2009年10月08日

■裁判員裁判と司法通訳の実際ーポーランド語法廷傍聴記

□1:大阪地裁で、覚せい剤の営利目的密輸罪で問われたポーランド国籍の被告人に対する裁判員裁判が行われた。
 以下、若干の感想をまとめる。
 まず、通訳人に当たられた方のバックグラウンドなどはもちろん分からない。ただ、日本語に誠に堪能であり、また、裁判長の求める過密なスケジュールをこなして真剣に法廷通訳にあたられたことに心から敬意を表したい。 

□2:09年10月03日、毎日新聞(朝刊)は、「裁判員裁判:法廷通訳1人に「不安」 /ポーランド語、3日間−−大阪地裁、5日から」とする前触れ記事で、「大阪地裁で初めての要通訳事件となる裁判員裁判が5〜7日、開かれる。被告は自称ポーランド国籍の男で、ポーランド語の法廷通訳1人が3日間の審理に対応する予定。通訳経験者や大阪弁護士会は「裁判員裁判は短期間の集中審理で通訳の負担が増え、誤訳を生みかねない」として複数人選任の必要性を訴えており、「1人で対応できるのか」と不安視する声もある」と問題を提起した。
 今回の事件は、ポーランド籍の被告人が、スペイン、南アフリカそしてカタールを経て、関空へと旅立ち、約990グラムを密輸したものである。まだ24歳の青年である。
 母国で契約社員として働いていたが、給料が安く、他方、恋人に「愛だけでなく、お金もほしい」と言われて「みじめでくやしい」思いに駆られていたところ、ポーランド国内に違法なものを運ぶ手伝いをすれば報酬がもらえると会社同僚に誘われたというものだ。
 一度スペインに出国するが、南アフリカに荷物を運ぶことを求められ、さらに日本へと運ぶよう口説かれたという。
 本人の弁解では、いやいやである面と、報酬がほしい面と、恋人を殺すと脅かされたこととが相まって、指示に従ったという。

□3:上記記事の段階では、通訳人の配置について、法廷通訳の経験もある専門家の長尾ひろみ・神戸女学院大教授(通訳学)は「裁判員裁判は口頭説明が増えるため、より集中力が必要で、1時間以上続けるのは困難。交代要員が確保されていなければ、通訳の質が保てるか疑問だ」と指摘したと紹介されている。これに対して、ブログ編者は次のようにコメントした。

■「一方、通訳問題に詳しい渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は『複数人いればよりいいが、今回の日程なら休憩を適切に取ることで1人でも対応可能と思う。裁判官、検察、弁護側が通訳人に配慮することが重要だ』と話す」。

 しかし、ふたを開けてみてこのコメントについては、修正を要すると思っている。
 というのも、通訳人がまじめにがんばりすぎるからである。
 審理2日目。被告人質問。弁護人の主質問が50分ほど続き、15分の休憩が入る。これはそのまま休憩に使えたと思う。ところが、検察官の反対質問が長引く。75分ほど続いた。一度途中で、裁判長が「長引くようなら休憩を入れます」と言いつつ、自らも時間管理、スケジュール管理に負われている様子をありありと見せる。通訳人は「大丈夫です」と答えた。かくして長時間の質問とその通訳が続いた。
 次に、弁護人の再主質問と続くところで、休憩を入れることとなった。しかし、午前中に論告求刑、弁論まで終える予定でいたのであろうか、裁判長が時間に焦っている様子がさらにありありとする。それでも10分休憩すると宣言した。しかし、通訳人と弁護人には、その間に質問内容を打ち合わせておくように指示をした。通訳人は休憩をとれなかったはずだ。
 彼の疲労度は、外目には明らかだ。話す日本語にも切れがなくなっている。母国に残した恋人と、スペインにいるときに、南アフリカ行きを拒んでいた被告人に、電話をかけてきて恋人を殺すと脅した女性との「関係は?」という単純な質問に対して、被告人が的外れの説明をながながとしはじめた。おそらく、なにか通訳段階ですれ違いがあったと思われた。それが正しいとしたら、理由は、疲労 であろう。

□4:今後、否認事件、共犯事件など複雑な要通訳事件が行われるだろう。そのときに、円滑、正確、的確な通訳の保障をするために、法律家が、通訳の技法と限界をよくわきまえて、法律家ペースの法廷運用ではなく、通訳人を意識した運用をもっとこころがけるべきだ。今回、通訳人の休憩時間確保について、検察官も弁護人も無関心であったが、もっての他だ。『一発勝負』の直接主義法廷において、裁判員に「誤訳」を万が一にもで聞かせてしまったら、真相解明が台無しになる。それが、両法律家に共通の関心事であるべきだ。今回も、量刑事情については大きな争いがあった。それがなお妥当な結論に至ったのは、通訳人の見事な力量と市民たる裁判員の良識に助けられた。
 法律家のわがままな法廷運営は改善すべきだ。

□5:09年09月07日付け長崎新聞は「裁判員裁判/初の外国人被告/「通訳」影響に注目/あす、さいたま地裁」と題する共同通信配信の記事中で、次のような紹介をしていた。
「さいたま地裁で8日、初めて外国人被告の裁判員裁判が開かれる。審理は連日行われ、判決は11日の予定。通訳を介し審理時間が倍増することによる裁判員の負担や集中審理による通訳の負担、通訳のニュアンスが裁判員の心証にどのような影響を与えるかに注目が集まっている。
 審理されるのはフィリピン人の元少年(20)が昨年12月、知人2人と共謀し路上で通行人を殴り現金などを奪ったとされる2件の強盗致傷事件。地裁によると元少年は起訴内容を争っていない。
 地裁はタガログ語の通訳2人を選任予定で、これまで大半の刑事裁判は通訳1人だったのに比べ強化。2人が交代で通訳を担当し、親族の証人尋問や被害者の意見陳述など3日間連続の集中審理をこなす」。
 このとき、次のようなコメントを掲載してもらったが、やはりこの原則に従って、通訳人配置を実施するべきで、それには、「ペア通訳」の実現が不可欠だ。
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■法廷通訳に詳しい甲南大法科大学院の渡辺修教授は「口頭主義が徹底する裁判員裁判では通訳の微妙なニュアンスが量刑に影響を与えることも予想される。法廷通訳の重要性はこれまで以上に高まった」と指摘する(09年09月07日長崎新聞)。

*写真は09年09月27日に大阪で実施した裁判員裁判向け司法通訳研修会の模様。長尾教授のメモ取りの解説。


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