2014年02月14日

■裁判員裁判と控訴審ー「ヤヌス神」の姿

■「鳥取・男性連続不審死:きょう第2回公判/供述信用性どう判断/上田被告、黙秘から一転−−高裁松江支部/鳥取」2013/12/24 毎日新聞(地方版)

 すでに一審,控訴審と死刑が維持されている事件についての後追いである。
 2009年に,鳥取県で起きた一連の不審死について,裁判員裁判では,死刑を選択したが,その控訴審でもこの判断が是認された。
 被告は,一審では,沈黙を守り,事件について何も語らなかった。ところが,控訴審になってから,被告人質問の場で黙秘を放棄し,事件について語り始めた。
 昨年12月の控訴審公判では,自ら法廷で無罪の弁解をしたという。
 これをどうみるか。まず記事を引用しておく。
***引用(1)ー被告人の弁解内容について***
 ■「もらった金」
 上田被告は21日に40歳を迎えた。
 1審判決は強盗殺人の動機を「上田被告が被害者2人から迫られていた借金返済や家電代金の支払いを免れるため」と認定。これに対し、上田被告は09年4月に水死したトラック運転手、矢部和実さん(当時47歳)との金のやり取りについて、「私が生活に困っていることや、子供5人を育てていることを知り、矢部さんが渡してくれた。もらった金という認識だった」と供述した。
 矢部さんが上田被告との間で借用書を交わした理由については、「私とつながっていたかったからだと思う。借用書があれば私と会うことができる」。弁護側が「あなたと男女の関係が切れないようにするためか?」と質問すると、「そう思った」と答えた。
 ■返済を迫られたのは元販売員
 借用書には、上田被告と当時同居していた元自動車販売員の男性(50)も連帯保証人として記されていた。上田被告は返済を迫られていたのは元販売員だったとし、「矢部さんが元販売員に『連帯保証人がどういうことか分かっているのか? 男が言ったことは守れ』と言った。元販売員は土下座した」と語った。弁護側が「矢部さんはなぜ元販売員に支払いを求めたのか」と尋ねると、「私の男だと思ったから責任を取れとのことだった」とした。
 09年10月に水死した電器店経営、円山秀樹さん(同57歳)への家電代金支払いを巡っても、上田被告は自らの支払い義務を否定。弁護側から「円山さんから督促されたことはあるか」と問われると、「ない」と明確に答えた。元販売員も円山さんから電化製品を購入しており、円山さんから支払いを督促される場面を「少なくとも5、6回見た」と供述した。
 ■最終接触者
 1審判決は、元販売員の証言を有罪の根拠にした。「事件後に上田被告に呼び出され、服がぬれている上田被告を見た」などと供述した元販売員に対し、上田被告は反論した。
 矢部さんの事件では、矢部さんが運転する車に当日乗っていたことは認めたが、車内で交際を巡るやり取りから矢部さんが怒ったと主張。「『頭を冷やしてくれ』と言った。矢部さんは途中で(自分を)降ろした」。その後、矢部さんは一旦戻ってきたが、再び自分を置いて車で移動した、とした。弁護側が「この時が矢部さんを見た最後か」と聞くと、「はい」と答えた。
 ■「ズボンがぬれていた」
 上田被告は、その後に合流した元販売員が1人で矢部さんのいる方に向かい、しばらくして戻って来ると「ズボンがぬれていた」と説明。更に元販売員の車の中に「矢部さんの服とスコップがあった」と語った。警察に対しては、元販売員から「『(事件前の)4月2日に(矢部さんと)最後に会ったと言え』と言われた」と、口裏合わせを求められたとも主張した。
 一方、円山さんの事件当日の状況について「(元販売員は)円山さんを乗せて行った。私を残して(元販売員が運転する)マーチは先に進んだ」と供述。その後、元販売員だけが「小走りで帰ってきた」。弁護側がその際の元販売員の様子を尋ねると、「顔面そうはくだった。膝から下が完全にぬれていた。左足のくるぶしに切り傷があった」と答えた。元販売員からは後日、「『誰が来ても黙っとけ』と言われた」と、再び口裏合わせを求められたと強調した。
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 興味深いのは,控訴審における被告人質問=被告人供述の評価に関する記事である。
 まず,防御方針の転換について,記事は,次のように報じる。
***引用(2)ー防御方針***
◇被告人質問で無罪訴え 弁護側、1審の法廷戦術を変更
 控訴審では弁護側の法廷戦術も変わった。島根県弁護士会に所属する3人の国選弁護人が新たに担当したが、証人尋問や新証拠の提出はせず、被告人質問のみ行う方針だ。1審で展開した「元販売員が犯人の可能性がある」との主張もしない。弁護団は「本裁判の審理の対象はあくまで上田被告が犯人といえるかどうかであり、上田被告が犯人ではないとの主張をする」と報道各社に文書で回答している。
 1審で上田被告は「私はやっていません」とだけ話し、検察側が問いかけた約60の質問に何も答えなかった。しかし、10日の控訴審初公判では約5時間にわたって被告人質問に臨み、弁護側の質問には身ぶりを交えながら当時の様子を語った。
 沈黙を破った理由を上田被告は公判で「(1審の黙秘は)弁護士のアドバイスで決めた。控訴審では今の弁護士に思う存分私の気持ちを聞いてもらい、(話すことを)決めた」と話した。
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 最後に,我が国の「控訴審」なるものの意義と役割に拘わる記事である。
***引用(3)ー控訴審について***
 原則として1審で取り調べた証拠に基づいて審理し、被告の出廷義務もない。塚本伊平裁判長は初公判の冒頭、上田被告に「被告人質問をする、やむを得ない事情はない」と前置きした上で「事案に鑑み、採用する」と述べた。
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 控訴審は,「ヤヌス」である。「神」であり「審」である。
 検察官が起訴した事実について,証拠で裏付けられるかどうかを直接の審理の対象にしない。控訴審の審判対象は,法定の控訴理由があるかないかという視点で,一審判決とその手続を対象とする。裁判所の構成に不備があれば当然に一審には瑕疵があるが,他にも,事実面,法律面,量刑面での逸脱の有無とそれが判決に影響するような重大なものかどうかを事後的に審査する場だ。これを専門家は,「審査審」「事後審」といった表現をする。
 ただ,日本の控訴審は複雑だ。
 控訴審では,まず,一審の記録を点検し,あらたに行なう事実の取調べで確認した事実を吟味して,一審の判決と手続のいずれかに瑕疵があるか否か点検するプロセスがある。これは,審査審としての機能を発揮している。
 その結果,瑕疵がないとして,公訴を棄却するときには,控訴審は審査審の機能を果たしたのに留まる。
 次に,瑕疵を発見して,一審に審判のやり直しを命ずることがある。破棄・差戻の判決だ。このときも,瑕疵を摘示してそこを中心に審理のやり直しを命ずるものであるから,瑕疵の有無を事後的に審査した限度で控訴審の役割を終えたこととなる。
 ところが,一番多いのは,破棄自判である。つまり,一審の記録と控訴審での事実の取調べの結果をあわせたならば,破棄した上,自ら有罪・無罪の判断,つまり,検察官の起訴した事実に対する判断をすることができる場合,自判する。
 このときには,自ら有罪・無罪の心証を形成する。したがって,事実の審理・審査を行うこととなる。一審の審理を引き継いで事実の認定,量刑を行うから,事実審といえる。
 有罪・無罪を本格的に検討する場は一審であるべきで,被告人も事件について語るのであれば,一審とするべきだ。そうしなかった以上,仮に,控訴審では,もはや必要性がないとしてこれを斥けても防御権侵害にはならない。
 それだけに,今回,控訴審で被告人が語った事実は重い。こんなコメントを付した。

■職権による今回の被告人質問について、専門家は肯定的な見方をする。
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「1審の手続きに不合理や明らかな事実誤認がなければ、控訴審では被告人質問を認めないのが普通。同時に裁判長には事実を取り調べる権限があり、死刑判決が適切か判断するため、被告人質問をするのは妥当」と指摘している。
posted by justice_justice at 06:02 | TrackBack(0) | ■裁判員裁判ー一般 | 更新情報をチェックする

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