踏みにじるものだ。
 許し難い。弁護人として徹底してこの問題を追及する予定だ。

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■裁判員裁判と司法通訳のレベルー弁護人とマスコミ(上)

■1:裁判員裁判と外国人被告人事件ー朝日新聞の記事から

 少し長くなるが、2010年3月21付け朝日新聞(朝刊)を引用する。
 そのタイトルは、「裁判員裁判で通訳ミス多数/専門家鑑定/長文は6割以上」というものだ。
 担当記者が、事件担当弁護人から資料の提供を受けた上に、独自に取材した内容を補足してまとめたものである。
 ここでいう担当弁護人とは、いわずとしれたことであるが、ブログ編者自身である。
 この記事の意味はなにか、また、なぜ弁護人がマスコミに事件情報を提供するのかなどは、(下)としてまとめることとする。

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 大阪地裁で昨年11月にあった覚せい剤密輸事件の裁判員裁判で、司法通訳人2人が外国人被告の発言を英語から日本語に訳した際に、「誤訳」や「訳し漏れ」が多数あったと専門家が鑑定したことがわかった。長文に及ぶ発言では全体の60%以上になると指摘している。被告の弁護人は「裁判員らの判断に影響を与えた可能性が高い」とし、審理を地裁に差し戻すよう控訴審で求める。

 この被告はドイツ国籍の女性ガルスパハ・ベニース被告(54)。知人女性らから依頼され、報酬目当てで覚せい剤約3キロをドイツから関西空港に運んだとして、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の罪に問われ、懲役9年、罰金350万円の判決を受けた。

 南アフリカ生まれの被告は英語が母語であることから、地裁は男女2人の英語の司法通訳人を選任。2人は交代で通訳にあたった。被告は法廷で「違法な薬物を運んでいるという認識はなかった」と無罪を主張したが、判決は「罪を免れるための虚偽」と判断し、容疑を認めた捜査段階の供述のほうが信用できるとして実刑を導いた。

 控訴審から弁護人になった渡辺●修(ぎしゅう、●は「豈」の右に「頁」)弁護士(大阪弁護士会)は今年2月、通訳内容を検証するため、司法通訳人の活動実績もある金城学院大文学部の水野真木子教授(通訳論)に、地裁が2日間の審理の過程をすべて録音したDVDの鑑定を依頼した。

 その結果、主語と述語がそろった文を二つ以上含む被告の発言の65%(61件中40件)で、意味を取り違える「誤訳」や、訳の一部が欠落する「訳し漏れ」があったとした。「はい」「いいえ」といった一言のやりとりを除く短い発言を含めると、通訳ミスは全体の34%(152件中52件)でみられたという。

 水野教授は、鑑定書で「通訳人は発言内容を十分理解していない」と指摘。裁判員らの心証形成に影響を与えた可能性が大きいと結論づけた。

 鑑定によると、たとえば、被告人質問で弁護人から「結果として覚せい剤を持ち込んでしまったことへの思い」を問われた際、被告は「I felt very bad」と答えたが、男性通訳人は「非常に深く反省しています」と訳した。水野教授は「心や気力が砕かれた状態をいう表現で、反省の弁ではない」と指摘する。

 また、覚せい剤が入っていたスーツケースに知人女性が白い結晶入りの袋を詰めるのを見たと話していた被告が、検察官の質問に「nothing done with the suitcase」と述べた部分を、女性通訳人が「スーツケースには何の細工もされていなかった」とせずに、「スーツケースは空だった」と訳したのも文脈からすれば誤り、としている。

 渡辺弁護士は「無罪主張の被告が急に反省の弁を述べたり、虚偽の説明をしたりしたように受け止められた恐れがある。被告が適正な裁判を受ける憲法上の権利を侵害されたのは明らかだ」と話す。

 一方、法廷での通訳を長年務めてきたという担当通訳人の男性は取材に「通訳人2人のチームで臨み、最善を尽くした。裁判員と裁判官は、すべての証拠を総合的に判断したと理解している」と話している。大阪地裁の広報担当者は「個別の裁判に関してはコメントしない」としている。

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