2014年01月04日

<弁護人として>ある殺人事件と裁判員裁判の「破棄」

■裁判員裁判=「感情司法」の打破と控訴審の機能ー控訴審弁護人の防御活動
 以下は,ブログ編者が控訴審弁護人として担当した事件の報道だ。
 一審の裁判員裁判では,以下の量刑理由で被告人を懲役20年にした。
 「不合理な弁解をして被害者の妻を始めとする多くの証人を法廷に引っ張り出すなど裁判を長引かせる一方で,被害弁償金を提供することにより,経済的に苦しい立場に置かれていると思われる被害者の妻を長らく板挟みの状況に置き,精神的に追い詰め苦しめていることは,行為責任の枠内で被告人の責任を重くする方向に働く」。
 これを「感情司法」と断じて,その破棄を求めた。
 他に,故意と共謀という刑法上の法律概念を適切に被告人に伝えない一審の法律家達の怠慢のため,被告人は自己の記憶する事件に関する認識では,故意もなく共謀もないと善意で信じてしまった。この点も,控訴審では問題視した。
 結果として,1項破棄ではなく,2項破棄となった。しかし,控訴審弁護人の目指すべき防御方針,一審判決の破棄,さらには刑の減軽には成功した。
***
■「大阪・阿倍野のネパール人殺害:2審、懲役19年判決/高裁、反省考慮し1年減刑/大阪」毎日新聞2013/11/28(大阪,朝刊)
 大阪市阿倍野区でネパール人の飲食店経営者を殺害したとして、殺人罪などに問われた建築工、I・H被告(23)の控訴審判決が27日、大阪高裁であった。米山正明裁判長は、求刑通り懲役20年とした1審・大阪地裁判決を破棄し、懲役19年を言い渡した。遺族と刑事和解が成立して弁償金が一部支払われたことを考慮し、「被害弁償の努力は軽視できず、反省が深まったと認められる」と判断した。
 判決によると、I被告は昨年1月16日、S・D被告(23)=1・2審で懲役19年、上告棄却で異議申し立て中=らと共謀し、阿倍野区の路上でDさん(当時42歳)を倒し、殴る蹴るの暴行を加えて殺害。さらにDさんの財布を盗んだ。
 1審でI被告は殺意を否認していたが、控訴審では殺人罪を認めていた。

《参考@ー一審の判決》
「ネパール人殺害、建築工懲役20年/大阪地裁判決【大阪】」
朝日新聞2013/03/29(朝刊)
 大阪市阿倍野区の路上で昨年1月、ネパール人の飲食店主が殺害された事件で、殺人と窃盗の罪に問われた建築工のI・H被告(22)の裁判員裁判の判決が28日、大阪地裁であった。河原俊也裁判長は「被害者を人間と考えていないような強烈な暴行を加え、財布を盗む卑劣な行為に及んだ」と述べ、求刑通り懲役20年を言い渡した。
 判決によると、I被告は昨年1月16日未明、帰宅中のDさん(当時42)を約200メートル追いかけ、顔や頭を殴ったり蹴ったりしたほか、自転車を顔に投げつけるなどして殺害した。被告側は殺意を否認していたが、「顔や頭を狙って攻撃している」と、判決は退けた。
 判決後、被害者参加制度を使って公判に出席したDさんの日本人の妻(38)が大阪市内で会見。「被告が罪の重さを分かっているとは思えなかった。刑が軽い、というのが正直な気持ちだ」と話した。

《参考Aー共犯者の事件》
「大阪・阿倍野のネパール人殺害:求刑年数上回る懲役19年確定へ」
毎日新聞2013/11/26(大阪朝刊)
 最高裁第2小法廷(鬼丸かおる裁判長)は21日付で、大阪市で昨年、ネパール人男性を殺害したとして、殺人罪などに問われた彫り師、S・D被告(23)の上告を棄却する決定をした。求刑を上回る懲役19年とした1、2審判決が確定する。
 裁判員裁判だった大阪地裁は「たまたま通りかかった被害者に何の理由もなく突然襲いかかり理不尽。執拗(しつよう)に暴行を続けており、特に悪質だ」として懲役18年の求刑を上回る判決を言い渡し、大阪高裁も支持した。
 1、2審判決によると被告は男らと共謀し、昨年1月、大阪市阿倍野区の路上でDさん(当時42歳)の顔や頭を殴り、自転車を投げ付けて殺害した。
posted by justice_justice at 07:21 | TrackBack(0) | ◇「弁護人」として | 更新情報をチェックする

2012年12月16日

■大阪地裁の裁判員裁判ー2名殺害、無期懲役ー弁護人としてー

*2012年10月末から11月はじめ、大阪地裁で、聴覚障害のある被告人が同じく聴覚障害のある知人男女2名を殺害する事件について裁判員裁判が行われた。「音のない世界」で起きた殺人事件であった。裁判は「手話通訳」を介して行われた。ブログ編者は弁護人として関与した。

■「都島男女殺害で起訴内容認める、大阪地裁初公判で被告」
 ○日経(夕刊)2012/10/30
 大阪市都島区のアパートで昨年4月、住人の男女3人を殺傷したとして、殺人と殺人未遂の罪に問われた無職、T・S被告告(60)の裁判員裁判の初公判が30日、大阪地裁(I・H裁判長)であり、T被告は「2人を刺したことは間違いない」と殺人罪の起訴内容を認めた。
 同被告と無関係だった男性への殺人未遂については「刺す気はなかった」と殺意を否認した。
 検察側は冒頭陳述で、「金を要求されてナイフでめった刺しにし、無関係の男性も殺害しようとした」と指摘。弁護側は「女性の前に立ちはだかったため、とっさに刺してしまった」と無関係の男性への殺人未遂は成立しないと主張した。

■「3人殺傷に無期求刑/被告、手話介し「後悔」/大阪・都島」
 ○朝日新聞(夕刊)2012/11/08
 大阪市都島区のアパートで昨年4月、知人の元夫婦を刺殺し、別の住人男性も殺そうとしたとして殺人と殺人未遂の罪に問われた無職T・S(・・・)被告(60)の裁判員裁判の論告求刑公判が8日、大阪地裁であった。検察側は「強い殺意に基づく執拗(しつよう)で残忍な犯行」と無期懲役を求刑。聴覚障害のある被告は最終意見陳述で手話通訳を介し、「元夫婦を殺害したことは後悔、反省しています」と述べた。
 弁護側は最終弁論で、住人男性に対する殺意を改めて否定。その上で聴覚障害がある被告の成育歴などを踏まえて「有期刑が相当」と訴えた。判決は15日。

■「3人殺傷で無期判決/聴覚障害、減刑なし/大阪・都島」
 ○朝日新聞(朝刊)2012/11/16
 大阪市都島区のアパートで住人3人を殺傷したとして、殺人と殺人未遂の罪に問われた無職T・S(・・・)被告(60)の裁判員裁判の判決が15日、大阪地裁であった。弁護側は聴覚障害のある被告の生い立ちなどから減刑を求めたが、I・H(・・・)裁判長は「強い殺意に基づく残虐な犯行」と、求刑通り無期懲役を言い渡した。
 判決によると、T被告は昨年4月、三角関係にあり、金銭トラブルも抱えていた元夫婦のO・Y(・・・)さん(当時44)とS・Y(・・・)さん(同39)から、金銭を渡すよう迫られて立腹。ナイフで2人を刺殺し、Sさんが駆け込んだ別の部屋の男性(70)にも重傷を負わせた。被告はこの男性への殺意は否認していたが、判決は「手加減なく首を刺しており、殺意があったと認められる」と結論づけた。
 公判は手話通訳を介して行われた。判決後の裁判員の記者会見で、40代男性は「丁寧な通訳で、被告の供述がかみ砕いた内容になり分かりやすかった」、20代女性は「思いの深さは想像するしかなかった」と話した。
posted by justice_justice at 04:33 | TrackBack(0) | ◇「弁護人」として | 更新情報をチェックする

2012年12月15日

■京都地裁の裁判員裁判ー2名殺害、無期懲役 ー弁護人としてー

*2012年11月末から12月はじめにかけて、京都地裁で、2名を殺害した被告人について裁判員裁判が行われた。弁護人として関与した。

■「妻の両親を殺害/起訴事実認める/裁判員裁判=京都」
 ○読売新聞(朝刊)2012/11/28
 2010年5月、長岡京市の路上で、妻(41)の両親を殺害したとして、殺人罪に問われた兵庫県尼崎市の元不動産業、S・T被告(55)の裁判員裁判の初公判が27日、地裁(O・T裁判長)であった。S被告は「間違いない。申し訳ない」と起訴事実を認めた。
 起訴状では、S被告は同年5月12日午前1時40分頃、妻が失跡したのはその親であるY・Yさん(当時65歳)と妻のSK・・・さん(同)夫妻が原因だとして、2人を暴行。その際、警察に通報されそうになったことに腹を立て、2人の胸と背中を刃物で数回突き刺して殺害したとされる。
 冒頭陳述で検察側は、犯行時夫婦が「殺さないで」と命乞いしていたことを明らかにした。一方、弁護側は「刃物は護身用に携帯していたもので、偶発的な犯行」と述べ「死刑か無期懲役かの量刑が予想されるが、冷静に判断してほしい」と裁判員らに語った。

■「裁判員に殺害場面音声/京都地裁/被害者録音を再生」
 ○産経新聞(夕刊)2012/11/28
 京都府長岡京市で平成22年、妻の両親を刺殺したとして、殺人罪に問われた元不動産業、R・T被告(55)に対する裁判員裁判の第2回公判が28日、京都地裁(O・T裁判長)で開かれ、殺害時に被害者が録音していた音声が流され、被害者の悲鳴に裁判員らは険しい表情を見せた。
 以前からR被告に脅されていた被害者が、記録のためボイスレコーダーを持っていた。この日の公判では、検察側がボイスレコーダーを調べた検察官を証人尋問、その際に音声が再生され、裁判員はイヤホンで聞いた。
 弁護側によると、殺害時の音声が裁判員裁判で再生されるのは珍しい。殺害場面の音声は約10分。傍聴席にも漏れ伝わった。
 R被告が妻の失踪に絡む両親の対応に激高し、妻の両親のY・Yさん=当時(65)=とSKさん=当時(65)=夫婦と言い争いになり、激しい物音がする中、SKさんの「やめて、やめて」と泣き叫ぶ声や悲鳴が聞こえた。
 起訴状によると、R被告は22年5月12日、妻の失踪は両親に原因があると言い掛かりをつけ暴行。
 胸などを刃物で数回突き刺し、失血死させたとしている。

■「長岡京の夫婦刺殺/被告が死刑求める/地裁で裁判員裁判=京都」
 ○読売新聞2012/12/01(朝刊)
 長岡京市で2010年5月、妻の両親を殺害したとして、殺人罪に問われた兵庫県尼崎市、元不動産業・S・T被告(55)の裁判員裁判の公判が30日、地裁(O・T裁判長)であった。被告人質問でS被告は「死刑にしてください」と裁判員らに訴えた。
 妻はS被告から、不倫を疑われて厳しく追及され、自殺未遂を起こした末に失踪したとされる。S被告は「自己中心的な自身の性格が、妻を追いつめてしまった」と反省する様子をみせた。弁護側から現在の心境を問われると、S被告は「(犯した罪は)人間のすることではない。ここで死刑にしてください」ときっぱりと答えた。

■「長岡京の夫婦殺害:「無期」判決/『命尽きるまで贖罪を』/裁判長、遺族に配慮−−地裁/京都」
 ○毎日新聞(朝刊、京都版)2012/12/14
 10年に長岡京市で妻の両親を刺殺したとして殺人罪に問われたS(本名・R)T被告(55)=兵庫県○○市=に対し、求刑通り無期懲役の判決を言い渡した13日の京都地裁の裁判員裁判。O・T裁判長は量刑理由について「命が尽きるまで贖罪(しょくざい)の日々を送らせるべきだ」と述べ、極刑を求めた遺族への配慮を示した。公判は被害者が録音していた殺害時の音声が流され、検察側と弁護側がそろって無期懲役を求刑するなど特異な経過をたどった。判決後、裁判員や被害者遺族らが記者会見し、心境を語った。
 裁判員を務めた30代の会社員男性は、音声記録について「事前に記録があると聞いており心構えができていたので、後々までストレスになることはない」と話した。また、無職女性(68)は「音声の証拠が無くても残虐性は、現場の写真や被害者の傷で証明されると思うが、現場の声は心に迫った。(他の裁判でも音声記録が)あるなら、裁判員は聞くべきだと思う」と述べた。
 一方、意見陳述で極刑を求めた被害者の次女(39)らは「裁判員には気持ちは伝わったと思う」としながらも「弁護側と同じ無期懲役の求刑を受けての判断で、裁判の意味があったのか」と無念さをにじませた。

■「遺族、無念の会見/「理解できない」/長岡京夫婦刺殺、無期判決/京都府」
 ○朝日新聞2012/12/14(朝刊)
 長岡京市で妻の両親を殺害したとして殺人罪に問われたS・T被告(55)に対する裁判員裁判の判決は求刑通り無期懲役だった。京都地裁は「被告の死で償うのが当然な事件だ」と指摘。死刑を望んでいた遺族は判決後、「なぜ検察は死刑を求刑してくれなかったのか」と悔しさを語った。
 判決によると、S被告は失踪中の妻が見つからないのは両親のせいだと難癖をつけ、2010年5月、妻の父のY・Yさん(当時65)と母SK(・・・)さん(同)を包丁で刺殺した。被告は起訴内容を認め、当初の争点は量刑とされた。
 両親の次女(39)と長男(34)は被害者参加制度を使って裁判に参加して「被告を死刑にして」と訴えた。京都地検は「死刑の適用には慎重になるべきだ」として弁護側と同じ無期懲役を求刑。判決は「悪質だが殺害を事前に計画していたとは考えにくい」として無期懲役とした。
 死刑を選ぶかどうかの判断にあたり、結果の重大性や計画性など9項目を示した「永山基準」が使われている。判決後に取材に応じた長男によると、死刑を求刑しなかった理由を、周到な計画性がなかったからなどと地検から説明を受けたという。
 長男は「2人を殺(あや)めたのに、計画性がないから死刑にならないのは理解できない」。次女は、判決が「死刑も当然」と指摘したことに触れ、「だからこそ、どうして検察は死刑を求刑してくれなかったのか。前例を踏まえた求刑しかできないなら、何のための裁判員裁判なのか」と話した。
 判決後の記者会見で、裁判員を務めた無職女性(68)は「判決に、遺族にしっかり生きていってくださいという思いをこめたつもりだ」と話した。
posted by justice_justice at 06:23 | TrackBack(0) | ◇「弁護人」として | 更新情報をチェックする

2011年10月25日

刑事専門法律事務所

dai_pubs0.jpg


 法科大学院出身の若手弁護士が毎年入所し、そして法テラス、ひまわり等などへと巣立っていく。
 在所する1年程度の期間で、各弁護士はみごとな成長ぶりを見せる。資質の高さと刑事弁護による
 正義実現への志を感じる。司法改革は、成功だと思う。

posted by justice_justice at 15:00 | TrackBack(0) | ◇「弁護人」として | 更新情報をチェックする

2010年06月06日

■無罪事件破棄ー冤罪への道

■大阪讀賣新聞2010年6月4日(朝刊)は、「焼き肉店経営者射殺/「銃譲渡無罪」を破棄/最高裁、差し戻し」と題する記事を掲載している。
 以下、本文を引用する。
 この事件は、「冤罪」だ。
 官僚司法による同一事件の「合一的確定」という暗黙のルールに負けた。
 残念だ。
 判決を聞くため上京。
 最高裁近くの赤坂見附跡を経て永田町の駅から帰阪した。

****************
 大阪府豊中市で2003年11月、焼き肉店経営Oさん(当時28歳)が射殺された事件で、実行犯とされる男に拳銃を譲渡したとして銃刀法違反などに問われた中古車販売業S被告(42)の上告審判決が3日、最高裁第1小法廷であった。宮川光治裁判長は、同法違反について逆転無罪とした2審・大阪高裁判決を破棄し、審理を同高裁に差し戻した。
 酒井被告は、焼き肉店元従業員A被告(34)(強盗殺人罪などで無期懲役判決、上告中)に拳銃1丁と実弾3発を100万円で譲り渡したなどとして起訴された。
 2審は、「被告は拳銃の受け渡しが行われたとされる日に別の場所にいたことは明らか」として、銃刀法違反について無罪を言い渡したが、同小法廷は「別の場所」について、「拳銃の受け渡し場所は車で1時間以内に到着できる距離にあり、犯行は可能だった」とアリバイ成立を否定した。

posted by justice_justice at 06:28| ◇「弁護人」として | 更新情報をチェックする

2010年02月24日

■裁判員裁判ー「一期一会」の法廷

■裁判員裁判と「一期一会」−強盗傷害罪、懲役9年

□朝日新聞2010年2月23日(大阪版)は、次のような記事を掲載した。

 「強盗致傷罪で懲役9年判決ー地裁で裁判員裁判」

本文を引用しよう。

「大阪市中央区のマンションで2008年12月、帰宅した風俗店経営の男性を襲い、かばんを奪ったとして強盗傷害などの罪に問われた同市西淀川区の無職○○○○被告(31)の裁判員裁判で、大阪地裁(樋口裕晃裁判長)は22日、懲役9年(求刑13年)の判決を言い渡した。
 判決は、ほかに窃盗や建造物侵入など8事件も被告の犯行と認定。『4カ月で立て続けに犯罪に及び、更生は容易ではない』と述べた。
 判決後の記者会見には裁判員6人全員が出席。審理や評議について、大半は『わかりやすかった』と話したが、60代の男性は、『裁判官には生活感がなく、ずれを感じた。書面や前例による判断が中心で、血の通った議論がなされず残念だ』と語った」。

□読売新聞2010年2月23日(大阪版)も、全国各地の裁判員裁判を紹介する「裁判員法廷から」の一環として、次の見出しで同じ事件について次のような記事を掲載した。

 「強盗傷害被告に懲役9年ー地裁『10年は酷』」

本文は以下の通りである。

「強盗傷害や窃盗などの罪に問われた大阪市西淀川区の無職、○○○○被告(31)の裁判員裁判の判決が22日、地裁であり、樋口裕晃裁判長は懲役9年(求刑・懲役13年)の実刑判決を言い渡した。樋口裁判長は『不況で失職したのが犯行のきっかけ。遅まきながら、罪の重さに気付いて反省しており、10年を超える懲役は酷』と量刑理由を述べた。
 閉廷後に裁判員6人が記者会見。弁護側が情状証拠として提出した、○○被告の家族写真について、女性裁判員は『背景事情を知ることができた』といい、男性会社員(35)は『家族がいながら、なぜこんな事件を引き起こしたのかと思った』と語った」。

□共犯者間で異なる犯行態様の認定
 この事件の争点の一つに、3人で被害者を襲撃したとき、まっさきに追いついた犯人がまず腰を足で蹴って倒れた被害者の頭部を椅子の鉄パイプの足で数回殴打して大けがを負わせたかどうか、足蹴りがきっかけであったかどうかが問題となった。
 ただし、足蹴があったかなかったかに拘わらず、その後の殴打行為は悪質だ。
 強盗が被害者に暴力をふるうのは危険はもの。事と次第によっては被害者死亡もありえる。
 その観点からは、足蹴がないから直ちに被告人の量刑に有利な方向へと大きな影響を与えるものではない。それは被告人も弁護人も認めるところ、、、
 しかし、他の共犯者2名の裁判員裁判の判決では、足蹴があったと認定している。
 正直なところ、その認定は、「有罪を認められる材料があるなら、有罪の作文をする」という旧来の裁判官裁判と同じものであった。
 読売新聞10年1月28日(朝刊)は「樋口裁判長は『被害者が受けた最初の暴行で、記憶違いは考えられない』と退けた」と解説。
 しかし、実際の証拠は、被害者が事件から相当経てから取調べのときに足蹴があったと言い始めたもの。
 他方、被告達は、犯行関与も鉄パイプでの殴打もすべて認め、見舞金を払い、示談を頼み、被害者から厳しい刑は望まないと嘆願書までもらっている。
 ことさら足蹴にしたことのみ否認する必要は全くない。
 「足蹴にはしてないから、そう述べているだけ」。これが本件被告人の率直な説明だ。
 実際、常識的に考えても、マンションに逃げ込もうとした被害者がドアにぶつかって倒れた過程でなにか勘違いする可能性も十分にある。
 足蹴にされたという被害者の供述を体験したものでなければ語れない、具体的で迫真的なもの、、、と検察官が主張し、裁判長がこれを後押ししたため、別の事件では裁判員も含む裁判所がこれを認めた形となったのではないか、、、
 だが、今回の事件では、裁判員は、法廷での証拠調べをごく良識的に見たと思う。
 要するに、被害者もことさら被害状況を誇張した訳でもないが、被告人も嘘をいう必要がない。
 とすれば一瞬のできごとについて現に足蹴があったと断定できる確実な証拠はないこととなる。
 その際に働くのが、「疑わしきは被告人の利益に」の鉄則だ。
 「合理的疑いを超える証明」をしなければならないのは検察官の側だ。
 これに成功していないのに、裁判長が救い船を出してはならない。裁判官裁判の時代に築いた「疑わしきは被告人の利益に」の原則を基本的に使わない緩やかな有罪認定の相場を裁判員裁判に持ち込んではならない。

 本件で、「足蹴」を起点にして犯行がなされたとの検察官の主張を、裁判員は採用しなかった。
 そして、それが、逆に、実刑13年を求める検察官の主張の妥当性を疑わせるきっかけにもなったのではないか。

 ちなみに、同じ事件を含めて起訴された他の共犯者について、同じ裁判長のもとで、Y被告には、1月27日に、求刑8年に対し、6年6月の実刑が宣告され、昨年12月18日には、求刑10年に対して8年の実刑が宣告されている。
  
□それにしても、60代男性裁判員の感想は率直だ。

「生活感覚のない裁判官が書面と先例を頼りに判断しようとする。」

 おそらくは裁判長は評議の中で他の共犯者との整合性を強調したのではないか。他の共犯者の事件では、先頭に立った犯人、つまり、本件の被告人が足蹴にしたと認定した、、、
 本件の裁判長は、共犯者の裁判長もつとめた。足蹴にした張本人の事件で、そうした事実はなかったと認定する不整合にプロとしてのこだわりを見せたのではないか。
 しかし、裁判員裁判とは、「一期一会」の裁判だ。
 証拠も異なる。被告人も異なる。なによりも、裁判員が異なる。であれば、事実認定も量刑の軽重も異なってよい。

 「合理的疑い」。

 これも明確な数量的な基準があるものでもない。だから、職業裁判官が独自に作り上げた基準ではえん罪を防げなくなっている。 
 そこに、裁判毎に市民を入れて「プロ裁判官だけの事実認定」に伴う金属疲労を防ごうとしているのが裁判員裁判だ。
 今回の裁判員の感想は、はからずもプロ裁判官の意識のありかたを示したものであり、逆に裁判員が加わって健全化が図られていることを物語るものでもある。

□「家族の写真」。
 これは、被告人にとって両刃の刃になるが、結果的には大きな意味で、被告人の人柄を裁判員に認識してもらって判断材料にしてもらう意味では、有利に働く。
 犯罪は人生の一こまである。
 被害者のいる犯罪では、その一コマの重みが増す。今回もそうだ。強盗傷人の犯行態様の悪質さは見逃せない。長期の実刑は犯人も覚悟する。
 しかし、犯人にも人生がある。家族がありながらこうした犯罪を犯したこと、それで家計の足しにしていた事実、、、これをどうみるのか判断するのは裁判員に委ねたらよい。
 裁判員が被告人の人となりを知りながら、量刑をすることが不可欠である。
 家族の写真は重要な証拠となる。
posted by justice_justice at 08:03| ◇「弁護人」として | 更新情報をチェックする

2009年04月14日

■ある無罪判決ー営利目的所持の共謀共同正犯不成立

■インターネットで配信されている、MSN産経ニュース(09年4月13日19時17分)によると、「暴力団組長に無罪判決/覚醒剤所持で共謀問われ」という裁判があった。
 以下、記事を引用して、こんな無罪判決があることを確認しておきたい。
**************************
 平成19年に覚醒(かくせい)剤所持の現行犯で逮捕された組関係者らと共謀があったとして、覚せい剤取締法違反(営利目的所持)の罪に問われた暴力団組長、稲葉浩二被告(46)の判決公判が13日、大阪地裁であった。西田真基裁判長は「共謀を推認することはできない」として無罪(求刑懲役6年)を言い渡した。
 検察側は、稲葉被告が組として覚醒剤密売の利益を得た▽密売にかかわる組関係者に「職務質問にあわないように」「気をつけて頑張って」との言葉をかけた▽組関係者が職務質問されている現場に駆けつけ、警察官に理由を尋ねた−として共謀の成立を主張した。
 しかし、判決は17年当時、組ぐるみで密売が行われたと認定しながらも、「同年11月に逮捕者が出てからは中断し、その後は稲葉被告がかかわる密売が行われた証拠はない」と指摘。組関係者にかけた言葉については「組関係者が覚醒剤を使用することを憂慮した発言だった可能性も否定できず、気軽に激励を述べたとしても不自然でない。いずれも密売が前提とは断定できない」とし、当日現場に急行した事実に関しても「覚醒剤の所持を認識していたと推認させるには十分ではない」と結論づけた。
 判決などによると、組関係者の男は大阪市西成区の路上で19年12月、覚醒剤を運搬中に職務質問され覚醒剤約9グラムが見つかったため現行犯逮捕された。組関係者と運搬を指示した組員の2人は既に同法違反罪で有罪が確定している。

posted by justice_justice at 17:36| ◇「弁護人」として | 更新情報をチェックする

2007年04月21日

■控訴審の無罪判決ー「アリバイ」成立

■日経の4月21日付け朝刊に、次の記事が掲載されている(日経テレコンによる)。

 「拳銃譲渡で逆転無罪、
  大阪高裁判決、
  被告のアリバイ成立」

■記事の内容を引用すると、次のようなものである。

「大阪府豊中市で二〇〇三年、焼き肉店経営の男性(当時28)が射殺された事件で、実行犯に拳銃を譲渡したとして銃刀法違反罪などに問われた中古車販売業、酒井強被告(39)に大阪高裁は二十日、『受け渡し日のアリバイがほぼ成立する』として懲役四年六月の一審判決を破棄、同罪について無罪を言い渡した。
 陶山博生裁判長は、拳銃譲渡の仲介役二人の供述が、酒井被告に依頼したとする際の状況や受け渡し場所などで食い違っており『記憶違いの範囲を超えている』と指摘。検察側の照会で、同被告が受け渡し当日、神戸市内にいたことが明らかで、『譲渡の事実と両立せず犯罪の証明がない』と述べた。
 一審大阪地裁判決は、酒井被告が〇三年十一月、射殺の実行犯とされた浅田和弘被告(31)=強盗殺人罪などで一審無期懲役、控訴=に依頼された仲介役二人を介し、浅田被告に現金百万円で拳銃を譲り渡したと認定。酒井被告は一貫して無罪を主張していた。
 高裁は、〇四年に兵庫県川西市の交差点で起こした衝突事故についての業務上過失傷害罪は一審に続き有罪とした。」

■控訴審は事後審である。一審の有罪判決を破棄して、自判・無罪とする例はままみられるものの、被告側の防御活動には一審とは異なる独特の困難さがある。控訴審で「アリバイ」立証が認められるのは、その意味では珍しい。参考のため、ここに記録しておく。
posted by justice_justice at 10:50| Comment(0) | TrackBack(0) | ◇「弁護人」として | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。