2014年03月29日

■裁判の限界ー訴訟能力と手続打切りー裁判官の英断

■「17年ぶり再開公判:「症状回復ない」と地裁支部公訴棄却」
毎日新聞(2014年03月20日 22時44分(最終更新 03月21日 01時23分))
 上記ネット配信記事は,次の事件を紹介している。
***引用***
 愛知県豊田市で1995年に男性とその孫を刺殺したとして殺人罪などで起訴され、心神喪失で訴訟能力がないとして97年3月に公判停止となった男性被告(71)に対し、名古屋地裁岡崎支部(国井恒志裁判長)は20日、17年ぶりに再開した公判で「回復の見込みが認められないのは明らか」として、起訴手続きが違法で無効な場合の規定を準用し、公訴棄却の判決を言い渡した。・・・
 判決は男性の病状に関し、精神鑑定結果を基に「慢性的な統合失調症。意思疎通能力がほぼ完全に失われており、悪化の一途」と指摘。その上で「半永久的に被告の立場を強制することは、迅速な裁判を受ける権利を侵害している。検察官が起訴を取り消さない場合、公判を打ち切るのは裁判所の責務で、遺族に対する誠実な対応だ」と述べた」。
*********
 同じ事件について,日経「17年停止の裁判打ち切り/刑訴法、長期の中断を想定せず」(ネット配信記事2014/3/21 2:12)も取り上げて,識者の見解を紹介している。

 ■諸沢英道・常磐大教授(犯罪被害者学)
 「こうした裁判運用は被害者や遺族の心理的な負担が重くなる。公判を停止したら、期限を区切り、改めて訴訟能力を判断するなど公判のやり方を改めるべきだ」。

 ブログ編者のコメントは次の通り。
 ■渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)
 「通常の生活すらできず回復も見込めないのに、刑事裁判を続けさせようというのは正義に反する。公訴棄却という判決は最もふさわしい解決方法だった」。

 刑事訴訟法314条は,被告人が心神喪失の場合,公判手続を停止することを認める。裁判の進行を中断して,被告人の地位を維持したまま,心神喪失状態の回復をまつものだ。むろん,一過性の理由で,裁判の意味を理解して被告人としての立場から裁判に参加することができない事情はある。しかし,今までも,統合失調症を発症した人や,社会福祉の貧困さから幼児期に充分なコミュニケーション教育を受けられなかった聴覚障害者であって,かなりの長期にわたり心神喪失状態から回復できなかった事例は現にあった。
 それでも,「被告人」の地位を押しつけておくことが正義に適うのか?
 それとも,いったん手続を打ち切り,被告人の地位からは回復して,場合によっては再度の起訴によって対応するのが妥当なのか。
 従来,司法も検察もかたくなに「公判手続停止」という法律のことばが許すことしかせずに,処罰の機会を放棄することを毛嫌ってきた。
 しかし,それは誤りだ。
 裁判には限界がある。被告人の地位に市民を置いて,刑罰を科す以上,その市民は,弁護人の援助を受けつつも,自ら裁判の意味と効果,ここの訴訟行為の意味と効果を理解,氷解,判断するこころの力が要る。
 これは,刑法の心神喪失よりもはるかに知識面でも,判断力の面でも,より高度の精神力を要する。
 例えて言えば,幼稚園の年中組になれば,「よし・あし」の判断はつく。しかし,裁判の意味と自己の採るべき行動を理解することは困難だ。少年法が逆送を認める16歳程度の一般的な精神諸力が要る。
 この状態に回復できないことが相当長期に及ぶ場合が現にある。
 そのとき,裁判所が選ぶべき道は,ひとつだ。
 手続打切り,である。
 形式は,条文の趣旨を踏まえて,法338条の4号に準じて,公訴棄却判決でよい。
 以上をまとめたのが,上記のコメントである。
posted by justice_justice at 08:01 | TrackBack(0) | ■裁判ー起訴された事件 | 更新情報をチェックする

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