2010年02月28日

■公訴時効(異聞)ー起訴の反復/時効阻止

■読売新聞10年2月27日(ネット配信)は「再起訴19回で異例の引き延ばし、時効が成立」と題する興味深い記事を配信している。こんな内容だ。

「特別養護老人ホームの建設を巡る汚職事件で、2005年に香川県警から事情聴取された後に行方不明となった元高松市議の男(60)について、高松地検は2件の贈賄罪でそれぞれ起訴を繰り返す異例の手法で公訴時効(3年)の成立を延ばしてきた。しかし、うち1件は27日午前0時に時効が成立。
 被告が逃げ続けているとみている地検は、残る1件の時効まで行方を追う、としている」。

 要するに、元市議が、地元に建設予定の特別養護老人ホームを国の補助金交付施設に選んでもらうため、(1)02年11月、当時の市助役に200万円を渡そうとしたこと、(2)03年3月に選んでもらった謝礼に300万円を渡したことについて、検察庁は控訴の提起をすることにより、一旦時効完成を阻止したものである。

■ 市議の立場であっても、問題となったのは、公務員に対する贈賄なので、刑法の定める法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金である(刑法198条)。
 公訴時効は、「長期5年未満の懲役若しくは禁固又は罰金に当たる罪」なので3年で完成する(刑訴法250条6号)。
 但し、公訴の提起があれば時効は一旦停止する。もっとも、公訴棄却の決定が確定するとまた進行する(刑訴法254条1項)。
 この事件では、元市議は逃走したまま。
 検察庁としては、立件できる証拠があるのに、本人の身柄確保ができない状態。このままでは、いわば「逃げ得」になる。
 この場合、検察庁は公訴提起をしてよい。

■ ただし、本人所在不明のため、有効な公訴提起ができない。このとき、適法に裁判を開けないのだから、欠席裁判はできない。
 いったん手続は打ち切る。法は、2月以内に起訴状謄本を適法に被告人に送達できないとき、公訴提起はさかのぼって効力を失うとする(271条2項)。
 このとき、形式としては、公訴棄却の決定(339条1項1号)による。
 但し、公訴時効の進行が停止したという事実に伴う効力まで遡る訳ではないし、そこまで犯人が逃げ隠れしていることを保護する必要もない。
 だから、公訴棄却の決定が確定した日からまた時効が進行する。
 公訴棄却の決定に対して、刑訴法上、即時抗告によって不服を申し立てることができる(刑訴法339条2項)。
 即時抗告は、本来なら、決定が本人に送達された日から期間が開始する。3日である。もっとも、期間計算上、一般的に初日不算入の原則が働くので、翌日から3日以内に、即時抗告申立書を裁判所に提出しなければならない。
 じつは、ここで変なことが起きる。
 起訴状は送達できないから、手続を打ち切るが、その不服申立期間は本人に送達手続をして法的に送達されたとみなされるときから進行する扱いにする。

■とまれ、公訴時効。
 即時抗告期間が終了して確定した日の翌日には、再度起訴はできる。
 しかし、公訴時効も、翌日は1日分進行する。「時効期間の初日は、時間を論じないで一日としてこれを計算する」という原則が規定されている(刑訴法55条1項後段)。公訴時効がいったん停止しまた進行を始める初日にもこの原則が重用される。
 だから、検察庁が起訴状を用意して裁判所に届ける日、1日については、時効が進行する扱いになる。
 かくして、仮に起訴の反復で時効を停止しても、最低限度1日は進行を阻止できない。

■ 記事は、次のように解説している。

 「地検は、05年11月に200万円を渡そうとした贈賄罪(申し込み)、06年6月に300万円を渡した贈賄罪でそれぞれ在宅起訴した。 
 06年6月の起訴は時効成立まで残り19日。地検は2か月ごとに起訴を繰り返したが、時効の停止期限日から日付が替わって初めて次の起訴手続きがとれることから、1日は時効が停止されず、19回の「再起訴」のたびに時効が迫っていった。
 もう1件は、最初に起訴した日から時効成立までの残り日数が多かったため、まだ時効を迎えていない。」

■ 地検のコメントがおもしろい。
 「地検の玉置俊二次席検事は「異例の捜査手法をとったが、見つからず残念。引き続き捜査する」とコメント」。

■ 次のコメントを掲載してもらった。

 甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「戦後の混乱期に多発した凶悪事件に対して、よくとられた手法。逃げ得は許さないという検察の執念がうかがえる」と話している。

(2010年2月27日18時59分 読売新聞)

posted by justice_justice at 09:42| ■事件ー捜査から起訴まで | 更新情報をチェックする
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