2009年09月09日

■神戸「裁判員裁判」ー「効率司法」から「人情裁判」へ

■ 神戸地裁で、2009年9月9日、午前9時50分すぎ、裁判員裁判初の執行猶予付判決の宣告があった。

 ところで。
 最高裁が作成した裁判員裁判宣伝用の映画『評議』。やはり殺人未遂で起訴された若者とその友人でもある被害者と、被害者と一度だけ不倫をした美しき恋人。
 結論は、執行猶予付であったが、最後に、裁判長が次のように被告人に語る。
 「この判決には、あなたが更生することを信じ、これからは二度とこのようなことがないようにしてほしいという私たち9人の切なる願いが込められているということをどうか忘れないでください」
 全員一致の思いをこめたものです」と高らかに訴えかける名場面がある。
 今日の判決公判は、まさに『評議』の再来であった。
 
■ 裁判長が被告人を証言台に呼び寄せて、「では、判決を言い渡します」と告げて、主文を朗読する。
 「主文。被告人を懲役3年に処する。この裁判確定の日から4年間、刑の執行を猶予する。但し、保護観察に付する」。

 裁判長は、まずすぐに釈放されて社会に戻れることを告げ、但し、保護観察に付されるので、保護司のもとで月に何回か相談にいって仕事面のことなど話をして、指導監督を受けることになると説明をした。
 むろん、保護観察の遵守事項を守らないと、執行猶予が取り消されることもあるし、また、執行猶予期間中に別の犯罪を犯して裁判になると、今回の執行猶予も取り消されて今回の刑も一緒に服することになるといった説明を分かりやすくした。

■その後、「では、理由を述べます」とし、裁判員裁判ならではの執行猶予を付けた理由を説明した。
 まず犯行態様の点では、検察官はガラス細工の灰皿で2度思いっきり殴った点に「強い殺意」があると主張したが、「さらに攻撃を加えようとはしていないこと、包丁など持ち出していないこと等を指摘して、強固な殺意が合ったという点は賛同できないとした。
 また、父親が証言台で、被告人を甘やかしたことを認め、自分も加害者かもしれないと告白していること、その父親が被告人がはやく戻ってくることをねがっていることを指摘し、さらには、18歳、14歳の子供達も同じ思いであることを指摘した。

 「こうした家族の気持ちは最大限尊重するべきであり、今、被告人を刑務所に入れることは、家族の心に与える打撃はかなり大きく、これは避けるべきである」。

 本人の反省、前科のないこと、40才と若いことなど考慮し、被告人を立ち直らせるのには、服役させて厳しい規律のある生活をさせることも考えられるが、むしろ、父の監督とともに保護司、保護観察官の監督に服させて、社会で更生する機会を与えるのが相当である、という。

■裁判員裁判の妙味が表れたのは、判決宣告後の説諭であった。
 刑訴規則221条は「裁判長は、判決の宣告をした後、被告人に対し、その将来について適当な訓戒をすることができる」とされている。
 プロの法律家同士の裁判では、こうした訓戒がないことも多く、なにかひと言あっても、ごく杓子定規な味気ない一般論であったりする。
 しかし、今回は違った。

 「あなたに対して、裁判長、裁判員、裁判官はどのようなことばをかけるか、話をするか、話し合いました。その内容は次のようなものです。
 人間誰しも弱さはある蹴れとも、あなたも自分の弱さがあると自覚をもち、それを克服してほしい。
 生まれ変わるほどの気持ちになって欲しい。あなたにはプライドがあるようであるけれどもなりふりかまわずに立ち向かって欲しい。
 お父さんがあなたのことを大事に思っていることは痛いほどよく感じます。
 また長女、長男が思春期にあってこれからいろいろ大変な苦労、困難があると思いますが、家族を大切にし、みんなで幸せに活きていってほしい、というのが、みんなの思いです。
 あなたが拘束されていたのは夏の暑い間でしたが、今日は青い空、秋空です。空気も澄んでいます。
 秋の空気を思いっきり吸って、新しい生活に進んでください」。

 執行猶予の宣告とともに、勾留の効力はなくなる。傍聴席にいた父親が、弁護人に促されて法廷側に入り、被告に近づく。腕をなで「よかった、よかった」と頷く。息子である被告も深く頷き返していた。

 「人情裁判」。

 テレビドラマのような世界を実現したのは、補充裁判員を含めた8人の市民と、彼らの良識を十分に活かせるように配慮した裁判長ではなかったか。
 みごとな裁判であった。
 裁判員裁判は、我が国社会に定着すると思う。

*写真は、今回導入されたリストバンド方式の傍聴整理券と、傍聴券そのもの。


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posted by justice_justice at 15:39| ■裁判員裁判ー神戸 | 更新情報をチェックする
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