2010年08月10日

■あるひき逃げ事件の波紋ー検察審査会と検察庁の新たな関係

■先般来、福岡市で起きたある飲酒ひき逃げ事件の捜査と事件処理を巡り、興味ある展開が見られる。
 西部讀賣2010年8月7日(朝刊)は、「飲酒ひき逃げ/会社役員を一転起訴/検察審打ち切りへ/地検経緯説明せず」と題する記事で、概要、次のように報道した。
 「福岡市東区で2月に起きた飲酒運転ひき逃げ事件で、福岡地検は6日、危険運転致傷容疑などで逮捕後に不起訴としていた福岡県篠栗町篠栗、会社役員S・R容疑者(42)を一転して危険運転致傷罪などで福岡地裁に起訴した。事件を巡っては、検察審査会が不起訴の是非を審査する予定だったが、起訴により審査は打ち切られる。地検は判断を覆した経緯を明らかにしておらず、識者からは「国民の理解が得られない」との指摘も出ている」。
 被告人は、当初同乗していた知人を犯人として出頭させたもののようだ。しかし、警察は被告人を犯人と断定しいったんは逮捕した。だが、報道のトーンによると、こうなった背景は純粋に事件捜査の限界が問題になったものではないらしい。
 「事件は異動間近の検事が担当していた」という。このためなのかどうか、被告人は否認を続けている内に、嫌疑不十分で不起訴として扱われた。
 これに対して、被害車両に乗っていた側が検察審査会に処分の審査を求めた。
 流れとしては、これをきっかけとして、地検が再捜査を開始。まず、被告人を、犯人である自分をかくまうように知人に依頼した点で犯人隠避教唆で逮捕勾留し、捜査を遂げて、結局、当初のように、刑法の定める危険運転致傷罪と、道交法が定める自己が起こした交通事故の事後措置を怠るいわゆる「ひき逃げ」(道交法違反)で起訴した。
 同誌は、識者の見解として、次のような紹介をしている。「同地検で刑事部長を務めた牧野忠弁護士(福岡市)は『検察は、検審への申し立てをきっかけに捜査の内容を検証し、『処分がおかしい』となったのだろう。不手際があったとしても、謙虚な姿勢で経緯を説明しないと、国民の理解は得られないのではないか』と疑問を呈した」。
 ブログ編者は、次のコメントを掲載してもらった。

***□読売新聞2010年8月7日(朝刊)□***
 甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「起訴するかどうかを市民が決めることができる改正検察審査会法が施行され、検察はこれまで以上に市民目線での犯罪捜査の点検を迫られている。今回検察が再捜査したのは、市民が捜査を監視する新しい時代を反映したと言える」と話している。

■同事件について、毎日新聞2010年7月19日(西部版、朝刊)がすでに取り上げている。
 「福岡・飲酒ひき逃げ/不起訴の男ら逮捕/身代わり立てた疑い−東署」とする記事では、身代わりになった相手に、現金10万円を渡すなどしていたと報じた。この間、被告人は運転そのものを否定していたのだから、振り返ってみれば悪質な犯人であったと言える。
 その裏に、転勤間近の検事のずさんな事件処理、、、という事情があるらしい。
 ただ、学者がコメントできるのは、「事実」の憶測ではない。一定の事実を前提としたときに原理原則に照らして一定の事件をどうみるのか、という判断だ。
 今回の事件でも、転勤前の検事の拙速処理という事実があるのかどうかは、マスコミの取材力で明らかにするしかない。
 その責任を追及するような論調について、事実を踏まえることなく、研究者がコメントなどできない。
 他方、そうした紆余曲折があるのであれ、改正検審法の重みは、大局的法史的には、検察官僚が独占してきた公訴権行使のあり方、その前提となる捜査のあり方に間接的に影響を与えてきている。
 「市民中心主義」の時代。
 市民良識が納得できる捜査と事件処理をしなければ、公訴権不行使について、市民が自らの責任でこれをくつがえす。「検察の正義」を「市民の正義」が凌駕する。しかも、それが単なる「感情司法」への迎合ではなく、「市民良識」を踏まえた合理性のある選択であるとき、「官僚司法」が「市民司法」に置き換わる。
 こうした21世紀における刑事司法をめぐる「官僚」v「市民」対抗軸を踏まえたときに、これを法的にいかなる問題の枠内で捉えるかどうか、市民にも分かりやすい視線で文章にまとめるのが「識者談話」を用意する側の責務だ。
 毎日新聞には、そうした指摘を記者にはした上で、とりあえず、次のような内容でのコメントを掲載してもらった。

***□毎日新聞2010年7月19日(朝刊)□***
 甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「検察審査会の議決前に検察が再捜査に踏み切るケースは全国で増えつつある。市民目線の申し立てを重く受け止め、迅速に捜査を見直している。検察審査会を通じて間接的に市民参加型の捜査が進んでいるとも言えるのではないか」と指摘している。
posted by justice_justice at 00:03| ■検察審査会・付審判 | 更新情報をチェックする
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