2012年05月28日

■時効撤廃と捜査のありかたー長野県からの発信

「凍った時間=上山田のタイ人強殺/外国人労働者、急増期の闇/主犯格逃走20年―捜査継承課題に」と題する記事が、信濃毎日2012年4月22日(朝刊)に掲載されている。
 長期未解決事件をとりあげるものだ。この記事では、92年3月に発生した外国人間の殺人事件を取り上げた。「上山田タイ人強盗殺人事件」という。概要を引用する。
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 1992年3月14日夜、旧更級郡上山田町(現千曲市)のアパートで、住人のスナック従業員ソムサ・チャットパーンさんと、内縁関係のマユリー・プウンマラーさんが刺殺され、現金と貴金属などが奪われた。更埴署(現千曲署)の捜査本部は実行犯を含むタイ人男女5人を強盗殺人容疑で逮捕し、主犯のニルト・レンケオ容疑者を指名手配。逮捕された5人のうち、実刑が言い渡されたのは、レック・チンラホン受刑者(64)=強盗殺人罪などで無期懲役が確定=と、タイ人の男(59)=強盗殺人罪などで懲役13年が確定、刑期満了=の2人。直前で犯行に加わることをやめた3人のうち、ニルト容疑者と交際していた女は起訴猶予処分に、男2人は殺人予備、強盗予備などの罪で起訴され、それぞれ懲役2年、執行猶予4年の判決(いずれも確定)。
 ニルト容疑者については共犯者が公判中は時効が中断される時期があったり、2010年4月の刑法、刑事訴訟法改正による強盗殺人罪などの時効廃止があったりして今も県警が捜査中。警察庁を通して、ICPO(国際刑事警察機構)に捜査協力を依頼している。
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2012/04/22 信濃毎日新聞朝刊 35ページ 2755文字 書誌情報
[1992年3月14日]
 古びたアパートがそこにあった。今月中旬の週末の夜。明かりがついているのは十数部屋のうち一部屋だけ。応答はない。辺りは静かだ。当時を知る捜査員から聞いた言葉に従って20年前の事件をたどった。
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 1992年3月14日。旧更級郡上山田町(現千曲市)の歓楽街から少し外れた質素なアパートの一室。男女2人が刃物でめった刺しにされ、現金約600万円と200万円相当の貴金属が奪われた。
 2人はいずれもタイ人で、このアパートに住んでいたスナック従業員ソムサ・チャットパーンさん=当時(28)=と、内縁関係だったスナック経営のマユリー・プウンマラーさん=同(33)。首や胸、まぶたなど全身が切り裂かれ内臓にまで達し、抵抗した痕跡もあった。
 日付が変わった15日未明、親戚の男性が無残な姿になった2人を発見し、通報。県警は更埴署(現・千曲署)に捜査本部を設置した。事件に関わった容疑者はタイ人6人。うち5人は強盗殺人容疑などで逮捕されたが、主犯とされるニルト・レンケオ容疑者(53)は今も逃走中だ。凶悪事件の公訴時効廃止で県警捜査1課の専従特捜班が捜査している案件の中では、県内で最も古い未決事件となっている。
 マユリーさんは当時、酒やタイ料理などを出すスナックを経営。県警の調べだと、マユリーさんの店で働いた経験があるタイ人の女が、恋人だったニルト容疑者に「お金を持っている人がいる」と話し、金に困っていた同容疑者が仲間のタイ人に犯行を打診。このタイ人の女を含む6人で殺害計画を立てた。実際に当日の犯行に関わったのは同容疑者の他に2人。うち1人は見張り役。殺害後、強奪した現金は6人で山分けした。
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 記事は捜査の困難を取材する。
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 むごたらしい現場を見た捜査員たちは日本人以外の犯行だと推測。「外国人社会をたどっていけば…」と早期解決も頭をよぎった。だが、実際に強盗殺人容疑での逮捕には、約8カ月かかった。
 当時、東北信特捜の主任として捜査に当たった須江和幸・県警捜査1課長(56)は「(入管難民法や売春防止法違反での)摘発を恐れ、事件解決に関わろうとしない人たちが多かった」と振り返る。タイ人に聞き込みをしても、返ってくる言葉は「知らない」「分からない」ばかりだった。
 バブル期以降、出稼ぎ目的で来日する外国人労働者は県内でも急速に増加。当時の更埴署などの調べによると、温泉街周辺に住んでいたタイ人は、事件が発覚した当時300〜400人。大半が飲食店で働く女性だった。
 地道な捜査が続く。捜査員たちと街で擦れ違うほぼすべての外国人が顔見知りになるほどに。その中でニルト容疑者に話を持ち掛けたタイ人の女がマユリーさんのスナックで売春をしていた疑いが強まり、事情を聴くうちに、事件の当事者たちにたどり着いた。
 しかし、5人は逮捕後も容易には主犯格の男を明かさない。ニルト容疑者が共犯者に「警察に話したらタイの家族を殺す」とくぎを刺していたからだ。須江課長は「最終的にミカ(同容疑者の恋人の通称)が語り、チャルーン(同容疑者の通称)が割れた」と振り返る。しかし既にニルト容疑者は上山田を去っていた。タイへ帰ったとの情報もあり関係機関に出国記録を照会したが確認が取れず、どこにいるのか、分かっていない。
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□「刻の壁」。
 犯罪捜査にとって乗り越えがたい限界が「時間との戦い」ではないか。
 捜査員は交代する。情報を引き継ぐことは困難になる。書類からしか伝わらない情報では活きた捜査ができない。といって、事件に関する鑑識をそのまま次世代に移すことも不可能に近い。
 事件捜査の伝承。どうするか、課題になる。
 とりわけ、殺人事件で時効が撤廃された以上、犯人確保まで捜査は続く。いつか誰かが犯人として検挙されることとなるかも知れない。未解決事件の怖さは、証拠の散逸である。検察側も、被告側も、証拠で裏付けられない裁判になりかねない。
 えん罪の恐怖が生まれる。
 それだけに、時効撤廃の時代にそった証拠管理が不可欠となる。こんなコメントを掲載してもらっている。
◆刑事訴訟法の目=渡辺修・甲南大法科大学院教授 時効撤廃、証拠保全へ可視化を◆
 公訴時効撤廃は、捜査と証拠のあり方に大きな影響を与える。50年後に犯人が捕まり、裁判員裁判が始まる場面を想定すればよい。裁判員である市民の良識に照らして判断できるための証拠をどう保管すべきか。
 現場の実況見分は、デジタル映像技術を駆使し、立体的にしかも細部も正確に記録する必要がある。容疑者や参考人の供述は、事情聴取や取り調べの結果を紙ベースで記録する「調書」捜査では公訴時効撤廃に対応できない。そのためにも取り調べを「可視化」し、録音録画してデジタル化する必要がある。
 被告人の防御にも目配りが要る。警察が蓄積した資料すべてについて被告側が点検する機会を保障しなければ、(被告人にとって)有利な証拠が埋もれたままになる危険が一層高まる。公訴時効撤廃に踏み切った以上、証拠の散逸と劣化を防ぐ技術の強化など様々な課題を迅速に解決する必要がある。
posted by justice_justice at 12:12 | TrackBack(0) | ■事件ー捜査から起訴まで | 更新情報をチェックする

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