2011年05月19日

■プロ裁判官の文化ー必罰・作文・妥協

■ 2011年5月18日の夕方から夜にかけて、関西のテレビ局のニュースでは、いわゆる舞鶴女子高生殺人事件判決が話題になった。
 京都地裁は、被告と犯人を結びつける具体的で確かな証拠がない中、薄い、透明な皮を重ねて、被告の像を結んだ、あやうい事実認定で、無期を宣告した。
 北海道新聞、2011年5月19日(朝刊)は「舞鶴殺人判決*状況証拠/全体像示せず*裁判員なら別の結論も」と題する解説記事で、次のように指摘する(以下、引用)。

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 検察側は目撃証言や防犯カメラ画像鑑定などから、被告が犯人でないとすると「あり得ない偶然が重なり合ったことになる」とした。だが判決が認定した事実関係では、殺害の動機や詳しい状況など事件の全体像ははっきりしないままで、被告以外が被害者に接触した可能性を完全に否定できたといえるのか、疑問も残る。
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 あり得ない偶然。
 それは、目撃証言、防犯カメラの映像が、すべて被告と被害者を写し取っているという前提にたったものだ。
 そして、それぞれ固有の弱さを含んでいた。
 「秘密の暴露」も密室取調べでのできごとで、土台は脆弱だ。

 そんなことを考えながら、共同通信を通じて次のようなコメントを出した。

■ 強引に有罪の作文した

 渡辺修甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話 被告が犯人と明確に推認できる状況証拠はなく、強引に有罪の作文をした判決だ。不鮮明で被告と判断できない防犯カメラ画像を証拠と認めるなど、裁判官が検察の主張に追認を重ねており、事実認定に無理がある。「秘密の暴露」とされた供述も密室での取り調べのもので、取調官の誘導は可能だった。最高裁が示した状況証拠の判断基準にも沿っておらず、控訴審で見直すべきだ。


■ 類似のコメントは、前日の毎日新聞(朝刊)2011年5月17日、「京都・舞鶴の女子高生殺害:直接証拠ないまま−−あす判決」でも次のようにまとめている。

◇「状況証拠、質が焦点」

 甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「状況証拠の検討から犯行状況が浮かび上がるかが問題で、証拠の質が決め手だ。今回は犯行前の状況証拠に偏り、証拠の質も良いとは言えないのではないか」と見ている。

■ ぼんやりとした証拠群をならべて犯人性の推認とするのはやはり疑問だ。被告の法廷の態度など気になる事情はあったのかもしれないが、事実認定は証拠で行なう。その証拠から浮かび上がる犯人像は焦点がぼやけたままだ。これで、犯罪の証明有りとするのはいかがなものか。

 控訴審での精査を待ちたい。
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2009年04月29日

■舞鶴女子高生殺害事件ー起訴の意味

04月29日の各紙朝刊には、舞鶴市で起きた女子高生殺害事件で、すでに別件窃盗罪で有罪とされて受刑中の男を起訴したことが報じられている。
 この事件の注目点は、直接証拠、つまり、犯人が犯行に関与したことを直接推認できる証拠がないまま、起訴に至ったことだ。さらに、状況証拠による起訴といっても、例えば、毒入りカレー事件とは異なり、有罪性を示す有力な柱となるべき証拠もない状態であることだ。
 通常、状況証拠による立証の場合、時系列で事実をならべてみる。犯行前の被告人の言動を証明する証拠から、犯行関与を推認させるものがあるかどうか。犯行時の被告人の言動に関わる証拠から、犯行関与を推認させるものがどの程度あるのか。犯行後の被告人の言動に関わる証拠から、過去に遡って犯行関与をうかがわせるものがあるのかどうか。この三つの方向から事実を整理して積み上げていったときに、被告人が事件時に犯行現場にいて犯行に関与していると推認できる証拠構造になっているかどうか。しかも、「合理的疑いを超える証明」という立証の水準を満たしていることが重要だ。
 マスコミの情報を整理すると
 (1)犯行前に、被害者と被告人が一緒にいたことを示す監視カメラの映像や、目撃者の証言があると思われる。
 (2)犯行時に、被告人が主張するアリバイが裏付けられない状態であることが証拠上読み取れるようだ。
 (3)犯行後、監視カメラに写っている服を処分したと聞いた人がいたり、自転車の塗装をしたりなど罪証隠滅をうかがわせる事実があるていどあるようだ。
 ある新聞は、ポリグラフ検査結果も証拠調べ請求をする予定らしいと報道しているが、これは、きわめて安定性を欠く証拠だ。ある質問に対する体の反応の科学的な測定をし、その意味について技官が「判断」して、質問群の意味する問いについて、認識がある・ない、といった判断をするのだが、それが、犯行関与をどう裏付けるのか、冷静に考えないとかえって予断のみ与える。
 ポリグラフ検査の証拠調べの際、検察官の「立証趣旨」は案外難しい。検査結果から立証、推認できることはある質問時点の被告人の身体的反応の様子のみであり、それが、「有罪意識の存在」「犯行の事実の認識」などどいったことには直ちに結びつかないし、ましてや「殺意」などの立証にはおよそ使えない。
 そんな捜査の1資料にとどめるべきものまで証拠に使うとすると、検察官の手持証拠の底の浅さがうかがわれてしまう。
 ただ、検察官が起訴に踏み切ったことは評価したい。
 相当長期にわたり状況証拠を積み上げる捜査を遂げて検察官において有罪の確信をもったのであれば、この際、裁判の場で、事件を明らかにして有罪立証に努め、真相がなにか裁判所の判断を仰ぐべきだ。よくマスコミは、無罪になった事件をあとからふりかえってとんでもない起訴をしたように報道するが、誤った姿勢だ。
 もっとも、気になるのは、殺人罪のみの起訴にせず、強制わいせつ致死を加えたことだ。この犯罪の立証は、殺人罪よりもやっかいだ。
 「わいせつ目的」が必要だ。被告人の行為が、「殺人の実行行為」あるいは事後の罪証隠滅」ではなく、「わいせつ行為」といえる態様であったことが必要だ。どちらも状況証拠での立証は困難を極める。
 今後、公判前整理手続では、検察の手持証拠に対して、弁護人が徹底した類型証拠開示を求め、検察官の立証構造の強弱を十分に吟味することとなろう。証拠を整理し、争点を詰めて、審理の計画を策定するまで、相当の時間を要するだろうが、報道をみていても、証人として証言を求めるべき人数は絞られるようだ。捜査関係者や鑑定人なども一定数証人尋問を受けるだろうが、審理がはじまれば、10日ほどの集中審理で結審するのではないか。
 事件は、状況証拠の質量がどの程度であれば、犯罪の主観的要件と客観的要件、被告人の犯人性が「合理的疑い」を残さない立証に至っているのか、これを裁判員に示すモデルともなる。
 裁判員裁判は、裁判官裁判と異なる。状況証拠の示す小さな事実を万遍なく積み上げて有罪を認定する作業は、裁判員には困難だ。時間をかけることのできる裁判官であれば丹念にできる。この時期に起訴した理由のひとつもここにある。
 とまれ、今後の推移に注目したい。

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2009年04月09日

■舞鶴女子高生殺害事件ー各紙コメントから by Gishu

■今回の事件について、各紙にコメントを掲載させてもらった。
こうした現場の事件を検討する機会を研究室にいる教員が提供してもらえることは大変ありがたく、勉強になった。
 掲載の機会をもらえたことに心から謝意を表しつつ、以下紹介したい。

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○09年4月9日読売新聞(朝刊)28頁
ー舞鶴・高1殺害逮捕/識者はどう見る/手法の一つ、冤罪懸念、根拠不十分ー
■捜査手法  
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「窃盗容疑での逮捕時に殺害事件の調べをしないなど、手堅い捜査をしたと思われる。証拠集めなど手続き上のミスを後から指摘されないようにしたと考えられ、捜査のあり方の一つだと言える」と話す。

○09年4月8日日本経済新聞(朝刊)35頁
ー「舞鶴・高1殺害、容疑者逮捕――経緯や動機、謎残る」ー
慎重な捜査評価
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話 弁護士を立ち会わせて家宅捜索するなど、物証中心の慎重な捜査で逮捕にこぎ着けており、手続きは評価できる。先行の窃盗事件はでっち上げでもなければ、起訴に値しないものでもなく、そこから何らかの手掛かりを得て大きな捜査方針を描くことには何の問題もない。ただ、報道などで明らかになっている証拠だけでは、有罪認定するのは難しいのではないか。今後取り調べに力点が置かれるだろうが、全過程を録音・録画するなど適正さが不可欠だ。
 *同一コメントは、09年04月08日四国新聞(朝刊)20頁でも採用されて掲載されている。

○09年4月7日毎日新聞(夕刊)9頁
ー「京都・舞鶴の女子高生殺害:容疑者逮捕(その1)/悲劇の謎、どう解明」ー
◇慎重な捜査の結果−−渡辺修・甲南大法科大学院教授の話
 (昨年11月に逮捕された)窃盗容疑での捜査も起訴に値する材料を集めているとみられ、軽い容疑で逮捕して取り調べで(本件の)自白を迫る形の「別件逮捕」ではない。殺人容疑での捜査も家宅捜索を重ねるなど物証中心主義で進めたと考えられ、(今回の逮捕は)慎重に捜査した結果ではないか。
 なお、同紙は、翌日の朝刊では「京都・舞鶴の女子高生殺害:容疑者逮捕/「コメント控える」30回/にじむ捜査難航」との大見出しの中でも同一のコメントを掲載している。

■今後の捜査と検察官の処分との関係では、5月21日に施行される裁判員法との関係が関心の的となる。
 この点については、まず、09年4月8日の朝日新聞(朝刊)に、「プロへ託す狙い」という見出しで次のコメントを載せた。

 「今回は状況証拠を積み上げて判断を下すことが求められる難しい事件で、5月に始まる裁判員制度で審理されることになると、裁判員にとって心理的な負担は非常に大きい。直接的な物証がないなかで、間接証拠による犯罪の立証は『あやしい』という印象だけで、有罪としてしまうおそれもある。そうした検察側の配慮が、この時期の逮捕に踏み切った背景にあるのではないか。この事件をプロの裁判官に委ねたいという思いは理解できる」。

 今後の捜査によっては、有力で、市民である裁判員にも解りやすい有罪証拠がでてくるかもしれない。そのときには、5月21日までなお慎重捜査をしてから起訴してもよい。その場合には、すでに別件窃盗で服役中なので、殺人容疑での勾留中にあえて起訴しなくともすくなくとも逃亡は防げる。無理な捜査をする必要はない。
 しかし、万が一にも、今マスコミで紹介されている範囲の間接証拠ー間接事実とその延長線上の証拠の積み上げによって犯人性、犯行態様をすべて立証しなければならないとすると、これはそうした証拠の取扱いと、きめ細かな事実認定に習熟しているプロの裁判官に判断を委ねるのが妥当だろう。
 どちらも選べる時期的な限界が、この4月の中旬ではなかったか。
 そんな判断を次のようなコメントにも託した。

□09年4月8日北海道新聞(全道)20頁
ー「舞鶴高1殺害/容疑者逮捕*「裁判員」にらみ急展開」ー
「月内の逮捕必要」
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「プロの裁判官なら、間接証拠の積み上げで、一定水準以上の『合理的疑い』があれば有罪を認定するが、市民の裁判員に同じことができるかは未知数」と指摘。「今回の事件は、直接証拠が乏しいだけに、裁判官に判断を委ねるのは一つの選択だ」と捜査当局の判断を推察する。
 *同一のコメントは、4月8日の神戸新聞(朝刊)1面の他(原紙確認)、中日新聞(朝刊)29頁、静岡新聞(朝刊)27頁、東京新聞(朝刊)25頁、四国新聞(朝刊)3頁、熊本日日新聞(朝刊)23頁、東奥日報(朝刊)7頁にも掲載されている(日経テレコン検索)。

■産経新聞の報道について
 なお、誠に残念なことに、09年4月8日付け産経新聞(朝刊)に、「舞鶴・高1殺害 男逮捕 先行き見えぬ捜査 状況証拠で決断 公判維持いぶかる声」との大見出し中で、『弁護士の渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)』の肩書きにより、「『報道などで明らかになっている証拠だけでは、有罪認定するのは難しいのではないか」と指摘。そのうえで「(中容疑者は)窃盗罪で服役しており、逃亡の恐れはない。科学捜査や周辺捜査をもっと積み上げ、殺人容疑がさらに固まった段階で逮捕する、というのも選択肢の一つだったのでは』と話す」という記事があるが、なんらかの配信ミスではないか。
 第1に、産経新聞の取材はそもそも受けていない。
 第2に、仮に、産経が共同通信や時事通信からの配信を受けたとしても、両社にはそうしたコメントを出していない。それは、上記の各掲載誌中、日経、北海道新聞、中日新聞、静岡新聞等をみれば解る。
 第3に、弁護士という事件そのものの適正処理に責任を負う立場で、個別の事件について新聞コメントはしない。
 第4に、弁護士を名のるときには、渡辺修という学者のペンネームは使わない。
 第5に、窃盗罪服役中であることが殺人事件で逮捕勾留できない理由にはならない。
 学者の見解としてもこのような考え方(人単位説)は採用していない。そもそもかかる考え方は、法解釈・法理論として誤っている(各紙新聞記事の中でこうした見解を主張する学者がいることは承知している)。
 今後、こうした誤った掲載がなされないよう、事件取材に応ずるときには、ブログ編者も十分に注意したい。
posted by justice_justice at 14:05| ■(ケース)舞鶴女子高生殺害事件■ | 更新情報をチェックする

2009年04月08日

■舞鶴女子高生殺害事件ー被疑者逮捕 by Gishu

 舞鶴事件で、警察は、窃盗事件で先に有罪判決を受けて服役中の男性を逮捕した。色々な意味で興味深い経過をたどった事件である。
(1)捜査機関は窃盗事件でいち早く男性の身柄を確保した。しかも、起訴し処罰に値する事件で立件した。「別件逮捕」という非難を浴びる隙のない第1歩であった。
(2)さらに、窃盗逮捕勾留中を利用して、通常であればよくみられるパターン、本件である殺人事件容疑について、厳しく追及する、取調べ中心捜査を方針としなかった。
 身柄のみ確保、後は、物証中止捜査を方針としたと、外からみることのできる状況となった。
 それ自体刑訴法の原則に従った慎重な捜査といえる。
(3)窃盗被疑事件で捜索差押許可状を得ていったん男性宅を捜索している。おそらくは、その段階で後に殺人容疑での捜索差押許可状を執行した際に、押収したいものの目星もつけていたのかもしれない。
 また、少なくとも、殺人容疑で捜索差押許可状を請求できるたけの資料は発見していたのかもしれない。
 しかし、ここでも、「別件捜索・差押」のそしりを受けるような拙速な押収手続はとっていないようだ。
 むしろ、慎重を期して別途被疑者不詳のまま殺人容疑で捜索差押許可状をとって数日に及ぶ物証探しをした。
(4)加えて、この令状執行の際、異例なことが起きたと推測する。捜査機関が、令状執行の予定をマスコミにリークしてしまったのではないか。令状執行前であれば、被処分者は準抗告を申し立てることができる。窃盗事件の弁護人は、これに気づいて、直ちに行動を開始した。窃盗事件の当時まだ被疑者であった男性と相談の上、本人の代理人として準抗告を申し立て、さらに、特別抗告に及ぶ、、、。
 これはおそらくは捜査機関には予想外のできごとではなかったか。
 とまれ、その延長線として、窃盗事件の弁護人が、自宅の捜索を受ける男性に代わって立会に関する委任を取り付けて、現に立会することにもなった。
 今から振り返ると、このことが、捜索・差押のプロセスが適正公正に行われていることを裏付けることともなっている。
(5)それから年を越して、この4月のタイミングでの逮捕。時間がかかったといえばかかっている。しかし、無理な取調べによる虚偽自白を得る、といった拙速司法は避けた以上、やむを得ない。鑑定、科学捜査というのは、時間がかかる。「被疑者取調べ」は、効率司法の実現に不可欠の武器なのだが、その分えん罪の危険を伴う。今のところ、このおそれはない。
 そうして、種々の状況証拠を集めて令状請求には踏み切れたのであろう。
 物証中心捜査の勝利といってもいい。
(6)しかし、勝負はこれからではないか。
 マスコミ報道の限りでは、事件前の被害者と男性の接点があったことー自転車を押す男性と被害者が一緒の容子が監視カメラに納められていることーこれを軸とした証拠しかなさそうだ。犯行そのものと男性を結びつける証拠、犯行態様自体を裏付ける証拠があったかどうかは明らかではない。
 ここまでマスコミ注目事件で、捜査機関が長時間の記者会見を覚悟する事件なのに、社会を納得させることのできる有力証拠があるのに明らかにしない、というのも理解しがたい。間接証拠とはいえ、犯人性、犯行態様を浮き彫りにできる有力な証拠はないのだろうと推測する。
(7)とすると、自ずから捜査の勝負どころが浮かび上がる。被疑者取調べである。
 ここでは、従来通りの問題の懸念がでてくる。「密室で適正な取調べが確保できるか」。
 むしろ、と思う。思い切って、全過程を録音録画してしまえばよい。
 否認なら否認のままを、自白に転ずるならその容子を、すべて後から検証できるようにしておくとよい。さらに言えば、さまざまな物証を男性につきつけて充分合理的な説明ができるのか説明を求めたらよい。
 もっとも重要なのは、被害女性と一緒の場面だ。「そのあと、どうしたのか」。居酒屋にいって家にももどって寝たという従来からの説明との矛盾はないか。店に本当にいったのか。被害者と一緒であったことを否定するその言動の不自然さこそ有力な証拠になるのではないか。
 録音録画は、真相解明につながる。捜査機関はそう発想方法を転換すべきだ。
(8)5月21日を待たない起訴。裁判員裁判対象となるのを結果的には回避することとなる。
 捜査機関、検察庁がこれを意図していたかどうかは定かではない。ただ、外見には、これは、そのほうがよかろうと思う。
 というのも、明白でわかりやすい証拠がないのに、現段階で敢えて裁判員に事件を委ねる必要はあるまい。裁判員も充分に合理的な判断はする。しかし、マスコミ報道から推測できる範囲内の間接証拠のみの積み重ねで、殺人事件の故意から実行行為まで見通すことを期待するのは、酷であろう。
 しかも、男性に殺人の前科があることを考えると死刑求刑の可能性なしとしない。仮に、検察官が死刑求刑をしなくとも、被害者参加人が独自にこれを求めることもある。どのみち、無期懲役という重い刑罰の当否を判断しなければならない。
 間接証拠のつみかさねによって、いずれについても確信をもって「合理的疑いを超える証明」がなされていると言えるかどうか、、、市民には難しい選択となる。
 裁判官であれば、間接証拠から犯罪性と犯人性を推認するといった証拠の取扱いにはなれている。とすれば、裁判員裁判制度に移行する直前にあって、準備が整うのであれば、裁判官裁判を選択するのはそれなりに納得できる。
 4月のこのタイミングの逮捕には、そんな含みがあるとみてもよい。
(9)報道では、すでに弁護人が逮捕後の初回接見を終えているようだ。弁護も慎重でなければならない。「手抜き弁護」は「えん罪」を生む原因の一つだ。日常業務とこうした重大事件の弁護を両立させるのはなかなか困難ではあるが、捜査の監視、十分な防御準備にはすき間のない弁護活動が求められる。
 例えば、すぐにでも、被疑者取調べは始まる。実際のところ、弁解録取手続はもう終了していると思うが、男性が語るすべての場面の録音録画を直ちにそして継続して申し立て、そうしないことの問題を後の公判で摘示できる準備、公判を見据えた弁護活動の展開が求められている。

ともあれ、捜査機関、検察官ならびに弁護人いずれのサイドからも市民社会が納得できる、慎重かつ適正な活動によって、事案解明に至ってほしい。
posted by justice_justice at 07:28| ■(ケース)舞鶴女子高生殺害事件■ | 更新情報をチェックする

2008年11月30日

舞鶴女子高生殺害事件ー捜索・差押手続 by Gishu


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いくつかの新聞などで2008年5月に舞鶴市で高校1年生女子が殺害された事件に関連して、遺体発見現場付近に住む60才の無職男性の自宅について死体遺棄容疑で家宅捜索がなされたことが報道されている。毎日新聞08年11月28日(夕刊)によると「京都府舞鶴市で今年5月、高校1年の小杉美穂さん(当時15歳)が殺害された事件で、府警舞鶴署捜査本部は28日午前、殺人、死体遺棄容疑で現場近くに住む無職の男(60)=窃盗罪で起訴=の自宅の捜索を始めた。捜索には男の弁護人が立ち会った」という。
 今回の捜索・差押については、マスコミ報道を手がかりにしながらいくつか考えさせられることがある。
(1)60才男性は現在窃盗罪で起訴されて勾留中である。仮に、殺人や死体遺棄で取調べを行うと、典型的な別件逮捕勾留、不当な余罪取調べになる。かつては、強引な取調べ、虚偽自白、えん罪の温床ともなった捜査手法であるだけに、警察がそうした手法をとらないことを期待したい。
(2)万が一にも、「任意に」殺人、死体遺棄について事情を聞くとしても、被告人たる地位と矛盾せず、かつ勾留されている状態を積極的に利用した形にせず、しかもその供述が後に証拠になった場合に「任意性」について争われることのないようにこれを実施すべきである。とすると、今回の特殊な場合に限ることではないが、結局、弁護人の取調べ立会と取調べ全過程の録音録画をおこなうべきだろう。
(3)基本的には、殺人、死体遺棄について証拠を収集し、犯人性を裏付ける合理的な証拠が集まった段階で逮捕勾留につなげた上で事情を聞くべきであろう。もっとも、この場合にも、弁護人立会、全過程録音録画は不可欠である。
 そのためにも、今既にこちらの事件についても、窃盗被告事件の弁護人が弁護人として選任済みであるのならば、警察、検察に継続して全過程録音録画申し立てを行い、このプロセス自体も後に公判で証拠にできるようにしておくべきだ。
(4)捜索差押許可状の執行に「弁護人」が立会していると報道されている。おそらくマスコミ取材が正しいものと思われるが、念のため、少し疑問は留める。
 @「弁護人」が立会していると報道されてている。これが事実であるとすると、60才男性はすでに死体遺棄、殺人も視野に入れて自分で弁護士に弁護依頼をしていることが前提となっている。とすれば、捜査機関は、捜査段階の捜索差押許可状執行に「弁護人たる資格」での立会を認めたこととなり、これは画期的なことだ。捜査の秘密保持の必要上、条文上捜査段階の捜索差押にあたり、被疑者・弁護人の立会は認められていない。これをくつがえす運用となろう。
 A当然のことであるが、家宅捜索を受けた者(被疑者であれ第三者であれ)は固有の立会権をもつ。容疑者との間で「委任契約」を結び、その「代理人」たる弁護士として立会することは、まれではあっても、これまでもあった。
 B捜索差押許可状執行前に準抗告(法429条1項2号)が申し立てられることは実務上珍しい。捜査の秘密上捜索差押許可状請求自体が秘密であって、その執行にあたっても、被疑者・弁護人は立会権はない。裁判執行前に裁判に不服を申し立てることは事実上できない。今回は、マスコミ報道で「捜索・差押予定」が報道されたので、弁護士は対応しやすかったと思う。またそうした情報に即して直ちにしかるべき措置を選んだ弁護士は先見の明があると思う(ウ)。
 C準抗告や特別抗告は直ちには執行停止の効果を生じない。裁判官・裁判所が一旦執行停止にしておくのが妥当と判断してそう決定しない限り、警察は、捜索差押許可状の執行に着手してもよい。ただ、後々手続の混乱と押収された証拠を法廷で使うことを考えたら、事実上裁判所の結論が出るまで執行手続には移らない方がよい。その意味で、今回の事件での作業は適切であったと思う。
 D一部識者の見解やマスコミのトーンの中で、窃盗事件でも捜索・差押を実施しているのに、2度目の捜索・差押は不当であるとするトーンも見られた。しかし、容疑事実が異なれば捜索・差押の範囲も異なる。また同一容疑でも、捜索・差押の回数が制限されているものもない。むしろ、捜索・差押によって犯人性を明らかにする証拠を確保し、その上で取調べを実施することは妥当でさえある。
 
 そこで、こうした問題点の一部について次のようなコメントを掲載した。
***********08年11月28日毎日新聞(朝刊)****************
 ◇「証拠集めは当然」−−渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話
 起訴後に拘置を続け、別件の殺人容疑で取り調べをすることは建前は任意でも実際は強制的になる。虚偽自白や冤罪(えんざい)を生む。警察はしっかりと証拠を集め、改めて殺人などの容疑で逮捕、事情聴取すべきで、そのための家宅捜索は当然だろう。
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