2014年02月05日

名張ブドウ酒事件ー累積証拠による再審の道

■名張ブドウ酒事件について
 再審が動かない。そのシンボルが,名張ブドウ酒事件である。
 第7次再審が最高裁によって斥けられ,弁護団は,直ちに8次再審請求をしたという。が,新聞報道の限りでも,新規・明白証拠の原則を充足するのは難しいように思う。もともと
■[追う]名張毒ぶどう酒 7次請求棄却 再審 時間との闘い=中部  
2013/12/28 中部読売新聞(朝刊)
 「名張ブドウ酒事件」。
 刑事訴訟法を学ぶ世界に活きる者には,重く響く事件名だ。
 「えん罪」とみるべき事件で,死刑囚がひとり医療刑務所で余命を数える状態になっている。87歳になるという。
 三重県名張市で1961年、女性5人が毒殺された事件。村の寄り合いに出るぶどう酒に死刑囚が農薬を混入したとされる。自白があった。古い時代の犯罪捜査の典型だ。虚偽自白の危険性が漂う。賢明にも一審の裁判所は「疑わしきは被告人の利益に」「合理的疑いを超える証明」の原則にしたがい,無罪とした。これが,今読み返してももっとも説得的な判決だ。
 しかし,控訴審では,一審を破棄しただけでなく,いきなり死刑を宣告。これが上告審でも支持されてしまった。
 無謀な控訴審の暴挙が,半世紀に及ぶ「名張毒ぶどう酒事件」再審を余儀なくさせた。
 残念なことに,第7次再審請求は2013年10月に、最高裁が弁護側の特別抗告を棄却して終結。
 弁護団はただちに第8次の請求を同高裁に提出したという。
 しかし,,,,
***引用***
 ■曲折
 奥西死刑囚の再審請求は1973年に始まったが、6次までは棄却が続いた。2002年4月に提出された7次請求では、名古屋高裁が05年4月、弁護団の毒物鑑定結果などを「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」とし、初めて再審開始を認めた。
 だが、名古屋高検の異議申し立てを受け、同高裁の別の裁判部が06年12月、決定を取り消し。最高裁への特別抗告と差し戻し、高裁での再度の決定取り消しを経て、最高裁は10月、弁護団の特別抗告を退けた。
 三重県警名張署で捜査に当たった古川秀夫さん(79)は「当時、やるべき捜査は精いっぱいやった。再審は当然認められないだろうと思っていた」と話す。
 ■「命あるうちに」
 今月11日、東京都の八王子医療刑務所。特別面会人の稲生昌三さん(74)は、奥西死刑囚との261回目の面会に臨んだ。
 8畳ほどの病室のベッドで、人工呼吸器や栄養剤を取り込む点滴チューブなどにつながれた奥西死刑囚は「医療機器の力を借りて、何とか命をつなぎ留めている状態」という。声帯を切除したため、会話もできないが、稲生さんが「来年1月の誕生日に、再審を求める支援者集会をやるからね」と語りかけると、奥西死刑囚は12年6月に同医療刑務所へ移って以来初めて、笑顔を見せた。
 「命があるうちに、再審開始の知らせを届ける」。稲生さんは自らを鼓舞するように語る。
 ■「8次」の行方
 「事実上、これが最後の請求になる」。鈴木泉・弁護団長も同じ思いで臨む。
 弁護団は、奥西死刑囚が「ぶどう酒に入れた」と自供した農薬「ニッカリンT」を巡り、特別抗告審での鑑定では毒物はニッカリンTと断定できないなどとする専門家の意見書3通と文献1点を、再審開始に必要な「新証拠」として名古屋高裁に提出した。
 いずれも7次請求の終盤に最高裁に提出したものだが、鈴木団長は「最高裁がこれらを検討した形跡がなく、証拠としての新規性は失われていない」とする。
 だが、独自鑑定を重ねた7次請求と比べて迫力不足は否めず、補充意見書などで、どこまで新規性を強調できるかが注目される。
 一方、検察側は、意見書などの提出予定もなく、事態を静観する。検察幹部は「いったんは再審開始が認められた経緯もあり、厳粛に対応する」とするが、別の幹部は「弁護団の書面が新証拠と認められるとはとても思えない」と話す。
*******

 この段階まで来ると,弁護団の方々のご苦労に頭が下がるのではあるが,次のようにコメントせざるを得なかった。

 ■甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「8次請求で提出された証拠だけでは再審開始が認められない可能性の方が高い。だが、裁判官は冤罪(えんざい)は許されないという観点で、弁護側が過去の請求で提出した証拠も含めて総括的に判断するべきだ」と語った。 
 ・・・・・・
 みるべき証拠があったのに,各再審手続毎に各個に撃破された観がある。
 そうであるなら,せめて,8次では,職権で,「総括再審審理」をするべきだろう。
 いままで再審でだされた新証拠群全体と旧証拠群を比較したときに,有罪とすることに「合理的疑い」が残るかどうか,「疑わしきは被告人の利益に」の観点から見返すべきではないか。
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2013年12月19日

■毒入りカレー事件異聞ー再審と弁護人依頼権保障

■毒入りカレー事件異聞ー死刑囚と弁護人依頼権
 死刑確定者として大阪拘置所に収容されている原告が、京都弁護士会所属の弁護士に対して再審請求事件(和歌山カレー事件)の弁護人への就任等を依頼する旨の手紙につき、発信願の申出をしたところ、これを不許可とされたことがある。原告は,再審弁護人の選任権を侵害されたとして国家賠償訴訟を提起した。
 大阪地判平成25年10月17日(平成24年(ワ)第9822号)は,大阪拘置所長がした不許可処分は、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律139条1項2号に違反するものであり、大阪拘置所長の職務上の法的義務に違背する違法なものというべきであるとした。
 この判決について,次のようにコメントした。

■毒物カレー事件・国に賠償命令 甲南大学院教授 「高く評価できる」
NHKニュース(平成25年10月17日)
 毒物カレー事件の林真須美死刑囚の訴えの一部を認め、国に賠償を命じたきょうの判決について、甲南大学法科大学院(コウナン)の渡辺修(ワタナベオサム)教授は「死刑囚は再審を請求する権利があるが、その場合、弁護士を選任する権利も憲法によって保障されている。死刑囚が直接、弁護士と交渉することが認められている死刑囚にとって最も大切な権利のひとつだ。そうした趣旨を認めた判決であり、高く評価できる」と話しています。

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2012年05月25日

■名張毒ぶどう酒事件ー日本刑事司法「負の遺産」の解消のために

■1:再審の道開くべき
 奥西勝死刑囚の自白と異なる農薬がぶどう酒に混入された可能性は、今回の決定での裁判官の説明を踏まえても科学的に否定しきれていない。
 これまでの再審請求審で、死刑囚が歯で瓶のふたを開けたとする鑑定結果や、犯行場所に死刑囚が一人で居る時間があったとする住民たちの証言の信用性は揺らいでいる。
 密室の取り調べで得られた自白や住民の証言について、一審の無罪判決が信用できないとした点も重い意味を持つだけに、再審を認めて公開の法廷ですべての証拠を見直すべきだろう。

 最高裁は再審の道を開くべきだ。

■2:補足説明
(1)今回の決定の推論は、次の点にある。
 ぶどう酒にニッカリンTが長く混入していると、加水分解がすすみ、不純物がでなくなるという単純なものだ。トリエチルピロホスフェートが飲み残しのぶどう酒から検出されなかったのは、ぶどう酒の水のため加水分解がすすみ、検出されなかった余地があるというもの。
 だから、検察側の主張通り、混入物がニッカリンTでなかったとまでは言えないというだけのことだ。
(2)しかし、試験検体にペンタエチルトリホスフェートがいくらかでも残る可能性があって、トリエチルピオフォスフェートが検出されることがあるとすれば、事件検体である現場に残ったぶどう酒のほうでもこれが検出される可能性を科学的には否定できない。
(3)つまり、「ぶどう酒混入物が明らかにニッカリンTではない」とは言いきれないが、他面で、ニッカリンTであるとも断言できない状態である。
(4)とすれば、再審請求審、つまり、再審をするか・しないかを決める段階で、密室の審理のもと、しかも、再審請求の柱となる新規明白証拠のみと、旧証拠との総合のみで、判断するのは不相当だ。
 この際、「疑わしきは被告人の利益に」の原則を適用して、再審を開始して、公開公判で、関連する証拠全体と旧証拠を総合評価するべきだ。
(5)そのときには、密室で作られた住民の各種目撃情報が最終的に検察の冒頭陳述にあう形で修正されていった事実、被告人も例のごとく「自分の言い分を聞き入れてくれなかった」がために、「自白」に追い込まれる従来型のえん罪パターンが存在する事実、、、これを再度重視するべきだ。
 異議審、差し戻し後異議審は、「虚構の供述証拠」を死守するかの如く、他の客観証拠では、まだ信用性は揺るがないと断言する。
 が、裁判員裁判時代の市民良識の目で見返そう。
 密室取調べー警察と検察の権威を振りかざした、誘導と恫喝で、容易に検察「ストーリ−」に沿った供述に変遷していくことは、経験則でさえある。
 
 最高裁は、再審を開始するべきだ。
posted by justice_justice at 16:33 | TrackBack(0) | ■再審ーえん罪救済 | 更新情報をチェックする

■名張毒ぶどう酒事件ー「再審」認めず

名張毒ぶどう酒事件で、名古屋高裁は、一度再審を決定した別の部の判断をやはり取り消すこととした。
こんな風に受けとめている。共同通信に配信したコメントだ。

■不当な決定、再審すべき

 元被告の自白とは異なる農薬がぶどう酒に混入していた可能性は科学的にも否定しきれておらず、再審開始を拒んだ決定は不当だ。裁判所は「疑わしきは被告人の利益に」の原則に従い再審公判を開始すべきだった。一審の無罪判決は、「密室の取り調べ」によって、検察側のストーリーに沿って被告に犯行の機会があったよう、住民らに説明を修正させたことを端的に指摘している。控訴審の死刑判決に「誤判」の危険がある以上、再審公判を開いて、これまでの再審手続きで明らかになった被告に有利な証拠も含め、証拠全体を見直し、真相を明らかにすべきだ。

posted by justice_justice at 13:40 | TrackBack(0) | ■再審ーえん罪救済 | 更新情報をチェックする

2011年12月03日

福井女子中学生殺害事件続報ー虚構としての「検察の正義」

■読売新聞(朝刊)2011年12月1日、「[スキャナー]女子中生殺害再審/新旧の証拠/総合判断/検察側立証の甘さ突く」は、まず、「1986年に福井市で起きた福井女子中学生殺害事件で、名古屋高裁金沢支部は30日、殺人罪で懲役7年の実刑判決を受けて服役し、冤罪(えんざい)を訴えていた前川彰司さん(46)の再審開始を決定した。新旧の証拠を総合的に判断する再審請求審の流れが定着しつつある」と総括する。
 その上で、次のような解説を加えている。
***(引用)***
 「新旧全証拠を総合して確定事実が合理的な疑いを入れることなく認定できるか」。伊藤新一郎裁判長は、最も重視するポイントを決定文にそう明記した。再審開始の条件を「すべての証拠を総合的に判断し、確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じれば足りる」とした75年の最高裁「白鳥決定」の趣旨を、最大限尊重したと言える文言だ。」
 「今回の決定では、確定判決を覆すような決定的な新証拠がない中、弁護側さえ「一つひとつは弱い」と認める証拠でも、刃物、車内の血痕、犯人像の3点に分け、丹念に吟味された」。
 「決定的な新証拠でなくても、開示された証拠などの総合判断で検察側の立証の甘さを突く流れが、今後、定着する可能性は高い」。
 「05年に公判前整理手続きが始まり、検察官は、争点に関わる証拠を原則開示しなければならなくなった。このルールは再審請求審には直接適用されないが、再審請求審でも幅広い証拠開示が求められる傾向が強まっている」。
***引用終了***
 これに関連して、次のコメントを掲載した。
■渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「我が国では参考人の調べも密室で行われ、虚偽の証言を生む危険性があると指摘されながら、改善されてこなかった。今回の決定は、参考人の証言に疑問や不合理な点がある同様の事例について、救済の道を開く点で意義深い」と話す。

「正義」、「真相解明」、「公正」。
 検察の職責を飾るべき言葉がこれだ。
 しかし、地に落ちた、としか言いようがない。
 検察は、得体の知れない「組織の論理」に埋没して、被告側に有利と思われる証拠を平気で隠蔽する。そうした体質が染み込んだ「組織」になっている。個々の生身の人としての検事の集合体が、「組織」として動くとき、独自の意思を持つ。官僚組織としての自己保存本能は、あまり賢くない。強引に有罪を作り出すために、捜査権限を行使する、収集した証拠は、有罪立証に役立つもの以外は被告側に開示せず、抱え込む、被疑者取調べ、参考人取調べの録音録画でそうした闇の部分が明るみに出るのを極力回避する、、、、
 かつて、学界では、被疑者・被告人と弁護人が検察官と対等であることを構造上明らかにするために、検察官を裁判所を頂点とする当事者主義裁判構造の中で、いわば「一介の当事者」にすぎないと位置付ける議論が有力であった。
 だが、それが、単なる当事者でありながら、強大な国家権力を行使できる状態に置かれる、というきわめていびつな「検察」図を作り出した。その典型例が、証拠開示と取調べの密室化である。捜査段階で作成された検察の有罪心証で固められた調書を裁判所が引き継ぐ儀式を「刑事裁判」という、そんな状態が長く続き、今もその体質が染み込んだママである。
 今回の再審決定は、そうした歴史的限界の中で生み出されたえん罪を救済するための柔軟な事例判断を示した。
 再審は、いわば「第4審」としての再度の事実審となる。それで、いい。
posted by justice_justice at 06:45 | TrackBack(0) | ■再審ーえん罪救済 | 更新情報をチェックする
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