2009年04月23日

■和歌山毒入りカレー事件ー上告棄却判決について(中)

□1:今回の和歌山毒入りーカレー事件最高裁判決を受けて、いくつかマスコミにコメントを掲載してもらったので以下、紹介する。まず、もっとも包括的に検討したものは次の産経新聞のものである。

■「真須美被告 死刑確定へ/動機 残る謎/『裁判員』難しい判断」産経新聞09年4月22日(朝刊)3頁
 ◆緻密な有罪認定「裁判官の職人芸」 □甲南大法科大学院 渡辺修教授
 1審判決を支持した最高裁の上告棄却は妥当だ。1審は、被告宅台所から発見されたプラスチック容器付着のヒ素化合物の亜ヒ酸とカレーに混入された亜ヒ酸の同一性について、スプリング8を利用した最先端の蛍光X線分析の手法の特徴と限界を十分に吟味し、再鑑定など3つの鑑定の結果も踏まえて慎重に認定したもので、これを有力な柱にして状況証拠による緻密(ちみつ)な有罪の事実を認定したものであり、説得力があった。
 被告は控訴審になって黙秘を破り事件の説明をしたが、事件直後に本人が作成したノートや控訴審での弁護団の主張とも食い違っているもので、信頼に値するか疑問が残った。被告側は、控訴審では過失の可能性があるとする主張や、上告審では第三者が犯人とする主張も加えるなど防御方針にぶれがあり、1審判決に「合理的疑い」を抱かせるものではなかった。1審は亜ヒ酸を食べ物に入れてマージャン仲間や夫に食べさせて保険金を得た殺人未遂事件への関与も「合理的疑いを超える証明」により認定し、複数の住民の証言によって犯行場所に1人で所在した事実などが推認できるとしたもので、控訴審に続き、最高裁も1審の精密な有罪認定を支持したのは当然だ。
 自白など確実な証拠がないのに心の中の一断面を「動機」と推認し、犯人性や殺意を認める土台にするのは適切ではなく、1審が「動機」が解明できないとし、控訴審も身勝手な動機と認定するのにとどめたのは適切である。大量の亜ヒ酸を夏祭りで出すカレーに混入したのは無差別殺人と呼ぶべき犯行態様であり「動機なき死刑判決」も是認してよい。
 1審は審理に時間をかけて状況証拠をたんねんに検討し、犯行前・犯行時・犯行後の小さな事実を積み上げて被告の犯人性を浮き彫りにしたもので、最高裁が上告を棄却することにより、プロの裁判官の職人芸のみごとさを示した名判決が歴史に残ることになった。

□2:内容は同一であるが、短めにまとめたコメントとして以下のものを掲載してもらっている。

■「林真須美被告、死刑確定へ――「裁判員」へ難題残す、立証、状況証拠のみ」日経09年4月22日(朝刊)38頁
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話 最高裁の判断は妥当。一審は最先端の鑑定で、被告宅や被告周辺で発見されたヒ素とカレー内のヒ素を同一と認定。さらに犯行前の亜ヒ酸を使った夫らへの殺人未遂事件、複数の住民等の証言から現場に被告がいた可能性のあること、犯行後親類に亜ヒ酸のことを口止めしたことなどを丹念に積み上げた。上告審で「第三者犯人説」を持ち出しても最高裁を説得するのは無理だった。動機が未解明でも被告の犯人性は十分に認定できるし、死刑選択もやむをえない。
■「最高裁判決、識者の見方は/状況証拠を支持適切・一般人に判断困難/和歌山カレー事件」朝日新聞09年4月22日(朝刊)34頁
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「上告審で被告側は、犯人性を覆すような主張や証拠を示せなかった。緻密(ちみつ)な状況証拠を積み上げた一、二審を最高裁が支持した結論は適切と言える」と指摘。「取り調べの全面的な録画が実現され、被告の態度などが把握できれば、裁判員裁判であっても、状況証拠しかない否認事件を裁くことは十分できるだろう」と話す。
■なお、朝日新聞同日付けで、関西で配布された版には、次の内容でコメントを掲載している。
「上告審で被告側は、犯人性を覆すような主張や証拠を示せなかった。緻密(ちみつ)な状況証拠を積み上げた一、二審を最高裁が支持した結論は適切と言える。裁判員制度を前に、科学鑑定の結果は専門家が市民に分かりやすく説明し、複数の鑑定で立証できる体制を整えるべきだ。さらに、取り調べの全面的な録画が実現され、被告の態度などが把握できれば、裁判員裁判であっても、状況証拠しかない否認事件を裁くことは十分できるだろう」。

□3:この事件を通して、裁判員裁判の課題も透けて見える。特に審理の長期化と状況証拠しかない事実認定に裁判員がたえられるかが課題となる。次のようなコメントを出している。

■「最高裁動機示さず/最大の謎残したまま/毒物カレー事件/最高裁判決」西日本新聞09年4月22日(朝刊)34頁
 ●ヒ素の一致は有力証拠 ▼渡辺修甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話 上告棄却は妥当で常識的な判決だ。「状況証拠を積み重ねた立証」といわれるが、カレーのヒ素と林真須美被告宅のポリ容器などから採取したヒ素の同一性を明らかにした鑑定結果は、凶器発見に匹敵する有力証拠。結局、一審の緻密(ちみつ)な事実認定を弁護側は崩すことができなかった。今回のような大型否認事件では、裁判員も長期間の審理など相応の負担を覚悟する必要があり、気軽にはできない。法曹三者も争点整理に基づき過不足がないよう証拠を整え、分かりやすい立証が求められるだろう。(共同)
■「和歌山毒カレー事件/裁判員制度への課題/長期化、負担減の必要(解説)」読売新聞09年4月22日(朝刊)13頁
 渡辺修・甲南大教授(刑事訴訟法)は、「公判前整理手続きで争点を絞り込みすぎず、長期間の審理に耐えうる裁判員を選任する必要がある。的確な立証と弁護活動が行われ、裁判官がきちんと説明すれば、裁判員も適切な判断ができるはずだ」と話す。

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posted by justice_justice at 13:24| ■(ケース)毒入りカレー事件■ | 更新情報をチェックする
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