2008年08月03日

■和歌山毒入りカレー事件ー10年を思う  by GISHU


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■ 和歌山市の郊外、園部で地区自治体の夏祭りの日、住民が準備したカレーを食べた大勢の住民が中毒になり、後に4名が亡くなった。いわゆる「和歌山毒入りカレー事件」である。
 もう10年経つ。当時、前任校にいて、学部の物好きの集まるゼミを主催していた関係上、いずれ捜査が落ち着く頃、現地取材を含めて裁判傍聴まですることになるとゼミ生に話したのは、後期の授業が始まってから。だから、関係する新聞記事を切り抜いておけと指示した記憶がある。
 その後、和歌山には何度も足を運び、ゼミもなんども現地合宿を組んで勉強をし、そして遊んだものであった。「活きた法を学ぶ」場であった。
■ さて。
 この毒入りカレー事件では、被告が捜査から一審にかけて沈黙したことが事件解明を困難にした。
 だが、一審判決は被告宅とカレー鍋から発見された亜ヒ酸が同一であること、被告がカレー鍋を一人で見張る機会のあったことなど状況証拠に基づいて被告を犯人と認定した。
 被告が犯行を行った、うなずける動機を解明する証拠は浮かび上がらなかった。少なくとも犯人と疑われた被告が黙秘した以上、証拠に裏付けられた動機解明は無理であった。

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*写真は99年3月当時の被告宅(今は公園になっているというが、編者はその後訪問したことはない)。

 しかし、混入された亜ヒ酸の量が強い殺意を物語ることは、一審も控訴審も認めた。
 もっとも、被告は控訴審では娘といっしょにガレージにいたことなど当日の行動を弁解した。しかし、一審の手堅い証拠評価を崩せなかった。スプリング8を利用した蛍光X線分析の手法を取り込むなど一審判決は今でも状況証拠による有罪認定のモデルである。
■ カレー事件の起訴から一審判決までほぼ4年かかったが、将来裁判員裁判になっても否認事件には時間がかかる。
 市民の負担回避を口実にした拙速な裁判の結果、えん罪を生む危険は避けねばならない。
 もっとも、実はこう思っている。
 毒入りカレー事件の捜査段階で、万が一にも、被疑者取調べの録音録画が実現していれば、黙秘の不自然さが記録に残っていたはずだ。
 これが、有罪証拠に加わる。
 そうであれば、裁判員は不自然な黙秘の事実を含めて、状況証拠を全体的総合的に判断することができる。取調べ室で、刑事の世間話には応ずるが、いざ肝心の事件のことにあると、急に黙して語らなくなる姿勢には、不自然を感じても不合理ではない。
 その意味では、自白がなくとも、死刑を選択する決意をささえるしっかりした有罪の確信を得ることは可能であったかも知れない。
 被疑者取調べ可視化は、違法不当な取調べを回避し、真相を解明し、被疑者・被告人の権利を擁護し、そして、裁判員裁判における極刑選択を支える上で、
不可欠だと思う。
■ Spring8を使った「蛍光X線分析」によって亜ヒ酸の同一性鑑定がなされたが、これを担当したN教授は、マスコミの取材に応じて、テレビで簡単な解説を行った。
 図面とグラフを使ったわかりやすい説明であった。化学分析の原理まで理解できなくても、その技法を使ってなにが解明されるのか、一般市民にも分かりやすく解説することは、プロであれば可能である。
 であれば、法律家が工夫しさえすれば、カレー事件で証拠になった各種鑑定について、それぞれの専門家に法廷にいる裁判員にも十分に飲み込めるように、説明してもらうことは可能となる。
 法律家がわかりやすい審理を実現すれば、毒入りカレー事件のような難事件でも普通の市民がたじろぐことなく裁判員になり、公正に裁くことは可能だろう。
 そして、自白ならぬ「黙秘の録音録画」があれば、それを含めて、死刑選択にも躊躇をしない有罪の立証構造を固めることができるのではないか。
 そんなことを思って東京新聞、中日新聞に次のようなコメントを掲載した。
***<中日新聞08年7月26日>***
(1)「一審判決は今でも状況証拠による有罪認定のモデルだ」。「動機解明の証拠はなくとも、混入された亜ヒ酸の量が強い殺意を物語ることは一審も控訴審も認めた。被告は控訴審で娘と一緒にいたことなど当日の行動を弁解したが、一審の証拠評価を崩せなかった」。
(2)「この事件で、被疑者取り調べの録音録画が実現していれば、黙秘の不自然さが有罪証拠に加わり、裁判員は自白がなくとも有罪の確かな手応えを得た可能性がある」
 *東京新聞08年7月25日朝刊は、(1)まで掲載。
posted by justice_justice at 09:42 | TrackBack(0) | ■(ケース)毒入りカレー事件■ | 更新情報をチェックする

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