2009年04月13日

■窃盗罪と「仏罰」ー「おばちがあたります」

■「京都・仏像盗難:「仏像は信仰の対象」時価不詳、検察困惑/『求刑悩みそう』」
 こんなユニークな見出し記事が、09年4月11日毎日(大阪夕刊版)9頁に載っている。
 少し前の記事で話題になった、京都市東山区の建仁寺から十一面観音座像を盗んだ事件だ。三重県の会社役員がすでに起訴されている。
 窃盗事件の起訴状には、被害品の時価などの価額を示すのが通常である。しかし、そもそも新作ではなく、古くから寺に所蔵するもので、売却の対象に事実上ならず、マーケットもない場合はどうすべきか。
 報道によると、寺側が「仏像は信仰の対象であり値段などつけられない」としているというが、寺社側の感覚としては当たり前。だからとって、多めに価格を付けるなど、それこそ、そのがめつさに「仏罰」があたる。
 記事は、「京都地検幹部からは『求刑に悩みそう』との声が上がっている」と紹介しているが、やむを得ない。
■もっとも、先例はある。
 奈良地方裁判所葛城支部判決・平成19年12月26日(平成18年(わ)第225号)である。
 仏像のみ十数体を盗んだ事件で、被告側の事情なども考慮しつつ、判決は懲役3年、未決勾留日数500日算入を宣告している。量刑について、仏像の価値を次のように指摘している。
 「被告人が侵入した寺院は合計15か所,窃取した仏像は合計18体にも及び,被害総額は合計4960万5000円もの非常に高額に上る。また,判示第1のD1寺における犯行では,国宝で世界遺産でもある貴重な建造物の一部をのこぎりで損壊してもいるのであって,回復不能で甚大な被害を与えている。心の拠り所であり信仰の対象である寺院や仏像に対する本件各犯行によって,寺院関係者や信者らが被った精神的苦痛も大きいし,本件が広く報道されたことによる社会的影響も軽視できない。被告人は,これら一連の仏像の窃盗や窃盗未遂等をわずか3か月間のうちに次々と敢行したのであって,この種事犯が常習化していたといえる」。
■ただ、この判決のなぞは、誰がどうやって「被害総額」を算定したのかであるが、これは証拠をみないとわからない。その場合、万が一にも、捜査機関なり検察官が、寺側に、「刑事裁判の都合上、適当な価格をいってくれ」と説得して調書を作り、これを転載したのであれば、それは不適切きわまりない。率直に、「時価不詳」と記すべきで、官僚的な書式例の踏襲のため、「仏像の本来の価値」を勝手に金銭換算すべきではない。
 繰り返すが、新しい仏像を仏師に彫ってもらったときの支払価格、できあいの仏像のマーケット価格はある。これはネットでも調べられる。
 しかし、古くから伝承されている仏像には時価はない。
 寺に安置した仏は、基本的に販売の対象にならないからだ。
 マーケット価格が成立するわけがない。
 闇市場の価格を公訴事実に書くこともできない。
 結局、経済的価値よりも、信仰対象を寺から奪った事実そのものの社会的な非難の度合いを、裁判所が適切に考慮するしかない。
■ 実は、ブログ編者も僧籍を持ち、日蓮宗(身延派)に属する某地方にある小寺院の副住職を勤める。
 寺には、幾体か仏像がある。国宝級などというものではない。だが、寺に集まる御信心筋の心の頼りだ。仏に値段は付けられない。「0円」と言えばそうだし、無窮の悟りを体現しているから、「1京円」といってもうそではない。つまりは、経済価格には換算できない。
 「僧が仏に値段を付ける」、そんなことをする訳もない。
社会規範に反する行いは、仏も許さない。仏像の独占など信仰の基本に相反する。今回の犯人も心より反省してもらいたい。
 さもなければ、、、
 「おばちがあたります」

 そんな思いを担当記者に話をして記者稿をまとめてもらい、もう一度意見交換をして、最終的に編者も確認の上で、次のコメントを掲載してもらった。
 短いコメントなのに担当記者の手を患わせた。が、法的なコメントについては、法律情報の正確を期し、編者の考えの正確な伝達のため、必ず再確認手続を採ってもらっている(ごくまれに、編者が再確認の申出を忘れたり、逆に、記者が〆切時間を口実に無視することがあるので、十分注意したい)。

*********09年4月11日毎日(大阪夕刊版)9頁********
◇「量刑に影響」
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「マーケットが存在しない以上、時価を決められず、経済的被害による量刑基準を当てはめることはできない。ただ、時価をつけないことは『信仰の対象を奪った』犯罪として、量刑判断に影響を与えるだろう。物を盗んだ罪は経済的価値だけでは測れない」と話している。

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posted by justice_justice at 00:03| ■事件ー捜査から起訴まで | 更新情報をチェックする
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