2008年03月05日

□三浦事件と一事不再理効ーアメリカも処罰する責務があること

□ 三浦事件の報道にあわせて、久しぶりにアメリカ法を復習している。
 30数年前、ニューヨーク州イサカにあるコーネル大学ロースクールで、他のJD学生と一緒にぶ厚いケースブックを開きながら、プロフェッサーの英語が聞き取れない中、四苦八苦して、ソクラティックメソッドについていこうとしていた頃が思い出される(幸い、外国人の修士課程学生は、as a matter of courtesy として、発問の対象にはされなかったのが幸いであるが、、、)。
□ さて、現行カリフォルニア州の刑法典656条は、次のように定める。

§656(Conviction or acquittal from other state or territory)
 Whenever on the trial of an accused person it appears that upon a criminal prosecution under the laws of the United States, or of another state or territory of the United States based upon the act or omission in respect to which he or she is on trial, he or she has been acquitted or convicted, it is a sufficient defense.

現在は、アメリカ連邦と州においてすでに刑事裁判を受けて有罪か無罪かの判断を受けた「act or omission」であれば、一事不再理効という法律上の効果が働いて、カリフォルニア州の裁判所は、もう一度有罪・無罪の判断をすることができなくなる。
 ただし、ここでのポイントは、
  「行為または不作為」
 という法律上の概念の内容だ。
 これは、旧法でも同じ問題があった。
□ 三浦事件について、日本で無罪判決が確定した時期には、上記の法律は、実は、次のようになっていた。
 "Whenever on the trial of an accused person it appears that upon a criminal prosecution under the laws of another State, Government, or country, founded upon the act or omission in respect to which he is on trial, he has been acquitted or convicted, it is a sufficient defense."
 「被告人の公判において、審理の対象となっている行為または不作為について、他の州、政府、国家の法律に従って刑事訴追がなされてすでに無罪または有罪を宣告されたことが明らかな場合には、これは相当な抗弁事由となる」。
 したがって、日本の無罪判決が、ここでいう「相当な抗弁事由」にあたるのであれば、三浦氏は、カリフォルニア州で、起訴されても、公訴棄却になる。とすれば、サイパン自治領からカリフォルニア州に移送すべき適法な理由がないことになる、、、
 こんな法律論が可能ではないか、ということになる。
□ しかし、残念なことに、ここでの「行為または不作為」は、日本の専門用語でいう「公訴事実の同一性」の範囲内にある事実を意味しない。
 より端的に、自然的事実、自然的な不作為を意味するものとして判例上解釈されている。次の裁判例を概観すれば、このことはすぐに明らかになる。
○People v. Gofman (2002, Cal App 2d Dist) 97 Cal App 4th 965, 119 Cal Rptr 2d 122, 2002 Cal App LEXIS 3998.
○People v. Brown (1988, Cal App 3d Dist) 204 Cal App 3d 1444, 251 Cal Rptr 889, 1988 Cal App LEXIS 940.
○People v. Friedman (2003, Cal App 2d Dist) 111 Cal App 4th 824, 4 Cal Rptr 3d 273, 2003 Cal App LEXIS 1318, review denied (2003, Cal) 2003 Cal LEXIS 9147.
 つまり、日本の裁判所が問題とした殺人事件を構成するのと全く同一の事実関係のみをカリフォルニア州が起訴するのであれば、一事不再理効が発生する。
 しかし、カリフォルニア州の第1級殺人罪を構成する事実が、日本で訴追された殺人事件と異なる事実を含んでいるのであれば、犯罪のかたちと非難すべき内容が異なることになる。
 その場合、被告人がすでに裁判を受けた事実をカリフォルニア州においても尊重すべき必要性がなくなる。
 だから、一事不再理効は発生せず、陪審裁判を行うことができる。
 この点は、結局、カリフォルニア州で訴追がなされた上で、被告側が上記抗弁事由を申したてて、裁判所において事実の取調べを行い、事由の存否を判断するしかない。
□ さて、カリフォルニア州には、「共謀罪」規定がある。犯罪である。重い処罰が科される。
 これについては、日本ではそもそも訴追の対象にはなっていない。そうした犯罪類型がないからだ。
 したがって、ここでは、一事不再理効の問題はそもそも生じていない。
□ ネットの時代、法情報の検索は楽になったが、運用についてまで細部を知るのは難しい。そのあたりは、事件の動きをたどりつつ、補足し、また誤りは訂正していこう。



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