2015年08月27日

逮捕の重みーえん罪の怖さ

「『幸せな人生、変えられた』/誤認逮捕の男性、苦悩の2年/地裁賠償命令【大阪】」と題する記事で(2015/06/16 朝日新聞(朝刊)),次の紹介があった。

 「ある日突然、身に覚えのない容疑をかけられ、そのまま自由を奪われたら――。そんな悪夢が現実になった大阪府警北堺署と大阪地検堺支部の誤認逮捕・起訴。15日の大阪地裁判決は、ずさんな捜査で無実の人を苦しめた捜査当局の姿勢を厳しく批判した。どうすれば冤罪(えんざい)は防げるのか。捜査現場の模索が続く。▼1面参照
 「私の人生は、誤認逮捕で大きく変えられてしまいました。今日の判決が、心身ともに健康で幸せだった頃の人生を取り戻すきっかけになればと思います」・・・
 捜査段階から容疑を否認してきた男性。判決では、大阪府警の取調官が男性に何度も自白を迫った際の文言が明らかにされた。
 「その汚れた手で子どもの頭をなでてあげられますか」「反省する気持ちはないのか。お前が犯人である証拠はそろっている」
 男性は85日間の拘束の末に釈放されたが、一連の捜査で精神的なストレスから抑うつ反応を発症し、今も休職と復職を繰り返す。
 小学生の娘が2人いる。誤認逮捕のもとになったのは、家族でスノーボードに向かう途中での給油だった。そのすぐ後に給油した真犯人と取り違えられた。」

■<考論>検察、原点戻って
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話 警察は捜査を自白に頼ろうとする伝統的な体質から抜け切っていない。一方、検察は警察の捜査をうのみにする傾向がある。今回の誤認逮捕と起訴は、そうした土壌が生んだものといえる。検察の役割は、裁判を起こして罪に問うべきかどうか批判的に事件をとらえ直すことにある。判決を踏まえ、検察は本来の役割をしっかり自覚するべきだ。
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2015年08月26日

逮捕権限の行使ー日本のありかた

 もう解決済みの事件であるが,こんなことがあった。見出しをみよう。
 「【水平垂直】トヨタ女性役員逮捕/『例外なし』警視庁毅然」
 2015/06/29の産経新聞(朝刊)に掲載された記事だ。テレビニュースでも結構取り上げられたようだ。そろそろ忘れ去られようとしている事件であるが,,,
 「世界有数の自動車メーカー「トヨタ自動車」の常務役員、ジュリー・ハンプ容疑者(55)、米国籍=が、麻薬オキシコドンの錠剤を輸入したとして麻薬取締法違反容疑で逮捕された事件の衝撃が続いている。28日で逮捕から10日が経過。大企業相手に毅然(きぜん)と捜査を進める警視庁は一方で、株主総会後に逮捕に踏み切るなどリーディングカンパニーへの配慮もうかがわせる。人材の多様化が進む中、トヨタ初の女性役員の逮捕を受け、日本企業は新たな課題に直面している。・・・・」
 企業経営の側面はさておき,こんな事件で,社会的な身分や日米関係に配慮して,警察が身柄確保を躊躇されては困る。
 場合によっては,案外悪質であったりする余地はこの段階ではあった。共犯関係も不明であった。とすれば・・・記事が続く。
 「■偽装輸入で違法性疑う 総会・株価…捜査時期に配慮も
 「相応の理由があるから逮捕している。むやみにやっているわけじゃない」
 ジュリー・ハンプ容疑者の18日の逮捕から数日後、警視庁幹部はこう話した。
 ハンプ容疑者は逮捕当初から「麻薬を輸入したと思っていません」と容疑を否認。だが、別の警視庁幹部は「ネックレスに偽装して送っている。違法性の認識があったはずだ」と話す。
 実際、ハンプ容疑者が輸入した荷物からは、違法性の認識がうかがえる。小包は「ネックレス」として輸入され、中には玩具とみられるネックレスやペンダント入りの小箱があった。問題の錠剤は小箱の底や小さな紙袋など3カ所に小分けされていた。
 「明らかに逮捕が必要な案件。大企業の幹部だからといって許されない」(警察幹部)」。

 警視庁の毅然とした対応について,次のようなコメントを出した。
 甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は、「逃走などといった捜査妨害の可能性は低いという前提があれば、容疑者の社会生活に折り合いをつけた上で逮捕を調整するのは正当な捜査手法」と説明する。
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2015年08月24日

哀しき「監視カメラ」

朝日新聞(夕刊)2015/08/22は,周知の事件について,「遺体の顔に粘着テープ/死後数日経過か/大阪・少年遺棄」とする見出しで,経緯の一端を報道している。
 「大阪府高槻市の駐車場に中学1年の平田奈津美さん(13)の遺体を遺棄したとして大阪府寝屋川市の山田浩二容疑者(45)が死体遺棄容疑で逮捕され、同級生の星野凌斗(りょうと)さん(12)とみられる少年の遺体が見つかった事件で、少年の顔全体に粘着テープが何重にも巻かれ、手も縛られていたことが捜査関係者への取材でわかった。一部は白骨化していたという。・・・
 山田容疑者の逮捕容疑は13日、高槻市の運送会社の駐車場で平田さんの遺体を縛るなどして遺棄したというもの。府警によると、山田容疑者は「確かに女の子を車に乗せて高槻市の駐車場まで行ったが、助手席にいた同乗者の男が女の子の死体を車から出して遺棄した。同乗者の名前や年齢は言いたくない」などと容疑を否認しているという。」
 平田さんが殺害された前日から当日の明け方にかけて,寝屋川市駅近くの商店街にいる二人を「防犯カメラ」ないし「監視カメラ」がくっきりと捉えており,その画像は,繰り返しテレビでも流されている。
 一方で,監視カメラの多数設置は,市民のプライバシーを侵害するものとして嫌われているが,他方で,今回のような事件が起きたときに活躍するのが監視カメラの画像であることも周知のことだ。今,日本社会は,「孤立化」の時代に陥っている。その結果が,「孤死」。無縁であること。これが人の通常の姿になってしまった。高度経済成長がもたらした,負の遺産。しかも増殖している。年々27万人規模の人口が減少している。居住する明石市が,毎年ひとつずつ空白になっている現実・・・・
 地域がまとまっていて,うるさいおじさん・おばさんがいて,子ども達が夜遊んでいると,誰彼隔てなく「あんたたち,もう遅いんだから,帰えんなさい」と叱ってくれた時代。そして,子ども達も,一瞬しゅんとなって「は〜い」といって温和しく家路についた時代。そう言っていい時代を,我々還暦を超え始めた世代,昭和がまだ中期であり,これから高度成長を日本が遂げる手前に少年時代を迎えた者は多かれ少なかれ体験していないか。
 それが,雲散霧消した。「関わらない地域」。見知らぬ家族の住む空間。そして,夫婦・親子なき孤立した生活。
 「監視カメラ」がもっと人工頭脳と一体化したらどうか。
 映画ターミネーターのように瞬時に相手の属性を判断できたらどうか。「平田さん,星野君。もう遅いよ。おうちに帰りなさい。今,ふたりの顔から顔認識システムで家が分かったから,家族に連絡するね」と過干渉なことを言う機能を持っていたらどうであったか・・・
 画像のみ正確に記録し,その後,ふたりは・・・殺された。
 監視カメラに心あらば,思っているのではないか。あのとき,声をかけられるシステムを早く開発し,導入して欲しい,と。「哀しき監視カメラ」の独り言である。
JH1st murder case 00.jpg
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2014年04月21日

子どもが健やかに育つ社会ー21世紀日本の病理

読売新聞の次の記事を引用し,紹介する。
子どもが健全に育つ社会を再建しなければなるまい。

「和歌山・男児虐待死/県に再発防止報告書/検証委提出/国へ法整備要望=和歌山」
 2014/04/16 大阪読売新聞 朝刊
****本文引用*****
 和歌山市の男児虐待死事件を巡り、県子ども・女性・障害者相談センター(児相)などの対応を検証していた有識者による県の「児童虐待等要保護事例検証委員会」(委員長=福井以恵子・元県共生推進局長)は15日、再発防止策などを盛り込んだ報告書(24ページ)をまとめ、中川伸児・県福祉保健部長に渡した。(村山卓也)
 事件は、長男星涼(せり)ちゃんに対する傷害致死罪で起訴された原和輝被告(26)がその約2年前に別の傷害事件で逮捕され、不起訴(起訴猶予)になった後に起きた。その際、児相側が求めなかったこともあり、地検から処分理由の説明はなかった。
 報告書は、こうした経緯の背景として法務省の規定や判例に触れ、「児相は多くの情報を得ることが望ましいが、捜査情報の入手は困難な状況」と指摘。甲南大法科大学院、渡辺修教授(刑事訴訟法)の「検察、警察は積極的に関係機関との調整を行うべきだ」との見解も踏まえ、検察と児相が情報共有できるよう国に法整備の検討を要望した。
 和歌山市などと役割分担をせず、問題を抱えてしまったことが、不十分な対応につながったとし、児相と関係機関との連携強化が必要との見解を示した。
 同センターが受け付けている虐待相談件数のうち、過半数が和歌山市からのもので、効果的な対応をするために同市独自の児相を設置することも求めた。報告書を受け取った中川部長は「提言に沿って対策を考えていきたい」と話していた。
 また、県は同日、星涼ちゃんを自宅に戻した際の判断に慎重さが欠けていたとして、当時の同センター所長、次長、主幹の3人を厳重注意処分とした。
 
 〈和歌山市の男児虐待死事件〉
 無職原和輝被告(26)が昨年7月、自宅で長男星涼(せり)ちゃん(当時2歳)の頭を殴るなど暴行し、死なせたとして逮捕され、同11月に傷害致死罪で起訴された。原被告はその約2年前、星涼ちゃんへの別の二つの傷害容疑で逮捕、再逮捕されたが、地検がいずれも不起訴(起訴猶予)とした。公判に向け、現在裁判所と検察側、弁護側の3者が協議して争点や証拠を絞り込む公判前整理手続きが進められている。
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2014年02月06日

■取調べ室からの被疑者逃走ー仙台の事件に学ぶ

■「ドイツ人容疑者逃走事件/宮城県警処分「甘い」/県民批判、遠い信頼回復/仙台」2013/12/26 河北新報朝刊 445文字 書誌情報
 警察の管理態勢に疑問を投げかける事件が仙台であった。勾留され取調べ中のドイツ人が取調べ室から逃走したという。内部の処分が行われたが,これについて,次のような記事が掲載された。
***引用***
 仙台中央署から取り調べ中のドイツ人容疑者が逃走した事件で、県警が25日、仙台中央署長ら8人を処分したことを受け、県民からは「処分結果が甘い」などと批判する声が上がった。
 仙台市宮城野区の無職井出隼人さん(68)は「厳しい処分でなければ信頼は取り戻せない。身内をかばう体質があるのではないかと疑ってしまう」と指摘した。泉区の主婦松田登美子さん(70)は「県民を危険にさらしたことを自覚してほしい」と訴えた。
 容疑者は逃走中、七ケ浜町に潜んでいたとされる。同町の主婦伊藤路子さん(48)は「逮捕まで時間がかかり、町民が心情的にどれほど怖かったか分かっていない」と憤った。
******
■ 今から思うと少し厳しいコメントを掲載した。次のようなものだ。
・・・・・・・・・・
 甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「逃亡を許した上、(県内の別の)署長が休暇でゴルフをするなど組織内に危機管理意識が欠落している」と指摘。「厳正な処分だけでなく、適正な手続きで真相解明に当たる警察の本分に立ち返る教育研修が不可欠だ」と述べた。
・・・・・・・・・・・
 今は,署長が総動員で警戒にあたる必要もないかと思っている。24時間,いつでも出動しなければならない警察であるだけに,なにかあるごとに総動員態勢で,ことに臨む必要もない。上記のゴルフをしていた署長とその部下についても,休暇を休暇として過ごす余裕はあったほうがいいかと思う。
 ただ,被疑者逃走を許したことはやはり批判されるべきだ。
 自由な雰囲気での取調べと,身体拘束自体の管理・戒護の厳重さは別だろう。
 反省を促したい。

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2014年01月25日

■被害者氏名の秘匿ー逮捕状から起訴状へ

■「被害者保護に法の壁/逮捕状は匿名/でも起訴状は実名」
読売新聞2013/03/05(朝刊)
 被害者保護と被告人防御の対立する問題点再論。
 逮捕状=匿名
 起訴状=実名
 この矛盾(?)を解決する方法はない。
***引用****
 ◆刑訴法「事実を具体的に」 逗子ストーカー 教訓の対応に差  
 神奈川県逗子市のストーカー殺人事件を教訓に、被害者保護のため逮捕状では被害者の実名が伏せられた一方で、起訴状には記載されるという対応の違いが生じている。刑事訴訟法では、起訴状には起訴事実を具体的に記すと定めており、専門家からは、氏名や居場所を特定されたくない被害者のために何らかの対応が必要だ、との声も上がる。
 このケースは、茨城県警が1月に同県内で摘発した営利目的等略取未遂事件で生じた。男が面識のない少女に包丁を突き付けて、車で連れ去ろうとしたとされる。男は逮捕時、容疑を認めたという。
 県警は男の逮捕状を請求する際、書類で少女の実名を伏せ、「女子中学生」と記した。少女の居住地は人口の少ない地域であるため、県警は水戸地検と協議し、「名前が分かれば住所も容易に特定される」とし、地検も匿名で勾留請求した。
 しかし地検は、起訴状には実名を記載。「裁判所が『事実を特定できない』と起訴を認めず棄却となる恐れもある」との判断だった。
 起訴状は男に送られた。地検幹部は「勾留請求では、匿名で出しても、後で実名に訂正するなど取り返しはつくが、起訴状の場合はそうはいかない」としている。
 兵庫県警は昨年12月、ストーカー規制法違反などの容疑で男2人を逮捕した際、逮捕状の被害者名は伏せ、本人の顔写真を添えた。神戸地検姫路支部は、起訴状では被害者名を片仮名で表記した。同地検は逮捕状が匿名だったことに配慮したとしている。
 逗子市の事件は昨年11月に発生。被害女性は自宅アパートで元交際相手の男に刺殺されたとされる。これより前、神奈川県警が女性への脅迫容疑で男を逮捕した際、捜査員が逮捕状に記載された被害者の名字や住所の一部を容疑者に読み上げ、住所特定につながった可能性があるとされた。
 警察庁は昨年12月、性犯罪など再び被害を受ける恐れがある場合、逮捕状で匿名にするよう通達した。同庁幹部は、「その後の手続きは検察庁、裁判所の法解釈、判断に委ねられる」と話している。
******
 識者の意見も分かれるだろう。記事は,こんな見解を紹介する。
○「被害者名も含め、審理の対象を特定するのは刑事訴訟法の基本原則」(ベテラン刑事裁判官)。被告人には起訴事実に反論できる「防御権」があり、それは事実が具体的に示されてこそ担保される。
○諸沢英道・常磐大教授(被害者学) 「争いのない事件なら年齢や学年、住所など被害者を特定できる最小限の範囲だけを示すことは可能ではないか。事件の特殊性を考慮し柔軟に運用するべきだ」
○元最高検公安部長の馬場義宣弁護士 「被害者が誰か識別できれば実名を記さなくていい、との解釈はできる」,「柔軟な対応にも限界がある。法改正などの対応が必要」。

 被害者名が匿名である場合,示談はほぼありえない。被告側がしんしに反省していても,これを被害者に届けることは事実上無理。
 他方,氏名開示は,事案によっては,報復ーストーカー行為の危険が残る。
 しかも「無縁社会」が影響する。 被害者も社会に孤立して生活していることが多い。匿名性を確保しなければ,ほんとうに保護される囲みを失う。警察が直接保護しなければ本当に防波堤を失う。
 といって,防御の手がかりを被告人に与えない裁判は,えん罪の危険をはらむ。
 今現に裁判でえん罪の危険にさらされている被告人か,あるいは,将来,二次被害にあうおそれのある被害者か。選択が難しい。
 むろん,観念的には,事件の性質,被告人の性状など鑑みて,専門家が,二次被害の危険性の有無を判断して,警察・検察・弁護人に助言できるといいのかもしれないが,夢物語である。
 やっかいな時代になったものだ。では,どちらを優先するべきか。
 コメント時点では,次のように記事に掲載した。

■渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)
 「匿名では被告側は被害者との示談交渉ができず、否認の場合のアリバイ立証などの防御権を侵害する」と指摘。「検察の裁量だけで起訴状を匿名にするのは無理」
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2014年01月22日

■逮捕状と被害者の秘匿ープライバシーと防御

■「再被害を防ぐ:加害者への視点/上 強姦容疑者に匿名の逮捕状/防御権と二律背反/山梨」毎日新聞2013/04/18(山梨版,朝刊)

 2013年によく話題となったテーマである。捜査と裁判の場で,どこまで被害者の特定性を秘匿するべきか。
 被害者の匿名は,供述の信用性,さらに被害事実の存否と態様の信用性にも影響を及ぼすことになる。ことにえん罪の場合,被疑者・被告人側は,防御のための重要な手がかりを失うことにもなる。
 どうすべきか?
 
***引用***
 県警が今年1月、初めて被害者名を記載しない逮捕状で強姦(ごうかん)事件の容疑者を逮捕して注目された。神奈川県逗子市のストーカー殺人事件を受け、再被害を防ぐためにとった措置だ。ただ、起訴状など裁判段階での匿名化は難しく、実効性に疑問が残る。深刻化するストーカー犯罪や性犯罪。再被害防止へ根本的な解決を図ろうと、加害者側を分析し、治療を試みるなど新たなアプローチが始まっている。【片平知宏】
 昨年11月に神奈川県逗子市で起きたストーカー殺人事件では、警察が逮捕状に記した被害者の結婚後の名字などを読み上げ、容疑者が住所を特定した可能性が指摘された。警察庁は昨年12月、被害者情報が知られない配慮を都道府県警に通達した。
 これを受け、県警は今年1月、2003年に起きた強姦致傷事件の容疑者の男を、初めて被害者氏名を記載していない逮捕状で逮捕。男は別の強姦致傷事件で同2月に再逮捕され、この時は逮捕状、起訴状とも被害女性の旧姓が記された。
 最初の事件は不起訴になり、起訴状は作られなかった。ただ、検察幹部は「ケース・バイ・ケースだが、被告にも防御権がある。被害者名も起訴状に書くのが原則という検察のスタンスは変わらない」と話す。罪を立証しようとする検察側に対し、被告側には対等な立場で反論する「防御権」がある。刑事訴訟法も起訴状では事実を特定し、具体的に記すよう定めている。
 これに対し、捜査現場に携わる県警幹部はいらだちを隠さない。「逮捕状で匿名にしても、起訴状で全部分かる。何の解決にもなっておらず、法改正が必要だ。(防御権を重視する)検察は思い違いをしている」と憤る。・・・
 犯罪の防止か、被告が公正な裁判を受ける基本的権利の保護か。まさに二律背反の状況だ。
*****
 編者は,ドライに割り切ったコメントであるが,次のように指摘している。
 
■匿名の逮捕状について、甲南大学法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「かなり無理した形だ。人を裁く以上、被害状況は証拠で裏付けなければいけない。被害者の特定は不可欠」と指摘する。「被告は死刑や有期懲役にもなり得る。将来再び被害を起こすという推測に基づき、被告の防御権を制限できるのか。冤罪(えんざい)の温床になりかねない」と語る。
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2014年01月20日

■「黙秘権」を考えるー日米の違い

■「ボストン爆破黙秘権で論議/危険差し迫れば告知せず/容疑者重傷/別の事件の恐れ低く/日本はずさん/『権利として認識を』」東京新聞2013/04/24(朝刊)
 黙秘権を巡るアメリカならではの記事が載った。興味深いものであった。
 長いが検討材料にもなるので,引用する。

***引用***
 米ボストン・マラソン連続爆破テロ事件で、米連邦裁判所に起訴されたジョハル・ツァルナエフ被告(19)に対し、黙秘権を告知するか否かが論議の的になった。捜査筋の話から一時は「黙秘権を認めず」といった報道もあったが、結局は告知された。告知するか否かには、どんな境界があったのか。(出田阿生)
 米国では、警察官が取り調べ前に容疑者に黙秘権などを告知しなければならない「ミランダ警告」というルールがある。これは身体拘束が伴う事情聴取に適用される。
 ボストン事件では当初、「米連邦捜査局(FBI)がジョハル容疑者に対し、ミランダ警告の手続きを省く方針」と米紙などが報じた。最終的には二十二日、入院中の容疑者の病室に裁判官が出向き、ミランダ警告を伝えた。裁判所の記録によると、ジョハル被告はのどを負傷して会話はほとんどできないが、うなずいて確認したという。
 ミランダ警告には次の内容がある。「黙秘権がある」「供述は法廷で不利な証拠として用いられることがある」「弁護士の立ち会いを求める権利がある」「自ら弁護士を依頼する経済力がなければ、公選弁護人をつける権利がある」−だ。
 きっかけは一九六六年の米連邦最高裁判決にある。強姦(ごうかん)罪などでアリゾナ州裁判所から有罪判決を受けたアーネスト・ミランダ被告が「弁護士同席の権利を知らされず、自白を強要された」と訴え、有罪判決は破棄された。その後、告知が義務付けられた。
 警告なしでは自白は裁判で使えない。だが特例がある。「公共の安全」に差し迫った危険性が認められるケースだ。刑事弁護に詳しい高野隆弁護士は「今回の容疑者は重傷を負い、続けて別の爆破事件が起きる恐れも低い。警告の例外とならなかったのは別に不思議ではない」とみる。
 例外中の例外がある。二〇〇一年の米同時中枢テロ後、ブッシュ政権が設けた「敵性戦闘員」扱いだ。「テロリスト」とされた人々をキューバのグアンタナモ米軍基地に無期限に拘束した。今回も同様の扱いを求める声もあったが、国際テロ組織アルカイダなどとの関連は確認されず、適用外にされたとみられる。
****
 記者は記事の最後に「日本でも黙秘権は、権利として憲法や刑事訴訟法で保障されている。しかし、米国ほど厳格に認識されたり、扱われていないように見える」とコメントを挿入している。
 「黙秘権」が軽い理由。それは,簡単なのだ。「お上に白状する文化」。これが少なくとも江戸時代以来確立した刑事裁判を巡る我が国の伝統になっている。「白状」。そして「反省と後悔」,更生への決意。これが,お上の裁きのありかたであり,だから,白状しない者は懲らしめなければならない。「お上はなんでも知っている」。その筋道にそった自白を強要するのは正しいことだー日本的な拷問正当化の理由。
 裁判員裁判がはじまった。ところが,およそ米国型陪審ではありえなかった。そもそも,争っている事件でも,裁判員は全員が,「被告人の説明」を期待している。彼・彼女が「黙秘する」などとは想像だにしていない。つまり,有罪を立証するのは検察官の責務であり,被告人は,法廷を見守るだけでよい等という形は,想定外であろう。
 ミランダ警告など,日本では夢のまた夢である。
 「無理に言わんでもいいけれどな,正直に話ししや」。取調べにあたる警察官等の認識はこの程度だろう。「権利」として尊重する意識は薄い。
 それもやむをえない。
 テロを辞さない確信犯は滅多にいない。実はオウム真理教関連事件でも,完黙を貫いた例は聞かない。
 「黙る文化」はないし,尊重されない。
 黙秘権を軽く扱っているというよりも,刑事裁判の背景文化が全く異なるとみたほうがいい。
 せめても,黙秘権の意味を理解してもらうため,次のコメントを出した。

■甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑訴法)は「犯罪行為について口をつぐむことと誤解されがちだが、そうではない。市民が冤罪(えんざい)被害から身を守る最低限の権利だ」と説明する。身に覚えのない犯罪で逮捕され、曖昧な記憶で供述すると、捜査機関に「でっち上げ」の材料を与えることになりかねない。曖昧さを逆手に取られ「犯人」とされるケースだ。渡辺教授は「供述しないことが『権利』であることはあまり知られていない。だからこそ告知は重要」と話す。
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2014年01月16日

■川崎・集団強姦犯逃走事件(4)ー携帯電話「微弱電波探知」について

■逃走容疑者の居場所、借りた携帯の電波で特定
Yomiuri On Line(2014年1月10日08時19分 読売新聞)
 上記記事は,杉本容疑者の身柄確保のきっかけが,同人が友人から入手した携帯電話の発する微弱電波の探知によったことを紹介している。
***引用***
 横浜地検川崎支部から逃走し、9日午後に集団強姦ごうかんなどの容疑で改めて逮捕された無職杉本裕太容疑者(20)が、複数の友人に手助けさせ、神奈川県内を転々としていたことが、捜査関係者への取材で分かった。
 川崎市多摩区の友人宅に潜伏していたほか、車で移動していたことも判明。しかし、大規模な捜査網をかいくぐった杉本容疑者の居場所を警察に知らせたのは、友人から借りた携帯電話の微弱電波だった。
 友人の携帯電話を使い、車で移動している――。神奈川県警が交友関係からその情報をつかんだのは、逃走翌日の8日。杉本容疑者は自宅がある川崎市の高校を中退しており、中学時代の親しい友人らに接触を図るとみてマークしていた。・・・県警は8日夜から、友人が所有する車のナンバーや、杉本容疑者に貸した携帯電話の番号を次々と割り出した。そして9日午前、携帯電話の微弱電波を捉えた。発信場所は横浜市泉区だった。
******
 そして,このあたりに捜査員が大量投入されて,結果的にこの地域に潜む容疑者の身柄を確保できたという。

■では,記事で簡単に紹介されている微弱電話探知は適法か。
 実は,実体そのものが明らかではない。各都道府県警察で,本部長決裁手続によって緊急かつ重要事犯の捜査のために使っているようだ,とは分かる。おりおりの新聞記事で,微弱電波探知で,容疑者や被害者(場合によっては遺骸)の発見に至ったことを紹介する記事も散見される。
 が,基本的にはベールに包まれた装置と措置。刑事裁判でも,こうして犯人逮捕に至った経過自体が証拠に出てくることはまずない。
 では,捜査として許されるか。スイッチをオンにした携帯電話が各個体ごとに異なる周波数の微弱電波を発しているとしよう。そしてこれを探知できる高性能のレーダーがあるとしよう。
 これによって,携帯電話の所在を確認する捜査は,誰のどんな権利を侵害するのか?
 市民は,捜査機関が濫りに市民の携帯電話の所在場所を探り出さないことを期待するプライバシーの権利はある,と云えばある。しかし,逃走容疑者が自己の所在を捜査機関に知られないこと,これを法的に保護に値する利益とは考える必要はない。
 だから,特段あらかじめ法律で「微弱電波探知」という法的手続を定めておかなければできないと考える必要はない。
 他方,本件では,集団強姦犯として疑われている容疑者が逃走したものであって,所在確認をする上で,携帯電話を所持している間に,またスイッチをオンにしている間に,急いで微弱電話を探知して所在を確認する緊急性がある。
 また迅速に所在を確認して身柄を確保するのには,現に携帯を身につけていることが合理的に予想できるのであれば,携帯の所在を確認し,身柄を確保する方法を採る必要性も認められる。
 しかも,常時行動監視のために使っているのではなく,留置中逃走した容疑者について,現に友人から携帯電話を受け取っているという情報がある範囲で,身柄確保の目的で,携帯電話の微弱電波の発信源を確認するものである。プライバシー侵害の程度は極めて限定されている。
 他方,捜査目的も明確で限定されている。その意味で,捜査機関がかかる目的で微弱電波を辿って容疑者の身柄を確保する方法は社会的にも認容されるものであって相当である。
 こう考えると,今回の微弱電波探知措置は,適法な任意の捜査と考えるべきだ。
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2014年01月14日

■川崎・集団強姦犯逃走事件(3)ー犯人逃走と犯罪の成否

報道によると,杉本容疑者の逃走には,友人等の助けがあったようだ。
以下,引用する。
***引用***
■川崎・容疑者逃走:友人が手助けか 杉本容疑者、46時間後に逮捕
毎日新聞 2014年01月10日 東京朝刊
 横浜地検川崎支部(川崎市川崎区)から逃走した同市多摩区宿河原、無職、杉本裕太容疑者(20)が9日、46時間半ぶりに発見され改めて集団強姦(ごうかん)容疑などで逮捕された事件で、神奈川県警は杉本容疑者が逃走中に知人の携帯電話を入手していたことを明らかにした。逃走直後に知人のスクーターに同乗して同級生宅などに向かった疑いも浮上。県警は友人らが逃走を手助けしていたとみて事情聴取を進め、経緯を調べる。【河津啓介、一條優太】
 杉本容疑者は、地検川崎支部から南西に約20キロ離れた横浜市泉区和泉町の和泉川河川敷で発見された。
 県警によると、杉本容疑者には所持金がなく、現場周辺で目立った衣類や現金の窃盗事件も発生していないため、協力者がいるとみて捜査。杉本容疑者が小中高校時代を過ごした川崎市北部を中心に、友人ら20人以上から事情聴取していた。
 その過程で8日、逃走中の杉本容疑者が知人の携帯電話を所持していることが判明。9日早朝から携帯電話が発する電波をもとに位置情報の割り出しを進めたところ、横浜市西部の泉区、瀬谷区付近にいることが分かったという。
 さらに9日未明、中学時代の友人の車が川崎市から泉区、瀬谷区に移動していることを把握。同日午前には瀬谷区で中学時代の友人男性2人(ともに20歳)が乗っているのを発見した。
 これらをもとに両区に捜査員を大量投入したところ、県警泉署員が東海道新幹線線路近くの和泉川河川敷で杉本容疑者を発見。川に入って20メートルほど上流に逃げたが、向かい側から別の泉署員2人が挟み撃ちのように駆け付けたため観念し、本人であることを認めたという。
*******
 では,【Q】3:本人が逃走したことは犯罪か。
■いくつか関連条文を掲げる。
 第97条(逃走) 裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者が逃走したときは、一年以下の懲役に処する。
 第103条(犯人蔵匿等) 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
 第60条(共同正犯)二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
 第61条(教唆)人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
 第62条(幇助)正犯を幇助した者は、従犯とする。
■こう整理できる。
(1)本人が,逮捕後,まだ勾留されていないとき,つまり,裁判官・裁判所の「裁判」を根拠とする身体拘束から逃げたといえないときには,逃走罪は成立しない。
 逮捕状も一種の裁判なのだが,性質上,『許可状」であって,捜査機関が裁量によって執行するかしないかを判断できる性質のものだ。だから,「裁判の執行による拘禁された」ものではない。
(2)犯人蔵匿,犯人隠避の罪は,その犯人自身は含まれないのが当然である。
 ただ,今回は報道によると,友人などの助けがあったようだ。バイクによる逃走,携帯電話の入手,着替えの入手などなどが報道されている。
 もし,知人・友人が,容疑者(被疑者)として逃走中であることを知りながら,なにがしかの手助けをした場合には,犯人蔵匿または隠秘として処罰される。
 そして,友人・知人等に事情を打ち明けて助けをもとめた場合,容疑者(被疑者)本人は,「正犯」としては処罰できないものの,教唆犯としては処罰できる。自分を助ける友人・知人が助けやすいように協力した点を幇助に問う余地もある。
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2014年01月12日

■川崎・集団強姦犯逃走事件(2)ー二度目の逮捕について

【Q】2:報道では,再び指名手配をして逮捕したという。逮捕状はどうなっていたのか。
(1)今回の事件で,杉本容疑者(被疑者)は,逮捕された後,警察へ引致されて,その後検察官が勾留を裁判官に請求する準備のために,検察庁の支部に身柄が連行されているうときに起きた。検察官への送致後,なお留置中の逃走である。
 では,二度目の逮捕の根拠はなにか。
(2)そもそもの逮捕が,通常逮捕,緊急逮捕どれなのか報道の限りでは定かではない。6日の午前3時に逮捕となっている。とりあえず,あらかじめ令状が出ていたとしよう。
 警察は,現場で,容疑者(被疑者)に令状を提示して,逮捕状を執行する。「逮捕」という法的な状態となる。要するに,本人には法的に自由を拘束された状態=勝手に行動できない義務が課され,これに反しても実力行使ができる。
 逮捕状には,通常引致すべき場所が指定されている。
 つまり,「逮捕⇒引致」は逮捕状によって一体として行える自由の拘束である。
 引致という身体の移動のためだけの令状審査はしない。逮捕状発付あるいは適法な逮捕がなされたことに伴う法定の強制処分である。
(3)「引致」までは,逮捕の効果の延長なので,通常逮捕の場合,この間に逃走したときには,あらたな令状は要らない。今の令状の執行の枠内で,再度拘束していい。
 次に,「引致」すべき場所に連行された容疑者(被疑者)は,「留置」の段階に入る。これも,適法な逮捕にともなって法定されている身体の拘束である(この場合にも特別の令状審査はない。強制処分として法定されている)。
 「留置」とは,引致後,法定の手続をとり,留置要否の判断をする期間拘束できる処分をいう。
 警察捜査の場合,身体拘束から検察官に送致するまの48時間,検察官が受理してから勾留請求するまでの24時間,身体拘束から計算して勾留請求するまでの72時間を限度とする身体拘束である。
 なお,検察官が勾留請求をしてから,勾留状発付⇒勾留状執行まで若干のタイムラグがあるが,この間の身体拘束も,留置に伴うものとして法定強制処分と扱うべきである。
(4)容疑者(被疑者)が,「引致」されて「留置」の段階に入ると,逮捕状の効力は消滅する。したがって,この後,勾留されるまでの間に逃走した場合には,再度逮捕状の発付を得て身体拘束をしなければならない。
 ここで,次の問題が生じる。
 同じ被疑事実で,二度も逮捕していいのか。
 捜査機関が誠実に捜査をしても,1巡目の逮捕勾留では起訴不起訴を決定できない場合を否定はできない。この場合,刑事訴訟法も同一被疑事実での逮捕勾留を否定はしない。実例もある。
 他方,今回の事例は,当初の逮捕状の効果が容疑者(被疑者)本人の逃走で失効してしまったものだ。再度の逮捕状発付とその執行による身柄確保は当然に許される。

<犯罪捜査規範31条(指名手配)>
1 逮捕状の発せられている被疑者の逮捕を依頼し、逮捕後身柄の引渡しを要求する手配を、指名手配とする。
2  指名手配は、指名手配書(別記様式第二号)により行わなければならない。
3  急速を要し逮捕状の発付を受けるいとまのないときは、指名手配書による手配を行つた後、速やかに逮捕状の発付を得て、その有効期間を通報しなければならない。
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2014年01月11日

■川崎・集団強姦犯逃走事件(1)ー警察官が立ち会う弁護人の接見について

下記の事件は,この段階では,よく知られている。川崎市にある地検川ア支部で,当番弁護士が集団強姦などで逮捕された杉本容疑者と接見中に逃走したが,2日後に再度逮捕された事件だ。

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■「川崎逃走:逮捕の杉本容疑者/冷たい川で手震え『疲れた』
ネット配信/毎日新聞2014年01月09日21時07分(最終更新 01月09日 21時11分)
 「横浜地検川崎支部(川崎市川崎区)で7日に弁護士と接見中の同市多摩区宿河原、無職、杉本裕太容疑者(20)=集団強姦(ごうかん)容疑などで逮捕=が逃走した事件で、神奈川県警は9日、逃走現場から南西に約20キロ離れた横浜市泉区和泉町の和泉川河川敷で杉本容疑者を発見し、改めて同容疑などで逮捕した」。

 いろいろな疑問が生じる。
 まず,「弁護人と容疑者の接見中になぜ警察官が立会しているのか?」。
 ある記事はこんなふうに紹介する。

■「容疑者逃亡:接見室なし、地検支部の7割」
ネット配信・毎日新聞 2014年01月09日 07時12分
 「横浜地検川崎支部(川崎市川崎区)から、集団強姦(ごうかん)容疑などで逮捕された同市多摩区宿河原、無職、杉本裕太容疑者(20)が逃走した事件で、神奈川県警は4000人態勢で行方を追っている。杉本容疑者は逃走防止措置が施されていない取調室で、警察官立ち会いのもと、弁護士と接見中に逃げた。こうした状況での接見は全国で行われているとみられ、当時の対応に不備がなかったか検証が求められそうだ」。
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■「秘密接見」と「面会接見」について
なぜ当番弁護士は,検察庁の「取調べ室」で面会していたのか。しかも,検察事務官や警察官が立会していたのは何故か。
 毎日新聞の紹介では,杉本容疑者が逃走したとき,当番弁護士との面会の最中であり,検事の取調べ室を利用していたが,その際,検察事務官と警察官が立夏していたという。
 一般には,弁護人または当番弁護士として接見にいくときは,警察署,警察本部,検察庁(接見室のあるところ)では,当然,接見室で面会する。もともと弁護人と被疑者との接見は立会人のない秘密のものであることが憲法34条の趣旨からも当然に求められている。刑事訴訟法39条1項もこれを保障する。
 しかし,今回の事例のように,ふるくは,弁護人と被疑者との接見について,刑事訴訟法39条3項をつかって捜査の必要があれば接見の日時,時間,場所を指定して可能な限りあわせない運用が定着していた。その運用の反映で,検察庁には接見室のないところが多かった。
 だが,被疑者は,逮捕されたときから専門家=弁護士の助言が必要だ。どこに身柄があろうとも,弁護士と相談してまず弁護人を選ぶかどうかを相談し,次に,事件について相談しなければならない。
 今回のように,警察が逮捕して,検察官に勾留を請求してもらうために,検察庁支部に身柄と書類を送ったのであれば,被疑者は検察官にどう対応したらいいのか助言が欲しい。すぐにでも面会したい。
 とすれば,本来なら,検事の部屋を使ってでも,秘密接見を認めるべきだが,安全円滑な接見の実施が難しい面もある。
 そこで,最高裁は例外的に妥協的に「面会接見」の保障を検察官に義務づけた。次のようなものだ。本件は,当番弁護士がおそらくは本人の依頼によって出向き,本人の依頼により弁護人となろうとする者としての接見をおこなっていたのであろう。ただし,「面会接見」の形で。
 ・・・
 被疑者と弁護人等との接見には、被疑者の逃亡、罪証の隠滅および戒護上の支障の発生の防止の観点からの制約があるから、検察庁の庁舎内において、弁護人等と被疑者との立会人なしの接見を認めても、被疑者の逃亡や罪証の隠滅を防止することができ、戒護上の支障が生じない設備のある部屋等が存在しない場合、同庁舎内での弁護人からの接見申出を拒否しても違法ではない。
 弁護人等がなお検察庁の庁舎内における即時の接見を求め、その必要性がある場合、検察官は、立会人の居る部屋での短時間の「接見」など秘密交通権が十分に保障されない態様の短時間の「面会接見」でもよいかどうか弁護人等の意向を確かめ、弁護人等が差し支えないとの意向を示したときは、面会接見ができるように特別の配慮をすべき義務がある。(最判平17・4・19民集59-3-563)



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2014年01月05日

■富山・放火殺人事件の途中経過からー警察捜査と検察の判断

■「遺族『いつまで待てば…』/処分いまだ決まらず/情報漏えい初公判迫る/富山・殺人放火元警部補」
北日本新聞(朝刊)2013/06/22
***引用***
 2010年4月、富山市大泉の会社役員夫婦が殺害され住居に放火された事件で、殺人容疑などで逮捕された加野猛元県警警部補(54)=同市森=の処分が決まらない事態が続いている。富山地検が処分保留にしてから22日で1カ月。地検は任意捜査の進展状況や処分時期を明らかにしておらず、遺族はいらだちを募らせる。結論が先送りされたまま、別の情報漏えい事件の初公判が27日に迫っている。・・・元警部補は容疑を認める一方、動機に関する供述はあいまいで、物証はほとんどないとされるためだ。『われわれは自信を持って逮捕しているが、現状を考えれば、地検の見立ては正しかったことになる』。県警幹部はため息をついた。・・・元警部補は今月中旬、北日本新聞社に『話すことができるようになれば、こちらからお知らせいたします』などとする手紙を寄せ、取材に沈黙を保っている。
******

■先にもブログで紹介したように,後に結局不起訴となった事件であり,現在,遺族が検察審査会に不服申立をしている事件のの途中経過記事である。
 この頃の証拠が固められない事件を取り巻く関係者のいらだちが伝わる記事だ。しかし,検察官は捜査と公訴に責任を持つべきプロだ。仮に,後に検察審査会が起訴強制を議決することとなろうとも,プロの責任としては厳密な判断をするべきで,新聞記事や,容疑者が投稿した図などを載せた週刊誌記事などを検討しつつ,やむなしとの判断をしていた。次のコメントを同紙に掲載した。

■渡辺修甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「容疑者の自白はあるが、客観証拠による裏付けがなく、動機もあいまいでは処分保留はやむを得ない」と指摘。「検察は、供述に頼らず、状況証拠のみでも『合理的疑いを超える証明』ができるか慎重に判断すべきだ。これができるかどうかが、起訴の可否の分かれ目になる」としている。

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2013年12月27日

■性犯罪の裁判と被害者の氏名の開示ー被害者のプライバシーと被告人の防御

■「被害者匿名の起訴状修正/地裁要請受け母の名追記/東京地検、女児わいせつ事件で」朝日新聞2013/09/12(朝刊)
 今年は,逮捕状,起訴状に被害者の氏名を記載するかどうかがおりおり問題となった。
 表題の記事では,次のように問題を提起している。
***引用***
 強制わいせつ事件の起訴状で、被害者保護の観点から被害児童の氏名を伏せた東京地検に対し、東京地裁(橋本健裁判官)が明記を求めていた問題で、地検は11日、代わりに母親の氏名と続き柄を追記する修正を行った。この日の初公判で地裁も修正を認めた。
****
 性犯罪の起訴状で被害者を明記する必要性はどこまであるのか。
 もっというと,捜査段階で作成される被害者関係の調書などの捜査資料について,どこまで被害者の氏名などの特定事項を記載しておくべきか。
 実際に可能かどうかさておき,ファイルのトップにのみ被害者の特定事項を記載した書面を綴じ込み,後は事件番号で被害者を特定したり,甲乙丙などの記号で記すことも考えられる。
 ただ,被害の実在と被害者の実在,被告人の関与の立証にあたり,被害者の信用性を問題にするべき事件はある。その場合,被告側にとって,被害者の個人情報がないと防御ができにくくなる。少なくとも範囲が限定される。
 そのシンボルが,起訴状に被害者氏名を書くこと。が,防御上も重要か。
 被告側がそれまでの証拠開示で防御に十分な被害者情報があるのならば,敢えて起訴状の記載にこだわる必要はない。しかし,開示証拠でも被害者情報が不足し,防御に支障があるときには,起訴状も含めて被害者の特定を被告側は求めることとなる。これが明らかにならないのであれば,そもそも審判の対象が不明確であり,防御不能として,裁判手続自体の打切り(違法な公訴提起であるとして公訴を棄却すること)を被告側は求めることとなる。
 上記記事は続いて,次のように解説する。
***引用***  
 地検が起訴したのは、女児が公園の公衆トイレに連れ込まれ、わいせつな行為をされたうえ、撮影されたとされる事件。両親の強い要望や、女児が幼く、被告が面識のない男だった点などを考慮し、地検が5月に起訴した際、「被告がトイレに連れ込んだ児童」との表現にとどめていた。
 刑事訴訟法は「日時、場所、方法」によって起訴内容の特定を求めている。被害者名に関する定めはないが、従来は起訴状に盛り込むべき重要な要素とされ、記載するのが通例だった。このため、地裁は氏名の明記を検察側に要請。検察内部では「修正しなければ起訴の手続きが整っていないとして裁判が打ち切られる可能性もある」(幹部)との見方が広がった。
 東京地裁では8月、今回の事件の後に発生した別の性犯罪事件で、被害女児でなく、母親の氏名を記した起訴状で審理を認めたケースがあった。関係者によると、地検は今回も同様の対応をとれば地裁が許容すると判断。両親に理解を求め、追記したとみられる。
*****

■上記記事に次のコメントを掲載した。

<渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話> 
 母親の名前があれば被害者の特定は十分で、法律的には問題ない。被害者が完全な匿名を求める気持ちは分かるが、刑事裁判では被害者をきちんと特定することが必要で、被害者に関する一定程度の情報を被告側に示すのはやむをえない。被害者を保護しつつ公正な裁判を行うために、今回のような工夫を重ねることが必要だ。
posted by justice_justice at 07:59 | TrackBack(0) | ■事件ー捜査から起訴まで | 更新情報をチェックする

2013年12月25日

■王将社長殺害事件について−「25口径自動けん銃」

 京都新聞NET配信記事平成25年12月24日23時0分(更新)は,「拳銃は25口径自動式、実行犯1人か」と題する記事を配信。以下,一部を引用する。
 なお,けん銃の写真はサンケイmsnニュース「カギ握る手のひらサイズ25口径/犯人は特性熟知か、捜査本部が製造元を特定へ」2013.12.23 21:20をモニター上に出して,デジカメで撮影したもの。

 
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***引用***
 京都市山科区の王将フードサービス本社前で、同社の大東(おおひがし)隆行前社長(72)が殺害された事件で、犯行に使われた拳銃は25口径の自動式だったことが21日、捜査関係者への取材で分かった。
 捜査関係者によると、25口径の自動式拳銃は小型で、火薬量が少ないため発射時の反動も小さく使いやすい一方、命中率や殺傷能力は比較的低い。自動式は回転式と比べ2発目以降は連射しやすいとされる、という。
 大東前社長の死因は腹部を撃たれたことによる失血死で、胸にも貫通した銃創があった。京都府警捜査本部(山科署)は、強い殺意を持った犯人が確実に命中させるため至近距離から前社長を複数回銃撃したとみている。
 捜査関係者によると、現場に残された4個の薬きょうは1種類だった。犯行の使用拳銃は1丁で、実行犯は1人とみられるが、逃走を助けるなど共犯がいる可能性がある。
*************
 「25口径(25caliber)」。
  銃身の内径が「25/100*inch」となる。「口径」が,概ねけん銃の威力を示す。使える弾丸の種類も重要だ。マグナム弾を使用できるかどうかが鍵。25口径は,弾丸の直径で約6ミリ位か。けん銃の全長も11センチ程度か。弾丸の初速を決める銃身は5センチ程度。実感としては,当たらないように思う。
 もともと,一般的にも,けん銃はなかなかあたらないとよく聞く。それが至近距離とは言え,4発も胸と腹に当てるとは,どんな訓練を積めばこんな残虐でしかも大胆な殺害行為ができるのか,,,,。プロかセミプロの犯行を疑わせる。25口径のオートマチックを手に入れること,射撃訓練をして,現場の下見などもすること,,,,そうしてまで王将の社長を殺害する動機,,,不可解だ。
 被害者の冥福を祈りつつ,犯人の早期発見,身柄確保を期待したい。
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2013年12月24日

■家族の孤立ー21世紀日本社会の実像と変死事件の行方

■「【ニュース・インサイド】見えぬ母娘の実態/熊本少女遺体発見10日/窓目張り 児相知らず/警察と情報共有課題」 *西日本新聞(2013/10/01・朝刊)
 「熊本市東区の民家で、母親(58)と2人で暮らしていた三浦万理華さん=当時(15)=の遺体が見つかり、1日で10日となる。不登校だった万理華さんと母親の生活に何が起きたかを知る手掛かりは少なく捜査は難航。一方で今年1、2月に家の中を確認した警察官の情報が市児童相談所(児相)に伝わらなかったことも判明するなど、関係機関の課題も浮かび上がってきた」。
 上記見出しのもとに,こんな内容の事件が報道されている。
 しかも「死因特定できず」という。「母親は9月21日に福岡空港で保護されて以降、福岡県内の病院に入院しており、会話が成り立たない状態という。万理華さんの死因は、司法解剖でも特定できなかった。捜査関係者は『事件性の有無も判断できる状況ではない』としており、捜査は難航しそうだ」。
 
 記事を読むと,事件に至るまで,この家族には大変な状況があったようだ。
○児相などによると、万理華さんは小学5年から欠席が目立つようになった。
○家庭訪問した担当者が「学校に行きたいか」と問うと、万理華さんは恥ずかしそうにうなずき、母親も「登校させたい」と話した。
○小学校の卒業アルバムに「大学は医学部に入りたいです。しかしピアニストになることも考えています」と将来の夢をつづった。
○中学3年だった昨年6月以降、不登校。
○母親は、学校に万理華さんを欠席させる旨の連絡をし続けていた
○児相は2013年11月以降、学校や警察などと連携して13回の家庭訪問を実施。
○インターホン越しに万理華さんの声を何度か確認した程度だった。
○福岡県内に単身赴任中の父親(54)も帰宅を母親から拒否されていた。
○父親も今年2月を最後に万理華さんの声や姿は確認できなくなった。

 他方,虐待は認められず,母娘関係は良好だったとも判断されていたという。しかし,「今年1月と2月に母親は「泥棒が入った」などと110番。家の中に立ち入った警察官は、万理華さんの姿を見たのと同時に、部屋の窓ガラスに内側から粘着テープなどで目張りがしてあることを確認していた。
 児相によると、これらの情報は県警からもたらされなかったという。捜査関係者は「現場に行ったのは緊急通報を受けた警察官。児相から相談を受けている家庭だと把握しているわけではない」とするが、児相の梶井悟所長は「目張りなどは、異様な状況を知る貴重な情報の一つになったと思う。届かなかったことは残念」と話した」。

 こんな背景の事件捜査は難しい。母親の心の状態への配慮も要る。慎重な捜査がまだ続いていることと思う。
 上記新聞にこんなコメントを掲載した。

●甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「死因や遺体放置の詳細な事情が分からなくとも父親や周辺住民への聞き取り、現場や遺体の状況などの客観証拠で捜査を進められる」とした上で、「母親が適切な治療を早期に受けられる方法を優先すべきだ」と話した。
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2013年12月16日

■ふたつの書類偽造事件ー「調書」文化の弊害

■大阪府警、虚偽調書問題――チェック体制機能不全、問われる警察の姿勢。
2013/12/13 日本経済新聞 大阪夕刊
 不正に気づいて正す機会はあったのに隠蔽を繰り返し、最後は偽証まで――。堺署の虚偽調書問題は、府警という組織のチェック体制が「機能不全」に陥っている実態を改めて浮き彫りにした。
 事件当日、留置管理課の警部補から虚偽調書の作成を指示された当直の生活安全課の警部補は、当直の責任者にやめるよう進言した。しかし当直の責任者は、留置管理課の警部補の説明をうのみにし、署長や副署長にも報告しなかった。
 「1つ目」の虚偽調書の発覚後、府警本部の刑事総務課の指導官(60)が堺署に派遣された。しかし指導官は、書類を見ただけの推測で「巡査長と巡査が上司の叱責を恐れて話を合わせた」とする調書のサンプルを作成し、刑事課員に渡した。刑事課員は「刑事総務課からそうするよう指示された」と思い込み、「2つ目」の虚偽調書の作成に至った。
 その後、指導官は、巡査長と巡査の報告書に「警部補が調書を作り替えた旨の報告があった」などと書いたメモを付け、刑事部長ら幹部5人に提出。しかし、口頭では「訂正調書で対応できる」などと伝え、十分な説明をせず、幹部らも書類を精査しなかった。
 指導官は、関西空港署で2011年に起きた取り調べ時の暴行事件などの不祥事を受け、昨年3月に新設されたポストだった。府警幹部は「チェック機能が働かなかった。報告体制や本部の指導を強化しなければならない」と話している。

◎甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「調書の体裁さえ整っていれば構わないと思いがちな警察の体質から問題が放置された」と指摘。「警察は問題を直視して速やかに改善策を取るべきだ。検察も警察内部の捜査を待たず捜査に乗り出すなどして警察の姿勢を問う必要がある」と話している。

■丹波市水道部 文書偽造問題 不適切前払い2件目発覚 3人の告訴取り下げへ 市長「組織で常態化」
2013/12/04 神戸新聞朝刊 30ページ 845文字 書誌情報
丹波市水道部 文書偽造問題
不適切前払い2件目発覚 3人の告訴取り下げへ 市長「組織で常態化」
 丹波市水道部の職員が、2011年度に発注した設計業務が終了していないことを知りながら「完了した」と偽って公文書を作成し契約金を支払っていた問題で、市は3日、「同様の事例が10年度にもあった」と発表した。市はこれまで「同様の事例はない」と繰り返してきたが、一転して水道部で虚偽文書の作成が常態化していたことを認めた。(小尾絵生)
 市は11年度発注分の問題で、職員3人を虚偽有印公文書作成・同行使容疑で刑事告訴しているが、「個人の資質ではなく水道部の体質の問題」だとし、告訴を取り下げる方針も明らかにした。
 今回新たに発覚した問題は、10年度実施の設計業務が完了していないのに契約金全額を支払っていたという。この設計に基づき着工。14年度に完了する予定だったが、設計資料が一部欠落していたことから、設計業務が終了していないことが判明した。契約金額など事案の詳細について、市は「警察が捜査中のため公表できない」としている。
 市は先に発覚した11年度発注分の虚偽文書問題以降、水道部を調査。市議会などで「同様の案件は他には確認されていない」と説明しており、会見した辻重五郎市長は「職員に裏切られた思い」と語った。
 さらに辻市長は「(不適切な業務が)常態化しているとみられ組織に責任がある。3人にだけ処罰を求めるのは違う」とも話し、「警察の捜査が終わり、贈収賄がないと判明した時点で告訴を取り下げる」とした。
 また、捜査終了後にあらためて職員に対する処分を行うという。

◎市役所全体に波紋も 甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)の話
 水道部の問題にとどまらず、行政組織全体に波紋が広がる可能性がある。告訴を取り下げても捜査は続く。税金の適正な使用や処理ができておらず、構造上の問題をえぐり出す必要がある。

■書類操作で,事実を糊塗する。よくもあしくも日本的な官僚主義の悪弊だ。警察と行政。公権力の側の共通の行動パターンなのかもしれない。
 「調書」文化の構造改革がない限り,今後も繰り返されるだろう。
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2013年12月14日

■堺署調書偽造事件についてー感想

■日テレニュース24『調書偽造、堺警察署元署長ら9人を書類送検』< 2013年12月13日 12:06 >

 去年、警察署内で起きた公務執行妨害事件への対応が適切だったように装うため調書を偽造した、などとして、大阪府警堺署の当時の署長ら9人が証拠隠滅などの疑いで書類送検された。
 証拠隠滅・虚偽有印公文書作成などの疑いで書類送検されたのは、堺警察署の元署長・仲井清警視正(59)ら9人。大阪府警によると去年、堺署の留置場で暴れた男を留置保護室に収容した際、実際は現場にいなかった巡査部長が指示したように調書が書き換えられたという。当時の署員7人が、2度にわたりウソの供述調書を作成、仲井元署長ら2人は、裁判の前に真実が書かれた調書を入手しながら、署内に保管したままにしていた疑いが持たれている。
 今年3月の裁判では、2人の警察官が、ウソの調書の内容に沿って偽証をしている。大阪府警監察室は、書類送検された9人を停職や減給などの処分、当時の刑事部長を「警察庁長官注意」とすることなどを発表したが、「組織として隠ぺいを図ろうとした意図はなかった」としている。

■あるマスコミ関係に,次のようなコメント原稿を送付した。

 密室取調べで虚偽供述を調書にする捜査手法が定着しているが,書類の作文で事実を隠蔽する体質は警察に根深い。社会が「完璧な警察」を求めすぎることも一因だが,書類操作で「ごまかす」官僚体質の根深さが直接の原因。ミスを認めて対策を講ずるオープンな危機管理意識も薄い。

 改善には,「ミスしない」と同時に「ミスを隠さない」意識改革のための研修が要るが,さらに警察署の内外を問わず容疑者と警察官のやりとりはすべて録音録画する捜査の「IT化=可視化」の徹底が不可欠だ。偽造調書を黙認する検察庁・裁判所の姿勢も疑問だ。

 事件捜査に携わった警察官の偽証が判明したなら,検察は直ちに強制捜査に着手するべきなのに,警察の動きを見守る甘い姿勢をとっていることも,調書偽造を生む構造を支える。偽証した警察官らの証言を元に公務執行妨害罪で有罪を認める裁判所の姿勢は「犯人必罰」こそ正義と勘違いしている。「適正手続なくして厳正処罰なし」という司法のあり方に立ち返るべきだ。

 真犯人が処罰を免れる深刻な事態について社会の側も一時は甘受してでも,警察の隠蔽体質改革に取り組むべきだ。
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2013年01月25日

■国際テロリストと国外犯ー「国家警察」なき日本の限界

産経ニュース MSN(2013.1.25 11:09)
 「国外犯規定に基づき神奈川県警が捜査へ/現地情勢不透明、難航か」
 アルジェリア人質事件に巻き込まれて死亡し、25日に政府専用機で帰国したプラント建設大手「日揮」の日本人スタッフ9人については、日揮の本社が横浜市にあるため、今後は神奈川県警が司法解剖して詳しい死因などを特定する。県警は刑法の国外犯規定に基づいて、殺人や逮捕監禁容疑などで捜査する方針だが、現地の情勢は不透明なため捜査は難航しそうだ。
 警察当局によると、9人の遺体は羽田空港内で検視し、神奈川県内と東京都内の9カ所の病院で司法解剖して死因を特定するほか、殺害に使われた凶器についても特定を進める。
 県警は国外犯規定で捜査を進めるが、政治情勢や治安状況が不安定な国や地域へ捜査員を派遣するのは困難なうえ、日本の警察が国外で強制捜査に着手する権限はない。このため、現地の警察当局による容疑者の取り調べの立ち会いや情報交換などにとどまるのが実情となっている。
 今回の事件についても情勢が不安定なため、「現地の捜査機関がどれほど協力してくれるか、不透明な状況だ」(警察庁幹部)という。
 国外犯への刑法の適用は通貨偽造など日本の法益を損なう場合に限られていたが、平成15年に殺人や傷害、逮捕監禁、強制わいせつなどの凶悪事件にまで拡大。昨年8月に内戦状態にあるシリアを取材中に銃撃されて殺害された、ジャーナリストの山本美香さんの事件についても警視庁が捜査しているが、実行犯の特定などの捜査は難航している。
 警察庁は18日から、日本人がテロなどの被害に遭った場合に現地で情報収集や捜査支援にあたる国際テロリズム緊急展開班(TRT−2)を派遣、日本人犠牲者の身元の特定などの作業にあたってきた。

■「テロ犯人が、アルジェリアで、日本人を殺害する」。

 これは、日本の刑法上、殺人罪にあたる。
 当たり前といえば、当たり前だが、他方、グローバル化した「世界」は、まだ「世界法」が規律する世界ではない。
 「主権=国家」を単位に、国の及ぶ範囲が限定されている。日本の警察が、日本の裁判官の発した逮捕状を持参して、アルジェリアに乗り込んで、犯人を捜査し、その執行のため、アルジェリア人の住宅に踏み込むことは、、、できない。
 主権尊重。この国際秩序をやぶるとき、戦争を覚悟することとなる。
 さて。
 刑事訴訟法は、観念的には、世界に適用されていると解釈してよい。ただ、より強い力でその効力が阻まれている。繰り返すが、主権である。
 ただし、国内法上適法に捜査することができるから、アルジェリアの司法当局に対する捜査の協力、情報提供の要請、外交ルートでの了解を踏まえた捜査員の派遣と取調べなどへの立会などは、可能になる。
 ただし、当然であるが、これは、日本の警察が、そして、日本の国家が、国際テロリスト組織と直接対峙することも意味する。その覚悟と、これを遂行する力の保障を必要とする。
 とすると、なによりも、いち早く、警察庁のもとに執行部隊としての国家警察を創設するべきだ。自治体警察中心主義で、国際犯罪、国際テロには対応できない。
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2013年01月16日

■貝塚高1自殺事件の波紋ー「過去形警察」の失敗/「未来形」警察の待望

■1:「大阪の高1自殺で19歳を書類送検/窃盗教唆容疑」朝日新聞2013/01/16(朝刊)を引用する。
 「大阪府貝塚市で2011年10月、府立定時制高校1年のK・T・・・さん(当時18)が自殺した問題で、府警は15日、中学時代の元同級生の少年(19)を、Kさんらにひったくりを指示したとする窃盗教唆容疑で書類送検し、一連の捜査を終えたと発表した。元同級生は黙秘しているという。
 府警は、特別少年院送致が相当との意見をつけた。遺書には、元同級生からの金銭要求をうかがわせる記述があったが、具体的な証拠が集まらず、府警は恐喝容疑などでの立件を見送った。自殺の原因については「断定できなかった」(少年課)としている。
 元同級生の送検容疑は09年12月、別の元同級生(18)を通じてひったくりを指示し、Kさんと大工の少年(19)に60代女性から紙袋を奪わせた疑い。Kさんの父親(43)は「自殺の原因がはっきりしなかったのは納得できない」と話している」。
■2:この記事の背景を簡単に知るための記事をもうひとつ紹介する。「ひったくりを指示、専門学校生認める/きょう書類送検/貝塚18歳自殺【大阪】」朝日新聞2012/11/22(朝刊)だ。
 「大阪府立高校定時制1年の男子生徒(当時18)が昨年10月に自殺し、大阪府警が再捜査に乗り出した事件で、生徒ら2人にひったくりを強いた疑いがもたれている中学時代の同級生の専門学校生(18)が、府警の事情聴取に「ひったくりを指示した」と話していることがわかった。
 大阪府警は専門学校生を22日、実行役の生徒と別の少年(19)とともに2009年12月上旬、バイクを使って同府泉佐野市内の路上で、60代女性から紙袋をひったくったとする窃盗容疑で書類送検する。また、生徒の遺書で名指しされた別の元同級生(19)の関与についても調べる。専門学校生を介し、最初にひったくりを命じた可能性もあるとみている。
 生徒は泉佐野市のKTさん。昨年10月27日、同府貝塚市内の空き地で首をつって死亡しているのが見つかった。父親(43)らによると、残された携帯電話のメモには「一生金ヅルはしんどい」など、日常的に金を要求されていたことを示唆する遺書が残されていた。専門学校生と元同級生から、かけトランプゲームの借金返済などの名目で金を要求されていたといい、返済の一環でひったくりを強要されていたとみられる。
 Kさんの携帯電話には遺体発見前後に、専門学校生から少なくとも約20回の着信記録やメールが残っていた。現金を要求するためだったとみられる。
 府警は、専門学校生や元同級生ら十数人の少年から任意で事情を聴いたが、恐喝容疑などを裏付けられず、昨年末にいったん捜査を打ち切った。その後、父親や友人らから、ひったくりを強いられていたとの新たな証言が寄せられ、7月から再捜査していた。」

■3: 恐喝の被害者である自殺者が、恐喝されていたかどうか、これを現段階で立件することは相当困難だ。というのも、恐喝の成立には、脅迫などによって被害者が「こころ」の「畏怖」状態にありながらも、なお一定の自由意思で財産上の処分(主犯にひったくりをしたものを渡す)という一連の事情を証拠で裏付けなければならない。
 被恐喝者が取調べなどで被害状況の供述を残してでもいない限り、「合理的疑いを超える証明」に耐える証拠はあるまい。立件見送りはやむをえない選択だ。
 とは言え、自殺に至った真相は、社会的な意味では解明されないで終わった。
 主犯格と名指しされた少年が本当にひったくりを強要したかどうかは、現段階では「疑い」がある程度で、刑事手続を発動できるまでには至っていない。逆に、少年の人権のためにも、安易な憶測はしてはならない。
 ただ、社会の犯罪抑止力が減退する中、ストーカー的な「まとわり」、執ような「囲い込み」、心の弱みにつけ込む「コントロール」などを特徴とする異様な犯罪が発生している。
 今回の事件のきっかけも、「いじめ」と軽い名称を与えていた。だが、実は「小犯罪」の蓄積という「悪質な犯罪」がストーカー的まとわりつき、執ような囲い込み方犯罪の特徴だ。
 伝統的な犯罪観では認識できない悪質さがある。これに社会が鋭敏に反応できる力がなくなっている。しかも、こうしたささいな事件が積み上がるような事件では、なかなか「警察・検察・司法」という巨大な国家権力が直ちに対峙するべきターゲットとは扱われてこなかった。「組織」が動かない。他方、家族ーその周辺の血縁ーこれらのユニットが住む地域ー地域の核となる学校などなど「個人」が心のよりどころとなるべき絆が、ない、中で、異様な犯罪が起き、対処しきれないでいる。
 かくして、犠牲者が出る−「自殺」。
 統計的には犯罪認知件数が減っているが、体感としての「治安」への不安はむしろ強くなっていると思う。それは、社会の脆弱性がより深刻になっている一方、その隙間をねらったような「がん細胞的犯罪」が蔓延っているからではないか。
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2013年01月15日

■国松元警察庁長官狙撃事件異聞ーアレフに対する名誉毀損と警察の情報捜査

■1:ネット配信、MSN産経ニュースによると、「『刑事司法を根底からゆるがす』と非難/警察庁長官狙撃の捜査結果公表/都に100万円支払い命じる/東京地裁」と題する記事を掲載している(2013.1.15 15:23 )
 以下引用する。
 「公訴時効が成立した平成7年の国松孝次警察庁長官(当時)銃撃事件で、警視庁が「オウム真理教信者による組織的テロ」とする内容の捜査結果を公表したことで名誉を傷付けられたとして、教団主流派「アレフ」が東京都などに5千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が15日、東京地裁であった。I・H裁判長は結果公表について「重大な違法性を有する行為」と認定。都に100万円の支払いと、アレフに謝罪文を交付することを命じた。
 警視庁は平成22年3月の時効成立を受けた会見で「オウム真理教の信者グループが、教祖の意思の下に、組織的・計画的に敢行したテロであった」と捜査結果を公表。・・・I裁判長は「犯人を『オウム真理教』『教団』と直接的に指し示していないが、一般読者はオウム真理教が組織的・計画的に事件を実行したとの印象を受ける」と指摘。アレフの施設建設に伴う住民の反対運動などを挙げ「アレフがオウムと同様の危険性を有する宗教団体と認識されていることは明らか」として、アレフの名誉が毀損されたと結論付けた。・・・
 判決はさらに、不起訴処分とした事件の捜査結果公表について「無罪推定の原則に反するばかりでなく、我が国の刑事司法制度の基本原則を根底からゆるがすもの」と厳しく非難した」。

■2:記事を読みながら、こんな感想を抱いた。
(1)警察は、今までも、見込み捜査を真実と発表することでマスコミを利用し、容疑者など事件関係者に圧力をかけて、自白を強要し、えん罪を生んできた。その体質をふたたび露呈したもので、これを強く批判した判決は正当だ。
(2)警視庁刑事部では当時元オウム真理教関係者以外の有力な容疑者を対象に捜査していた。
 刑事警察の手法を用いて地道に証拠を重ね、状況証拠による事実認定を慎重に行っていけば、案外、真相解明、真犯人到達に至った可能性もあった。
 あくまでも、オウム真理教関係者の犯行という見立てにこだわったのは、公安警察だ。が、捜査は失敗。
 あたかも、これを覆い隠すため、非難の矛先を元オウム真理教の後継組織である、アレフに向けさせようと世論操作しようとしたことは明白だ。
 許し難い情報操作だ。
(3)公訴時効を迎える時点で犯人を特定できる証拠はなかった。だが、公安部の見込み捜査が真実であるかのように発表し、公安の捜査を正当化するため世論操作に利用しようとしたものだ。
 これは、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事手続の原則、容疑者の名誉侵害を禁ずる刑訴法の原則を無視した権力濫用・人権蹂躙の典型だ。
(4)最近も、JR西日本の執行役員が痴漢事件で逮捕された事実を大阪府警が広く公表した後、釈放中自死したことも記憶に残る。
警察による「マスコミ利用」。
 「マスコミ操作」に便乗するマスコミの側の力量不足にも問題が残るが、やはり権力の側の情報操作力は強い。
 その控制を考えるべきだ。今後、逮捕した事実の取扱いも含めて、捜査情報の公平かつ公正な公表のありかたを第三者もまじえて検討するべきだ。
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2013年01月06日

■警察官脅迫罪の加重処罰ー個人情報ビジネスの弊害

■「娘の名告げ加害示唆/警官脅迫容疑で風俗店経営者ら逮捕/愛知県警が描く警部脅迫事件の構図」(朝日新聞デジタル2013年1月5日20時49分)

 「愛知県警で暴力団捜査を担当する警部に、捜査をやめるよう求める脅迫電話がかかってきた事件で、県警は5日、名古屋市を拠点とする大手風俗店グループ「ブルー」の実質的経営者のSY容疑者(55)=同市昭和区福原町2丁目=ら男3人を脅迫の疑いで逮捕し、発表した。県警は、指定暴力団山口組弘道会と資金的なつながりが深いとみるSY容疑者が捜査妨害を狙ったとみて、背後関係を調べる。3人とも容疑を否認しているという。
 役所や企業が管理する個人情報が闇市場で売られる「個人情報ビジネス」は、警部への脅迫事件の捜査がきっかけで明るみに出た」。

警察を守ること。
 日本社会がまだ健全である理由は、公務員の倫理性の高さにある。
 特に、警察官・検察官・裁判官など司法に携わる職業人の倫理意識の高さには敬意を表するべきだ。
 それだけに、特に暴力団など社会の「ダーク・サイド」に接することの多い警察官は、同時に、誘惑も脅迫も多いと推測する。巧妙な罠が仕掛けられることもあるのではないか。そして、上記記事のように、ダイレクトに、家族というもっとも弱い部分を狙った脅迫もある。
 司法権力を持つ警察官などが権限を濫用する場合、ことのほか重く処罰すべきだが、他面で、警察官の公務に関連した脅迫には、重罰を科すべきではないか。一般市民に対するのと同じ脅迫罪しか適用がないというのは、考えものだ。
 公務員を特権階級にする必要はないが、民主主義社会の骨格を担う公務員を保護するのも社会の責務だ。
 (なお、その公務員が無駄なく、効率的に職務に専念できる首長や政治家(せいじか。せいじやではない)を選ぶこともまた市民の責任だ。いい加減な選挙をしていい加減な政治家しか選ばずにいて、公務員組織の過不足・質量を問題にしても本末転倒であろう。このことと、警察の倫理性保護とは別の課題でもある)。

■ 刑法222条(対公務員・加重脅迫罪) 
1 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
3裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者に対して、その職権に関連し第1項または第2項の脅迫を行った者は、3年を超え15年以下の懲役に処する。

(参照ー現行刑法)
第222条(脅迫) 
1 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
第194条(特別公務員職権濫用)
 裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁したときは、六月以上十年以下の懲役又は禁錮に処する。
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2012年12月29日

■ストーカー犯罪と被害者保護ー「事件」警察から「予防」警察へ/ストーカー犯罪と国選弁護人

■「ストーカー容疑 逮捕状に被害者名書かず」。
 ネット上、YOMIURI ON LINEの2012年12月29日付け配信記事で、神戸からの発信として次の記事がアップされている。
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◇逗子事件受け県警、顔写真で確認
 県警は28日、2件のストーカー規制法違反事件の各容疑者を逮捕した際、逮捕状に被害者の住所や氏名は書かず、顔写真を添付する方法で本人確認をして執行した、と発表した。神奈川県逗子市で11月、デザイナー三好梨絵さん(33)が殺害された事件では、地元の逗子署が昨年6月、逮捕状に記載された三好さんの住所や現姓を元交際相手の容疑者に読み上げたことが問題となっていた。警察庁によると、ストーカー事件での同様の対応は初めてとみられる。
 発表によると、2人は、11月に飲食店員の10代の女性の顔を殴ったとされる住所不定、運転手大脇勉容疑者(60)(暴行罪で略式起訴)と、40代の会社員女性につきまとったとされる姫路市的形町、アルバイト従業員米沢知男被告(30)(ストーカー規制法違反で起訴)。いずれも今月中旬に同法違反容疑などで逮捕された。
 県警は、2人がそれぞれの被害者の正確な住所や氏名を知らないことを重視。被害者の氏名を隠すため、逮捕状を読む際、顔写真を添付して被害者を特定させた。地検も起訴状の氏名をカタカナ表記にするなどの配慮をした。
 逗子市の事件を受け、警察庁は今月20日、ストーカーや性犯罪などで再び被害を受ける危険性がある場合、被害者の通称名や旧姓を使うなど、プライバシーに配慮した内容で裁判所に逮捕状を請求するよう全国の警察本部に指示。県警はこの指示に先んじ、写真による確認を行ったという。
****

■ストーカー犯罪は「予防」が鍵だ。その重要なステップは、被害者情報を加害側に秘匿すること。そして、実は、日本人の体質からも、ネット社会になってしまった外的環境の変化からも、そして、外から見る限りの日本の警察官僚組織の体質からも、「守秘」が徹底されにくい。
 次に、日本の警察は、官僚組織としての実績を上げるためにも、「事件」警察として動く傾向がある。つまり、「被害」が「過去形」になってから動く。「未来形」の段階で抑止し防止することに本格的に取り組んでいるのか疑問を持つ。
 しかも、21世紀犯罪の特質は、
  1:ネット犯罪 2:国際犯罪 3:ストーカー気質犯罪
 にある。
 ストーカー気質犯罪は、「過去形」犯罪での対応では後手に回り、結局、「殺人」といった取り返しの付かない「過去形」に至りがちだ。
 今回、逮捕状執行レベルでは、被害者特定情報の保護には成功した。
 しかし、弁録ー勾留質問ー被疑者取調べー起訴ー証拠調べ請求証拠開示ー類型証拠開示ー主張関連証拠開示、、、と続く長い刑事手続の枠内で、被害者保護をどこまで徹底できるのか、その角度から、運用面も含む検証が不可欠だ。
 他方、被疑者・被告人の防御の権利を侵害することはできない。事件の特定性は、被害者の特定によっている。それだけに、手続の適性を確保するため、被害者情報秘匿手続をおこなう場合には、必要的弁護事件として、逮捕状執行直後に国選弁護人を選任するなどの措置も必要である。


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2012年12月22日

■ある未解決事件ー警察捜査から「市民」捜査への道

■「殺人の立件、道険しく/県立大生事件3年、遺棄罪は時効 /島根県」
 ○朝日新聞(朝刊)2012/11/06
 県立大1年生だったH・M(・・・)さん(当時19)の遺体の一部が広島県の山中で発見された死体遺棄事件は、6日で公訴時効の3年。両県警の合同捜査本部は時効のない殺人事件として捜査を続けるが、立件へのハードルは上がる。情報公開など早期解決に向けた捜査本部の姿勢は一層問われる。
 「死体遺棄は時効になるが、当初から殺人容疑を視野に捜査しており問題はない」。Hさんが行方不明となってから3年の10月26日、県警本部で記者会見した植中隆史刑事部長(合同捜査本部長)は時効について問われ、こう答えた。
 Hさんは2009年10月26日、浜田市港町のアルバイト先のショッピングセンターを出た後、行方不明となり、11月6日に広島県北広島町の臥竜山で遺体の一部が見つかった。この間に遺棄されたと考えられるため、遺棄・損壊罪は今月6日までに時効になるという。
・・・
 □市民社会の力で犯人捜す工夫を 甲南大法科大学院・渡辺教授に聞く
 <刑事事件に詳しい渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話> 
 生前に殴られるなどの痕跡があっても、それだけで殺意に基づく殺害行為があったことの立証は困難だ。死刑の選択もある重大な犯罪について裁判員が事実を認定する今の制度では、最高裁は、被告が犯人でなければありえない事実を証拠で裏付けられない状態では「合理的疑い」が残ると扱う。
 警察は見込み捜査や密室での取り調べ、自白中心捜査に走ることなく、間接証拠を積み上げる捜査の継続を期待する。急速に地縁や血縁が薄れた日本社会で、伝統的な捜査手法では犯人発見や真相解明が難しい。捜査情報の公開の時期を早め、市民社会の力で犯人を捜す新たな工夫が要る。
 一方で警察の責任追及にとどまることなく、市民社会が自ら犯罪予防、犯罪捜査に責任を持つシステムを構築すべきだ。


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2012年07月13日

■捜査力減退ー「自白中心主義」の破綻

 「大阪地検が無罪論告/捜査ミス判明、謝罪/郵便横領/即日判決」。
 驚くべき事件紹介記事が、7月9日のネットではじまり翌日全国各紙に掲載されている。
 表記は、7月10日夕刊の西日本新聞による。
 記事を引用する。

***引用***
 マンションの宅配ロッカーに届けた郵便物を横領したとして、業務上横領の罪
に問われたアルバイト郵便配達員の男性被告(24)の論告求刑公判が10日、
大阪地裁(福島恵子裁判官)で開かれ、大阪地検は「ロッカーの記録や関係者の
供述から、被告の犯行と証明できなくなった」として無罪を求めた。・・・
 起訴状では、昨年6月24日、大阪市内のマンションで、郵便物の車用ルーム
ミラー(時価約5千円相当)を宅配ロッカーから持ち去り、横領したとしている。
 公判で検察側は、付近の防犯ビデオの映像やロッカーの出入記録から、郵便物
を入れた時刻と取り出された時刻が同じだとして、「犯人は男性以外にあり得な
い」と指摘。弁護側は「記録に間違いがあり、男性が郵便物を持ち去った事実は
ない」と反論、10日の最終弁論で「犯人とする根拠はもはや存在しない」と訴
えた。
 その後の公判で、裁判所から「立証は十分か」と問われた検察側が、再捜査で
ロッカーの設計担当者を聴取したところ、出入記録のうち、取り出した時刻が誤
表示だったと判明、立証は困難と判断した。
 天王寺署が昨年9月9日、男性を窃盗容疑で逮捕。男性は「知らない」と否認
したが、大阪地検は同月29日、業務上横領の罪で起訴した。男性は10月に保
釈された。」
********
 こんなコメントを毎日新聞2012年7月11日(朝刊)に掲載してもらっている。

■「無罪論告:控訴せず無罪確定へ/渡辺修甲南大法科大学院教授の話」毎日新聞大阪朝刊2012年7月11日
 ◇ずさんさ否めぬ−−渡辺修甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話
 防犯カメラを精査するなど客観証拠を重視した捜査が十分になされなかった。
犯人だという思い込みの捜査で、ずさんさは否めない。取り調べで追及すれば自
白するに違いないという方針を持っていた可能性がある。ただ、無罪論告をした
ことについては被告の利益を考えており、処理の仕方は適切だった。

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2012年06月28日

■「小さな」大事件ー防御の利益

■信濃毎日新聞のネット配信、2012年6月26日(火)では「諏訪署が国選弁護人選任忘れる 勾留男性を区検が釈放」と題する記事が報じられている。
 「留置担当官が容疑者の国選弁護人の選任手続きを怠った諏訪署」として、警察署の写真も掲載されている。
 こんな経過であった。以下、記事を引用する。

**********

 「諏訪署の留置担当官2人が、建造物侵入と盗み未遂の疑いで逮捕、勾留されていた住所不定、無職男性(36)から依頼された国選弁護人の選任手続きを忘れたため容疑者の権利を損なう恐れがあるとして、伊那区検は25日、この男性と、共犯として逮捕された名古屋市の無職男性(31)を、いずれも処分保留で釈放した。
・・・
 2人は今月7日、駒ケ根市内の無施錠の工場に侵入し、配線ケーブルを切断して盗もうとした疑いで駒ケ根署が逮捕。管理面の事情から諏訪署に勾留されていた。県警捜査3課によると、共に容疑を認めていた。
 36歳男性は14日に諏訪署留置管理課の警部補(56)に、17日には同課の巡査(29)に、それぞれ国選弁護人を付けたいと申し出た。しかし、その後も弁護人は訪れず、男性が21日、別の担当官に「弁護人が来ないがどうなっているのか」と尋ね、手続きされていないことが発覚した。
 31歳男性は9日に国選弁護人を選任していた」。
・・・
 長野地検によると、伊那区検が問題を知ったのは22日夕で、事実関係を確認後に同区検の判断で25日、釈放した。長野地検の小池充夫・次席検事は「弁護人の依頼権は容疑者の大切な権利。それを失念して拘束したまま調べるのは容疑者の防御権が保たれない恐れがある」としている」。

■担当官には、気の毒であるが、やはり重大な連絡ミスだ。というのも、被疑者が事件を認めている場合、弁護人は可能な限り、情状面の活動をする。被害者への連絡が可能か、警察、検察と打合せをするし、本人にも反省を促し、手紙を書かせ、謝罪と反省の気持ちをその段階毎に確認をする。
 弁護人がいるからこそ、「反省と謝罪」の形が整う。
 そのプロの援助なしに、被疑者が放置されたこととなる。その身体拘束を利用して、捜査機関は、一方的に「被疑者取調べ」を行い、被害立証のための有罪証拠集めを行っている。
 それでは、法248条の定める検察官の起訴便宜主義の適正な運用は望めない。
 こんなコメントを掲載してもらっている。
・・・・・・・
 渡辺修・甲南大法科大学院教授は、今回の諏訪署員2人の対応について「弁護人に相談する権利は最も重大な権利で、あってはならないことだ」と批判。具体的には、容疑者が弁護人と相談し、示談や謝罪文などの「有利な情状」を整えられなくなる―と指摘した。一方、検察側が処分保留で釈放したことについては「(容疑者の)防御の準備を待つことは賢明な判断だ」と述べた。

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2012年05月28日

■時効撤廃と捜査のありかたー長野県からの発信

「凍った時間=上山田のタイ人強殺/外国人労働者、急増期の闇/主犯格逃走20年―捜査継承課題に」と題する記事が、信濃毎日2012年4月22日(朝刊)に掲載されている。
 長期未解決事件をとりあげるものだ。この記事では、92年3月に発生した外国人間の殺人事件を取り上げた。「上山田タイ人強盗殺人事件」という。概要を引用する。
***
 1992年3月14日夜、旧更級郡上山田町(現千曲市)のアパートで、住人のスナック従業員ソムサ・チャットパーンさんと、内縁関係のマユリー・プウンマラーさんが刺殺され、現金と貴金属などが奪われた。更埴署(現千曲署)の捜査本部は実行犯を含むタイ人男女5人を強盗殺人容疑で逮捕し、主犯のニルト・レンケオ容疑者を指名手配。逮捕された5人のうち、実刑が言い渡されたのは、レック・チンラホン受刑者(64)=強盗殺人罪などで無期懲役が確定=と、タイ人の男(59)=強盗殺人罪などで懲役13年が確定、刑期満了=の2人。直前で犯行に加わることをやめた3人のうち、ニルト容疑者と交際していた女は起訴猶予処分に、男2人は殺人予備、強盗予備などの罪で起訴され、それぞれ懲役2年、執行猶予4年の判決(いずれも確定)。
 ニルト容疑者については共犯者が公判中は時効が中断される時期があったり、2010年4月の刑法、刑事訴訟法改正による強盗殺人罪などの時効廃止があったりして今も県警が捜査中。警察庁を通して、ICPO(国際刑事警察機構)に捜査協力を依頼している。
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2012/04/22 信濃毎日新聞朝刊 35ページ 2755文字 書誌情報
[1992年3月14日]
 古びたアパートがそこにあった。今月中旬の週末の夜。明かりがついているのは十数部屋のうち一部屋だけ。応答はない。辺りは静かだ。当時を知る捜査員から聞いた言葉に従って20年前の事件をたどった。
   □   □
 1992年3月14日。旧更級郡上山田町(現千曲市)の歓楽街から少し外れた質素なアパートの一室。男女2人が刃物でめった刺しにされ、現金約600万円と200万円相当の貴金属が奪われた。
 2人はいずれもタイ人で、このアパートに住んでいたスナック従業員ソムサ・チャットパーンさん=当時(28)=と、内縁関係だったスナック経営のマユリー・プウンマラーさん=同(33)。首や胸、まぶたなど全身が切り裂かれ内臓にまで達し、抵抗した痕跡もあった。
 日付が変わった15日未明、親戚の男性が無残な姿になった2人を発見し、通報。県警は更埴署(現・千曲署)に捜査本部を設置した。事件に関わった容疑者はタイ人6人。うち5人は強盗殺人容疑などで逮捕されたが、主犯とされるニルト・レンケオ容疑者(53)は今も逃走中だ。凶悪事件の公訴時効廃止で県警捜査1課の専従特捜班が捜査している案件の中では、県内で最も古い未決事件となっている。
 マユリーさんは当時、酒やタイ料理などを出すスナックを経営。県警の調べだと、マユリーさんの店で働いた経験があるタイ人の女が、恋人だったニルト容疑者に「お金を持っている人がいる」と話し、金に困っていた同容疑者が仲間のタイ人に犯行を打診。このタイ人の女を含む6人で殺害計画を立てた。実際に当日の犯行に関わったのは同容疑者の他に2人。うち1人は見張り役。殺害後、強奪した現金は6人で山分けした。
   □   □
 記事は捜査の困難を取材する。
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 むごたらしい現場を見た捜査員たちは日本人以外の犯行だと推測。「外国人社会をたどっていけば…」と早期解決も頭をよぎった。だが、実際に強盗殺人容疑での逮捕には、約8カ月かかった。
 当時、東北信特捜の主任として捜査に当たった須江和幸・県警捜査1課長(56)は「(入管難民法や売春防止法違反での)摘発を恐れ、事件解決に関わろうとしない人たちが多かった」と振り返る。タイ人に聞き込みをしても、返ってくる言葉は「知らない」「分からない」ばかりだった。
 バブル期以降、出稼ぎ目的で来日する外国人労働者は県内でも急速に増加。当時の更埴署などの調べによると、温泉街周辺に住んでいたタイ人は、事件が発覚した当時300〜400人。大半が飲食店で働く女性だった。
 地道な捜査が続く。捜査員たちと街で擦れ違うほぼすべての外国人が顔見知りになるほどに。その中でニルト容疑者に話を持ち掛けたタイ人の女がマユリーさんのスナックで売春をしていた疑いが強まり、事情を聴くうちに、事件の当事者たちにたどり着いた。
 しかし、5人は逮捕後も容易には主犯格の男を明かさない。ニルト容疑者が共犯者に「警察に話したらタイの家族を殺す」とくぎを刺していたからだ。須江課長は「最終的にミカ(同容疑者の恋人の通称)が語り、チャルーン(同容疑者の通称)が割れた」と振り返る。しかし既にニルト容疑者は上山田を去っていた。タイへ帰ったとの情報もあり関係機関に出国記録を照会したが確認が取れず、どこにいるのか、分かっていない。
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□「刻の壁」。
 犯罪捜査にとって乗り越えがたい限界が「時間との戦い」ではないか。
 捜査員は交代する。情報を引き継ぐことは困難になる。書類からしか伝わらない情報では活きた捜査ができない。といって、事件に関する鑑識をそのまま次世代に移すことも不可能に近い。
 事件捜査の伝承。どうするか、課題になる。
 とりわけ、殺人事件で時効が撤廃された以上、犯人確保まで捜査は続く。いつか誰かが犯人として検挙されることとなるかも知れない。未解決事件の怖さは、証拠の散逸である。検察側も、被告側も、証拠で裏付けられない裁判になりかねない。
 えん罪の恐怖が生まれる。
 それだけに、時効撤廃の時代にそった証拠管理が不可欠となる。こんなコメントを掲載してもらっている。
◆刑事訴訟法の目=渡辺修・甲南大法科大学院教授 時効撤廃、証拠保全へ可視化を◆
 公訴時効撤廃は、捜査と証拠のあり方に大きな影響を与える。50年後に犯人が捕まり、裁判員裁判が始まる場面を想定すればよい。裁判員である市民の良識に照らして判断できるための証拠をどう保管すべきか。
 現場の実況見分は、デジタル映像技術を駆使し、立体的にしかも細部も正確に記録する必要がある。容疑者や参考人の供述は、事情聴取や取り調べの結果を紙ベースで記録する「調書」捜査では公訴時効撤廃に対応できない。そのためにも取り調べを「可視化」し、録音録画してデジタル化する必要がある。
 被告人の防御にも目配りが要る。警察が蓄積した資料すべてについて被告側が点検する機会を保障しなければ、(被告人にとって)有利な証拠が埋もれたままになる危険が一層高まる。公訴時効撤廃に踏み切った以上、証拠の散逸と劣化を防ぐ技術の強化など様々な課題を迅速に解決する必要がある。
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2012年02月20日

■「勾留の執行停止」(上)ー市民の生活利益と被告人の逃走防止

■「勾留執行停止と被告人の逃亡」。
 これが、マスコミの一部で取り上げられて問題視されている。
 毎日新聞2012年2月3日(大阪、夕刊)は「容疑者逃走:監視OK、制止不可/勾留執行停止、法の空白」としてこのテーマを取り上げている。
 事件を紹介する。
 もともとひき逃げ死亡事件で起訴されたY被告(43)がいる。検査入院の必要があった。
 かかる場合、拘置所が、勾留状態のまま、勾留先を病院に移監して24時間監視体制を敷いて対応するのが適切だ。
 しかし、事実上、これはかなりの負担になる。だから、拘置所側はいわばいやがる。弁護人は、よく拘置所に対して「適切な治療を受けさせること」を上申するが、ほとんど無視される。所内の、明らかに、不十分で、時間もかかる医師の診断に委ねる程度だ。
 「疑わしきは被告人の利益に」。この原則は、勾留中の被疑者・被告人の処遇にも適用されるべきだ。市民社会にいるのと変わらない医療を受けられることが、前提だ。
 それが守られていない。
 だから、被告側としては、「緊急の生活上の利益」、本件の場合、健康の維持という重大な利益を守るために、「勾留の執行停止」を求める。
 裁判所は、「緊急の生活上の利益」が侵害される緊急性、重大性、これを守るべき必要性の程度などを考慮する一方、逃亡の可能性も視野に入れて、適宜の判断をする。

■記事は、その後の事態を、次のように紹介する。
 「1月25日午前2時ごろ、病室を出てきたY被告は見張りの警官に『たばこを吸いたい』と告げ、外に向かった。警官が付き添い歩いて行くと、敷地内に止まっていた無人の弟の黒のベンツへ。『中で吸いたい』と後部座席に乗り込み、警官も入ろうとしたとき運転席に移り発進した。捜査関係者は『警官にできることは心理的に圧迫を与え、何かあったらすぐ連絡するということだけ』とこぼす」。
 この段階では、法律上の監視はないから、刑法の逃走罪には当たらない。勾留執行停止は有効なので、収監するべき権限は発生していない。
 この一瞬に警察ができることは、事実上、「逃走となるから、とどまること」を説得することだ。一般行政警察作用に基づく事実上の働きかけしかない。
 むろん、今は勾留の執行停止の期間がすぎているから、もともとの勾留状の効力が復活するので、この令状の存在によって収監してよい。
 また、警察は、道交法違反(無免許運転)容疑で指名手配をしていると記事は紹介する。
 
■むろん、問題は、逃走防止の手段、方法である。
 保釈と勾留の執行停止。ともに勾留の効力を維持しつつ、自由拘束の状態に限り、部分的に執行をしない状態となる。要するに、釈放される。だから、逃走する危険は常にある。これを100%なくすことなどできない。制度を運用しないか、廃止するしかない。むろん、映画の世界のように、GAP機能が付き、破壊しようとすると爆破する装置を身体に付けることを条件にすることは、あるいは近い将来、運用上の措置として是認されるかも知れない。
 それにしても、一定の範囲で逃走が発生することを完全に防ぐことはできない。
 これを防ぐのは、社会全般の犯罪抑止メカニズムの再生ー地域共同体の活性化、市民のモラルの向上と、他方で、「えん罪なき刑事司法」の実現、適正手続と厳正処罰の確保等など社会秩序と刑事司法全般の健全化が不可欠だ。
 が、それはかなり長期的で、文化的で、国家的な課題だ。
 では、短期的にはどうみるか。
 識者の見解が対立する。
 上記誌面で掲載されたブログ編者ともう一人の著名な学者の見解をともに引用して、紹介する。
 当否の判断は、ブログ訪問者に委ねたい。

 ◇強制力持つ法改正を
 中央大の椎橋隆幸教授(刑事訴訟法)は「逃げないのが前提の制度の空白をついている。裁判所の判断も甘かった。強制力を持たせるような法改正などの対策も必要ではないか」と話す。
 ◇保釈制度の充実必要
 一方、甲南大の渡辺修教授(同)は「逃走はそれほど多くなく、制度を崩壊させるほどではない。逃走した場合もその後、量刑で責任を負わせればいい。例外的な勾留停止ではなく、保釈制度を充実させるべきだ」と拘束強化には否定的だ。

<刑事訴訟法の関連規定>
○第95条〔勾留の執行停止〕 「裁判所は、適当と認めるときは、決定で、勾留されている被告人を親族、保護団体その他の者に委託し、又は被告人の住居を制限して、勾留の執行を停止することができる」
○第98条〔保釈・勾留執行停止の取消し等の場合の収容手続〕
 「第1項 保釈若しくは勾留の執行停止を取り消す決定があつたとき、又は勾留の執行停止の期間が満了したときは、検察事務官、司法警察職員又は刑事施設職員は、検察官の指揮により、勾留状の謄本及び保釈若しくは勾留の執行停止を取り消す決定の謄本又は期間を指定した勾留の執行停止の決定の謄本を被告人に示してこれを刑事施設に収容しなければならない。
 「第2項 前項の書面を所持しないためこれを示すことができない場合において、急速を要するときは、同項の規定にかかわらず、検察官の指揮により、被告人に対し保釈若しくは勾留の執行停止が取り消された旨又は勾留の執行停止の期間が満了した旨を告げて、これを刑事施設に収容することができる。ただし、その書面は、できる限り速やかにこれを示さなければならない」。
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2012年02月17日

■弁護人依頼権「崩壊」−司法官僚の愚行

■「弁護人宛て手紙押収/『秘密侵害』国を提訴へ/大阪地検、拘置所から」。
 こんな驚くべき記事が出た。2012年1月29日朝日新聞(朝刊)である。 
強盗罪などで起訴されて勾留中の被告人について、裁判係属中、裁判官が拘置所の居室を捜索することを検察官に認めた。非常識も甚だしい。
 記事を引用する。
***
「男性は2008年9月に大阪府柏原市内のパチンコ店で従業員に刃物を突きつけ、約1千万円を奪ったなどとして起訴された。捜査段階では容疑を認めたとされるが、一審の途中で「強盗の計画にかかわっただけだ」として起訴内容を否認した。しかし、10年11月の大阪地裁判決は男性の犯行と認めて懲役10年(求刑懲役13年)を言い渡し、男性が控訴した。
 控訴審で弁護人を務める山本了宣(りょうせん)弁護士によると、地検が大阪拘置所の単独室を捜索したのは、男性が否認に転じた後の10年7月。強盗容疑で約50点を押収した。その中には、一審の弁護人宛ての手紙1通や書き損じた手紙、弁護人が被告人質問に向けて質問事項をまとめた書面があった。手紙には共犯者とされる人物に関する記述があった。地検が捜索した時期は、検察の捜査や取り調べのあり方が問われることになる特捜部の証拠改ざん事件が表面化する約2カ月前だった。
 山本弁護士は「手紙には『先生』と敬称が付けられた名前があり、弁護人宛てのものと分かる。地検は否認に転じた男性の主張をつかみ、公判を有利に進めようとした疑いがある」と指摘。弁護人宛ての手紙を押収する捜索が許されれば、秘密性が高い弁護活動の内容が筒抜けとなり、公正な裁判が成り立たないと主張している。
 さらに山本弁護士は「押収品に制限をかけずに捜索令状を出した裁判官にも問題があった」とし、今春にも起こす予定の訴訟では裁判官の過失を問うことも検討している。」
***
 被告人と弁護人の間のコミュニケーションは、「秘密」であること。これが、被疑者・被告人の防御権を守り、そのサポーターとなる弁護人依頼権を憲法が保障する大前提だ。
 憲法の明文では、被疑者・被告人の弁護人依頼権が規定されているが、その根底にある憲法原理は、被疑者・被告人が「包括的防御権」を保障されていること。弁護人依頼権はこれを実現する手段としての権利だ。
 そして、その法律家の助言を得るためには、「話し合いの場=接見」は秘密でなければならない。情報の「フロー」の秘密性だ。
 いわゆる秘密交通権と呼ばれるものだ。
 同時に、このフローによって得られる情報もまた秘密性を保障されなければならない。
 「ストック」の秘密性だ。
 部分的だが、弁護士たるものに、押収拒否権があるのはこのためだ。証言拒否権も同じ趣旨だ。
 同様に、弁護人とのコミュニケーション内容を被疑者・被告人もまた秘密に保管できることが不可欠だ。
 そんなことは、明文を俟つまでもなく憲法原理として、法律家の責務で守るべきものだ。
 なのに、この国では「官僚主義」がはたらく。「司法官僚」は、「ことばで規定されていない」限り、原理原則を守る勇気さえ持てない。検察官の請求のまま、さほど考えることもなく、被告人の居室の捜索と捜索・差押を許したのであろう。
 不見識も甚だしい。
 前掲の朝日新聞の誌面上はこんなコメントを出した。
 穏やかにすぎるが、真意は上記にある。
 ●捜査権乱用の可能性
 <甲南大学法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)の話> 拘置所の被告の部屋が捜索を受けるのは珍しい。検察側は否認に転じた被告が事件に関与したとする証拠を押さえたかったのだろうが、秘密性が高い弁護人宛ての手紙まで押収したのは捜査権の乱用にあたる可能性がある。捜索が実施されたのは証拠改ざん事件が表面化する前。検察に対して厳しく臨もうとしている現在の裁判所であれば、捜索令状の発付をもっと慎重に判断したかもしれない。
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2012年01月26日

■危険運転致死罪と自動車運転過失致死罪の狭間ー故意・過失二元主義の限界

■「兵庫・加西の兄弟死亡事故:危険運転致死適用を見送る」。
毎日新聞(朝刊)2012年1月1日は、こんな記事を載せる。昨年末の悲しい事故の処理に関するものだ。記事を引用する。
***
 兵庫県加西市の県道で昨年12月10日夜、飲酒運転の軽トラックに小学生の兄弟がはねられ死亡した事故で、神戸地検は31日、同市下万願寺町、建築業、O容疑者(54)を自動車運転過失致死などの罪で神戸地裁に起訴した。起訴状などによるとO被告は同夜、複数の飲食店で飲酒後、呼気1リットル中0・4ミリグラムのアルコール分を含んだ状態で軽トラックを運転。午後11時5分ごろ、同市立北条小6年、I君(12)と同2年、T(たいせい)君(8)の兄弟をはねて死亡させたとされる。
 県警は、泥酔状態で正常運転が困難だったとみて、より罰則の重い危険運転致死容疑で追送検したが、地検は立証に足りる十分な証拠がないと判断したとみられる。
***
 危険運転致死傷罪は、故意班である。犯人が、アルコールの影響で正常な運転ががきないことを認識しながら運転することが必要だ。その結果、人の死傷が生じたときに重く処罰する。ただ、「故意」を認定するためには、証拠上、こうした状態を行為時に認識していたと法的に評価することが相当でなければならない。
 しかし、犯罪の性質上、犯行時にはアルコールの影響で正常な運転ができない状態になっているのであるから、心の状態もこれに匹敵する状態、、、、正常な認識ができない状態にある。つまり、そもそも「故意」を認定できない状態を、故意犯として立法化しているようなものだ。
 本件のように泥酔状態であることが、事件直後の捜査で明らかになればなるほどそう言える。逆に、ほろ酔い程度だが、心と体をうまくコントロールできないことを現に認識しつつも、家路を急ぐために車を運転したところ、案の定、事故を起こして被害者を出した、、、といった場合は、事後に、取調べで自白を得ることもできるから、かえって重く処罰される。変な言い方であるが、泥酔すればするほど軽くなるーーー自動車運転過失致死傷罪でしか処罰できなくなる。
 上記の事件で、検察が、危険運転致死罪の適用を見送った事情は不明であるが、おそらくは、犯行前後の事情を積み上げても、運転時に、無謀運転の故意があると立証できないと判断したのであろう。
 むろん、例えば、運転開始直前に、飲み屋で店の人に止められたことを認識しつつ、運転を行ったといった事情があれば別だが、状況証拠での本件故意の認定は難しい。
 残された遺族の無念はわかる。立法の改革が必要だ。
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2011年11月07日

■反社会的勢力の排除ー暴力団排除条例と警察規制

■山陽新聞2011年10月23日(朝刊)は「関係遮断の「盾」/活用を/県暴力団排除条例施行半年/「勧告」1件/全国初公表/安全確保策が必要」の記事が興味深い。

 全国で、暴力団など反社会的勢力に、経済的な利便提供をする業者=市民の側に対して規制を加える条例が制定公布されている。
 就中、反社会的勢力に協力する業者の氏名公表は、かなり重い意味を持つ。
 岡山県の状況について、記事は、このように紹介する。

*********
 県条例は、県民や事業者が暴力団に何らかの利益を与えたり、その威力の利用を禁じ、悪質な場合は事業者名を公表できると規定。利益供与の範囲は広く、組事務所のための不動産提供や工事、組員の名刺印刷など多岐にわたる。
 9月13日には条例に基づき、指定暴力団浅野組(本部・笠岡市)事務所の内装工事を請け負った広島県内の業者と、依頼した組長ら2人に「勧告」。業者名は明らかにしなかったものの、勧告内容を県ホームページなどで公表することで、県警組織犯罪対策2課は「暴力団と付き合ってはいけないという強いメッセージになった」という。
 ただ、条例は県民に暴力団との「決別」を要求。これに戸惑う事業者も少なくない。県南西部の建設業者は「暴力団の息が掛かっている業者はいる。逐一確認できないし、聞かないのが暗黙のルールだ」。県内の暴力団は56団体約1300人で、中四国と九州地方では福岡県に次ぐ多さという現実もある。
 条例は暴力団の仕返しなどからの「保護体制確立」をうたってはいるが、岡山市の不動産業者は「部屋を貸した後で入居者が暴力団と分かっても、立ち退きを求めるのは正直怖い」と言い、万全の保護措置を要求する。
***********

 記事中で、こんなコメントを採用してもらっているが、どうか。

 業者名の公表をめぐっても注文がある。甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「利益供与の範囲があいまいな上、公表の基準や手続きが十分とは言えない。そもそも相手が暴力団かどうか一般市民が調べるのは難しい」と慎重な運用を提言する。実際、実名公表は企業イメージを損ね、銀行からの融資ストップなど倒産の危機も招きかねない。
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2011年06月06日

■颯ちゃん変死事件ー再逮捕の危険性

■ asahi.com 2100年6月6日配信の記事、「乳児変死父を再逮捕/傷害致死の疑い/住之江」を読んで、「自白中心捜査」、「密室取調べ」依存捜査への危惧を強くしている。
 記事を引用する。
 「今年1月、大阪市住之江区の生後3カ月の阿部颯(はやて)ちゃんが変死した事件で、大阪府警は5日、父親の阿部裕之容疑者(21)=傷害容疑で逮捕=を傷害致死容疑で再逮捕し、発表した。阿部容疑者は容疑を否認しているという。傷害容疑については、大阪地検は同日、妻(34)=同=とともに処分保留とした。
 府警によると、再逮捕容疑は昨年12月11日午後、自宅で、颯ちゃんの顔などを水に沈めておぼれさせたうえ、体を激しく揺さぶるなどして脳に損傷を与え、今年1月17日に死亡させた疑い。阿部容疑者は「沐浴(もくよく)させていて、手を滑らせてベビーバスに落とした。沈んだのは1〜2秒」と供述しているというが、医師の鑑定結果から府警は颯ちゃんが故意に水に沈められたと判断した。一方で、殺意までは立証できないとして殺人容疑の適用は見送った。
 阿部容疑者と妻は昨年10〜12月、颯ちゃんに、胸や両足の骨が折れるなどの重傷を負わせたとして傷害容疑で逮捕されていた。 」

■ 児童虐待。連続的、断続的に続く暴力とけが、、、密室の犯罪で、両親が否認しているとなると、亡くなった乳児の死亡状況からふるわれた暴力の態様を推認し、さらに、「主観」ー殺意、傷害の故意どちらかーを推認する、、、そうした事実認定が裁判では求められよう。
 それだけに、捜査段階にある今、警察の慎重な捜査が求められる。

 だが、上記記事は、明らかに、警察が、事実を細切れにして、「密室取調べ」の期間を長引かせるための捜査戦術であることが明白だ。

 しかも、加害者は、聴覚障害がある。手話で事情を聞き、手話で答えるやりとりが予定されている。
 事件の背景には、「ろうあ者」を取り巻く福祉教育政策の貧困が影響を与えている可能性もでてくる。
 手話による育児教室、ろうあ者のための父親学級、母親学級、、、、社会インフラはしっかりしていたのであろうか、、、
 他方、健聴者による「被疑者取調べ」という権威的構造が事実上ろうあ者に「威圧的、威喝的」に作用する事実も否定できない。
 
■ 今回の再逮捕も、実は、当初の傷害事件でなされていた逮捕、勾留の期間内に同時並行して捜査処理ができる範囲内の事実である。
 最終的には、死亡に至った傷害行為(殺意の有無は別にして)に、吸収される一罪とみるべき事実関係に立つ。
 なのに、取調べ時間稼ぎのために、これを細切れにして、逮捕勾留を繰り替えす、、、、
 その結果、密室取調べ⇒強引な自白強要⇒手話通訳を介する問罪の介在⇒「自白」調書の作文、、、という「えん罪の構図」が成立しないことを祈る。

■ 本件は、再逮捕以後、被疑者国選弁護事件になった。複数の弁護人がついて、質の高い防御活動を展開することが求められている。

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2011年05月26日

■メールカンニング事件ー京大入試不正事件

■ しばらくブログの更新を怠っているうちに、マスコミ・コメントがたまってしまった。
 例えば、2011年3月9日朝日新聞(朝刊)は「入試被害届、是非は/出した京大に抗議電話、出さない同志社「影響軽微」」という記事で、予備校生が、京大などの入試の最中に、携帯電話で問題を流出させて回答をもとめていた事件について、大学の対応を比較する記事をだした。

 一部引用する。
 「大学入試問題をネット投稿したとして予備校生(19)が偽計業務妨害容疑で逮捕された事件で、不正が発覚した4大学の対応が割れている。警察に被害届を出した京都、早稲田、立教の3大学に対し、同志社大は警察へ届けず、学内で対応する。京都大には「大学側にも落ち度がある」などと批判の声が殺到。カンニングへの対応をめぐり大学の「自治」が問われそうだ。」

 「大学側が受け付けた電話の件数は4〜8日で約200件に。受験生の保護者や卒業生らからで「監視が甘かった大学に落ち度がある」「カンニングなら不合格にするだけでいい」などと抗議する内容が大半だったという」。
 
 この事件に関するブログ編者の立場は次のようなものであった。

 ◆捜査委ねるの当然

 <渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話> 入試での不正行為は、単に大学の業務を妨害するにとどまらず、ほかの受験生の合否に影響し、大学への信頼を損なう社会的な犯罪と言える。学内における学生の不正行為に対しては、大学が教育的観点のもとで自主的に処分や対応を決めればいい。しかし、不正な手口で入学しようとする行為は、教育的配慮をうんぬんする以前の問題で、警察の捜査に委ねて厳しく対処するのが当然だ。
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2010年12月28日

■「見立て」違いー捜査力低下

■1:西日本新聞10年12月14日(朝刊)は、「熊本県/起訴猶予の総務財政課長/「略式への同意迫られた」 氷川町入札妨害/取り調べ状況を証言/「釈放後も幾度も」」と題する記事で、警察・検察のずさん捜査ー見込み捜査のひとこまを紹介している。
 氷川町発注の公共工事をめぐり、競売入札妨害(偽計)容疑で逮捕された町の課長3人他5人。結局、全員が起訴猶予処分となった事件。うち一人の課長が地検の取調べの様子を語る。
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 「西尾氏によると、県警と地検が重視したのは、2月24日の竜北東小体育館耐震補強・改修工事指名競争入札の会場で、木本氏が説明した注意事項の内容だったという。
 木本氏の説明文には「現場工事管理には管理技術者1級の資格を有する常勤の職員か、もしくは現場責任者として複数の主任技術者(注…2級資格者のこと)が必要」と書かれている。この説明文に関して、捜査側は「1級資格者の常勤雇用を条件とする説明はあったが、2級資格者の説明はなかった。虚偽の説明によって、入札に参加した3社のうち、1級資格者を雇用していない1社を辞退させ、入札の公正を害した」として、西尾氏らを追及したという。
 西尾氏は「『もしくは…』以降の説明は絶対に読まれているはずだ」と否定。しかし「誰もが『もしくは…』以降の説明文が読まれていないことを認めたとして追及され、意に反して、認める内容の調書にサインをしてしまった」という。
 関係者によると、10月4日の逮捕後、地検は勾留期限の同25日に木本氏を起訴猶予とし、西尾氏ら他の4人は公開の裁判を開く公判請求をせず、略式起訴とする方針だったという。しかし、西尾氏が「罪を認めることになる」と同意を拒否したため、地検は処分を保留し全員を釈放した。ただ、西尾氏は釈放後も地検から略式起訴に同意するよう何度も求められたという。
 問題となった説明文。一般的に入札参加条件を入札当日に説明することはないという。地検は処分理由の中で「町長の決裁手続きを受けていなかった」とも指摘した。西尾氏は「指名審査など入札前の段階できちんと調べていれば良かったかもしれないが、工事がスムーズに進むように良かれと思って説明文を作った。罪に問われるようなことはしていない」と話した。
****************
■識者談話として「検察内部の体質に問題」として、次のようなコメントを載せてもらっている。 
 ▼甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)の話 検察が先に事件のストーリーを描き、それに沿う形で関係者に自白を迫っていたようにみえる。これは熊本や氷川町特有の問題ではなく、事件処理を優先する検察内部の体質に問題があるのではないか。起訴猶予という結果は、課長の側からすれば不本意かもしれないが、否認を貫いたことにより、結果的には、もともと無理のある捜査を、最後のところで踏みとどまらせた、ともいえるのではないか。


■2:西日本新聞10年12月19日(朝刊)は「住民、監視の目強化を/競売入札妨害/氷川町課長ら不起訴/行政の透明化も急務/課長3人はあす職場復帰」というタイトルの記事を載せている。
 熊本県氷川町の公共工事をめぐり、町政を担う課長らが、競売入札妨害容疑で逮捕された事件に関するもので、地検は結局逮捕した5人は全員について不起訴(起訴猶予)とした。
 記事は、「見立てが崩れ」と題して、地検捜査のずさんさを指摘する。「競売入札妨害容疑は、さらに罪が重い贈収賄容疑の捜査の入り口になることが多い。不正の動機に金品のやりとりがからむことが多いからだ。しかし今回はその「入り口事件」が崩れた」。
 以下、引用する。「『捜査機関の見立ては、逮捕された町議(辞職)と業者、課長ら計5人が共謀、工事の落札を望む業者の意を酌んで、入札当日、本来必要ない「1級(建築施工管理技士)資格者の常勤が必要』という入札参加条件を示し別の1社を辞退させた、というものだった。
 逮捕時に県警が発表した容疑にも、業者に『落札させることを企て』という一文がある。ところが地検が不起訴を発表した10日の会見では、このくだりは消えうせた。
 ある県警幹部は「特定の業者を勝たせるためにという、当初見込んだ犯罪の意図を立証できなかったのではないか」と分析する。つまりは事件の核心部分を立証する証拠が、公判を維持できるレベルには達しなかったと判断したのだろう」。
 犯罪の裾野の広がりを防ぐのも、21世紀刑事手続の原理「市民主義」によらなければならない。そんな視点から、次のショート・コメントを載せた。
 「捜査の“失敗”を責めることはたやすい。だが今回の事件をその二文字で片付けるべきか。甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「事件を逮捕された5人だけの問題にしていないか」とあえて問題提起する。「嫌疑をかけられるような町議を選び、その町政を正してこなかった町民自身の良識も問われる」と言う。」
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2010年12月22日

■検察崩壊ー「一介の当事者」になりさがった検察

■西日本新聞の記事を引用して、紹介する。
 タイトルは、「熊本県/起訴猶予の総務財政課長 『略式への同意迫られた』/氷川町入札妨害/取り調べ状況を証言/『釈放後も幾度も』」とするものである。
 2010年12月14日同誌(朝刊)配信である。
 本文は、以下の通り。

 「氷川町発注の公共工事をめぐり、競売入札妨害(偽計)容疑で町課長3人を含む5人が逮捕され、全員が起訴猶予処分となった事件。
 このうち、西尾正剛総務財政課長(57)が西日本新聞の取材に応じ、熊本地検の取り調べの過程で罰金刑を前提に略式起訴を受け入れるよう迫られた状況などを証言した。
 西尾氏は「過失はあったかもしれないが、共謀の事実もなく、特定業者に便宜を図ったなどとは全く考えていなかった」と述べた。
 地検が起訴猶予としたのは西尾氏のほか、米村洋・元町議(62)=釈放後辞職=▽町内の建設会社「竜北建設」の西村栄喜・元代表社員(61)▽河野正利建設下水道課長(56)▽木本栄一生涯学習課長(53)=事件当時は総務財政課長補佐。
 西尾氏によると、県警と地検が重視したのは、2月24日の竜北東小体育館耐震補強・改修工事指名競争入札の会場で、木本氏が説明した注意事項の内容だったという。
 木本氏の説明文には「現場工事管理には管理技術者1級の資格を有する常勤の職員か、もしくは現場責任者として複数の主任技術者(注…2級資格者のこと)が必要」と書かれている。
 この説明文に関して、捜査側は「1級資格者の常勤雇用を条件とする説明はあったが、2級資格者の説明はなかった。虚偽の説明によって、入札に参加した3社のうち、1級資格者を雇用していない1社を辞退させ、入札の公正を害した」として、西尾氏らを追及したという。
 西尾氏は「『もしくは…』以降の説明は絶対に読まれているはずだ」と否定。しかし「誰もが『もしくは…』以降の説明文が読まれていないことを認めたとして追及され、意に反して、認める内容の調書にサインをしてしまった」という。
 関係者によると、10月4日の逮捕後、地検は勾留期限の同25日に木本氏を起訴猶予とし、西尾氏ら他の4人は公開の裁判を開く公判請求をせず、略式起訴とする方針だったという。
 しかし、西尾氏が「罪を認めることになる」と同意を拒否したため、地検は処分を保留し全員を釈放した。ただ、西尾氏は釈放後も地検から略式起訴に同意するよう何度も求められたという。
 問題となった説明文。
 一般的に入札参加条件を入札当日に説明することはないという。地検は処分理由の中で「町長の決裁手続きを受けていなかった」とも指摘した。
 西尾氏は「指名審査など入札前の段階できちんと調べていれば良かったかもしれないが、工事がスムーズに進むように良かれと思って説明文を作った。罪に問われるようなことはしていない」と話した。」

    ×      ×
■この事件について、次のようなコメントを掲載してもらっている。
 ●検察内部の体質に問題 
 ▼甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)の話 検察が先に事件のストーリーを描き、それに沿う形で関係者に自白を迫っていたようにみえる。
 これは熊本や氷川町特有の問題ではなく、事件処理を優先する検察内部の体質に問題があるのではないか。
 起訴猶予という結果は、課長の側からすれば不本意かもしれないが、否認を貫いたことにより、結果的には、もともと無理のある捜査を、最後のところで踏みとどまらせた、ともいえるのではないか。


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2010年09月04日

■任意捜査の限界ー取調べ中心主義の破綻

■朝日新聞10年8月31日(朝刊)は「任意調べ、何が問題/「実質、逮捕と同じ」/奈良・殺人事件、逮捕の2人釈放/奈良県」と題する記事を載せている(奈良、地方版)。
 記事によると、こんな捜査がなされたという。
 奈良市内で66才の女性が殺害されているのが発見されたが、直ちに同居の娘とその交際相手が重要参考人として身柄を確保されている。但し、すぐに逮捕されたものではない。
 「任意同行」として、ホテルで宿泊しつつ、日中警察が取調べを行なう捜査がなされた。 ホテルはむろん警察が監視する。
 この結果どうなったか。記事は、次のようにその後の成り行きをコンパクトに紹介している。
 「事件は7月20日夜に発生。県警は同居家族で、警察官が訪れた際に自宅にいた長女と男性を重要参考人として、午後11時ごろから事情を聴き始め、日付が変わった午前2時ごろにいったん聴取を終えた。ただ、自宅が事件現場であり、双方の親族が受け入れに難色を示すなどしたため、県警は、ホテルに宿泊させた上で警察署で任意の取り調べを続け、7泊させた後の27日に殺人容疑で2人を逮捕した。
 しかし、男性の弁護士が準抗告し、奈良地裁は「勾留(こうりゅう)の前提となる逮捕手続きに重大な違法がある」として勾留を取り消した。奈良地検は8月4日に男性を、女性についても勾留期限の7日に釈放した」
 どうみるべきか。こんなコメントを掲載してもらった。
***************
 ●法の許容を超過
 甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)の話 7泊も警察の監視下に置いている以上、逮捕・勾留されたのと同じで、続いて正式の逮捕・勾留を行って取り調べをすると、刑事訴訟法が許容する強制的な取り調べの時間的制約を大幅に超過する。
 今回の事件は殺人罪で起訴されれば裁判員裁判で審理される。行き過ぎた取り調べであるとの疑問が消えない自白をもとに裁判員に重い刑罰の選択を迫ることになり、市民の良識を生かした信頼できる判断にはならない。
 今後は身体拘束を伴わない任意の取り調べになるが、状況証拠による立証を重視し、否認・自白を含めた容疑者の供述状況全体を証拠にして有罪を立証するべきだ。状況証拠について十分な説明をできない容疑者の態度も含めて、取り調べでの質疑の全状況を録音録画し、その言動によって犯行への関与を推認できるかどうか、裁判員の常識に判断を委ねるべきだ。
posted by justice_justice at 23:48| ■事件ー捜査から起訴まで | 更新情報をチェックする

2010年04月28日

■最高裁死刑破棄ー「事実認定」が動く

■ネット配信のYOMIURI ONLINE(10年4月28日、読売新聞)は、「大阪母子殺害事件、最高裁が死刑判決を破棄…無罪の可能性/大阪地裁に差し戻し」と題する記事で、次のような最高裁の新判断を紹介している。すなわち、、、
 「2002年4月に起きた大阪母子殺害事件で、殺人と現住建造物等放火罪に問われた大阪刑務所刑務官(休職中)・森健充(たけみつ)被告(52)の上告審判決が27日、最高裁第3小法廷であった。1審・大阪地裁の判決は無期懲役、2審・大阪高裁は死刑判決だったが、藤田宙靖(ときやす)裁判長(退官のため堀籠(ほりごめ)幸男裁判官代読)は「十分に審理を尽くさずに判断したと言わざるを得ず、事実を誤認した疑いがある」と述べて1、2審判決を破棄し、審理を同地裁に差し戻した。」
 森被告は02年11月の逮捕後、捜査段階では黙秘し、公判では「現場のマンションに行ったこともない」と否認。犯行にかかわったことを示す直接証拠は一切なく、状況証拠による立証の成否が争点になっていた。ただ、現場マンションの階段の踊り場で、たばこの吸い殻が見つかっており、1、2審では、検出されたDNAが被告と一致したことなどから「被告が犯人と推認できる」と判断した。
 判決でもっとも重要な部分について、記事はこう紹介する。
 「同小法廷は「有罪と認定するには、状況証拠によって認められる事実の中に、被告が犯人でなければ合理的に説明できないものがあることを要する」と指摘。その上で、吸い殻は、警察が事件翌日に採取した段階で茶色く変色していたことから、「かなり以前に捨てられた可能性があり、被告が事件当日にマンションに行ったとは認定できない」とした」。
■この判決では、5名で構成される第3小法廷の裁判官4名が法廷意見に対する補足意見を書いている。藤田裁判長もその一人だ。これに対し、堀籠裁判官は「被告が犯行に関与したことは合理的疑いを差し挟まない程度に立証されている」との反対意見を述べた。
 裁判長自ら補足意見を書いてまでも、法廷意見の事実認定論を守ろうとする強い決意。3名の裁判官が、法廷意見を支持しつつも、それぞれの事実認定のありかたを示す。これに対して、職業裁判官である1名の判事のみ「合理的疑いを超える証明」があると断言。
 最高裁内部で、事実認定が揺らぎ始めていると思う。
 痴漢冤罪事件で自ら無罪を宣告し、名張ブドウ酒事件で再審の可能性を認める判断をするなど、最近の最高裁の動きは、大局的にみれば、裁判員裁判を意識した「市民目線での事実認定」へとシフトしているといってよい。
 自白や犯行の目撃供述などの直接証拠がない場合、検察官が間接事実を積み重ねて有罪を立証する間接証拠型の事実認定では、「あやしい」場合には処罰するという必罰主義に基づく総合判断になりがちだった。
 これに対して、今回の判決は、単に被告が犯人と考えても矛盾がない状態で有罪を認定することを許さず、「被告が犯人の場合にしか存在しない事実を証拠で裏づけること」を求めたものだ。
 今後、裁判員裁判でも、市民が感情や直観で有罪とするのを防ぐ基準となる。また、控訴審などで、一審の無罪判決をくつがえすときによく使われる手法ー証拠の総合認定が不相当である、といった理由は、使えない。
 検察官は、被告が犯人でない限り、合理的に説明できない事実関係を証拠で具体的に裏付けることを求められる。単なる証拠のつみあげ、「あやしさ」の影の重なりでは有罪にはできない。
 裁判員裁判時代の「合理的疑いを超える証明」の鉄則にひとつの型がはめられた。
posted by justice_justice at 22:56| ■事件ー捜査から起訴まで | 更新情報をチェックする

2010年02月28日

■公訴時効(異聞)ー起訴の反復/時効阻止

■読売新聞10年2月27日(ネット配信)は「再起訴19回で異例の引き延ばし、時効が成立」と題する興味深い記事を配信している。こんな内容だ。

「特別養護老人ホームの建設を巡る汚職事件で、2005年に香川県警から事情聴取された後に行方不明となった元高松市議の男(60)について、高松地検は2件の贈賄罪でそれぞれ起訴を繰り返す異例の手法で公訴時効(3年)の成立を延ばしてきた。しかし、うち1件は27日午前0時に時効が成立。
 被告が逃げ続けているとみている地検は、残る1件の時効まで行方を追う、としている」。

 要するに、元市議が、地元に建設予定の特別養護老人ホームを国の補助金交付施設に選んでもらうため、(1)02年11月、当時の市助役に200万円を渡そうとしたこと、(2)03年3月に選んでもらった謝礼に300万円を渡したことについて、検察庁は控訴の提起をすることにより、一旦時効完成を阻止したものである。

■ 市議の立場であっても、問題となったのは、公務員に対する贈賄なので、刑法の定める法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金である(刑法198条)。
 公訴時効は、「長期5年未満の懲役若しくは禁固又は罰金に当たる罪」なので3年で完成する(刑訴法250条6号)。
 但し、公訴の提起があれば時効は一旦停止する。もっとも、公訴棄却の決定が確定するとまた進行する(刑訴法254条1項)。
 この事件では、元市議は逃走したまま。
 検察庁としては、立件できる証拠があるのに、本人の身柄確保ができない状態。このままでは、いわば「逃げ得」になる。
 この場合、検察庁は公訴提起をしてよい。

■ ただし、本人所在不明のため、有効な公訴提起ができない。このとき、適法に裁判を開けないのだから、欠席裁判はできない。
 いったん手続は打ち切る。法は、2月以内に起訴状謄本を適法に被告人に送達できないとき、公訴提起はさかのぼって効力を失うとする(271条2項)。
 このとき、形式としては、公訴棄却の決定(339条1項1号)による。
 但し、公訴時効の進行が停止したという事実に伴う効力まで遡る訳ではないし、そこまで犯人が逃げ隠れしていることを保護する必要もない。
 だから、公訴棄却の決定が確定した日からまた時効が進行する。
 公訴棄却の決定に対して、刑訴法上、即時抗告によって不服を申し立てることができる(刑訴法339条2項)。
 即時抗告は、本来なら、決定が本人に送達された日から期間が開始する。3日である。もっとも、期間計算上、一般的に初日不算入の原則が働くので、翌日から3日以内に、即時抗告申立書を裁判所に提出しなければならない。
 じつは、ここで変なことが起きる。
 起訴状は送達できないから、手続を打ち切るが、その不服申立期間は本人に送達手続をして法的に送達されたとみなされるときから進行する扱いにする。

■とまれ、公訴時効。
 即時抗告期間が終了して確定した日の翌日には、再度起訴はできる。
 しかし、公訴時効も、翌日は1日分進行する。「時効期間の初日は、時間を論じないで一日としてこれを計算する」という原則が規定されている(刑訴法55条1項後段)。公訴時効がいったん停止しまた進行を始める初日にもこの原則が重用される。
 だから、検察庁が起訴状を用意して裁判所に届ける日、1日については、時効が進行する扱いになる。
 かくして、仮に起訴の反復で時効を停止しても、最低限度1日は進行を阻止できない。

■ 記事は、次のように解説している。

 「地検は、05年11月に200万円を渡そうとした贈賄罪(申し込み)、06年6月に300万円を渡した贈賄罪でそれぞれ在宅起訴した。 
 06年6月の起訴は時効成立まで残り19日。地検は2か月ごとに起訴を繰り返したが、時効の停止期限日から日付が替わって初めて次の起訴手続きがとれることから、1日は時効が停止されず、19回の「再起訴」のたびに時効が迫っていった。
 もう1件は、最初に起訴した日から時効成立までの残り日数が多かったため、まだ時効を迎えていない。」

■ 地検のコメントがおもしろい。
 「地検の玉置俊二次席検事は「異例の捜査手法をとったが、見つからず残念。引き続き捜査する」とコメント」。

■ 次のコメントを掲載してもらった。

 甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「戦後の混乱期に多発した凶悪事件に対して、よくとられた手法。逃げ得は許さないという検察の執念がうかがえる」と話している。

(2010年2月27日18時59分 読売新聞)

posted by justice_justice at 09:42| ■事件ー捜査から起訴まで | 更新情報をチェックする

2009年04月13日

■窃盗罪と「仏罰」ー「おばちがあたります」

■「京都・仏像盗難:「仏像は信仰の対象」時価不詳、検察困惑/『求刑悩みそう』」
 こんなユニークな見出し記事が、09年4月11日毎日(大阪夕刊版)9頁に載っている。
 少し前の記事で話題になった、京都市東山区の建仁寺から十一面観音座像を盗んだ事件だ。三重県の会社役員がすでに起訴されている。
 窃盗事件の起訴状には、被害品の時価などの価額を示すのが通常である。しかし、そもそも新作ではなく、古くから寺に所蔵するもので、売却の対象に事実上ならず、マーケットもない場合はどうすべきか。
 報道によると、寺側が「仏像は信仰の対象であり値段などつけられない」としているというが、寺社側の感覚としては当たり前。だからとって、多めに価格を付けるなど、それこそ、そのがめつさに「仏罰」があたる。
 記事は、「京都地検幹部からは『求刑に悩みそう』との声が上がっている」と紹介しているが、やむを得ない。
■もっとも、先例はある。
 奈良地方裁判所葛城支部判決・平成19年12月26日(平成18年(わ)第225号)である。
 仏像のみ十数体を盗んだ事件で、被告側の事情なども考慮しつつ、判決は懲役3年、未決勾留日数500日算入を宣告している。量刑について、仏像の価値を次のように指摘している。
 「被告人が侵入した寺院は合計15か所,窃取した仏像は合計18体にも及び,被害総額は合計4960万5000円もの非常に高額に上る。また,判示第1のD1寺における犯行では,国宝で世界遺産でもある貴重な建造物の一部をのこぎりで損壊してもいるのであって,回復不能で甚大な被害を与えている。心の拠り所であり信仰の対象である寺院や仏像に対する本件各犯行によって,寺院関係者や信者らが被った精神的苦痛も大きいし,本件が広く報道されたことによる社会的影響も軽視できない。被告人は,これら一連の仏像の窃盗や窃盗未遂等をわずか3か月間のうちに次々と敢行したのであって,この種事犯が常習化していたといえる」。
■ただ、この判決のなぞは、誰がどうやって「被害総額」を算定したのかであるが、これは証拠をみないとわからない。その場合、万が一にも、捜査機関なり検察官が、寺側に、「刑事裁判の都合上、適当な価格をいってくれ」と説得して調書を作り、これを転載したのであれば、それは不適切きわまりない。率直に、「時価不詳」と記すべきで、官僚的な書式例の踏襲のため、「仏像の本来の価値」を勝手に金銭換算すべきではない。
 繰り返すが、新しい仏像を仏師に彫ってもらったときの支払価格、できあいの仏像のマーケット価格はある。これはネットでも調べられる。
 しかし、古くから伝承されている仏像には時価はない。
 寺に安置した仏は、基本的に販売の対象にならないからだ。
 マーケット価格が成立するわけがない。
 闇市場の価格を公訴事実に書くこともできない。
 結局、経済的価値よりも、信仰対象を寺から奪った事実そのものの社会的な非難の度合いを、裁判所が適切に考慮するしかない。
■ 実は、ブログ編者も僧籍を持ち、日蓮宗(身延派)に属する某地方にある小寺院の副住職を勤める。
 寺には、幾体か仏像がある。国宝級などというものではない。だが、寺に集まる御信心筋の心の頼りだ。仏に値段は付けられない。「0円」と言えばそうだし、無窮の悟りを体現しているから、「1京円」といってもうそではない。つまりは、経済価格には換算できない。
 「僧が仏に値段を付ける」、そんなことをする訳もない。
社会規範に反する行いは、仏も許さない。仏像の独占など信仰の基本に相反する。今回の犯人も心より反省してもらいたい。
 さもなければ、、、
 「おばちがあたります」

 そんな思いを担当記者に話をして記者稿をまとめてもらい、もう一度意見交換をして、最終的に編者も確認の上で、次のコメントを掲載してもらった。
 短いコメントなのに担当記者の手を患わせた。が、法的なコメントについては、法律情報の正確を期し、編者の考えの正確な伝達のため、必ず再確認手続を採ってもらっている(ごくまれに、編者が再確認の申出を忘れたり、逆に、記者が〆切時間を口実に無視することがあるので、十分注意したい)。

*********09年4月11日毎日(大阪夕刊版)9頁********
◇「量刑に影響」
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「マーケットが存在しない以上、時価を決められず、経済的被害による量刑基準を当てはめることはできない。ただ、時価をつけないことは『信仰の対象を奪った』犯罪として、量刑判断に影響を与えるだろう。物を盗んだ罪は経済的価値だけでは測れない」と話している。

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2009年04月11日

■捜査現場の適正さーある新聞記事から 

■「山口県警周南署、押収数を過少記載/『覚せい剤紛失』警官自殺問題」。
 なんとも情けないタイトルの記事を、09年3月7日付け朝日新聞(朝刊、西部本社版)が載せている。
 山口県警周南署が家宅捜索で押収した覚せい剤よう結晶入り小袋一つを紛失。その後、この捜索に加わった警察官が自殺したという。
 記事によると、「県警は6日、捜索の立会人に押収する小袋を示していたことを明らかにした。容疑者に渡した「押収品目録交付書」に記した押収点数は、それより一つ少なかったという。県警の説明によると、先月中旬に行った捜索では発見した複数の小袋を写真撮影し、自殺した警部補=先月22日付で死亡退職=を含む複数の捜査員が数を確認した。立会人に小袋を示して押収することを説明。署に持ち帰った後で紛失に気づいた」という。
 そこで、現場がやったことは、、、目録に一つ少なく記載したというものだ。
 責任追及を避けての措置。しかし、刑事手続のありかたとしては不適法。押収は現場で占有を警察官が取得したときに完成している。
 押収はなされた。したがって、押収品目録には、押収した数を記載すべきで、現物がないことは、その旨、捜査報告書など作成して手続上明確にしておくべき。「証拠の連鎖」を欠いてしまえば、証拠収集手続自体が適正さを失う。そんな厳格な適正手続の原理を、捜査機関が破るようではどうにもならない。
 そして、虚偽を記載した公式の書類を作成した以上、虚偽公文書作成、同行使にあたるのは明白なこと。
 しかも、組織犯罪。警察ぐるみの不始末隠し。許されようがない。そこで、こんなコメントを載せた。
***09年3月7日朝日新聞(朝刊)35頁*****
<渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話> 令状に基づいて証拠物を占有し、立会人にそれを押収する物として指し示した時点で法的に押収したことになる。現場で把握した数より一つ少なく押収品目録に記載したとなれば、虚偽公文書作成にあたるのは明白だ。

posted by justice_justice at 07:52| ■事件ー捜査から起訴まで | 更新情報をチェックする
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