2012年02月20日

■「勾留の執行停止」(上)ー市民の生活利益と被告人の逃走防止

■「勾留執行停止と被告人の逃亡」。
 これが、マスコミの一部で取り上げられて問題視されている。
 毎日新聞2012年2月3日(大阪、夕刊)は「容疑者逃走:監視OK、制止不可/勾留執行停止、法の空白」としてこのテーマを取り上げている。
 事件を紹介する。
 もともとひき逃げ死亡事件で起訴されたY被告(43)がいる。検査入院の必要があった。
 かかる場合、拘置所が、勾留状態のまま、勾留先を病院に移監して24時間監視体制を敷いて対応するのが適切だ。
 しかし、事実上、これはかなりの負担になる。だから、拘置所側はいわばいやがる。弁護人は、よく拘置所に対して「適切な治療を受けさせること」を上申するが、ほとんど無視される。所内の、明らかに、不十分で、時間もかかる医師の診断に委ねる程度だ。
 「疑わしきは被告人の利益に」。この原則は、勾留中の被疑者・被告人の処遇にも適用されるべきだ。市民社会にいるのと変わらない医療を受けられることが、前提だ。
 それが守られていない。
 だから、被告側としては、「緊急の生活上の利益」、本件の場合、健康の維持という重大な利益を守るために、「勾留の執行停止」を求める。
 裁判所は、「緊急の生活上の利益」が侵害される緊急性、重大性、これを守るべき必要性の程度などを考慮する一方、逃亡の可能性も視野に入れて、適宜の判断をする。

■記事は、その後の事態を、次のように紹介する。
 「1月25日午前2時ごろ、病室を出てきたY被告は見張りの警官に『たばこを吸いたい』と告げ、外に向かった。警官が付き添い歩いて行くと、敷地内に止まっていた無人の弟の黒のベンツへ。『中で吸いたい』と後部座席に乗り込み、警官も入ろうとしたとき運転席に移り発進した。捜査関係者は『警官にできることは心理的に圧迫を与え、何かあったらすぐ連絡するということだけ』とこぼす」。
 この段階では、法律上の監視はないから、刑法の逃走罪には当たらない。勾留執行停止は有効なので、収監するべき権限は発生していない。
 この一瞬に警察ができることは、事実上、「逃走となるから、とどまること」を説得することだ。一般行政警察作用に基づく事実上の働きかけしかない。
 むろん、今は勾留の執行停止の期間がすぎているから、もともとの勾留状の効力が復活するので、この令状の存在によって収監してよい。
 また、警察は、道交法違反(無免許運転)容疑で指名手配をしていると記事は紹介する。
 
■むろん、問題は、逃走防止の手段、方法である。
 保釈と勾留の執行停止。ともに勾留の効力を維持しつつ、自由拘束の状態に限り、部分的に執行をしない状態となる。要するに、釈放される。だから、逃走する危険は常にある。これを100%なくすことなどできない。制度を運用しないか、廃止するしかない。むろん、映画の世界のように、GAP機能が付き、破壊しようとすると爆破する装置を身体に付けることを条件にすることは、あるいは近い将来、運用上の措置として是認されるかも知れない。
 それにしても、一定の範囲で逃走が発生することを完全に防ぐことはできない。
 これを防ぐのは、社会全般の犯罪抑止メカニズムの再生ー地域共同体の活性化、市民のモラルの向上と、他方で、「えん罪なき刑事司法」の実現、適正手続と厳正処罰の確保等など社会秩序と刑事司法全般の健全化が不可欠だ。
 が、それはかなり長期的で、文化的で、国家的な課題だ。
 では、短期的にはどうみるか。
 識者の見解が対立する。
 上記誌面で掲載されたブログ編者ともう一人の著名な学者の見解をともに引用して、紹介する。
 当否の判断は、ブログ訪問者に委ねたい。

 ◇強制力持つ法改正を
 中央大の椎橋隆幸教授(刑事訴訟法)は「逃げないのが前提の制度の空白をついている。裁判所の判断も甘かった。強制力を持たせるような法改正などの対策も必要ではないか」と話す。
 ◇保釈制度の充実必要
 一方、甲南大の渡辺修教授(同)は「逃走はそれほど多くなく、制度を崩壊させるほどではない。逃走した場合もその後、量刑で責任を負わせればいい。例外的な勾留停止ではなく、保釈制度を充実させるべきだ」と拘束強化には否定的だ。

<刑事訴訟法の関連規定>
○第95条〔勾留の執行停止〕 「裁判所は、適当と認めるときは、決定で、勾留されている被告人を親族、保護団体その他の者に委託し、又は被告人の住居を制限して、勾留の執行を停止することができる」
○第98条〔保釈・勾留執行停止の取消し等の場合の収容手続〕
 「第1項 保釈若しくは勾留の執行停止を取り消す決定があつたとき、又は勾留の執行停止の期間が満了したときは、検察事務官、司法警察職員又は刑事施設職員は、検察官の指揮により、勾留状の謄本及び保釈若しくは勾留の執行停止を取り消す決定の謄本又は期間を指定した勾留の執行停止の決定の謄本を被告人に示してこれを刑事施設に収容しなければならない。
 「第2項 前項の書面を所持しないためこれを示すことができない場合において、急速を要するときは、同項の規定にかかわらず、検察官の指揮により、被告人に対し保釈若しくは勾留の執行停止が取り消された旨又は勾留の執行停止の期間が満了した旨を告げて、これを刑事施設に収容することができる。ただし、その書面は、できる限り速やかにこれを示さなければならない」。
posted by justice_justice at 07:17 | TrackBack(0) | ■事件ー捜査から起訴まで | 更新情報をチェックする

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