2015年08月17日

■青酸化合物/連続変死事件の現況

しばらくマスコミが取り上げていないが,京都・大阪で発生した,青酸化合物を使って夫,内縁の夫などを連続殺害した筧千佐子事件はまだ決着がついていない。公判の見通しも全く立っていない。そんな事件の現況を読売新聞が紹介する。
「連続変死事件/青酸入手先特定/カギ/千佐子被告 業者名など明かさず」(読売新聞015/07/31(夕刊))
 「青酸化合物を使った連続変死事件で、筧(かけひ)千佐子被告(68)が今月、交際相手だった神戸市北区の男性に対する強盗殺人未遂罪で追起訴された。起訴は3度目。自供以外に犯行を裏付ける直接証拠はなく、今後の公判などで鍵を握るのが、青酸の入手先だ。千佐子被告は「もらった」と従来と同じ供述を続けているが、相手の具体名などは明かしていない。裏付けは取れないままで、捜査本部はさらに確認を進める」。
 ■核心は未特定
 千佐子被告は昨年11月、夫(2013年12月に75歳で死亡)への殺人容疑で最初に逮捕された際、容疑を否認。しかし、起訴直前の同12月、京都府向日市の自宅にあった植木鉢内の小袋から青酸成分が検出されたことを取調官に告げられ、容疑を認めるようになった。
 この際、青酸の入手先について、「プリント会社を経営していた数十年前、出入り業者に『印刷の失敗時に使えば色を落とせる』ともらった」と供述した。
 今年1月、大阪府貝塚市の元交際相手の男性(12年3月に71歳で死亡)に対する殺人容疑での再逮捕時も当初は否定していたが、その後、容疑を認め、3度目の起訴となった今回の事件も供述したという。
 ただ、青酸の入手先については、具体的な業者名や時期は明らかにしておらず、大阪府警などの捜査本部は確認作業を進めているが、今も特定できていない。
 一方、動機について捜査本部は、千佐子被告が投機性の高い金融商品への投資を繰り返していたことなどから、遺産など金目当てと判断。千佐子被告の周辺では、他に数人の高齢男性が死亡しており、捜査本部は経緯や状況を調べているが、刑事責任追及の見通しも立っていない」。

では,裁判員裁判に向けて報道の限りで,どうみたらいいか。こんなコメントを掲載してもらっている。

■高いハードル
渡辺修・甲南大学法科大学院教授(刑事訴訟法)は「殺害などの自供が翻されても立証できるかという視点で証拠を固める必要がある。最高裁は、『犯人とみても矛盾はない』という程度の証明では有罪を認めない。青酸の入手先や保管方法などが不明確なままでは、有罪の決め手に欠けるのではないか」と話している。
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2015年08月09日

乳児「窒息死」事件と逮捕権限濫用

残念な記事が大阪読売2015年8月6日(朝刊)に紹介されている。
 「乳児『窒息死』と特定/新潟地検/施術の元理事長逮捕」
 「新潟県の男児(当時1歳)にマッサージのような施術をして死亡させたとして、新潟地検がNPO法人元理事長を逮捕した事件で、同地検は5日、検察審査会による『起訴相当』の議決後に男児の死因を窒息死と特定できたことが逮捕の決め手になったことを明らかにした。同地検はいったん元理事長を不起訴にしていたが、大阪地裁が4日に別の男児の事件で有罪判決を言い渡した直後に逮捕した。
 新潟県の男児は2013年2月、同県上越市のNPO法人(解散)元理事長・姫川尚美被告(57)の施術を受けた後に死亡。新潟県警が同年11月、姫川被告を業務上過失致死容疑で書類送検し、新潟地検が翌12月、不起訴(嫌疑不十分)にしたが、新潟検察審査会が今年6月5日付で「起訴相当」と議決した。
 新潟地検の稲葉一生検事正は不起訴の理由について「司法解剖など必要な捜査はしたが、当時は死因の特定が困難だった」と説明。議決後に捜査をやり直した結果、窒息死と特定できると判断し、施術が死亡を招いた業務上過失致死の疑いが強まったとした。ただ、窒息死とする根拠は明らかにしなかった。
 一方、姫川被告は今年3月、神戸市の生後4か月の男児を死亡させたとして業務上過失致死容疑で大阪府警に逮捕され、4月から大阪地裁で公判が始まっていた。今月4日午前、禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決が言い渡されて釈放されたが、閉廷から数時間後、新潟地検検事が大阪地検の庁舎内で逮捕したという。
 検察審査会法は、議決から原則3か月以内に起訴するかを判断するよう検察に求めており、新潟地検は今後、刑事処分を決める」。
■ 新潟地検の逮捕は暴挙であり許し難い。刑事裁判は真相解明を前提にして,犯行の重み,被告の処罰の要否を判断して量刑を決める。今回の執行猶予付有罪判決でも過失の重みを判断する際に新潟の事件を経験したことも考慮され,量刑でも言及されているなどしており,重ねて裁判にかけて有罪にすることは,実質上二重処罰に等しい。
 同時に審理すれば,二度同じ事件を繰り返した被告にふさわしい量刑も期待できたはずで,執行猶予であったとしても禁錮ではなく懲役に,またより長期の刑罰が科された可能性も否定できない。
 国家機関である検察庁が強制捜査を予定しておきながら,同種事件の裁判の終了を待って直ちに被告の身柄を拘束するのは,被告の防御の利益を踏みにじる一方で,刑事裁判で真相を明らかにし事件全体にとって相応しい厳正な刑罰を実現することを期待する国民の信頼を裏切るもので,訴追権の濫用だ。被告側は,起訴されても,公訴権の濫用として手続打ち切りを強く求めるべきだ。
 市民が参加する検察審査会の意向を反映して再捜査をするのは検察庁の当然の責務であるが,法律のプロとしての責任で行うべきで,裁判所が反省し更生の余地があると認める被告を,再度同種事件で逮捕するなど正義の実現にはほど遠いし,被告の改善更生にも全く役に立たない。必罰を狙う今回の措置は納得できない。
■ 掲載コメント
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「二つの事件を併合して審理していれば、執行猶予が付いても禁錮刑より重い懲役刑になった可能性がある。一方で、別々に審理されると被告が事件全体を踏まえた主張をしにくくなり不利益にもつながる。大阪、新潟両地検はもっと連携して対応すべきだった」と話している。
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2015年08月07日

■裁判員裁判の落とし穴ー審理のやり直しはできるか?

●中国新聞2015年7月7日朝刊は,次のような興味深い事例を紹介している。
 「東京地裁(田辺三保子裁判長)で開かれた強盗致傷事件の裁判員裁判が3月から約4カ月間ストップし、6日に一部の裁判員を選び直したことが分かった。裁判員の入れ替えは異例。審理中断は、被告が起訴内容を認めた後に新たな争点が浮上し、進行を見直す必要が生じたためだった。7日に再開する。
 再開後は、元の裁判員と新しい裁判員の前で冒頭陳述などをやり直す。既に終えた証人尋問は、やりとりを録画したDVDを法廷で再生する。
 被告のルーマニア人の男(26)は、東京都世田谷区の信用金庫前で、男性から現金4300万円が入ったかばんを奪ったとして強盗致傷などの罪に問われている。3月にあった公判に被害者の男性が証人として出廷。弁護側は、男性の証言はかばんの形状が実際と異なり、信用性に疑いがあるとして、起訴内容を争う方針に転換した。
 検察側がこれに応じ、追加の証拠提出などに時間を要するとしたため公判は中断。この後、裁判員と補充裁判員計8人中3人が辞任を申し出て地裁が解任した。開廷に必要な人数を下回ったため、地裁は今月6日、裁判員と補充裁判員計4人(1人追加)を選び直した」。
●やはり疑問が残る。そもそも強盗事件の被害品の存在と形状について客観的に食いちがいがあったのに,被告人が基礎内容を認め,後にその点が公判の進行途中で争点として浮かび上がってくると言うのは,公判前整理手続段階の準備不足の観を否めない。他に,やむを得ない事情があったものかどうかは,新聞取材の限りでは分からないようだ。ともあれ,理由がなんであれ,一部の裁判員のみ交代させる審理形式は適切ではない。プロの裁判官の交代と同じ発想方法で裁判員の交代を認めることは裁判員の間に情報の格差を生じるし,ないよりも,一緒の法廷で一緒に確認した情報のみを証拠とするという公判中心主義,そして,厳格な証明手続による立証を経て事実を認定する自由心証の根本を覆すものだ。
 相当期間の延期が見込まれた段階で,日本で言えば,いったん公訴棄却とするなど手続を打ち切る処置をするべきだ。また,将来は,かかる場合に備えて,「審理無効宣言」を宣告する裁判形式を採用するべきだあろう。
 とまれ,こんなコメントを掲載してもらっている。

●甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「被害そのものが公判開始後に議論になるのは公判前の準備不足だ。裁判員は既に有罪という前提で審理に臨んでおり、原理原則からすれば、起訴をいったん取り消して、完全にゼロから裁判を実施するのがふさわしい」と指摘している。
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2015年08月05日

青酸化合物・連続変死事件 関西の不可解な事件と裁判員裁判

無縁社会・孤死の時代の殺人事件
 21世紀に入り,殺人罪の発生件数は減っている。しかし,おりおりの新聞報道をみていると,社会の道義観念の融解や地縁・血縁などしっかりした人の絆の解体とともに,不可解で不条理な人間関係を背景とする殺人事件に触れることが多い。いままだ京都,大阪両府警と京都地検,大阪地検が協議中と推測する事件が,青酸化合物を使った老齢結婚→夫殺害事件である。
 読売新聞2015年731日(夕刊)は「連続変死事件 青酸入手先特定 カギ 千佐子被告 業者名など明かさず」として,次の記事を掲載する。
 「青酸化合物を使った連続変死事件で、筧(かけひ)千佐子被告(68)が今月、交際相手だった神戸市北区の男性に対する強盗殺人未遂罪で追起訴された。起訴は3度目。自供以外に犯行を裏付ける直接証拠はなく、今後の公判などで鍵を握るのが、青酸の入手先だ。千佐子被告は「もらった」と従来と同じ供述を続けているが、相手の具体名などは明かしていない。裏付けは取れないままで、捜査本部はさらに確認を進める。
 ■核心は未特定
 千佐子被告は昨年11月、夫(2013年12月に75歳で死亡)への殺人容疑で最初に逮捕された際、容疑を否認。しかし、起訴直前の同12月、京都府向日市の自宅にあった植木鉢内の小袋から青酸成分が検出されたことを取調官に告げられ、容疑を認めるようになった。
 この際、青酸の入手先について、「プリント会社を経営していた数十年前、出入り業者に『印刷の失敗時に使えば色を落とせる』ともらった」と供述した。
 今年1月、大阪府貝塚市の元交際相手の男性(12年3月に71歳で死亡)に対する殺人容疑での再逮捕時も当初は否定していたが、その後、容疑を認め、3度目の起訴となった今回の事件も供述したという。
 ただ、青酸の入手先については、具体的な業者名や時期は明らかにしておらず、大阪府警などの捜査本部は確認作業を進めているが、今も特定できていない。
 一方、動機について捜査本部は、千佐子被告が投機性の高い金融商品への投資を繰り返していたことなどから、遺産など金目当てと判断。千佐子被告の周辺では、他に数人の高齢男性が死亡しており、捜査本部は経緯や状況を調べているが、刑事責任追及の見通しも立っていない。」
 今後の問題は,裁判員裁判で,裁判員を説得できる証拠が揃うのかどうかである。裁判員裁判の時代に入り,最高裁は,(1)事実認定の水準を厳格にすることー被告人が犯人でなければ説明できない事実が存在することの証明を求める,(2)量刑,特に死刑の選択については,基本的に裁判官の作った基準を当分守る,,,こんなスタンスで裁判員裁判をコントロールしようとしている。
 今回の事件の場合,千佐子被告の有罪を立証できるかどうかが鍵となる。こんなコメントを採用してもらっている。

■渡辺修・甲南大学法科大学院教授(刑事訴訟法)は「殺害などの自供が翻されても立証できるかという視点で証拠を固める必要がある。最高裁は、『犯人とみても矛盾はない』という程度の証明では有罪を認めない。青酸の入手先や保管方法などが不明確なままでは、有罪の決め手に欠けるのではないか」と話している。
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2014年03月30日

■オウム真理教元信者の裁判員裁判「異聞」ー証人尋問と遮へいの弊害

■「核心/オウム平田被告に懲役/駆け足判決究明甘く/裁判員考慮、審理2カ月弱」
2014/03/08 東京新聞朝刊 3ページ 1348文字 PDF有 書誌情報
 オウム真理教元幹部平田信(まこと)被告(48)の公判は、類を見ない組織犯罪に裁判員が初めて向き合った。審理に数年かかることも珍しくなかったオウム裁判だが、
 東京新聞が,平田信事件について,すこし異なる資格から分析をしている。
 項目をふたつ引用する。
***引用***
 ■短縮
 過去のオウム裁判で、死刑判決を受けた元幹部は十三人。一審判決が出るまでの審理期間の平均は五年四カ月だった。平田被告と同じ懲役九年の判決だった元信者の一審の審理は一年八カ月を要した。
 長すぎるオウム裁判に、被害者や遺族らの不満の声が高まり、争点を絞り込む公判前整理手続きを導入するきっかけに。刑事裁判の審理期間は大幅に短縮した。現在は連続殺人事件など重大事件も裁判員裁判で裁かれ、最長でも三カ月で判決が出ている。
 オウム裁判の傍聴を続けてきたジャーナリスト江川紹子さんは「オウム事件のようなカルト犯罪に裁判員裁判はなじまない。被告の心理状態を丁寧に見るために、時間をかけて審理すべきだ」と語り、「平田被告の裁判は効率重視。なぜ教団の犯罪が起きたのか、深く掘り下げられなかった」と疑問視する。
********
 江川さんのコメントは興味深い。ブログ編者も,同感だ。形式と手続に縛られた刑事裁判よりも,カウンセリングルームで,みんながあつまり,自由に意見を交換し,質疑し,討論する,,,その中で,当時,なにが麻原彰晃元教組の魅力であったのか,なぜ犯罪集団になってしまったのか,なぜ地下鉄サリン事件であったのか,さらに,長期間の逃亡を支えたものはなにであったのか,さらには,今の社会をどう観ているのか,将来,社会に戻ってどうしたいのか,,,,フリーな検討会のほうが事件を深く理解するのにはなじむ。
 ただ,刑罰権を行使する理由を確認する場である以上,検察官の主張,証拠,手続を保障することがえん罪と加重処罰を回避するベストな方法であろう。

***引用***
■変容
 法廷内の風景も様変わりした。かつてのオウム裁判では傍聴席から証人の様子を見ることができた。今回は証人出廷した十五人のうち、死刑囚三人を含む元信者ら八人の尋問で、傍聴席との間についたてが設けられた。死刑囚はついたての撤去を求めたが、退けられた。
 ついたてによる証人の遮蔽(しゃへい)措置は、性犯罪被害者や暴力団犯罪関係者を想定し、二〇〇〇年の刑事訴訟法改正で導入。当初は年間千人前後だったが、一二年には千七百人超まで増加。「被害者など証人の『顔を見られたくない』という意向が強まっている。昨年十月には法廷内が隠し撮りされた。インターネットが普及し、証人のプライバシー侵害の恐れも増している」とベテラン裁判官は背景を説明する。
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 この点について,次のコメントを出している。
■コメント
 甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑訴法)
 「憲法は裁判の公開原則を定めているのに、裁判所はついたてを安易に使いすぎる。死刑囚の意向に反して設けたのは職権乱用であり、遮蔽措置の必要性を吟味すべきだ」
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2014年03月23日

■オウム真理教事件と裁判員裁判

■「オウム平田被告、懲役9年/長期逃亡『社会に影響』/東京地裁判決」
○2014/03/08 朝日新聞(朝刊)
 記事によると,,,,
 「1995年の公証役場事務長仮谷清志さん(当時68)拉致など3事件に関与したとして、逮捕監禁罪などに問われたオウム真理教元幹部平田信(まこと)被告(48)の裁判員裁判で、東京地裁は7日、懲役9年(求刑懲役12年)の判決を言い渡した。斉藤啓昭(ひろあき)裁判長は「教団の独善的思考に基づく計画的な犯行。自ら出頭したが、長期間の逃亡が社会に与えた影響は軽視できず、遅きに失した」と述べた。
 平田被告は、95年2月の拉致事件と同3月の宗教学者の元自宅マンション爆破事件は「事前に計画を知らされていなかった」と主張。同3月の教団東京総本部への火炎瓶投げつけ事件は起訴内容を認めていた。」
 裁判では元教団幹部の死刑囚への証人尋問があり、犯行を主導した井上嘉浩死刑囚(44)が検察側主張に沿う形で、拉致事件で「被告は事前に計画を知っていた」と語った。判決はその証言を「変遷や誇張がある」とし、検察側に沿う証言をした、犯行の中心人物の元幹部(47)=服役中=の証言との一致部分に限り信用できると判断。被告は計画を知っていたと認定した」。

 死刑囚が傍聴席との間を遮へいにして証言した事件について,裁判員は,どのような感想をもったか。
***引用***
 ■死刑囚尋問「胸痛んだ」 裁判員
 裁判員や補充裁判員を務めた8人も判決後、会見で感想を語った。
 裁判では元信徒12人の証人尋問があった。「当時は思考停止している人が多かった」「宗教は幸せになるものと思っていたが、みんな不幸になり、悲惨。恐ろしい」などと振り返った。死刑囚の証人尋問を経て複数の裁判員が「死刑制度に疑問を感じた」と口にした。ある裁判員は「死刑制度に反対ではない」としつつ、「目の前にいる、この人が死刑になってしまうのかと考えさせられた」。精神面での負担から発熱したと打ち明ける裁判員もいた。高校生で入信した井上嘉浩死刑囚(44)について、ある裁判員は「この人の人生は一体何だったのかと、胸が痛んだ」と口にした。
********

 ブログ編者の感想は,次の通りである。

■「狂気の犯罪」見つめた市民
 <渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話> 19年前、若者たちが社会を破壊する側に回った事実を、裁判員は今回の法廷で目のあたりにした。その原因を裁判官とともに見つめて宣告した判決は、同じ過ちを回避したい、社会の思いを示しているように見える。社会に芽生えた狂気の犯罪を市民自身が受け止め、再発防止を考える契機となる、重要な裁判員裁判になったのではないか。
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2014年03月22日

■裁判員裁判と控訴審の役割ー黙秘から供述への作戦変更の限界

■「連続不審死2審も死刑/遺族「墓前に報告」」読売新聞ネット配信(Yomiuri OnLine)
(2014年3月21日 読売新聞)

 いわゆる鳥取連続不審死事件で,二件の強盗殺人事件に問われていた上田被告の控訴審判決があり,控訴棄却となった。一審まで黙秘を貫き,控訴審になってから,プロの裁判官3名の前で,弁解をはじめた事件であったが,控訴審は,弁解の信用性を認めず,一審の事実認定ー裁判員と裁判官の事実認定を支持した。
 記事はこんなことを紹介している。
***引用****
 鳥取連続不審死事件で、男性2人に対する強盗殺人罪などに問われ、20日、1審・鳥取地裁に続いて高裁松江支部でも死刑判決を受けた元スナックホステス上田美由紀被告(40)。判決は上田被告の供述を「極めて疑わしい」と全面的に退け、遺族からは安堵(あんど)の声が聞かれた。
 午前9時20分に松江市の県民会館であった一般傍聴席(22席)の抽選では、690人が列を作った。
 開廷は同10時半。髪を後ろで束ねた上田被告に、塚本伊平裁判長が名前を尋ねると、「上田美由紀です」とか細い声で答えた。
 1審では主文が後回しになったが、この日は塚本裁判長が冒頭、「主文、本件控訴を棄却する」と言い渡した。上田被告は被告人席に静かに座ると、判決を読み上げる塚本裁判長を見つめた。
 控訴審では、鳥取県北栄(ほくえい)町の海岸で水死したトラック運転手矢部和実さん(当時47歳)と、鳥取市の摩尼(まに)川で水死した電気工事業円山秀樹さん(同57歳)について、同居していた男性元会社員(50)=詐欺罪で服役し、出所=の関与を示唆する供述を繰り返したが、判決は「(元会社員の犯行は)極めて困難」と認定。上田被告は判決内容をメモしながら、時折、納得できなさそうな様子も見せた。
*****
 いわゆる「識者の意見」が紹介されている。
■元東京高裁部総括判事の門野博・法政大教授(刑事法)
 「控訴審での被告の新たな供述について、きちんと検討した丁寧な判決だ。それでも1審の判断が支持されたのは、裁判員らが説得力ある結論を導いたことの証し。直接証拠のない難しい事件でも、争点を明確化し、双方の立証が尽くされれば、裁判員裁判でしっかり判断できることが示された点で意義深い」
■村岡啓一・一橋大法科大学院教授(刑事法)
 「被告は、1審の弁護側主張と同様に元会社員の犯行を示唆したが、控訴審判決ではその可能性を明確に否定された。黙秘から供述に転じることを納得させられるような、証拠に裏付けられた新事実の提示はなかっただけに、控訴審で供述した意義があったのか疑問だ」

ブログ編者のコメントは以下の通り。
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話
 「1審で黙秘していた被告が控訴審で始めた供述には、新たな証拠の裏付けなどがなく、1審を是認した判断は納得できる。黙秘権は被告の権利ではあるが、裁判員の前で真相を解明することの大切さを市民も被告も十分に意識する必要があるだろう」
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2014年03月21日

■死刑事件と裁判員が知るべきことー死刑の現状を検察官はなぜ立証しないのか

【解説・オピニオン】死刑制度の是非ー2014/02/25 産経新聞・大阪夕刊

 死刑求刑が予想される事件で,弁護側が,刑罰としての死刑の在り方に関する証人尋問を求めこれを行うことは妥当か。こんなことが実際の裁判員裁判で問題となった。
 編者は,むろん,賛成する。
 解説記事を紹介しよう。
*******
■裁判員に委ねる手法に違和感
「平成23年に堺市で象印マホービン元副社長と主婦を相次いで殺害したとして、強盗殺人罪などに問われた西口宗宏被告(52)の裁判員裁判で、死刑制度の是非が争点となっている。弁護側は、絞首刑が残虐な刑罰を禁じた憲法36条に違反すると主張。死刑執行経験のある元刑務官らの証人尋問を通じ、死刑回避を訴える。ただ、個々の刑事裁判で刑罰自体を論じ、死刑制度の憲法判断まで裁判員に委ねるという手法には違和感も覚える。
 被告は2人を殺害し、計約110万円を奪ったとされ、起訴内容を認めている。保険金目的の放火事件での服役から仮釈放された直後の犯行で、検察側は死刑を求刑するとみられる。
 これに対し、弁護側は「死刑や無期懲役刑の実態は裁判員に知られていない。実態を分かったうえで、本当に残虐な死刑が必要か考えてもらいたい」と主張。元刑務官で作家の坂本敏夫さん、立命館大産業社会学部の岡本茂樹教授(犯罪心理学)の2人を証人申請し、認められた。
 24日の証人尋問で、死刑執行に立ち会った経験がある坂本さんは「開閉式の床が開き、(受刑者は)少なくとも4メートル落下する。心肺停止後、蘇生(そせい)しないように5分間は首をつったままにする」と執行の様子を説明。岡本教授は無期懲役囚との交流を踏まえ、「無期懲役は先の見えない恐怖があり、魂を殺す刑。死刑と雲泥の差があるとは思えない」などと述べた。」
**********
これをどうみるか。確かに、
 「真相解明を期待する遺族の前で事件とは直接関係のない議論が必要だったのか。審理を傍聴し、率直な疑問が残ったのは事実だ。」という解説記事のコメントも確かだ。しかし,証人は,「いずれも一般市民には知る機会が限られる内容を証言した」と解説記事も認める。
 解説記事の結論は,無難にまとめている。
 「一般市民にとって人を裁くこと自体が非常な重責だ。今後も死刑の予想される公判に、繰り返し憲法論議が持ち込まれれば、裁判員への過度の負担も懸念される。国や裁判所は、刑罰の実態周知という課題を解消しつつ、裁判員裁判のあるべき姿をいま一度見つめ直す必要があるだろう。」

●甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)
 「裁判員は量刑も判断するのだから、刑罰の合理性も証拠で判断すべきだ。刑罰の実情に迫る試みは裁判員裁判にふさわしい」と評価する。ただ、元検事で近畿大法科大学院の瀧賢太郎教授は「公判は特定事件の審理の場。立法論に相当する議論は別の場ですべきだ」

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2014年02月17日

■報道の自由と刑事裁判ー「ニュース」を証拠にしてよいか

■ 「オウム裁判:取材の自由か裁判の公正か/番組の証拠採用、続く是非論争」
  毎日新聞 2014年02月03日(東京朝刊)

 マスコミ各社の記者は,事件現場に行く。事件関係者に取材する。この職業であるが故に,市民は情報を提供する。だから,市民には容易に見えない「事実」が見えてくる。事件の奥行きが分かる。ただ,場合によって,そうした取材結果は,時に,刑事裁判の証拠として役立つ。むろん,有罪を立証するためにも,無罪の立証をするためにも役立つが,それはいいのだろうか?
 報道目的で取材した材料が,処罰のために使われる,こんな事態が当たり前になったとき,我々は,新聞記者などマスコミの取材者を,捜査機関の手先と受けとめることとなる。
 といって,場合によっては,事件の客観的状況を公正にあきらかにできる(唯一かどうかは別として)ベストな証拠となることもあって,刑事裁判における真相解明という別の国民の利益と衝突することにもなりかねない。
 記事を引用する。
・・・(引用)・・・
 東京地裁で先月から審理が続く元オウム真理教幹部、平田信(まこと)被告(48)の裁判員裁判で、弁護側がNHKの番組を録画した映像を証拠申請したところ、NHK側が反発した。同種の論争は半世紀近く続いており、放送局側は証拠採用が前提となるとインタビューを拒否されるなど「取材・報道の自由」が侵害されると主張。裁判所側には「公正な裁判の実現」のためには証拠採用が必要な場合もあるとの見方も根強い。
 ◇法廷で録画映像
 「なぜ若者が宗教に引かれるのか、神や仏を信じる若者が増えているのか。当時のオウムについて報告しています」。法廷で平田被告の弁護人が説明した後、裁判官や裁判員の手元のモニターに、1988年に放送されたNHKの情報番組「おはようジャーナル」の録画映像が約10分間流された。番組には平田被告や、元教団幹部で証人として出廷する予定の井上嘉浩死刑囚(44)も登場している。
 弁護人は番組を証拠請求した理由について、取材に対し「一切お答えしない」と答えた。NHKの石田研一放送総局長は先月22日の定例記者会見で「取材・報道の自由が確保されなくなる恐れがあるので極めて遺憾」と語った。地裁に事実認定の証拠に使わないよう申し入れ、弁護人にも文書で遺憾の意を伝えたという。
 裁判で放送局の取材映像や番組が証拠として扱われ、局側が抗議するという構図は長らく続いている。代表的な先行事例は、米原子力空母の寄港に反対し福岡市の博多駅に結集した学生のデモ隊と警官隊が衝突した「博多駅事件」(68年)だ。福岡地裁は、同市に拠点のある四つの放送局に、事件当日の様子を映したフィルムの任意提出を求めたが拒否されたため、刑事訴訟法に基づき提出命令を出した。放送局側は「提出命令は報道機関の取材活動の自由を脅かす」と反発したが、福岡高裁も地裁の判断を支持し、最高裁大法廷も69年、放送局側の特別抗告を棄却する決定を出した(70年にフィルム押収)。
 大法廷はこの決定で「報道の自由は『表現の自由』を規定した憲法21条の保障のもとにあり、報道のための取材の自由も21条の精神に照らし十分尊重に値する」と指摘。一方で「取材の自由と言っても何ら制約を受けないものではなく、公正な裁判の実現というような憲法上の要請がある時はある程度の制約を受けることもある」とした。日本新聞協会は当時、「写真やフィルムを証拠として提供することは、その後の報道、取材の自由に重大な制限を招く恐れがあり、原則避けるべきだ」との見解を表明している。
 しかし、その後も裁判所による証拠採用が続く。「和歌山毒物カレー事件」(98年)では、殺人罪などに問われた林真須美死刑囚(52)が裁判で黙秘を続け、和歌山地検は99年、事件当日の様子を林死刑囚にインタビューした民放のテレビ番組を録画・編集したビデオテープを証拠申請。放送局側は取り下げるよう地検に申し入れたが、和歌山地裁は2002年3月、証拠採用した。放送局側は抗議声明を出し、新聞協会も「ビデオテープの証拠申請・採用を安易に行わないよう求める」との見解を出した。地裁は02年12月の判決でビデオの証拠採用を「慎重であるべきことは論をまたない」としつつ、「報道機関が自ら重要な情報であるとして報道し、国民の多くが知っている情報をなぜ証拠として採用できないのか理解に苦しむ」と異例の言及をした。
・・・・・・・
 新聞記事は,いろいろな有識者の見解を紹介している。以下の通りであった。
 ○大石泰彦・青山学院大教授(メディア倫理法制)
 ・「捜査当局の取り調べや裁判所での手続きと、報道機関の取材では臨む姿勢も違う。(カレー事件のような事例は)取材に対する萎縮を招く。放映済みでも裁判での使用は控えるべきだ」
 ・「取材・報道の自由への侵害は目に見えにくいが、長期的に社会から何かが失われていく」
 ・「裁判所が新聞記事を犯罪の事実認定に用いるなど、行き過ぎた使い方があるような場合は、新聞社側はきちんと抗議すべきだ」
 ○曽我部真裕(そがべまさひろ)・京都大大学院教授(憲法)
 「カレー事件のようなケースが続くと、疑惑の渦中にいる人物への取材がしにくくなる可能性があり問題はある。しかし、一般論として既に放送された場合は、証拠となっても取材・報道への具体的な支障は考えにくく、法的には問題にしにくい」 ○元東京高裁部総括判事の中川武隆・早稲田大法科大学院教授(刑事訴訟法)
 「取材・報道の自由と、公正な裁判の実現の双方を比較検討はするが、重視しているのは刑罰権の適正な行使。(放送局側が証拠採用に反対するなら)証拠となることで報道機関にとってどのような弊害が起きるのかについて、ある程度具体的な主張がないと説得力を持たない」
 ただ,以上の識者のコメントに欠けているのは,証拠収集の手続の妥当性である。
 テレビのニュースなどの番組を,簡単に録画できる時代であるが,それをそのまま証拠に出していいのか,裁判所は,気軽に証拠採用していいのか。
 それは,報道の自由/取材の自由と公正な裁判の利益のバランスを,法の世界で吟味検討する場が失われる。
 そのことも含めて,次のコメントを出した。
■渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)
 「裁判の公正さを保つという観点からもテレビ番組を証拠採用するのは好ましくない。それでも、やむを得ず証拠採用するなら、裁判所が提出命令を出すなりして放送局側の反論の場を確保すべきだ。録画ビデオをそのまま証拠にするという姿勢自体が『報道の自由』への配慮を欠いている」。
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2014年02月15日

■ひとつの事件/ふたつの判断ー裁判員裁判の特徴


「同じ事件に異なる判断/通貨偽造、裁判員裁判/京都府」
2013/12/21 朝日新聞 朝刊 29ページ 559文字 書誌情報
 こんな事件である。
***引用***
 親子で共謀してカラーコピーした5千円札を使ったとして、通貨偽造・同行使罪などに問われた息子(27)の裁判員裁判の判決が20日、京都地裁であり、先月に同一事件で罪に問われた父親(51)の判決時とは、「共謀」の認定について異なる判断が示された。
 後藤真知子裁判長は今回の息子の判決で、父親との共謀を認め、懲役8年6カ月(求刑懲役10年)を言い渡した。だが後藤裁判長は先月29日、共謀したとされた父親には、同罪について無罪を言い渡していた。
 今回の判決では、息子は2011年9月、父親と共謀して5千円札を約30枚カラーコピーし、うち2枚を使ったと認定。息子は「父親に偽札作りを持ちかけられた」、父親は「息子単独の犯行」とそれぞれ主張していた。後藤裁判長は父親の判決では息子の供述について「著しく具体性を欠き、信用できない」と判断し、共謀を否定。今回は共謀について争われず、起訴状の通り認定した。
 今回の裁判員を務めた40代の公務員女性は「裁判所から別事件として考えるよう言われた。私は双方の主張に基づいた妥当な判決だと思っている」と話した。
******
 これでいい。官僚統制の時代は終わった。各事件を裁く各裁判員が自由に良識に従い,証拠をみればよい。
 こんなコメントを出した。

■甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「別々の市民が裁いた結果で、ケースごとに判断が分かれることは十分ありうる。裁判員制度導入後の新しい正義のあり方だ」と話した。
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2014年02月14日

■裁判員裁判と控訴審ー「ヤヌス神」の姿

■「鳥取・男性連続不審死:きょう第2回公判/供述信用性どう判断/上田被告、黙秘から一転−−高裁松江支部/鳥取」2013/12/24 毎日新聞(地方版)

 すでに一審,控訴審と死刑が維持されている事件についての後追いである。
 2009年に,鳥取県で起きた一連の不審死について,裁判員裁判では,死刑を選択したが,その控訴審でもこの判断が是認された。
 被告は,一審では,沈黙を守り,事件について何も語らなかった。ところが,控訴審になってから,被告人質問の場で黙秘を放棄し,事件について語り始めた。
 昨年12月の控訴審公判では,自ら法廷で無罪の弁解をしたという。
 これをどうみるか。まず記事を引用しておく。
***引用(1)ー被告人の弁解内容について***
 ■「もらった金」
 上田被告は21日に40歳を迎えた。
 1審判決は強盗殺人の動機を「上田被告が被害者2人から迫られていた借金返済や家電代金の支払いを免れるため」と認定。これに対し、上田被告は09年4月に水死したトラック運転手、矢部和実さん(当時47歳)との金のやり取りについて、「私が生活に困っていることや、子供5人を育てていることを知り、矢部さんが渡してくれた。もらった金という認識だった」と供述した。
 矢部さんが上田被告との間で借用書を交わした理由については、「私とつながっていたかったからだと思う。借用書があれば私と会うことができる」。弁護側が「あなたと男女の関係が切れないようにするためか?」と質問すると、「そう思った」と答えた。
 ■返済を迫られたのは元販売員
 借用書には、上田被告と当時同居していた元自動車販売員の男性(50)も連帯保証人として記されていた。上田被告は返済を迫られていたのは元販売員だったとし、「矢部さんが元販売員に『連帯保証人がどういうことか分かっているのか? 男が言ったことは守れ』と言った。元販売員は土下座した」と語った。弁護側が「矢部さんはなぜ元販売員に支払いを求めたのか」と尋ねると、「私の男だと思ったから責任を取れとのことだった」とした。
 09年10月に水死した電器店経営、円山秀樹さん(同57歳)への家電代金支払いを巡っても、上田被告は自らの支払い義務を否定。弁護側から「円山さんから督促されたことはあるか」と問われると、「ない」と明確に答えた。元販売員も円山さんから電化製品を購入しており、円山さんから支払いを督促される場面を「少なくとも5、6回見た」と供述した。
 ■最終接触者
 1審判決は、元販売員の証言を有罪の根拠にした。「事件後に上田被告に呼び出され、服がぬれている上田被告を見た」などと供述した元販売員に対し、上田被告は反論した。
 矢部さんの事件では、矢部さんが運転する車に当日乗っていたことは認めたが、車内で交際を巡るやり取りから矢部さんが怒ったと主張。「『頭を冷やしてくれ』と言った。矢部さんは途中で(自分を)降ろした」。その後、矢部さんは一旦戻ってきたが、再び自分を置いて車で移動した、とした。弁護側が「この時が矢部さんを見た最後か」と聞くと、「はい」と答えた。
 ■「ズボンがぬれていた」
 上田被告は、その後に合流した元販売員が1人で矢部さんのいる方に向かい、しばらくして戻って来ると「ズボンがぬれていた」と説明。更に元販売員の車の中に「矢部さんの服とスコップがあった」と語った。警察に対しては、元販売員から「『(事件前の)4月2日に(矢部さんと)最後に会ったと言え』と言われた」と、口裏合わせを求められたとも主張した。
 一方、円山さんの事件当日の状況について「(元販売員は)円山さんを乗せて行った。私を残して(元販売員が運転する)マーチは先に進んだ」と供述。その後、元販売員だけが「小走りで帰ってきた」。弁護側がその際の元販売員の様子を尋ねると、「顔面そうはくだった。膝から下が完全にぬれていた。左足のくるぶしに切り傷があった」と答えた。元販売員からは後日、「『誰が来ても黙っとけ』と言われた」と、再び口裏合わせを求められたと強調した。
******
 興味深いのは,控訴審における被告人質問=被告人供述の評価に関する記事である。
 まず,防御方針の転換について,記事は,次のように報じる。
***引用(2)ー防御方針***
◇被告人質問で無罪訴え 弁護側、1審の法廷戦術を変更
 控訴審では弁護側の法廷戦術も変わった。島根県弁護士会に所属する3人の国選弁護人が新たに担当したが、証人尋問や新証拠の提出はせず、被告人質問のみ行う方針だ。1審で展開した「元販売員が犯人の可能性がある」との主張もしない。弁護団は「本裁判の審理の対象はあくまで上田被告が犯人といえるかどうかであり、上田被告が犯人ではないとの主張をする」と報道各社に文書で回答している。
 1審で上田被告は「私はやっていません」とだけ話し、検察側が問いかけた約60の質問に何も答えなかった。しかし、10日の控訴審初公判では約5時間にわたって被告人質問に臨み、弁護側の質問には身ぶりを交えながら当時の様子を語った。
 沈黙を破った理由を上田被告は公判で「(1審の黙秘は)弁護士のアドバイスで決めた。控訴審では今の弁護士に思う存分私の気持ちを聞いてもらい、(話すことを)決めた」と話した。
******
 最後に,我が国の「控訴審」なるものの意義と役割に拘わる記事である。
***引用(3)ー控訴審について***
 原則として1審で取り調べた証拠に基づいて審理し、被告の出廷義務もない。塚本伊平裁判長は初公判の冒頭、上田被告に「被告人質問をする、やむを得ない事情はない」と前置きした上で「事案に鑑み、採用する」と述べた。
*******************
 控訴審は,「ヤヌス」である。「神」であり「審」である。
 検察官が起訴した事実について,証拠で裏付けられるかどうかを直接の審理の対象にしない。控訴審の審判対象は,法定の控訴理由があるかないかという視点で,一審判決とその手続を対象とする。裁判所の構成に不備があれば当然に一審には瑕疵があるが,他にも,事実面,法律面,量刑面での逸脱の有無とそれが判決に影響するような重大なものかどうかを事後的に審査する場だ。これを専門家は,「審査審」「事後審」といった表現をする。
 ただ,日本の控訴審は複雑だ。
 控訴審では,まず,一審の記録を点検し,あらたに行なう事実の取調べで確認した事実を吟味して,一審の判決と手続のいずれかに瑕疵があるか否か点検するプロセスがある。これは,審査審としての機能を発揮している。
 その結果,瑕疵がないとして,公訴を棄却するときには,控訴審は審査審の機能を果たしたのに留まる。
 次に,瑕疵を発見して,一審に審判のやり直しを命ずることがある。破棄・差戻の判決だ。このときも,瑕疵を摘示してそこを中心に審理のやり直しを命ずるものであるから,瑕疵の有無を事後的に審査した限度で控訴審の役割を終えたこととなる。
 ところが,一番多いのは,破棄自判である。つまり,一審の記録と控訴審での事実の取調べの結果をあわせたならば,破棄した上,自ら有罪・無罪の判断,つまり,検察官の起訴した事実に対する判断をすることができる場合,自判する。
 このときには,自ら有罪・無罪の心証を形成する。したがって,事実の審理・審査を行うこととなる。一審の審理を引き継いで事実の認定,量刑を行うから,事実審といえる。
 有罪・無罪を本格的に検討する場は一審であるべきで,被告人も事件について語るのであれば,一審とするべきだ。そうしなかった以上,仮に,控訴審では,もはや必要性がないとしてこれを斥けても防御権侵害にはならない。
 それだけに,今回,控訴審で被告人が語った事実は重い。こんなコメントを付した。

■職権による今回の被告人質問について、専門家は肯定的な見方をする。
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「1審の手続きに不合理や明らかな事実誤認がなければ、控訴審では被告人質問を認めないのが普通。同時に裁判長には事実を取り調べる権限があり、死刑判決が適切か判断するため、被告人質問をするのは妥当」と指摘している。
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2014年01月31日

■『1人殺害』と死刑の当否(下)ー岡山の裁判員達の決断

■「元同僚女性強殺に死刑/岡山地裁判決/被害者1人では異例」
読売新聞2013/02/15(朝刊)
 昨日の続きである。1年前のことであるが,被害者1名の事件で,裁判員裁判の結果,死刑が選択された事件があった。
***引用***
 岡山市で2011年、派遣社員加藤みささん(当時27歳)を殺害、遺体を切断して遺棄したなどとして強盗殺人や死体遺棄罪などに問われた元同僚の住田紘一被告(30)の裁判員裁判の判決で、岡山地裁(森岡孝介裁判長)は14日、求刑通り死刑を言い渡した。
 被害者が1人の事件での死刑判決は異例。住田被告に前科はなかったが、森岡裁判長は「強固な殺意に基づく冷酷かつ残虐な犯行。反省や謝罪は不十分で、更生可能性は高いとはいえない。死刑の選択をするほかない」と述べた。弁護側は即日控訴した。
 判決によると、住田被告は同年9月30日、岡山市北区の倉庫に加藤さんを連れ込み、所持金を奪って性的暴行をしたうえ、ナイフで胸などを10回以上刺して殺害。翌10月上旬、実家のある大阪市内で遺体を切断し、川などに遺棄した。
 判決で森岡裁判長は、性的な欲求不満を解消するための計画性の高い犯行だとし、「当初から殺害と遺体の処理まで考えていた点は強く非難されるべきだ」と指摘した。
 ◆裁判員 残虐性を判断 
 死刑選択を巡っては、1983年の最高裁判決が被害者数、前科、殺害方法など9項目の基準(永山基準)を示しており、裁判員裁判で、殺害された被害者が1人の場合に死刑判決が言い渡されるのは3件目、前科がない被告には初めてとみられる。
 千葉大生強盗殺人事件など過去2件は、いずれも被告が重大事件で服役し、出所後間もない犯行だった点を重視。一方、今回は計画性や残虐性など犯行の悪質さがポイントになった。
 判決後、裁判員を務めた人たちが岡山地裁内で記者会見。住田被告に前科はなかったが、40歳代男性は「(プロの裁判官による)永山基準に基づいた数々の判例が積み重ねられてきたが、市民の意見、意思を反映した判決があってもいいのではないか」と話した。
 補充裁判員だった30歳代男性は「精神的な負担は本当に大きく、家に帰っても、自分が裁いていいのかすごく悩んだ」と死刑判断の重さをにじませた。
 ◆「本心で謝罪を」 被害者の父
 加藤みささんの父裕司さん(60)は判決傍聴後、岡山市内で会見し、「極めて妥当な判決。ようやく娘に報告が出来る」と話した。
 裕司さんは妻、長男と計5日間の裁判をすべて傍聴し、被害者参加制度に基づき、住田被告に直接質問もした。「刑が確定したら、(住田被告に)会いに行こうと思っている。反省の気持ちを芽生えさせ、本心からみさに謝ってもらいたい。そのためにも控訴を取り下げてほしい」と求めた。
***

 裁判員裁判制度が始まって3年が経過する。
 市民の健全な良識が刑事裁判に浸透しつつある。
 事件毎の重みをはかって,そのときに集まった市民達の良識にしたがった判断で刑を決める。それが,重なって社会全体の正義の形ができあがる。
 プロの裁判官のみに委ねていた,技巧的な量刑相場は妥当しない。プロが,自己の判断こそ正しいという独善的な価値判断で,量刑を市民社会に押しつけることそのものが控えられるべきことだ。
 「官僚主義」に対する「市民主義」の時代に入ったことを語る事件処理である。
 また,実際にも証拠で浮き彫りになり,本人の供述でも裏付けられる犯行態様に照らして,極刑の選択が誤っているとは思えない。
 次に問題となるのは,その極刑の実体だ。これもまた,「官僚主義」のベールにつつまれて「市民主義」の及ばない密室となっている。
 「可視化」原理に基づく,実体の正確な説明なしに,市民に極刑を選ばせること自体が実は不合理でもある。今は,市民もやむをえない選択をしている,とみるべきだ。
 今後,極刑の求刑にあたり,検察官は,それが,いかなる意味で,理性的で合理的な刑罰であるのか,執行までにどのような処遇をし,えん罪の防止を考えているのか,立証することを求められるようになろう。
 そんなことを考えながら,当時のコメントを振り返ってみた。
 上記新聞に次のように記載された。

■渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「性的暴行があったことなどを踏まえた判決。裁判員らは、被害者数にこだわらず、市民良識に沿って事件の重みにふさわしい判断をした。今後の一つの指標になるだろう」と指摘した
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2014年01月30日

■『1人殺害』と死刑の当否(上)ー岡山の裁判員達の決断

■「派遣社員強殺/死刑求刑/『非人間的、いまだに無反省』/検察側=岡山」
読売新聞2013/02/09(大阪,朝刊)
市民=裁判員が,目の前にいる被告人に死刑を宣告する場面。
 裁判員裁判導入にともなって,否応なく法廷でみられる光景である。
 その一コマを上記新聞記事が紹介した。強姦を含む強盗と殺人。女性の人格を踏みにじった心の殺人を犯した上,さらに命乞いをする被害者を殺害するー命そのものを断つ。さらに遺体を岡山から大阪へ運んで損壊し捨てる。死への尊厳も踏みにじった犯罪。
 こんな場合でも,官僚化された裁判官集団は,全国の量刑相場に照らして,おおざっぱにみて,1人殺害であれば,特段の事情がない限り,無期懲役を選ぶことが多かった。
 市民の登場が,裁判官の居心地のよさを約束する量刑相場を打ち破ることとなった。
 その事件を裁くその裁判限りの裁判員達。
 彼ら・彼女らは,この事件の証拠をみて,この事件の特殊性を評価して,彼ら・彼女らのそのときの良識にしたがって,良心的に,あるべき刑罰を選択する。
 その選択を可能とするためにも,逆に,検察官は死刑の余地がある事件であれば,自己抑制することなく,死刑選択の可能性を示さなければならない。
 この事件で,検察官が死刑を求刑したのは,裁判員裁判時代の当然の選択である。
 
***引用***
◆被告「最も重い罰受ける」 
 岡山市で2011年9月、同市の派遣社員加藤みささん(当時27歳)から現金などを奪って殺害したなどとして、強盗殺人罪などに問われた元同僚の住田紘一被告(30)の裁判員裁判で、検察側が死刑を求刑した8日、住田被告は「今の私に出来るのは、最も重い罰を受けることしかない。本当に申し訳ございませんでした」と述べた。一方、弁護側は無期懲役を求めており、裁判員は難しい判断を迫られる。判決は14日の予定。
 約1時間にわたる検察側の論告を、住田被告は前を見据えて聞いた。検察側は、1983年に最高裁が示した死刑の選択基準(永山基準)を基に求刑理由を説明。「あまりに非人間的。これほどの重大犯罪を犯した被告には、死刑を選択するほかない」とし、公判中に殺人を肯定する発言などを翻したことについては「刑を軽くするため、うそをついた可能性がある。いまだに無反省だ」と厳しく指摘した。
 弁護側は最終弁論で、住田被告がいったん殺人罪などで起訴された後、乱暴目的だったことを明かしたことに触れ、「被告は死を覚悟して告白した。自首にも匹敵する」とし、発言の変化については「命をもって償うという反省の現れ」と訴えた。そして「少しでも躊躇(ちゅうちょ)する事情がある場合、極刑は許されない」と死刑回避を求めた。
 求刑に先立ち、加藤さんの母親らが意見陳述を行い、母親は「住田被告はうその供述をするなど、私たちをどこまで苦しめるのか。自分の死をもって償いなさい」と声を絞り出した。
******

 求刑段階であるが,当時,次のコメントを出した。
■求刑について、渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「市民の良識で犯罪の悪質性を考慮すれば相当。強姦が被告の自白によって判明したことを考えても、死刑求刑はやむを得ない」とした。
*** 
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2014年01月24日

■検察官の求刑の姿勢ー裁判員裁判と無期懲役

■「生駒・強盗殺人/無期懲役/遺族『納得できない』」
読売新聞2013/03/06(大阪,朝刊)

***引用***
 ◆判決要旨 
【主文】
 被告を無期懲役とする。
【認定事実】
 2011年6月21日、交際相手の母親・井口清美さん(当時60歳)が住む生駒市内の被害者方に侵入。金品目的で殺害し、キャッシュカードなどを奪った。自宅で遺体を切断し、一部を同市内の竹やぶに埋めるなどし、遺体を損壊、遺棄した。奪ったカードで現金を引き出した。
******
 この事件の被告人が起訴されたのは,無職の60歳の女性であり,交際相手の実母の殺害などである。
 実家に出入りできる状態を利用した悪質な犯罪であった。しかも,遺体を損壊して遺棄し,犯行の隠蔽を図った。事件後も被害者が生きているような工作をして混乱を生じさせた。
 だが,検察官はなぜか極刑を求刑せず,無期懲役に留めた。
 記事は,被害者の娘3人の談話と裁判員の感想を紹介する。
***
 3人は閉廷後、奈良市内で記者会見した。強盗殺人罪が認められたことを評価する一方、「残忍な犯行で、極刑でも足りないと思う」(次女)、「逆恨みした被告が仮釈放後に危害を加えてくる可能性もある。一生おびえて暮らさなければならないと思うとつらい」(長女)、「被告人質問で発言することが母にできる唯一の親孝行だった」(三女)と話した。
 裁判員と補充裁判員も地裁などで記者会見した。強盗殺人罪について被告が否認し、直接証拠がない中で判断したことについて、30歳代の女性は「『これが真実だろうか』と、心が揺らぐことも多かった。常識や自身の経験、数少ない証拠を一つひとつ、積み上げていくしかなかった」と語った。
****
ある識者の談話はこうである。
****
◆立証十分で判決妥当
 元最高検検事の土本武司・筑波大名誉教授(刑事訴訟法)の話「裁判員らは検察側が積み上げた状況証拠を社会常識に基づいて評価しており、妥当な判決だ。検察側は、『被告が犯人でなければ合理的に説明できない』という十分な立証ができたといえる。一方、被告の遺体損壊などについての弁解は常識的ではなく、裁判員を十分納得させる説明ではなかったということだ」
****
 ブログ編者は,次のように述べた。基本的には,裁判員と裁判官に選択を委ねるためにも,死刑を求刑すべき事案であったと思っている。その上で,裁判員の良識と裁判官の経験値を加味して,厳正な処罰が選択されるべきではなかったか。
 すくなくとも,無期懲役でもよい理由を積極的に説明する義務を検察官は果たすべきであった。

■渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法) 「重大な罪を巡る裁判で、検察側が量刑判断の十分な材料を裁判員に示さなかったのは不適切だ。遺族が死刑を求めることも承知していたはずで、検察は、市民参加型の裁判について検討する必要がある」
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2014年01月21日

■平田信事件と死刑囚の証人尋問ー正々堂々たる裁判員裁判を期待して

■「再開・オウム裁判:きょうから死刑囚尋問」ーネット配信記事・毎日新聞 2014年01月21日 東京朝刊

 平田信事件の続報であるが,今日から,死刑囚の証人尋問がはじまるという。
 記事は,次のように紹介する。

***引用***
 東京地裁(斉藤啓昭(ひろあき)裁判長)で審理中の元オウム真理教幹部、平田信(まこと)被告(48)の裁判員裁判に21日、中川智正死刑囚(51)が証人として出廷する。2月上旬には井上嘉浩(44)、林(小池に改姓)泰男(56)両死刑囚の尋問も予定されている。教団の非合法活動の実態を知る3死刑囚が何を語るのか注目される。
 2011年に死刑が確定した中川死刑囚は元医師で、松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚(58)の世話をする「法皇内庁」トップだった。平田被告が逮捕監禁罪に問われている仮谷清志さん(当時68歳)監禁致死事件(1995年2〜3月)では、仮谷さんに麻酔薬を注射して死に至らせ、遺体を焼却したとされる。検察側は冒頭陳述で、中川死刑囚が平田被告に「(仮谷さんは)もういません」と伝えたと指摘している。
*****

 問題は,次の文だ。「死刑囚の尋問は異例で、裁判員裁判では初。地裁は死刑囚の心情の安定に配慮し、傍聴席との間に遮蔽(しゃへい)板を置くほか、不測の事態に備え防弾パネルの設置も検討している」。
 しかし,他の新聞などの情報では,証人等は,遮へいは嫌っているという。勝手な想像であるが,かつてオウム真理教の幹部として活動した誇りにかけて,彼らは正々堂々と自己の過去を清算し,謝罪すべきは謝罪する姿勢を取っているのではないか。
 これに対して,「死刑囚の心情保護」という観念論を振り回しているのは,法務・検察・公安警察ではないか。
 少なくとも,検察当局の見解として,証人予定の3名が,当局にも,遮へいなりビデオリンクを強く希望したといった報道には接していない。そして,その点の面会調査をしていないか,本人らの「不要だ」との意見に接しているか,どちらかだろうと勝手に推測する。
 裁判員裁判の正当性という点でも問題だ。
 証人本人等が,特別な配慮なく,堂々と,公開の法廷での証言を臨んでいるのに,これを無視して,裁判員が,裁判官に加担して,勝手に囲い込みをして証言を聞き,これを有罪無罪,量刑の材料にする,という事実は,残すべきではない。遮へいを認める要件にもそぐわない。
 なによりも,裁判員たる市民が,市民社会にかつて起きた,「テロ犯罪」にどう立ち向かうか,真しに検討するべきときに,国家権力を支配する官僚組織の意向の介在を許してはならない。

 もうしばらくすると証言がはじまる。
 次のように望む。
 第1に,弁護人から,遮へいなどの措置への異議申し立てを強く期待したい。
 第2に,裁判官は,裁判員もまじえて,その当否を検討するべきだ。訴訟指揮に関する事項に,裁判員の発言権・決定権は保障されていないが,彼らの意向を無視した訴訟指揮はするべきではない。
 第3に,裁判員らが,遮へいの措置不要とする賢明な判断をプロ裁判官に示す勇気を期待したい。

 市民参加の正義を実現する場にふさわしい,そして,我が国の未曾有のできごとであるオウム真理教関連事件の裁判員裁判にふさわしい証人尋問を強く望む。

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2014年01月19日

■裁判員裁判と審理長期化ー市民主義の挑戦

■「裁判員裁判/審理長期化懸念8割超/岡山弁護士会/会員アンケート/被告に選ぶ権利を/公判前手続きの延び指摘」
山陽新聞2013/05/18(朝刊)
 岡山弁護士会でしばらく前に,2009年に導入された裁判員制度が3年目の検証時期を迎えたことから、改善に向けた提言をまとめるアンケートを実施したという。裁判員裁判を経験した弁護士70人を対象に行ったもので,39人が回答したという。
***引用***
 「裁判員制度導入で審理期間は長くなった」―。岡山弁護士会が、所属弁護士に対して行った裁判員制度に関するアンケートで、8割以上がこう答えた。これを受け、同会は「迅速な裁判を受ける被告の権利が保障されていない」として、被告に裁判員裁判を受けるか選ぶ権利を与えることなど制度の見直しを提言している。・・・起訴から判決までの審理期間が長期化したと答えたのは33人。最大の原因として公判前に事件の争点を絞り込む「公判前整理手続き」を挙げ、6割超の23人が「迅速かつ充実した争点整理ができていない」と回答。理由には「検察官の証拠開示が遅い」と指摘する声が多かった。
 岡山地裁では、初めて裁判員裁判が行われた09年10月から今年3月までに71件で判決が言い渡され、審理期間が最長だったのは、女性への性的暴行をめぐる事件で、1年半を超える546日だった。
 この傾向は全国的にも顕著となっている。最高裁の調査によると、平均審理期間は制度導入前(06〜08年)の裁判官裁判の6・6カ月に対し、昨年7月末までの裁判員裁判は8・5カ月。公判前整理手続きの平均期間だけで6・0カ月と、3カ月以上延びている。
 実際に裁判員裁判を担当した岡山弁護士会所属の30代男性弁護士は「起訴内容を認めている被告が審理期間が長いと、不満を漏らしたことがある」とし、別の弁護士は「自白して争点が乏しい場合は、被告が裁判員裁判を望まないケースもあった」と明かした。
 こうした結果を受け、同弁護士会は被告人に裁判員裁判か裁判官裁判かを選択できる権利を与えるべきと提案している。
****
 こんなコメントを当時出した。

■甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「被告は短期化よりも、納得できる充実した審理を望んでいる」と強調。その上で「逮捕直後から十分に接見し、有利な証拠の調査も行い、被告とチームで裁判に向かう姿勢が重要」と刑事弁護の質に注文を付ける。
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2014年01月18日

■警察と市民ー「お上」意識のぬけない警察について

■「警官、女性に不適切聴取 大阪府警が謝罪」
産経新聞2013/06/14(朝刊)がこんな現場のひとこまを紹介した。
***引用***
■虐待疑いの女児連れ交番へ→母親の前で個人情報尋ねる
 児童虐待が疑われる子供を一時的に保護し、警察に通報した女性(28)とその子の母親を、大阪府警東淀川署が交番内で同席させたうえ、その場で女性の住所や連絡先などを聴き取っていたことが分かった。女性は産経新聞の取材に「相手の母親に個人情報を知られ、非常に心配。なぜ別々に調べてくれなかったのか」と警察の対応に強い不信感を抱いている。同署は「署員の判断で同席させたが、配慮を欠いていた」として女性に謝罪した。
 女性が子供を保護したのは、4月18日午後4時半ごろ。大阪市東淀川区内の公園で自分の子供を遊ばせていた際、見知らぬ女児(3)が「おなかすいた」「のど渇いた」と大声で泣いているのに気づいた。
 季節外れの汚れたセーターを着て、腕やすねにはあざもあり、汗のにおいも鼻をついた。保護者は見当たらず、女性は虐待や育児放棄を疑い、児童虐待ホットラインに通報。応対した市こども相談センター(児童相談所)の担当者から「職員派遣に時間がかかるので、いったん近くにある東淀川署の交番に向かってほしい」と指示された。
 女性は女児を連れて交番に行ったが、警察官は不在。本署に通報して警察官の戻りを待っていたところ、女児を捜していた母親がたまたま通りかかり、「そこで何してんの?」と交番に入ってきたという。
 その直後に署員2人が交番に到着。母親がその場にいることを知りながら、女児を保護した経緯を女性から聴き取り、住所、氏名、職業、連絡先を尋ねた。女性は母親の存在を気にして即答をためらい、うつむいて黙り込んだが、署員から「早く答えて」と促され、答えさせられたという。
 同署によると、署員らは女性を帰宅させてから、遅れてやってきた児相職員とともに女児の身体を確認。目立った外傷はないとして、身体的虐待の可能性は低いと判断する一方、「育児放棄の疑いは否定できない」と児相に書類通告し、以後の対応を引き継いだ。
 同署は一連の経緯について、同日午後4時過ぎに母親から「自宅で寝ていたら子供がいなくなった」と署に届け出があり、署員らと付近を捜索していたと説明。そこに女性からの通報が舞い込んだため「母親から女性に保護のお礼を言ってもらおうと考え、同席させた」としている。
 署員らは虐待の疑いがあるという通報内容も認識していたが、「女児は母親になついており、可能性は低いとみていた」とし、「結果的に通報者の不安をあおる形になり、非常に申し訳ない」と釈明した。
****
 記事では,「女性は取材に『警察官に高圧的な態度で個人情報を聴かれ、答えるしかなかった。私が悪いことをした気分になった』と不快感をにじませた」。さらに「女児を交番に連れて行った日の夜、知らない小学生くらいの子供が突然自宅に来て『女の子をどうしたんですか。誘拐ですよ』とまくし立てられたといい、『個人情報が漏れているかもしれず、本当に不安だ』と話した」という。全く警察の落ち度としかいいようのない事件だ。
 そこで,こんなコメントを出した。

■甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)も通報者のプライバシーを守ることが捜査の大前提としたうえで、「児童虐待やストーカーに対しては被害を最小限にとどめる『予防警察』が求められる時代。警察組織はリスク管理のモデルであるべきなのに、意識が低すぎる」と話した。
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2014年01月15日

■平田信事件ーオウム真理教関連犯罪と裁判員裁判

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1 「オウム真理教」関連裁判がまたはじまる。平田信元信者に対する仮谷さん逮捕監禁事件と某大学元教授宅爆弾事件。南青山総本部火炎瓶事件だ。
 こうした一連の教団関係事件の象徴は,1995年3月に発生した地下鉄サリン事件だ。そして,同月末の当時警察庁長官であった国松氏狙撃事件が発生。これも,警察サイドは,有力な別の容疑者がいたが,教団関係者によるものとして捜査。
 96年4月の元教組麻原彰晃の初公判。やがて2006年にはその麻原彰晃の死刑判決が確定し,2010年には警察庁長官狙撃事件が時効を迎える。事件がはじまり,終局していった。
 東京など各地の地裁に事件係属中,当時勤務してた大学のゼミ生とともに上京するなどして裁判を傍聴した。20世紀末を象徴する事件の意味を若者達とともに探るために、、、
2 21世紀が1/10進んだ今,オウム真理教の教団を育んだ精神風土はどうなっているのか。世紀末から「新世紀」への時代の変わり目は,日本社会の精神構造の革新をもたらしつつあるのか。それとも,社会心理の病理は,さらに深化してるのか。
 過去を振り返る平田信元信者の裁判を通して,我々は,現代と近未来を見通す知見を得なければならない。
 この集団を,20世紀末に発生した「カルト」集団と呼ぶのはたやすいし,地下鉄サリン事件は,狂気の犯罪としかいいようがない。
 が,信者には有名大学を出て将来エリートとして日本社会をリードすることを期待できた者が多数いた。彼らが数々の凶悪犯罪を計画的に大胆に実行した。だから,世紀末の社会病理の深さを暗示させた。衝撃は大きかった。だが,解決策の目途がたたないまま裁判のみ終局した。
3 それから四半世紀が立つ。今度は,市民が刑事裁判の主人公となる新しい時代に,平田信の事件が裁かれる。死刑囚である井上嘉弘,中川智正,林泰男が証人に立つ。平田信が起訴されている假谷清志さん逮捕監禁事件と島田元教授宅爆弾事件は,オウム真理教事件の伏線となるものであり,当時の教団の考え方と組織原理がよく表れている。
 お布施をする財産のある信者を教団施設に囲い込んで逃さない強引さ,自作自演の犯罪を起こしてでも教団を守ろうとするしたたかさ,教祖の指示に従い世俗の法を無視して大胆に犯罪を実行する帰依心の強さなどなど。
 それを裁くのは,市民だ。
 20世紀末から21世紀初頭にかけて,刑事裁判は装いを大きく変えた。「市民主義」裁判の導入だ。市民は裁判員として自ら裁判に関与する。被害者は,被害関係人としてやはり法廷の主人公となる。
 かえって事件を冷静にみることができる。
4 地下鉄サリン事件発生当時連日マスコミを賑わしたオウム報道は遠い記憶となっている。社会が被った惨劇という意味ではその後の東日本大震災,東電原発事故などが現在も大きな爪痕を残している。その意味で,オウム真理教に対する予断・偏見が全面にでる裁判にはなるまい。それに,ここ数年の裁判員裁判の経験から,市民が法律家とともに冷静に証拠を評価し,厳正に量刑をおこなっている実績が積み上げられている。市民良識は,強靱であって,一過性のマスコミ報道に強く影響されることはない。
 市民の別のグループ,被害関係者は,今や傍聴席から法廷へと席を移し自ら刑事裁判の主体となっている。被害関係者の刑事裁判への参加の権利の発展する時期と一連のオウム真理教関連事件の裁判が進行する時期とも重なる。
 ただ,被害者が求める「真相解明」は,刑事裁判で解明すべき真実とはもともとずれる。
 しかも,オウム真理教関連事件では,麻原彰晃元教組が心を閉ざして久しい。教団の内実を解き明かすことは無理だ。
 それでも,まず,平田被告がなぜこの教団に属したのか,その理由と内部にいて感じたもの,一連のオウム真理教関連犯罪を内側からどうみていたのか,なぜ事件周辺にいることとなったのか,そして,今容疑を否認するにしても,では,主たる犯罪の容疑者ではないのに,17年間逃走を継続したのは何故か,その信念がなにか問い質したい。元教組あるいはオウム真理教の教義への帰依心があるのか,なぜ消えたのか。今は何を支えに活きているのか。今は,一連の事件についてどう受けとめているのか。こういったことも「市民」の目線でぜひ問い質してほしい。
 次に,3人の元教団幹部が,今はカルトの影響を離脱できたのか,それはどうしてか,今は一連の事件をどう思っているのか,市民が自ら問い質す最後の最良の機会としてほしい。
5 20世紀末に「狂気の犯罪」を招いた原因ー「人と人とのつながりの希薄化」ーこれが,21世紀日本社会にはもっと拡散している。個人がしっかりとした家庭基盤,地域基盤,社会基盤をもちながら,企業に属して労働に従事する健全な個人主義社会は,未確立のまま,「少子高齢化」という国家消滅のリズムに入っている。
 それだけに,20世紀末のオウム真理教教団による組織犯罪を一過性の特異な「カルト犯罪」などとして歴史の彼方に置き去りにすることはできまい。若者達を集めた集団が結果としては凶悪な犯罪に走ったことは,強く非難すべきだ。だが,その根底にある社会のありかたへの警鐘,この国の社会のあやうさ,もろさ,教組の命令を絶対と受けとめて行動する教団内部の精神構造が生まれた基板等など,これからの日本社会を考えるにあたり,真剣に解き明かすべきテーマは多い。。
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2014年01月10日

■「死刑囚」オウム真理教元信者達の証人尋問ー「密室裁判」か「公開法廷」か(下)

■「死刑囚、どこで証人尋問/検察『非公開』・弁護側『公開を』/オウム・平田被告の裁判」
朝日新聞2013/04/12(朝刊)
***引用***
 死刑囚を、公開の法廷で証言させるべきか――。オウム真理教元幹部・平田信(まこと)被告(48)の裁判員裁判を前に、そんな難題に対する議論が白熱している。猛反対する検察側に対し、裁判所や弁護側には公開の原則を重く見る考えが根強い。
 「検察が挙げている理由は抽象的すぎる。公開の原則に矛盾するどころか、理屈が乱暴だとさえ感じる」
 あるベテラン刑事裁判官が憤慨した。「検察の理由」とはいったい何か。
 平田被告は、1995年2月の東京・目黒公証役場事務長拉致事件など三つの事件に関与したとして、逮捕監禁罪などに問われている。初公判の日程は未定で、いまは裁判所と検察側、弁護側が、争点や進め方を整理している段階だ。
 平田被告は起訴内容を否認しているとみられる。事件への関与を証明するのに欠かせないとして、検察側はオウム元幹部の井上嘉浩(43)、中川智正(50)、林(現姓・小池)泰男(55)の各死刑囚の証人尋問を請求し、実施が決まった。場所は収容先の拘置所とし、非公開を求めた。
 理由はこうだ。(1)死刑囚は日ごろ外部との接触を厳しく制限され、死刑執行に向けて特別な環境で過ごしている。法廷で傍聴人らを見て、心情が乱されるおそれがある(2)拘置所なら移動する必要がなく、逃走や、教団関係者による身柄奪還のおそれがない――。
 ベテラン刑事裁判官が「乱暴」とかみつくのは、とくに「身柄奪還のおそれ」の点だ。「教団の動きがいまより活発だった時ですら、教団幹部の裁判はごく普通に公開の法廷で行われた。それを今、『奪還のおそれがある』と言われても説得力に欠ける」
 憲法は、裁判を公開の法廷で開くことを大原則としている。人が裁かれる行為は、誰の目からも見えるところで公正に行われるべきだとする考えからだ。市民が参加する裁判員裁判が導入され、より原則を大切にすべきだという意見は、裁判官を中心に多い。
 一方で、死刑囚の心情に配慮すべきだという声も根強くある。「刑執行を控え、死刑囚は毎日、極限の状態にある。外の自由な世界に触れたとき、自身の境遇とのギャップにどんな気持ちが芽生えるか分からない」(法務省幹部)
 そもそも死刑囚への証人尋問自体、極めて異例だ。70年代に起きた「連続企業爆破事件」の裁判で、東京地裁が99年、東京拘置所(東京都葛飾区)で実施した例などがある程度だ。このときは非公開だった。
 平田被告の裁判は、東京地裁が今後、検察側と弁護側の意見を聞きながら尋問の場所や方法を決める。弁護側は、憲法の原則に従って公開の法廷での尋問を求めていくとみられる。
 オウム関係者では、菊地直子被告(41)と高橋克也被告(54)も起訴されている。やはり、死刑囚の証人尋問が想定される。
 地裁関係者はいう。「平田被告の裁判でのやり方は先例になる。それを念頭に検討しなければならない」
■外の世界へ未練募らす
 <元裁判官の山室恵(めぐみ)弁護士の話> 1999年に裁判長として死刑囚の証人尋問を東京拘置所で実施したが、「心情の安定」を最優先にした。これは「裁判の公開」の原則を優に上回る。死刑は国家がやむを得ず行う殺人で、死刑囚が心を乱す事態はできる限り避けるべきだと考えた。証人として来ているのに、傍聴席から「人殺し!」などと言われるのは避けたい。また「外の社会」、つまり「生きることを許された人間の社会」への未練を募らせてほしくなかった。

■市民の下、被告人の権利
 <渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話> オウム事件からすでに長い時間がたち、テロや奪還の可能性はもはや考えられない。死刑囚の心情安定については、遮蔽(しゃへい)などの方法でケアできる。公開の法廷で、市民監視のもとで裁判を受けるのは被告人の権利。証人は法律家が支配する閉ざされた空間でなく、公開の裁判に出るからこそ、その責任感から真実を語ることが担保される。原則に従って、公開の法廷で証人に尋問し、真実を明らかにするべきだ
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2014年01月09日

■「死刑囚」オウム真理教元信者達の証人尋問ー「密室裁判」か「公開法廷」か(中)

■「平田被告の公判/オウム死刑囚尋問 公開へ/東京地裁/検察異議を棄却」
読売新聞2013/06/18(朝刊)
***引用***
 オウム真理教の目黒公証役場事務長拉致事件などで起訴された元教団幹部・平田信(まこと)被告(48)の公判前整理手続きが17日、東京地裁であり、斉藤啓昭(ひろあき)裁判長は、井上嘉浩死刑囚(43)ら元教団幹部の死刑囚3人の証人尋問を地裁の法廷で行うことを決めた。確定死刑囚が拘置所の外に出て、公開の法廷で証言するのは極めて異例。
 検察側はこれを不服として同日、地裁に異議を申し立てたが、棄却された。今後、最高裁への特別抗告も検討するが、地裁の判断が覆ることはないとみられる。
 公開法廷での尋問が決まったのは、井上死刑囚と中川智正(50)、小池(旧姓・林)泰男(55)両死刑囚。
 検察側は、平田被告が起訴された事務長拉致事件、東京・杉並のマンションで起きた爆弾爆発事件の立証のため、3人を証人申請。この際、「拘置所から出て傍聴人の目にさらされれば、死刑囚が精神的に不安定に陥るかもしれない」として、尋問は3人が収容中の東京拘置所で非公開で行うよう要望していた。
 しかし、斉藤裁判長は「現時点で、例外的に裁判所外で尋問する必要性が認められない」と判断し、検察側と弁護側に説明した。憲法は裁判を公開の法廷で行うと定め、特に刑事裁判の公開を求めており、この原則に基づいたものとみられる。平田被告の弁護人も、「傍聴席から見えないよう仕切りを置けば、精神的な安定を乱すとは考えにくい」として、公開での実施を求めていた。公判は裁判員裁判で年内にも始まる可能性が高い。
******
 ところで,公開裁判での証人尋問に反対する理由として,次のような見解を検察庁,法務省関係者がまともに議論しているのには驚く。
***引用(再)***
◆「教団 奪還する恐れも」 検察幹部ら反発 
 地裁の判断に対し、法務・検察は強く反発している。ある検察幹部は、「教団が、元幹部の死刑囚らを裁判所への移送や公判中に奪還しようとすることだって考えられる。尋問の公開が、こうした危険を超えて重要だとは思えない」と批判。別の幹部も、「判決を出すのに、必ずしも死刑囚の公開尋問が必要なわけではない。裁判所の姿勢は疑問だ」と話した。
 また、死刑囚の処遇を担う法務省矯正局の幹部は、「死刑囚が塀の外に出ると、諦めていた生きることへの執着が出て、心情が乱れることが予想される。尋問が終わっても、その後に逃げ出したり、拘置所職員の指示に従わなかったりした場合、裁判所が責任を取れるのか」と憤慨した。
******

◆識者にも反対論があるという。例えば,「地裁の判断に疑問」と題して,元最高検検事の奥村丈二・中央大法科大学院教授の話が引用されている。すなわち,「地裁の判断は、執行まで安らかに過ごすべき死刑囚の心情が乱されることやオウム真理教の危険性を考えれば、疑問が残る。裁判員が拘置所に出向く負担を考慮した可能性もあるが、裁判員が現場検証に同行した事例もあり、過度な配慮は必要ない。刑の執行にも責任を負う検察は、特別抗告して最高裁の判断を仰ぐべきだ」

・ブログ編者のコメントはシンプルだ。
◆裁判員制度に沿う
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話「平田被告の公判は裁判員裁判になる見通しで、地裁の判断は、裁判員や傍聴人ら一般市民に公開の法廷で分かりやすい審理を行うことを目指した制度の趣旨にかなう妥当なものだ。事件から18年経過したが、公開での尋問となれば、3死刑囚の責任感も高まり、記憶を喚起して証言することを促すだろう」
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2014年01月08日

■「死刑囚」オウム真理教元信者達の証人尋問ー「密室裁判」か「公開法廷」か(上)

■「オウム死刑囚の法廷尋問、背景に技術進歩/裁判員制度も影響」
 朝日新聞2013/06/18(朝刊)の記事のタイトルだ。
 これは,2013年の前半によく話題となったテーマのひとつである。
 死刑囚の証人尋問を公開の法廷で認めるべきか。
 さほど説得的な理由ではないが,東京拘置所とその意向を汲んだ東京地検は猛反対。なにかと秘密主義,官僚主義の価値判断が先に来る国なのでやむを得ないが,非常識だ。
 すこし検討しよう。
 
***記事引用***
 法廷か、拘置所か――。東京地裁は17日、オウム真理教元幹部・平田信被告(48)の裁判で死刑囚3人の証人尋問を公開の法廷で行うと決めた。拘置所での尋問を求めてきた検察当局は、懸念を隠さない。▼1面参照
 「死刑囚を見せ物のように扱っていいのか」。地裁の決定に、検察幹部は一様に批判を口にした。
 元最高検検事の土本武司・筑波大名誉教授(刑法)が解説する。「拘置所では日常的に死刑囚の心情を安定させ、内省を深めながら死を受け入れられるようにしている。今回の地裁の判断は妥当とは言えない」
 そうした指摘があってもなお、東京地裁が死刑囚の証人尋問を裁判所で行うことを決めた背景には、刑事裁判の大きな変化がある。
 同地裁は1999年、拘置所で死刑囚への尋問を行った。だが翌年、刑事訴訟法が改正され、裁判所内の別室と法廷をモニターでつなぐ「ビデオリンク」での尋問や、証人と傍聴席との間に壁を設けて視線をさえぎる措置が可能になった。一般的には事件の被害者に配慮したものだが、これらを死刑囚の証人尋問に適用すれば、検察側が主張する心情の安定が一定程度図れるうえ、警備もしやすい。
 4年前に裁判員制度が始まったのも大きい。法廷外の密室でつくられた調書よりも、第三者の監視のもと、公開の法廷で生の言葉を聞く「直接主義」「口頭主義」が大切にされる。
 あるベテラン判事は「各死刑囚がどうしても出てこられない具体的な理由があれば、検討の余地はあるだろう」と話した。
******

 ブログ編者のコメントは当然,公開裁判優先の考えだ。
 ましてや,証人尋問予定の名前を聞けば,彼らが,死刑囚としての心情の安定のためにも,公開法廷での証言をさせないほうがいいなどという国家権力の都合を押しつける手続の進め方に納得しようはずがない。それこそ,死に行く者の心情を大きく損なう取扱となる。新聞記事の限りでは,本人等とじっくりと話した形跡もない。「心情安定」の押しつけはするべきではあるまい。
 むろん,被告人の防御権の重視,裁判員裁判における公開主義の徹底なども重視するべきだ。
 また,元オウム真理教関係者によるものとでも想定するのか,本気でなのか,よくわからないが,証人尋問出廷の前後に,身柄奪回のおそれがあるという,荒唐無稽の憶測を出してまで,公開裁判を妨げようとする発想方法にはついて行けない。
 この記事では,次のコメントを付した。

■公開の場で証言、被告の重大権利
 <渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話> 東京地裁の判断は当然だ。公開の法廷で、裁判員だけでなく傍聴人も注視するなかで証言を聞くことは、被告にとってきわめて重要な権利だからだ。公開の場で裁判が進むことで、適正な手続きが担保される。裁判員制度のもとであれば、なおのこと、尋問を密室で行うのではなく、傍聴人がいる場で行うことが大切だ。今後、遮蔽(しゃへい)措置やビデオリンクの採用もあり得るが、まずは完全な公開を前提に検討すべきだ。

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2014年01月07日

■裁判員裁判の「死刑」,裁判官裁判の「無期」ー市民v.裁判官(下)

■「裁判員の死刑判決破棄/東京高裁が初/『前科重視は誤り』/強盗殺人に2審無期」四国新聞(朝刊)2013/06/21
裁判員裁判と死刑事件の関係について,引き続き検討する。
高裁が裁判員裁判の死刑判決を破棄した事件について,別の新聞は次のように紹介する。

***引用***
 妻子を殺した罪で服役を終えた半年後、強盗目的で男性を殺害したとして、強盗殺人などの罪に問われ一審で死刑を言い渡された無職伊能和夫被告(62)の控訴審判決で東京高裁は20日、「前科を重視し過ぎて死刑を選択したのは誤りだ」として、裁判員裁判の一審東京地裁判決を破棄、無期懲役を言い渡した。裁判員裁判の死刑判決が破棄されたのは初めて。2011年3月の一審判決は極刑を選択した理由を「2人を殺害した前科を重視すべきだ」としていた。
 村瀬均裁判長は判決理由で、前科を重視して死刑となった判例について分析。「多くは殺人や強盗殺人の罪で無期懲役となり、仮出所中に前科と似た強盗殺人罪を犯した場合だ」と指摘し「伊能被告の前科は口論の末に妻を殺し、無理心中を図って子どもも殺したケースで、今回の強盗殺人とは類似性が認められない」と述べた。
 その上で(1)今回の事件は被害者が1人(2)殺害を事前に計画しておらず、当初から殺意を持っていたわけでもない―ことから「前科を除けば死刑を選択できない事件」と認定。「裁判員と裁判官が議論を尽くした結果だが、破棄は免れない」と結論付けた。
******
 「被告が不在のまま、市民の判断を覆す判決が言い渡された。裁判員裁判で死刑とした一審判決を破棄した20日の東京高裁判決。2年前の一審で黙秘を貫いた伊能和夫被告(62)はこの日も姿を見せず、裁判長の乾いた声だけが法廷に響いた」という。
***引用***
 冒頭、村瀬均裁判長は「被告は来ませんね」と弁護人に確認した後、眼鏡を掛け替え、手元の紙に視線を落とした。数秒間の重苦しい沈黙。「原判決を破棄する」。傍聴席がざわついた。
 言い渡しは30分余り。閉廷後、弁護人は取材に対し、極刑が回避されたことには納得の表情を浮かべつつも「理性的な判断だが、被告は犯人ではない、と主張しているので上告すると思う」と表情を引き締めた。
******
 なお,弁護側は「殺害していない」と無罪を主張しており、上告する方針という。

***引用***
「肩の荷下りた」裁判員務めた女性
 「肩の荷が下りた」。伊能和夫被告(62)に死刑判決を言い渡した東京地裁の裁判員裁判で、裁判員を務めた50代の女性は、20日の控訴審判決が死刑を破棄して無期懲役としたことを聞き、安堵(あんど)の言葉を漏らした。
 女性は一審判決後、伊能被告が控訴したことを知り、東京高裁の判断が気になっていたという。「これまで重い荷物を背負っていた気分だったので、少しほっとした」と話した。
 一方で「死刑判決は他の裁判員や裁判官と納得がいくまで悩みに悩み抜いて出した結論。あれはなんだったんだろう、とも思う」と複雑な心情も明かした。
******

・この記事は共同通信配信で,各地の地方紙などで掲載されているが,ここでは四国新聞を引用することとする。同記事の中で,編者は次のコメントを寄せた。

■裁判員の量刑尊重すべき
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話 東京高裁がプロの裁判官独自の量刑感覚を基準にして一審の死刑判決を破棄したのは不当だ。市民が殺人の前科のある被告に対し、人の命を軽視する姿勢や黙秘して事件への真摯(しんし)な反省や更生への気持ちを示さない態度を踏まえ、犯罪の残虐さや突発的といえないことも考慮して死刑を選択したのは妥当であった。経験則・合理則に明らかに反する量刑判断の不当さを指摘できないのであれば、控訴審は裁判員裁判の量刑を尊重すべきだった。
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2014年01月06日

■裁判員裁判の「死刑」,裁判官裁判の「無期」ー市民v.裁判官(上)

 裁判員裁判制度の導入に伴い,市民が,市民に死刑を宣告する難しさがクローズアップされている。
 まず,こんなことがあった。

○「死刑に高裁が歯止め/裁判員判決破棄/先例重視踏まえる」
東京新聞(朝刊)2013/06/21
 
 この事件の経過を照会する。被告人は,1988年11月に千葉市内の自宅で妻=当時(36)=を刺殺した。さらに自宅に火をつけて娘=同(3つ)=を焼死させた。この事件で,千葉地裁は翌年11月、懲役20年を言い渡した。
 被告人は,2009年5月に服役を終え出所したが,同年11月に東京・南青山のマンションに侵入し、飲食店経営五十嵐信次さん=当時(74)=の首を包丁で刺し殺害した。
 この事件について,裁判員裁判となり,東京地裁は11年3月、死刑を言い渡した。
 ところが,裁判員裁判の死刑選択を,高裁が覆した。
 まず,記事を引用する。

***引用***
 強盗殺人罪に問われた伊能和夫被告(62)に死刑を言い渡した裁判員裁判の判決を破棄し、無期懲役とした二十日の東京高裁判決。これまで裁判員の「市民感覚」を尊重する立場を取ってきた司法だが、死刑という究極の刑罰を適用する場面で、行きすぎに歯止めを掛ける姿勢を示した。
 一、二審が割れたのは、伊能被告が過去に妻子を殺害し懲役二十年に服した前科に対する評価の違いから。一審は「二人の人生を奪った前科がありながら、強盗目的で被害者の生命を奪ったことは刑を決める上で特に重視すべきだ」と断じた。
 今回の高裁判決は「夫婦間の口論の末の無理心中であり、更生の可能性がないとはいえない」と指摘。「一審は前科を重視しすぎだ」と破棄の理由を示した。裁判員裁判で死刑判決が出た十九件のうち、二審で破棄されたのは初めてだ。
 裁判員制度の導入以降、一審尊重の傾向は明確だ。刑事裁判の控訴審で、量刑不当を理由に一審を破棄した割合は、制度導入前は5・3%だったが、導入後は0・6%に。
 ただ、この流れに反する今回の判決が出る素地はあった。最高裁の司法研修所は昨年七月、過去の死刑判決を分析した量刑評議に関する報告書を公表。死刑判断では先例を尊重すべきだと提言した。
 過去の裁判例では、被害者が一人の場合、無期懲役の仮釈放中だったり、私利私欲が動機の場合に死刑となったりする傾向が強かった。前科が有期刑だった伊能被告は明らかに違っていた。
******

■ 関係者のいろいろなコメントが興味深い。記事からまとめる。
 ○一審で裁判員を務めた男性ー「自分たちは評議を尽くしたが、プロの目で見て違った結論が出たのなら、それを受け止めたい」。
 ○原田国男・元東京高裁判事ー「死刑は他とは違う絶対的な刑だから、裁判員裁判を単に尊重するのではなく、必要なら見直すことも求められる」。
 ○伊能被告の裁判をほぼすべて傍聴した男性ー「死刑判断は慎重の上にも慎重を重ねるべきで、プロによる今回の判断は市民にとっても参考になる」。
 ○一審で無期懲役となった事件で裁判員を務めた別の男性ー「プロだけの判断で変わってしまうのなら市民参加の意味がないのでは」。

・ブログ編者のコメントは次の通りである。
■裁判員量刑尊重を
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話 東京高裁がプロの裁判官独自の量刑感覚を基準にして一審の死刑判決を破棄したのは不当だ。経験則・合理則に明らかに反する量刑判断の不当さを指摘できないのであれば、控訴審は裁判員裁判の量刑を尊重すべきだった。
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2014年01月01日

■ある放火殺人事件の顛末ー21世紀が少し進んだ時代の,刑事裁判

●記事をふたつ引用する。
■1:「起訴できる証拠ない」/富山殺人放火/加野元警部補/焦る地検/捜査継続/25日に別件判決/釈放も」
北日本新聞2013/07/19(朝刊)
***引用***
 2010年4月、富山市大泉の会社役員夫婦が殺害され住居に放火された事件で、殺人などの容疑で逮捕、送検後、2カ月近く処分保留が続く加野猛元県警警部補(54)について、富山地検の幹部は18日、北日本新聞社の取材に対し「現時点では起訴できるだけの証拠がない」と述べた。元警部補が別に問われている地方公務員法(守秘義務)違反罪の判決が出る25日まで1週間を切った。判決は執行猶予が付く可能性が高く、地検が同日までに殺人罪などで起訴しなければ、元警部補は判決後に即日釈放される見通しで、地検は焦りの色を濃くしている。
 県警の捜査関係者によると、加野元警部補は殺人などの容疑を「30年以上の付き合いの積み重ねでやった」と認めたが、凶器のひもや、現場から持ち去った可能性がある被害者の財布、週刊誌「週刊文春」に送ったとされる犯行声明文入りのCD―Rが作成されたパソコンなどは見つかっていないという。
 地検は先月26日、亡くなった福田三郎さん=当時(79)=、妻の信子さん=同(75)=の遺族に対し「(元警部補の)供述が重要な証拠と矛盾している」と説明。有力な証拠が乏しいとされる中、県警と連携して捜査を続け、上級庁の名古屋高検とも協議を重ねるが、起訴の可否の判断にはなお踏み切れない状況だ。地検幹部は「今の状態(処分保留)がいいとは思っていない。一日も早く処分を決めるため鋭意、捜査を続けている」とこれまで通りの説明を繰り返した。
******
■2:「遺族が検審申し立て/富山・殺人放火/『市民目線で判断して』」
北日本新聞2013/08/03(朝刊)
***引用***
 2010年4月、富山市大泉の会社役員夫婦が殺害され住居に放火された事件で、遺族が2日、殺人容疑などで逮捕された加野猛元県警警部補(54)を嫌疑不十分で不起訴とした富山地検の処分を不服とし、富山検察審査会(富山市)に審査を申し立てた。その上で富山市の県弁護士会館で記者会見し、「遺族全員が地検の処分に強い憤りを覚えている。事件を市民の目線で判断してほしい」と訴えた。 【関連記事33面】
 検審の議決によっては、元警部補が強制起訴される可能性もある。最高裁によると、強制起訴となる起訴議決が出た事件はことし6月末までに全国で11件あるが、殺人事件では例がない。
 申し立てたのは、殺害された福田三郎さん=当時(79)=と妻の信子さん=同(75)=の遺族5人で、4人の子と娘の夫1人。申立書では、元警部補は昨年12月に殺人容疑などで逮捕された際に容疑を認め、事件当時のアリバイもなかったため事件への関与は明らかとしている。福田さんの娘の夫は会見で、「検察から不起訴処分の理由を説明されたが、納得いかないことばかり。突っ込んだことも教えてもらえなかった」と、申し立てに踏み切った理由を説明した。
 また、県警と地検に対し、元警部補を取り調べた際の録画映像を検審に提出するよう求めた。さらに、週刊誌に届いた犯行告白文入りのCD―Rに関し、新たに懸賞金を出して情報を集める考えも示した。元警部補は自宅のノートパソコンでCD―Rを作成したと供述したとされるが、地検は供述とデータに食い違いがある点を不起訴処分の理由の一つに挙げていた。
 元警部補は7月25日、別の地方公務員法違反事件で富山地裁から執行猶予付き判決を言い渡され、釈放された。
******

●編者のコメントを二つ引用する。

■1:「元警部補を不起訴/富山・殺人放火/識者コメント/やむを得ない判断/渡辺修甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)」
◇北日本新聞(朝刊)2013/07/25
 渡辺修甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法) 供述を客観証拠で支えられない上、自白も揺らいでいる状況では、裁判員裁判で市民の裁判員を納得させるのは無理だ。地検の不起訴処分はやむを得ない。また、疑わしい人物を逃走や証拠隠滅を防ぐために逮捕するのは捜査上必要なことで、逮捕自体に問題があったとは思わない。ただ、初動捜査の証拠収集などが十分だったのか疑問は残る。

■2「富山・夫婦殺害/元警部補不起訴へ/検審申し立ても」
◇産経新聞(夕刊)2013/07/24
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話「犯人性を立証できるなら起訴したはずだが、積極的に矛盾するか、あるいはあるべき証拠が欠けている状況と推測される。殺人罪で起訴すれば裁判員裁判となるため、合理的疑いを残さずに裁判員を説得できないと地検は分かっているのではないか。今後は遺族が検察審査会に不服申し立てをし、市民の目で検察の処分の当否が判断されることになるだろう」

●2014年。21世紀が1割4分進んだ今。2014年1月1日。
 歴史的にはどんな状況と説明すべきなのだろうか。
 このブログでは,「刑事裁判」というニッチな世界を基本視点にして,「世界,日本,歴史,文化,政治,経済」を観察し,コメントを続けてみたい。

 さて。

 富山の元警察官を犯人と疑う事件の行方。警察捜査を検察がどうみるのか。
 市民参加型の検察審査会=公訴権行使の監視と代替(基礎強制権限行使)ができる機関の働き具合は,21世紀刑事司法,そして我が国社会のこれからを占う「市民主義」の先行きを探る格好のバロメーターだ。

 今後とも,注目して行きたい。

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2013年12月21日

■起訴状の記載ー被害者のプライバシー保護と被告人の防御の利益

■「性犯罪やストーカー事件――匿名起訴状、司法手探り(フォローアップ)」
 日経(朝刊)2013/10/14は,上記の表題で,性犯罪などについて,起訴状に被害者の氏名など被害者特定事項を記載すべきか,問題にする。これを認める利益はある。なによりも被害者のプライバシーの保護だ。次に,氏名が広がることによる二次被害の危険性だ。さらに,犯人からの復讐や再度の攻撃の危険さえある。他方,被害者が特定されていなければ,防御に支障がである。被害のでっち上げ,誇大化などえん罪の温床になる。
 記事は,次のように述べる。
****以下,引用*****
 東京地裁で9月11日、強制わいせつ罪に問われた被告の公判が開かれた。女児が公園のトイレに連れ込まれ、被害に遭った事件。検事は女児の実名を伏せ、母親の氏名と続き柄を記した起訴状を提出した。
 地検は5月に起訴した際、「被告がトイレに連れ込んだ児童」との表現にとどめた。「加害者は見ず知らずの男で、実名を明かせば二次被害の恐れがある」というのが理由。しかし、地裁は氏名の記載を要請。検察幹部は「譲歩しなければ公判打ち切りの可能性もあった」と打ち明ける。
****************

 実際にも,実害の事例もある。「・・・検察は従来の原則を変えた。昨年11月に起きた神奈川県逗子市のストーカー殺人事件も要因の一つ。警察が別事件で元交際相手の男を逮捕する際、逮捕状に記載した被害者の氏名などを読み上げたことが、後の惨劇につながったとされる」と記事は続く。
 最高裁は,記事によると,今年9月中旬、埼玉県和光市の司法研修所に約20人の刑事裁判官を集め、「再被害の恐れが高い例外的な場合は匿名の必要性が高くなる」との意見で一致したという。

 このテーマについてさしあたり,上記記事に次のコメントを掲載した。

■渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「起訴状の記載内容にとどまらず、公判全体を通じた被害者の権利への配慮が必要」と指摘。「被告の防御のため、被害者の実名が不可欠か否かは事案によって異なる。裁判所と検察、弁護人が事例を積み重ねながら、今後のルール作りを進めていくべきだ」としている。
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2013年12月18日

■名張ブドウ酒事件のてんまつー冤罪救済の道を閉ざす最高裁

◆名張ブドウ酒事件の再審の最近の動きは次のようなものだ。
2005年 4月5日、名古屋高裁(第1刑事部・小出ロ一裁判長)が再審開始を決定した。同時に死刑執行停止   の仮処分が命じられた。
   12月26日に名古屋高裁(第2刑事部・門野博裁判長)が再審開始決定を取り消す決定を下した(死刑   執行停止も取り消し)。 
2010年 4月 5日,最高裁は,決定で、犯行に用いられた毒物に関し「科学的知見に基づき検討したとはい   えず、推論過程に誤りがある疑いがある。事実解明されていない」と指摘し、再審開始決定を取り消   した名古屋高裁決定を審理不尽として破棄し、審理を名古屋高裁に差し戻した。
2012年 5月25日、名古屋高裁(下山保男裁判長)は『捜査段階での被告人の自白に信用性が高い』と看做   し、検察側の異議申立てを認めて本件の再審開始の取り消しを決定。
2013年10月 16日、最高裁判所第1小法廷(桜井龍子裁判長)は名古屋高等裁判所の再審取り消し決定を支   持し、第7次再審請求にかかる特別抗告について棄却する決定を下した。
2013年11月 5日、弁護団が名古屋高裁へ第8次再審請求を申立。

以下は,10月16日の最高裁の再審開始を否定した決定に関する記事とコメントである。

■讀賣新聞平成25年10月18日付け(中部,朝刊)は「名張毒ぶどう酒・最高裁決定 農薬巡り激しい科学論」として,次の記事を掲載した。

*******以下,引用********

  第7次再審請求で焦点となったのは、捜査段階で奥西死刑囚が使用したと自白した農薬「ニッカリンT」を巡る科学論争だった。
 2002年4月に始まった再審請求で、弁護側がニッカリンTの鑑定結果など5点を新証拠として提出。名古屋高裁刑事1部は05年、毒物がニッカリンTでなかった疑いがあると判断するなど、3点を新証拠と認め、再審開始を決定。しかし、同高裁の別の裁判部での異議審は、3点の証拠がいずれも無罪を裏付ける証拠と認めず、決定を取り消した。
 続く特別抗告審では、弁護団、検察側双方が学者の意見書などを提出し、激しく争った。このため、最高裁は10年、「科学的知見に基づく検討をしたとはいえず、いまだに事実は解明されていない」とし、審理を差し戻した。
 差し戻された名古屋高裁では、製造中止となっていたニッカリンTをメーカーに製造させ、成分を分析する新鑑定を実施。その結果を基に、高裁は昨年、使用された毒物をニッカリンTだと認め、自白には信用性があると判断していた」。
***
 この事件に関して,次のコメントを掲載した。

 ◆真相解明の機会奪う 
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話「奥西死刑囚が犯人であることに合理的な疑いが残っていると感じられ、真相解明が優先されるべきだ。そのためにも再審を行って証拠を検討する機会を持つ必要があると思うが、今回の最高裁決定はその機会を奪ったもので評価できない。最高裁が再審開始のハードルを高くして、その道を閉ざしている」
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2013年12月17日

■児童虐待を疑われる事件と防止への道

 和歌山市のある会社員は平成25年7月、自宅で長男(2才)の頭に複数回暴行し、死亡させたとして逮捕された。児相は昨年2月から長男を乳児院に入所させていたが、面会や外出、外泊を計65回重ね事件の約2週間前に自宅に戻していたという。下記記事の段階では,父親は一貫して容疑を否認しているという。
 以下,新聞記事を引用し,編者のコメントを転載する。

■「不起訴の説明/児相になく/傷害容疑2件/父に疑念も帰宅判断/和歌山」
2013/11/05 大阪読売新聞 朝刊 39ページ 1740文字 書誌情報
 ◆防げなかった2歳虐待死    
 和歌山市で起きた男児虐待死事件では、児童相談所(児相)は父親の虐待を疑いつつ、保護していた男児(長男)を家に戻した。2年前、長男への二つの傷害容疑がいずれも不起訴(起訴猶予)になった父親について、その理由は和歌山地検から伝えられておらず、児相関係者は「(父親らに)『潔白』と受け止められ、故意の虐待との認識を持たせられなくなった」と明かす。それでも、面会などを重ねて最終的に帰宅を決めた児相、そして捜査機関が「危険性を認識できた」との事実は消えない。事件を防ぐことはできなかったのか。
 「(死亡という)結果なので判断が甘かったと言われれば致し方ないが、(帰宅させた判断が)間違いと言われるとすれば残念だ」
 父親が傷害致死容疑で逮捕された先月23日、和歌山県子ども・女性・障害者相談センター(児相)の巽清隆所長は記者会見で、結果責任の重大さを認めつつ、家族関係の修復を図った対応への苦悩をにじませた。
 父親は2011年11〜12月、長男の右の太ももを踏んで骨折させたり、顔に肩を打ち付けたりして負傷させたとして逮捕、再逮捕されたが、地検はいずれも起訴猶予とした。
 起訴猶予は「罪を犯した事実は認定できるが、起訴するほどの悪質性がない」などの場合の処分で、同じ不起訴でも証拠が足りない嫌疑不十分などとは異なる。傷害容疑は、児相が県警に通報したもので、児相関係者によると、捜査機関から処分結果の連絡はあったが、理由説明はなかったという。
 児童虐待問題の専門機関「子どもの虹情報研修センター」(横浜市)の川崎二三彦研究部長は「虐待の容疑での逮捕者が、起訴猶予とはいえ不起訴になると、その者を含む保護者側は無罪と受け止め、虐待の改善を求める児相の立場は弱くなる。不起訴理由を詳しく知ることができない児相は、疑問を抱えたままの対応を迫られるのが現状」と話す。

◆「捜査情報の共有 法整備を」 
 甲南大法科大学院の渡辺修教授(同)は「起訴猶予がどうかではなく、児相が起訴猶予を甘く捉えすぎたのではないか」と話す。児相は今回、厚生労働省が家庭復帰の判断材料とする項目の中で「(保護者が)虐待の事実を認め、問題解決に取り組んでいる」について、「当てはまらないが、総合的に帰宅を認めた」とした。渡辺教授は「家庭に戻す判断はもっと厳しくすべきだ。ただ、不起訴理由が児相に伝えられる場があってもいい」とする。
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2012年12月30日

■尼崎連続不審死事件(1)ー「公訴提起」/「公訴棄却」

(1)
 「公訴提起」。
 2012年12月27日、朝日新聞(朝刊)は、「殺人でSNR容疑者ら起訴/尼崎連続変死、計6人」と題する記事で、すでに自殺したS・M元被疑者(自殺時、64才)周辺で起きた一連の変死事件のうち、尼崎のマンションで監禁、衰弱死させたH・Jさんの事件で、親族等6名を殺人と逮捕監禁の事件で起訴したと報じている。
 「公訴棄却」。
 2012年12月26日、朝日新聞(朝刊)は、「M被告の公訴棄却決定/尼崎連続変死、神戸地裁」とする記事を載せる。こちらは、一連の事件の主犯と思われるS・Mが県警本部の留置場で自殺したため、すでに起訴されていた死体遺棄罪などの刑事裁判について、これ以上は被告人が不在となるので「手続打切り」を宣告したことを報道する。

(2)記事を引用して、事件を照会する。「起訴状によると、6人は共謀し、昨年7月25日ごろ、集団生活をしていた尼崎市内のマンションのベランダに設置された物置にHさんを閉じ込め、両手足を手錠や丸太、ロープなどで拘束したうえ、粘着テープで口をふさぎ飲み水や食事を与えず、蹴るなどの暴行を加えて衰弱させ、同27日に殺害したとされる」。「Hさんの遺体はドラム缶に詰められて岡山県備前市の海に遺棄され、今年10月になって兵庫県警の捜索で海中から見つかった」。

 (3)「真相解明」/「真相不解明」
 21世紀が始まって10年すぎたときに発覚した異様な犯罪。
 その意味について、以下何度かいくつかの視点で捉えてみたい。

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2012年12月23日

■PTSDと傷害ー犯罪被害の拡大

■「わいせつ事件後/被害者発症/パニック障害は「傷害」/支援団体「画期的」/拡大解釈に危惧も」
 ○山陽新聞(朝刊)2012/09/29
 パニック障害が刑法上の「傷害」に当たると認めた28日の岡山地裁判決。被害者の内面の苦しみをくみ取った判断といえ、司法専門家や犯罪被害者支援団体は「妥当、画期的」と捉える。一方で「あらゆるケースに適用されかねない」と拡大解釈を危ぶむ声もある。
 公判で検察側は、被害者の主治医を証人尋問。パニック障害の診断は世界保健機関(WHO)の基準に沿い、発作の程度は強く頻度も多かった―と主張。裁判員は会見で「心の傷は体の傷と同じ」と“判断理由”を明かした。
 □刑事裁判に詳しい渡辺修甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「本質を捉えた妥当な判決」と評価。「司法は被害者の精神的な傷を軽んじてきた。因果関係が証明される場合、量刑にも反映すべき」と言う。
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2012年12月21日

■鳥取連続不審死事件(4/END)ー公判前整理手続と「黙秘権」行使の段取り

■「裁判長/弁護側に苦言/検察側/方針変更説明求める=鳥取」
 ○読売新聞(朝刊)2012/10/31
 男性2人を殺害したなどとして、強盗殺人罪などに問われた鳥取市の元スナックホステスU・M被告(38)の30日の裁判員裁判は、地裁(○○裁判長)で検察側がU被告に黙秘の理由などを質問するとともに、弁護側に黙秘に至った経緯の説明を求める異例の展開となった。
 ◇  
 検察側は、2件の強盗殺人事件について、弁護側が犯人と主張する元同居人の男性元会社員(49)=詐欺罪などで服役し、出所=との関係などを質問。「弁護側は元会社員が犯人だとするが、証拠はあなたの話しかないのでは」「あなたの言い分を述べなくていいのか」などと、U被告の反応を確かめながら問いただしたが、U被告は沈黙を守ったままだった。
・・・
 □甲南大の渡辺修教授(刑訴法)は「弁護側が被告の供述を基に立証を計画していたとすれば、急に黙秘に転じたことは理解に苦しむ。黙秘権そのものに対する不信感を強めることになるのではないか」と危惧する。
 一方で「弁護側の訴訟戦術と黙秘権の行使については切り離して考えるべきだ。質問に答えなかったことで、裁判員が悪い心証を持つことを防ぐためには、検察側質問は禁止されるべきだった」と話している。

■「U被告、黙秘貫く/検察の60問に答えず/鳥取連続不審死事件【大阪】」
 ○朝日新聞(夕刊)2012/10/30
 鳥取連続不審死事件で強盗殺人などの罪に問われた元スナック従業員U・M被告(38)の裁判員裁判の第16回公判が30日、鳥取地裁で開かれ、被告人質問があった。U被告は検察側の約60の質問に一切答えず、黙秘。このため午前10時過ぎから始まった被告人質問は、午後5時までの予定が大幅に繰り上がり、約40分間で終了した。
 検察側は、2009年に鳥取県内の海と川で、睡眠導入剤を飲ませた男性2人をおぼれさせて殺したとされる強盗殺人事件について質問。事件当時の同居人で、弁護側が公判で「真犯人」と名指しした元自動車セールスマンの男性(49)の証言に基づき、犯行現場近くでの様子などを矢継ぎ早に問いかけた。検察側は「事実と違うとあなた自身の言葉で述べなくてもよいのか」などと再三、供述を求めたが、U被告は一切、応じなかった。また、「真実から逃げているだけではないか」などの質問に対しては、弁護側が「検察官の意見にすぎない」と反論。○○裁判長も質問を制止し、やりとりのないまま終了した。最後に、裁判長が「裁判所からの質問にも黙秘しますか」と尋ねると、U被告は小声で「はい」と答え、うなずいた。

 □甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は、「黙秘権は、市民が有罪の疑いをかけられたときに自分を守る手段。黙秘の姿勢を表明している被告に検察からの質問を許しては、裁判員に『印象有罪』の心証を与えてしまう。黙秘権の侵害と言え、避けるべきだった」と指摘。「真犯人を名指しするなら、ある程度裏付けできる証拠を出す必要があった。裁判員も戸惑うのではないか」と話した。

■「(とっとりQ&A)連続不審死事件で黙秘権行使/憲法保障、刑事裁判の根幹/鳥取県」
 ○朝日新聞(朝刊)2012/11/05
・・・
 Q 鳥取連続不審死事件で、裁判員裁判が続いてるね。そもそもどんな事件だっけ?
 A 2009年、北栄町沖の日本海と鳥取市内の摩尼川で、男性2人の水死体が見つかって、遺体から睡眠導入剤の成分が検出された事件だ。被害者2人に借金などをしていた、元スナック従業員U・M被告(38)が、強盗殺人罪で起訴されている。
 Q もっとたくさん亡くなった人がいた気もしたけど……
 A 一時は、U被告の周辺の男性6人が不審死した疑いが浮上したからね。でも、2人以外について県警は、自殺や病死などと断定した。それでも、2件の強盗殺人罪と、16件の詐欺などの罪で起訴されており、県警史上最大の事件とも言われたよ。
・・・
 Q 被告は事件についてどう話しているの?
 A 捜査段階で強盗殺人について完全に黙秘していて、裁判で何を語るのか注目されていたんだ。弁護側は初公判で、U被告は無罪で、当時同居していた男性(49)が「真犯人」と主張したんだけど、被告人質問の直前になって、「被告は黙秘権を行使する」と明らかにしたんだ。
 Q 黙秘権?
 A 憲法にも保障された、供述を拒む権利だ。甲南大法科大学院・渡辺修教授(刑事訴訟法)は、「市民が自分を守るのに不可欠で、刑事裁判の根幹をなす権利」と説明しているよ。
 Q でも何にも説明せずに黙っちゃっていいの?
 A 確かに、「一般の人は『自ら弁明することから逃げた』という印象を抱いてしまう可能性がある」と危惧する意見もある。でも、今回の裁判で、○○裁判長は、「黙秘権の行使は被告の権利」と強調。質問した検察官にも配慮を求め、裁判員に理解を促したよ。
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2012年12月20日

■鳥取連続不審死事件(3)ー裁判員裁判と「黙秘権」

■「【沈黙】鳥取連続不審死、判決へ(下)長期日程、難しい事実認定」
 ○産経新聞(朝刊)2012/12/01

産経新聞は、被告人が「黙秘」した事実に焦点をあてる。裁判員が居る法廷で、事件についてなにも語らない選択をすることの意味。「黙秘権」として保障されるべき状態が、実際にもつ効果、、、。どうみるべきか。記事を紹介し、採用されたコメントを掲載して、考える材料にしたい。

*********

 ■裁判員心身に負担重く
 「本当にこの法廷で何も話さなくていいのか」
 10月30日。鳥取地裁で行われた被告人質問で、検察官がいくら追及しても証言台のY・M被告(38)は微動だにせず、裁判員らは一様に困惑した表情を浮かべた。
 公判を通じて「ほぼ完黙」だったU被告。被告人質問に一切答えないというのは、弁護側ですら公判前には想定していなかった事態だった。
・・・
 弁護側は9月25日の初公判で、事件当時にU被告と同棲(どうせい)していた元会社員の男性(49)が真犯人だと主張し、被告本人が法廷で何を語るのかに注目が集まった。公判前整理手続きでも弁護側は黙秘の意向を示していなかった。
 ところが被告人質問直前の10月25日、「現時点の証拠関係だけで弁護人が求める結論を得るのは十分だと判断している」と黙秘を突然表明した。
 検察側の被告人質問は実施されたが、約40分間にわたる60項目以上の質問に、U被告はひと言も答えなかった。結局、法廷でU被告が肉声を発したのは、初公判の罪状認否と最終意見陳述での「私はやっていません」だけだった。
 裁判の争点で検察側と弁護側の主張は大きく異なっており、裁判員にとって、ただでさえ事実認定は難しい。さらに75日間という過去2番目の長さの任期の末、死刑求刑事件を審理するとあって心身ともに重い負担がのしかかる。
 ただ、黙秘権は憲法や刑事訴訟法で定められた刑事被告人の権利でもある。
 平成10年に起きた和歌山毒物カレー事件の公判では、H・M死刑囚(51)が検察側の被告人質問に対して約2時間にわたり沈黙したが、死刑を宣告した1審判決には「黙秘は一切、事実認定の資料になっていない」と明記された。

 □鳥取のケースについて、甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「プロではない裁判員は被告に悪印象を持つかもしれないが、黙秘が不利益に扱われてはならない」と懸念。・・・

 「否認でも何でも、被告本人の言葉を聞いて判断したい気持ちがあった」
 殺人事件での裁判員の経験がある大阪府内の無職男性(68)はこう話す。自らの場合、被告は黙秘したわけではなかったが、「ひとつでも多く判断の材料がほしいというのが裁判員の心理だ」という。
 別の殺人事件で裁判員を務めた会社員の女性(26)も、鳥取の事件について「素人である裁判員にとって裁く相手が黙ってしまうのは苦しい。求刑が死刑ならなおさら。どうしていいか分からなくなり、結局は裁判官に頼ると思う」と重圧の大きさを吐露した。
 裁判員制度は、法律で「必要があれば見直す」とされた施行後3年が経過した。鳥取の事件は、難解な事件を裁判員裁判でどう扱うのか、今後の検討に影響を与えそうだ。
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2012年12月19日

■鳥取連続不審死事件(2)ー2人強殺事件と死刑判決

■「裁判員/至難の判断/U被告あす判決/状況証拠「合理性」カギ=鳥取」
 ○読売新聞(朝刊)2012/12/03
 ◇75日裁判・連続不審死事件
 鳥取連続不審死事件で、男性2人を殺害したなどとして、強盗殺人罪などに問われた鳥取市の元スナックホステスU・M被告(38)の裁判員裁判の判決が4日午前11時から、地裁(○○裁判長)で言い渡される。U被告は犯行を否認する一方、検察側は状況証拠の積み重ねで死刑を求刑。評議には6人の裁判員が参加するが、専門家からは「プロの裁判官でも判断が難しいケース」と指摘されている。有罪・無罪などの判断を巡る基準やルールはどのようなものなのか。・・・
 ■ルール 
 裁判員裁判の判決では、裁判官と6人の裁判員が同じ1票を持ち、有罪か無罪かを決める。原則として、過半数となる5人以上の決定で、有罪か無罪を判断する。だが、プロである裁判官3人全員が同じ判断をした場合、多数決が適用されない例外的なケースとなる。裁判員裁判の評議では、いずれかを判断した5人以上の中に、少なくとも裁判官1人が含まれることが条件となっているからだ。
 □甲南大の渡辺修教授(刑訴法)の話「供述や証拠が検察側ストーリーと矛盾しないだけで、証明が十分としてはならない。状況証拠については、裁判員らは最高裁判例にのっとり、冷静に各証拠を評価することが求められる」
■「連続不審死初公判/識者に聞く/審理計画/裁判員に配慮=鳥取」
 ○読売新聞(朝刊)2012/09/27
 男性2人を殺害したなどとして、強盗殺人罪などに問われた鳥取市の元スナックホステスU・M被告(38)の裁判員裁判。25日の初公判では、U被告を犯人とする検察側と、事件当時にU被告と同居していた男性元会社員(48)とする弁護側の主張が真っ向から対立した。裁判員は、状況証拠を基に有罪か無罪、有罪の場合は死刑も含めた量刑判断を迫られる。プロでも事実認定が難しい裁判を識者はどう見るのか聞いた。
・・・
 □状況証拠による有罪認定については、大阪の母子殺害事件の上告審(2010年)で最高裁が下した無罪判決での「状況証拠によって認められる事実の中に被告が犯人でなければ合理的に説明できないものがあることを要する」という点が基準となる。
 こうした点を踏まえ、甲南大の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「検察側の証拠と説明に矛盾がなければそれでよいという『必罰主義』に陥ってはならない。裁判員は、犯人と認定せざるを得ない事実があるのかという判例上の厳格な観点から判断するべきだ」と指摘する。

■「(熟議の75日/鳥取連続不審死事件裁判)初公判/遺族「真実を話して」/鳥取県」 ○朝日新聞(朝刊)2012/09/26
 「県警史上最大」とも言われる鳥取連続不審死事件で、2件の強盗殺人罪などに問われた元スナック従業員U・M(***)紀被告(38)に対する裁判員裁判の初公判(○○裁判長)が25日、鳥取地裁であった。強盗殺人罪について、U被告は「私はやっていません」と、否認した。判決は12月4日。初公判の1日を追った。
・・・
 □「犯人適合事実」に沿って精査を
 <渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話> 裁判員裁判は、乏しい証拠によって被告を犯人だと説明づけるための制度ではない。検察官が法廷で示す証拠では被告が犯人であるということに疑いが残るのであれば、割り切って無罪とすることこそ求められる。
 裁判所は今、「被告が犯人であれば矛盾しない」という基準より厳格な、「被告が犯人でなければ説明のつかない事実が、間接証拠に含まれることが必要」とする「犯人適合事実」のルールを適用して判断している。
 本件でも、裁判長は裁判員に「疑わしきは被告人の利益に」に加え、このルールを説明し、それに沿って証拠を精査しなければならないし、弁護側もその点を指摘するべきだ。
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2012年12月18日

■鳥取連続不審死事件(1)ー間接事実のつみあげと「合理的疑い」

□1:2012年12月4日、いわゆる「鳥取連続不審死」事件に対する判決公判が開かれた。
 鳥取県を舞台に、債務の返済を免れるために知人男性2人を殺害したなどとして、強盗殺人罪などに問われた鳥取市の元スナックホステスU・Y被告(38)の事件である。
 裁判員と裁判官は、検察官の求刑通り死刑を宣告した。
 U被告は、2009年4月、トラック運転手・Yさん(当時47歳)に睡眠導入剤などを飲ませ、鳥取県北栄ほくえい町沖の海岸で水死させて借金270万円の返済を免れた事件、同年10月には、同市の摩尼(まに)川で電気工事業・Mさん(同57歳)を同様の手口で水死させ、家電製品代約53万円の支払いを逃れた事件などで起訴された。罪名は強盗殺人である。被告側は、詐欺事件の共犯が真犯人であり、被告人は無罪と主張していた。

□2:今回の事件では、自白や目撃供述あるいはこれに準ずる犯行関与を直接裏付ける証拠はない。間接事実を積み上げて、犯行態様と被告人の犯行関与、殺意を立証する状況証拠型事実認定を要する事件であった。
 間接証拠ひとつひとつからどこまでの事実を推認し、それらを組み立てたときに、「被告人が、殺意をもって、被害者を溺死させた」という構図が、裁判員と裁判官の心証風景の中にくっきりと浮かびかがるかどうか。
 これが鍵である。
 そのとき、「合理的疑いを超える証明」という事実認定の水準が、飾り言葉としてではなく、心証形成を規制するルールとして本当に働いたかどうか。

□3:従来は、「「疑わしきは処罰する」という心証形成の事実上の水準がプロ裁判官の中に定着していた。これを裁判員裁判も継承するのか、それとも、「犯人捜し」ではなく、「合理的疑い」あれば慎重に有罪認定は避ける姿勢で臨むのか、こうした裁判員裁判時代の事実認定の水準が問われた裁判であった。

□4:これに加えて、被告側は、冒頭陳述で詐欺事件の共犯者で同居していた男性を殺人事件の主犯であり単独犯として名指しで指摘する異例の主張をした。しかも、これを裏付けるべき主要な証拠と言えば、被告人本人の供述となるところ、当初は長時間の被告人質問の時間を審理計画に組み込んでいたものの、直前になって黙秘権行使を裁判所に告知。
 質問に応じるように説得する程度の時間はとったが、結局、被告人は法廷ではなにも語らずに終わった。
 黙秘権行使は正当だ。しかし、そうであれば、公判前整理手続の段階から黙秘権行使が裁判員裁判でかえって被告人に不利な心証形成の基礎にならない防御準備が不可欠だ。その点でも課題を残した。

■そうして点について、各新聞にいくつかコメントを掲載してもらったので、転載しておく。
***
「裁判員「判断難しかった」/連続不審死/死刑判決ドキュメント=鳥取」
 ○読売新聞(朝刊)2012/12/05
 ◆「説得力ある事実認定」「検察側の立証成功」 識者に聞く 
 状況証拠による事実認定に基づいて死刑を言い渡した今回の判決について、識者に聞いた。
 □甲南大の渡辺修教授(刑訴法)は「状況証拠という点と点を適切につなぎ、説得力のある事実認定になっている」と評価。男性元会社員の証言に関し、信用性の一部に疑念を示したことには、「元会社員の話がどこまで信用できるのかを慎重に判断したのだろう」とする。また、「弁護側の被告人質問取りやめなど、上田被告側の不合理な行動を考慮することなく判断し、黙秘権を尊重した判決だ」とした。
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2012年08月26日

■「闇サイト」事件の闇ー二重処罰の回避と厳正処罰(下)

■ 最高裁は、実際に起訴されていない事件を量刑上考慮できるかについて、次のように述べている。
 (1)「刑事裁判において、起訴された犯罪事実のほかに、起訴されていない犯罪事実をいわゆる余罪として認定し、実質上これを処罰する趣旨で量刑の資料に考慮し、これがため被告人を重く処罰することは許されない」。
 理由は、次の点にある。 
 「刑事訴訟法の基本原理である不告不理の原則に反し、憲法三一条にいう、法律に定める手続によらずして刑罰を科することになるのみならず、刑訴法三一七条に定める証拠裁判主義に反し、かつ、自白と補強証拠に関する憲法三八条三項、刑訴法三一九条二項、三項の制約を免かれる」。
 むろん、既に処罰されている犯罪の場合には、憲法39条に違反する。
 (2)「刑事裁判における量刑は、被告人の性格、経歴および犯罪の動機、目的、方法等すべての事情を考慮して、裁判所が法定刑の範囲内において、適当に決定すべきものであるから、その量刑のための一情状として、いわゆる余罪をも考慮することは、必ずしも禁ぜられるところではない」
 但し、次のように釘を刺している。 
 「余罪を単に被告人の性格、経歴および犯罪の動機、目的、方法等の情状を推知するための資料として考慮することは、犯罪事実として認定し、これを処罰する趣旨で刑を重くするのとは異なるから、事実審裁判所としては、両者を混淆することのないよう慎重に留意すべきは当然である」。

■ 今回の事件でも同じだ。
 裁判員と裁判官が、今回起訴された事件の量刑で、「闇サイト」事件とセットで判断して極刑を選択することは許されない。
 既に無期懲役が確定している以上、二重処罰になる。「感情司法」という非難も受けかねない。
 だが、両事件を通して被告の人格を判断する等量刑事情として考慮することは許される。そこで、法律のプロである裁判官が評議の際「二重処罰」禁止に違反しないよう注意するべきだ。

■ さて、今回の事件について、概ね新聞報道の通りの事実が証拠で裏付けられ、H被告が犯人と認定されたとすると、彼は、共犯者2名のリーダーとなって、小学生2人のいる家で居直り父親の帰りをまって金庫の鍵を奪った上両親を殺害したこととなる。
 被害者の数、犯行の残虐性、共犯を組織した悪質性、社会的影響の重大性などからみてもそれ自体極刑に値する。
 加えて、07年8月にもネットで共犯者を募った同種手口による「闇サイト」事件の主犯でもある点を量刑事情に入れてよい。
 両事件を通じて共犯を集めて見知らぬ人を犠牲にして金品を奪おうとする手口の共通性と常習性がある。人の命を尊重する基本的でもっとも重要な規範意識の欠如も両事件から顕著だ。無期懲役を受刑することで今回の事件の隠れ蓑にしていた狡猾さも伺える。
 闇サイト事件の前にもっと残酷な犯罪を犯しておきながら自供しなかった以上、今後の裁判での反省の姿勢にはなんの説得性もなかろう。再犯の可能性も十分に認められ、これを否定すべき積極的な材料が今回の裁判で出てこないとすれば、「闇サイト」事件を重要な量刑事情に加えた上で、裁判員と裁判官が今回の事件では極刑を選択する可能性が高い。

■ 被害者の数を含む被害態様の重大性、残虐性を重視する最近の最高裁判例の傾向も参考にしながら、裁判員と裁判官が市民の納得する量刑を行うことが求められている。

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2012年08月25日

■「闇サイト」事件の闇ー二重処罰の回避と厳正処罰(上)

■ 中日新聞のネット配信ニュースでは、
  『碧南夫婦強殺で堀容疑者ら3人起訴』とでている(2012年8月24日/20時12分配信)。

 以下、記事を引用する。
 「愛知県碧南市で1998年、パチンコ店責任者のM・Kさん=当時(45)、Sさん=同(36)=夫妻が殺害され、現金などが奪われた事件で、名古屋地検は24日、強盗殺人と住居侵入の罪で、無職H・Y容疑者(37)ら3人を起訴した。
 H被告は、2007年に名古屋市で起きた「闇サイト殺人事件」の3犯人の一人。一審名古屋地裁判決は死刑だったが、二審名古屋高裁で無期懲役刑に減刑され確定している」。
 「起訴状によると、H被告ら3人は共謀し、1998年6月28日午後4時半ごろ、碧南市のMさん宅に侵入し、KさんとSさんをロープのようなもので首を絞めて殺害、現金6万円やブレスレット、金庫などを奪ったとされる。
 H被告ら3人とMさん夫妻に面識はなかった。捜査当局は、パチンコ店の客として出入りしていた3人がMさんを一方的に狙い、尾行してMさんの自宅を突き止めたとみている」。

■ H被告の認否はよくわからない。
 NHK(8月24日/20時49分)では、少なくとも「起訴された内容に対する3人の認否について、検察は明らかにしてません」と報道している。上記中日新聞では、「県警によると、3人は大筋で犯行を認めている。強奪した物の中には、パチンコ店の鍵も含まれていたとみられる」と紹介する。
 時事ドットコムの配信記事では、「捜査関係者によると、鍵束の中にはパチンコ店の鍵も含まれていたとみられ、3人の一部は夫婦を殺害後、Mさんが勤めていた愛知県尾張旭市のパチンコ店に向かったと供述。店の売上金などを奪おうとしたが、防犯システムがあったため、侵入を断念したと話しているという」と紹介(2012/08/24-19:33)。
 
■ もっとも、例えば、毎日新聞(2012年08月24日/23時00分,最終更新08月25日/01時48分)で、「県警捜査1課の未解決事件捜査専従班が11年夏、つまみの食べ残しに付いた唾液からDNAを検出した。H被告のDNAと同一の可能性が浮上し、仕事仲間だったST、HY被告の存在を突き止め、12年8月の逮捕に結びついた」という。H被告の現場所在は客観証拠から裏付けられるのであろう。また、少なくとも共犯者が一定程度の犯行に関する供述をしていると思われる。
 とすると、今後の公判前整理手続での争点整理、被告側の予定主張の提示等などを慎重に見極めなければならないが、基本的に犯行関与は証拠から推認できるのではないか。

■ 仮にこのように仮定したとき、今回の裁判で気になるのは、すでに闇サイト事件で無期懲役が確定し、H被告が服役中である事実だ。それよりも数年前に同種の、そして、実はより残虐な犯行を重ねていたとき、どのような量刑が妥当か。

 注意しなければならないのは、「二重処罰禁止」という大原則だ。憲法39条は「同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない」と明言する。
 最高裁も、「起訴されていない犯罪事実をいわゆる余罪として認定し、実質上これを処罰する趣旨で量刑の資料に考慮することは許されない」と釘を刺す。

 碧南市夫婦強殺事件、闇サイト事件と一緒に起訴されて公判が開かれ、事実が認定されたのであれば、極刑選択は十分に肯けるものとなろう。が、闇サイト事件については、それ自体として無期懲役で処罰するという国家の意思表示を固めている。捜査の限界、黙秘した被告の狡猾さがあろうと、刑事裁判で一度処罰した事実について、もう一度、今回の碧南・夫婦強殺と一体として実質的に再度裁判にかけて処罰することはできない。

 では、「闇サイト」事件は、量刑に影響を与えないのか。
 そんなことはない。⇒下に続く。 
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2012年07月11日

告訴能力(続)ー少女の被害感情、処罰感情

『児童の被害救済に光/名高裁金沢控訴審判決/10歳の告訴能力認定/年齢相応の理解力基準』
 12/07/07 北日本新聞朝刊

■ 事件について記事を引用する。
 「10歳女児への強制わいせつ事件の控訴審で、名古屋高裁金沢支部は3日、年齢を理由に女児の告訴能力を否定した一審富山地裁判決を覆した。年齢相応の理解力に基づく被害認識と処罰感情があれば10歳児でも認めるとの判断を、識者は「子どもの被害救済につながる」と評価。つらい体験を告白する幼い被害者の支援態勢構築も課題となりそうだ。
 (省略)
 10歳だった女児が、母親の交際相手の男(42)から強制わいせつの被害に遭ったのは昨年6月。検察は15歳だった姉への準強姦(ごうかん)事件などと合わせ男を起訴した。
 だが今年1月の富山地裁判決は、女児への強制わいせつ事件1件で祖母の告訴権を認めず、処罰感情を訴える女児の供述を告訴とみなした検察側主張も「年齢が幼く告訴能力に疑問が残る」と退け、公訴棄却した。
 これに対し高裁金沢支部は、告訴能力について「犯罪被害事実を理解、申告し、処罰を求める意思を形成する能力があれば足りる」と判断。(1)少女は小学5年で普通の学業成績をあげる知的能力を持つ(2)被害状況を具体的に申告し、男を犯人と特定して処罰を求める意思を申告した―として告訴能力を認定した。」

■プロ達の意見が紹介されている。

 ▽支援態勢
 「義務教育に就学していれば、告訴能力はあると判断しうるとの基準を示した」。NPO法人「日本子どもの虐待防止民間ネットワーク」理事長を務める岩城正光弁護士は、控訴審判決の意義を強調。「この基準があれば、児童の意思を尊重して事件を立件しやすくなる。加害者を罪に問うことが容易になれば、児童虐待の防止につながる」と期待を込める。 

 ▽一方、適切な司法手続きを進めるためには、過酷な体験の告白をためらったり、処罰感情を十分に伝えられなかったりする児童への対応も迫られそうだ。
 児童への犯罪問題に取り組む有識者や弁護士からは、専門的な訓練を受けた面接者が、誘導や暗示に陥りやすい子どもの特性などに配慮しながら聞き取りを行う「司法面接」の推進を求める動きが出ている。

 ▽児童相談所や警察、検察などで司法面接の研修をしている北海道大大学院の仲真紀子教授(発達心理学)は「司法面接では録画もするため、後から客観的に分析することもでき、供述の信用性を上げられる。何度も聴取されることにより児童が二次被害を受ける状況を防ぐこともできる」。
 昨年9月には、日弁連が法務省などに導入を求める意見書を提出しており、仲教授は「人材も徐々に育っており導入に向け法整備を急ぐ必要がある」と訴える。

■ 次のコメントを掲載してもらっている。
 甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は控訴審判決を妥当としつつ「一審で裁判官が女児から聞き取りを行い、処罰を求める意思を自ら確認すべきだった。検察も女児に分かりやすく告訴の意味を説明し、告訴調書を作成する必要があった」と指摘する。


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2012年05月28日

■裁判員裁判ー弁護士のプレゼン力

ネットをみていると、朝日新聞の配信記事が目に入った。
「朝日新聞デジタル> マイタウン> 佐賀> 記事裁判員裁判3年、評価と課題」だ。2012年05月28日配信である。 
 裁判員裁判の法廷について、次のようなまとめがなされている。

***
 「地裁のアンケートからは、法廷での説明が「わかりやすかった」と答える裁判員が、年々減っていることが明らかになった。
 「裁判での説明が分かりやすかった」と答えた割合は、裁判官が100%(09年)から88・9%(11年)に減少、検察官は83・3%(09年)から72・2%(11年)に、弁護人は66・7%(09年)から36・1%(11年)に急落した。
 地検では、制度の開始時から、裁判を担当する検察官が幹部らの前で、冒頭陳述や論告のプレゼンテーションを練習し、本番に臨んでいる。地検の森永太郎次席検事は「分かりやすい立証を心がけ、理解は得られていると思う」と話す。
 一方の弁護側は、検察のように組織だっていないため、検証する機会が少なく、裁判員のなかには「検察のプレゼンが弁護側を圧倒していた」(40代男性)と話す人もいる。」
***

 「わかりやすさ」。

 事件のポイントと、被告側の主張、その根拠、とくに証拠との関係。
 これを過不足なく、裁判員にプレゼンすること。
 確かに、練習が要る。個人の資質に委ねていていい法廷技術ではない。
 弁護士の「質保障」の問題だ。
 個々の弁護士の努力に任せていい問題でもない。
 個々の弁護士の善意とボランティア精神の枠内に置くことはできない。
 「国選弁護人」による裁判員裁判の場での、我が国の「正義」のかたちが問われている。
 
 せめて、プロの"litigator"としての研修の機会を増やし、その修了証がある者を優先して国選弁護人に任命するとともに、その場合には、はっきりと報酬もアップする、といったことはできないだろうか。


 

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2012年05月27日

■裁判員裁判見直しー性犯罪と『闘う被害者』

■裁判員裁判見直しー性犯罪と「闘う被害者」

「裁判員裁判3年/岡山の関係者/性犯罪審理に賛否の声/『被害者苦悩に理解進む』 /『二次被害の懸念拭えず』」と題する重いテーマを正面から取り上げたのは、山陽新聞2012年5月21日(朝刊)だ。
 記事は、こう問題を提起する。
 「裁判員裁判で、性犯罪を審理すべきかどうかの議論が浮上している。被害者のプライバシーが拡散して二次被害を招く懸念が払拭(ふっしょく)できないためだ。一方で、性犯罪に厳しい判断を下す傾向を踏まえたり、「被害者の苦しみなどについて社会の理解が進む」として続行を望む声もある」と。
 以下、記事を引用する。

***
 「自分は汚れてしまった人間。生きている価値がないと思った」
 岡山県内在住の女性(30)が当時の心境を吐露する。2008年3月、同僚の男に睡眠薬を飲まされ、乗用車の中で暴行を受けた。事件後、男が出勤する会社には怖くて行けなくなり、退社に追い込まれた。精神的ショックから外出すらままならない。「なぜ私だけがつらい目に遭うのか」と刑事告訴。裁判官による裁判で審理され、09年3月、男には準強姦(ごうかん)罪で懲役4年の判決が下された。
 最近になって「もし、裁判員裁判だったら」と、時折思う。自分の人生は男によって台無しにされた。「市民感覚なら、もっと重い罪を科したのでは」
ためらいも 
 09年5月に始まった裁判員裁判は強姦致死傷や強制わいせつ致死傷などの性犯罪も対象。裁判員選任手続きや公判ではプライバシー保護が図られてきた。
 選任手続きでは地域や職場などで女性と接点がないかをチェック。公判では被害者の名前や住所などは明かさず、被害者出廷の際は傍聴人や被告人から見えないよう、ついたてで囲んだり、別室からモニター画面を通して証言している。
 岡山地裁ではこれまで14件を実施。問題が顕在化したケースはないが、二次被害の心配は尽きない。おかやま犯罪被害者サポート・ファミリーズの川崎政宏理事長は「接点がある場合、裁判員候補の段階で外すといっても人間関係がどうつながっているかは分からない。裁判が嫌で告訴をためらう人もいる」と話す。
厳罰化の傾向 
 一方、被害者サポートセンターおかやま(VSCO)の森陽子専務理事は「ためらう声も確かにあるが、民意を反映した裁判員裁判でしっかり裁いてほしいという被害者も少なくない」と言う。
 というのも、性犯罪への量刑は裁判官による裁判より厳罰化の傾向にある。最高裁の集計では、強姦致傷の最も多い判決は、従来の「懲役3年超5年以下」から「5年超7年以下」に上昇し、執行猶予付きも減った。
 岡山地裁の14件のうち3件は求刑通りの判決だった。裁判員経験者(33)は「人生を狂わせるひどい犯罪だと分かった。これまで刑が軽すぎた」と言う。
 森専務理事は「裁判員裁判で注目を集めることで、性犯罪の悲惨さ、被害者の苦悩についても理解が広がる側面もある」とも指摘する。
***

 以上を踏まえて、ブログ編者は、一人一人の被害者にはつらい選択を求めると思いつつも、次のように、「あるべき論」を採ることとしている。

 甲南大法科大学院の渡辺修教授(同)も、対象事件の変更は「早急すぎる」と否定し、「捜査当局が社会的意義を訴えるなどして説得し、『戦う被害者』をつくるべきだ」としている。

 「裁判員裁判時代」とは、「市民主義」の時代だ。
 市民が長年培った市民良識を、政治、経済、文化そして司法の場に活かすことで、21世紀日本の活性化を図る、その様々な筋道を作っていかなければならない。
 幸い、「官僚司法」の側が、金属疲労を起こして、ついに市民参加へと踏み切った。
 裁判員裁判だ。
 市民社会の側も、これを維持発展させる「強靱さ」が必要だ。
 「被害者」。
 これも、被害に嘆き悲しみ、哀れまれ、慰められる受け身の存在にとどまるのではなく、その不条理を訴え、社会に被害の深刻さを突きつけ、真剣に、犯罪の予防とそして厳罰を選択させる強さが欲しい。そして、それを支える社会であるべきだ。
 捜査から起訴、裁判、、、、この過程を被害者とともに戦い、支える弁護士が育つ必要もある。


 学者の原理論と思って呼んでほしい。
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2012年05月26日

■裁判員裁判制度見直しー市民主義の徹底を!

■京都新聞12年5月23日(朝刊)は「裁判員いま 制度3年 京滋から(下)提言 守秘義務、対象範囲…課題多く 見直しへ市民の議論を」と題する連載で、刑事法の学者の意見を集めている。
 以下、引用して照会する。

****
 ■ 刑事裁判の専門家たちも新時代の法廷に注目する。共通するのは審理の変化や事件と誠実に向き合う裁判員への高い評価だ。一方、市民が量刑判断に関わる是非や評議内容を漏らした場合、罰を科す守秘義務の問題には多様な見解がある。
 ■ 甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は裁判員裁判の成果として強盗殺人罪に問われて無罪となった他県の例を挙げ「市民の常識に照らし、『被告を有罪とするには合理的な疑いが残る』と判断したのでは。刑事裁判の基本原則が機能している」とみる。
 裁判員の守秘義務も容認し「評議の中身を明かさなければ健全な裁判運営ができないとは思わない。慌てて見直す必要はない」とする。
 ■ 一方、立命館大法科大学院の松宮孝明教授(刑事法)は「『プライバシーに関わる以外』『判決確定後』などの条件付きですべて話せるようにすればいい」と守秘義務の緩和を提案する。裁判員裁判が調書よりも被告や証人の生の声を重く見る意義に触れ「裁判官だけの裁判も同じ方向にあらためるべきだ」。裁判員に量刑判断まで担わせる仕組みに対して「専門知識のない市民には精神的な負担が大きい。事実認定に限った方がよい」と主張する。
 ■ これに対し、龍谷大法科大学院の石塚伸一教授(刑事法)は「刑の重さを左右する個々の事情や更生への道筋など、量刑判断に必要な情報が裁判員に与えられれば問題ない」と強調する。
 ■ 対象事件の範囲は検討課題の一つだ。渡辺教授は「被告に裁判員裁判を受けるかどうかの選択権を与えては」と提起。石塚教授は「被害者のプライバシーを考えると性犯罪は対象外に」、松宮教授は「生活に身近なひったくりや交通事故は扱っていい」と提言する。
 ■ 裁判員制度の検証が本格化するいま、国や法曹三者、専門家だけでなく、市民も巻き込んだ活発な議論が求められる。
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2012年03月22日

■ハワイの3日ー司法通訳の現状と課題

 3月19日からハワイにいる。司法通訳の質保障にどう取り組んでいるのかを調査することが目的だ。昨年も同時期に訪問している。主にハワイ州立大学の法科大学院と通訳・翻訳研究センターを訪問。日本のベニース事件についてプレゼンをすることが専攻してしまい、帰国して振りかえると、ハワイ州の司法通訳の全体と実際について、踏み込んだ調査ができなかった。
 今回は、短期間であるが、そこに焦点を置いた。

 19日には、州最高裁の通訳サービスのコーディネートを担当している職員と、州最高裁の法廷を使って会議を持つことできた。
 基礎オリエンテーションを2日開き、これに参加することが司法通訳人に登録する第一歩となる。通訳人は、試験によって6段階に分類されており、報酬の基準額も異なる。「言語へのアクセス」を権利として被疑者・被告人に保障することを前提にして、制度の整備を進めている、という。

 20日、午前中、要通訳の重罪事件、陪審裁判が予定されていると教えてもらい、Circute Court へ出かけたが、予定の事件はそれぞれ被告人が不出頭のため手続が流れた。研究チームの各自の関心に従い、適宜法廷傍聴を行った。ブログ編者は、陪審員の選任手続を傍聴した。

 12名の候補を順次、陪審員席にすわらせて、弁護人と検察官がそれぞれの手持時間内に陪審員候補と質疑を交わして、「理由なき忌避(ないし不選任)」の申立をし、次の候補を入れる、という方法で陪審員団を作り上げていく。被告人は、弁護人の横に座って傍聴している。弁護人は、被告人にも意見を求めて、不選任申立をしている。

 この事件は、家庭内暴力の事件とのこと。午後から陪審裁判が予定されいるとのこと。
 残念ながら、ランチをはさんで、日本語通訳人との会食を予定しているので、裁判所を後にした。

 パワーランチには、ハワイで、ビジネス関係の通訳も手がけるAさんに時間を採ってもらい、2時間ほど、体験談とともに、今のハワイ州の司法通訳の問題点も教えてもらった。

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 午後2時30分。ハワイ大学到着。スー・ゼン教授の研究室を訪問して、2時間ほど、今後の司法通訳の質向上のための国際会議について意見交換。

 21日、午前、地区裁判所にいき、公判前の各種の手続を傍聴する。ベトナム人事件、韓国人事件、中国人事件(2件)等など。民事事件で、日本人が原告、被告の事件があり、質の高い日本語通訳人の通訳を傍聴(ただし、ブログ編者は、一部のみ)。ハワイ州の通訳人のレベルを知ることができるよき機会となった。

 ベトナム人の事件は、酩酊運転、速度違反の事件。
 しかし、弁護人は、酩酊テストについて、言語が分からないまま行ったものであり、公正な手続によらないので、証拠から排除することを申し立てた。排除の当否に関する聴聞手続がおこなわれた。被告人は保釈中。ベトナム人通訳人が横にたって、いわゆるwhispering での通訳。

 現場で酩酊テストを仕切った警察官の証言もwhisperingによる。ほんとうに理解できる通訳であったのか? 弁護人は、「あなたが聞きたいことはあるか」と尋問の最後に被告人に確かめていた。それ自体はいいことであるが、「なにを聞いていいのか」を被告人が理解できるような情報提供がなされたかどうかは、疑問であった。

 証拠排除に関して、被告人も「証人」として証言。宣誓の上、証言台に立つ。このときには、逐次通訳がなされていた。
 ただし、尋問の途中、検察官の異議、弁護人のあらたな排除申立、これに関する裁判官と弁護人、検察官の法律論争に発展、、、、通訳人は、あきらめ顔でみてるだけであり、論争終了後も誰も被告人に説明することはなかった。

 午後は、ブログ編者も、民事事件の本人尋問を傍聴。
 正確な通訳がなされている様子を確認できた(英語も日本語もわかるので)。質が高いと思った。
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 州最高裁では、2日の基礎研修のための教材をもらった。これを参考にしながら、日本版の「通訳人研修教材」とともに、なによりも、「法律家」のための"user's training"を実施したいものだ。

 3日の駆け足調査であったが、充実していた。
 むろん、夕方と夜には、ワイキキの海岸の観光を楽しんだ。
そして、早朝のダイヤモンドヘッドの一周ジョギング。これが一番の楽しみ、かもしれない。
posted by justice_justice at 19:43 | TrackBack(0) | ■裁判員裁判ー一般 | 更新情報をチェックする
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