2012年02月21日

■「勾留執行停止と被告人の逃亡」(下)ー学者の源理論

■「勾留執行停止と被告人の逃亡」について、続く。

 朝日新聞は、「警官監視下、逃走なぜ 地裁が勾留停止・「拘束の権限ない」/田辺/和歌山県」の記事で、「死亡ひき逃げ事件の被告が、警察官の目の前でベンツに乗り込んで走り去った――。1月25日に田辺市の病院であった逃走劇は、なぜ防げなかったのか」と問題を提起する(2012年2月17日、朝刊)。

 43歳の被告人が、自動車運転過失致死罪と道交法違反(いわゆるひき逃げ罪)で起訴され、公判係属中に、病気のため一時勾留の執行を停止されて病院に入院。最終日に、事実上監視中の警察官をごまかして病院駐車場に駐車した身内の車に乗り込んで逃走したという。
 同記事は、次のように、経緯を紹介する。

 「和歌山地検によると、Y被告の弁護士が1月、『病気の検査入院』を理由に勾留停止を和歌山地裁に申し立てた。地裁は23日正午から48時間の勾留停止を認め、横谷被告は白浜署の留置場を出て田辺市の病院に入院した。
 勾留停止が終了する25日の午前2時ごろ、Y被告は見張り役として病院内にいた白浜署員に「たばこを吸う」と言って病院の駐車場に止めていた弟の車に1人で乗り込んだ。そして突然、その車で走り去ったという。逃走に使ったとみられるベンツは27日、大阪府岸和田市内の駐車場で見つかった。
 なぜ署員は逃走を止められなかったのか。捜査関係者は『どうすることもできなかった』とあっさり答えた。見張り役の署員は、地検の依頼を受けて監視してはいたが、『勾留停止は釈放されたのと同じ意味を持つ。警察官に身体を拘束する権限がない』。・・・・結局、県警は横谷被告を道交法違反(無免許運転)の疑いで指名手配した。逮捕のきっかけとなったひき逃げ事件で、横谷被告は免許が取り消されていた」。

■ 確かに、その通りで、法的な監視状態にはなくなっているから、刑法で言う逃走罪には当たらない。
 逃亡の時点では、執行停止決定の取消しがあって、収監できる状態ではない。期間が過ぎていないから、収監する根拠もない。いずれも検察官の指揮がいる。
 だから、事実上監視をしていた警察官には、法的に拘束する権限はない。
 とすると、一般的な行政警察権限によって、事実上退去の事情を問い質し、事情を知る機関の者として逃走につながる行動をしなように説得することぐらいしかできない。
 その意味では、いわば「逃げ得」状態となる。

■誌面は厳しく批判する。
 「●繰り返し発生
 朝日新聞は地裁に勾留停止を決めた理由を質問したが「非公開の手続きだから」(総務課)として明らかにしなかった。取材に応じた地検幹部は、「被告は検査入院の必要はなく、逃走の恐れもある」として勾留停止に反対する意見書を地裁に出していたことを明らかにした。
 勾留停止中の被告が逃走する事例はどれだけあるのか。最高裁の広報担当者は「統計がないので分からない」としている。
 朝日新聞の取材では、まれではあるが繰り返し発生しているようだ。2002年1月に神戸市内の病院から逃げた窃盗罪の被告は、03年5月に岡山県警に別の事件で逮捕された。昨年2月には窃盗罪で起訴された被告が広島市内の病院から逃走し、行方は分かっていない」。

■しかし、ブログ編者は、次のコメントを掲載してもらっている。ついでに、運用制限を摘示する土本武司博士のコメントも掲載されているので、比較の意味で、引用する。

 ◆被告は自由であるべき
 甲南大学法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)の話 被告が身柄を拘束された状態が例外で、原則的には自由であるべきだ。一時的に勾留を停止しても守らないといけない利益がある。逃げるかどうかは被告の良識に委ねられているところがあり、今回の事件は制度の性質上起こっても仕方ない珍しい事例。全体的には制度はうまく機能している。今後、制度を厳格に運用すべきだということにはならない。対策として考えられるとしても、逃走罪の一つに含めて事後的に処罰することぐらいではないのか。

 ◆「保釈」が原則、反省すべき
 元最高検検事で筑波大学名誉教授の土本武司氏の話 今回の事件は結果からすると勾留停止を認めるべきではなかった。勾留状態のまま外部の病院に移すこともできた。被告の勾留を解く手段としては、逃げた時に保釈金が没収される不利益がある「保釈」が原則で、勾留停止の決定には慎重な判断が求められる。仮に停止する場合でも、逃亡や証拠隠滅を防ぐため、条件面での配慮や十分な監視体制が必要。今回の事件で勾留停止の制度を廃止しろということにはならないが、運用には反省すべき点があった。
posted by justice_justice at 12:21 | TrackBack(0) | ■裁判ー起訴された事件 | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。