2015年08月27日

逮捕の重みーえん罪の怖さ

「『幸せな人生、変えられた』/誤認逮捕の男性、苦悩の2年/地裁賠償命令【大阪】」と題する記事で(2015/06/16 朝日新聞(朝刊)),次の紹介があった。

 「ある日突然、身に覚えのない容疑をかけられ、そのまま自由を奪われたら――。そんな悪夢が現実になった大阪府警北堺署と大阪地検堺支部の誤認逮捕・起訴。15日の大阪地裁判決は、ずさんな捜査で無実の人を苦しめた捜査当局の姿勢を厳しく批判した。どうすれば冤罪(えんざい)は防げるのか。捜査現場の模索が続く。▼1面参照
 「私の人生は、誤認逮捕で大きく変えられてしまいました。今日の判決が、心身ともに健康で幸せだった頃の人生を取り戻すきっかけになればと思います」・・・
 捜査段階から容疑を否認してきた男性。判決では、大阪府警の取調官が男性に何度も自白を迫った際の文言が明らかにされた。
 「その汚れた手で子どもの頭をなでてあげられますか」「反省する気持ちはないのか。お前が犯人である証拠はそろっている」
 男性は85日間の拘束の末に釈放されたが、一連の捜査で精神的なストレスから抑うつ反応を発症し、今も休職と復職を繰り返す。
 小学生の娘が2人いる。誤認逮捕のもとになったのは、家族でスノーボードに向かう途中での給油だった。そのすぐ後に給油した真犯人と取り違えられた。」

■<考論>検察、原点戻って
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話 警察は捜査を自白に頼ろうとする伝統的な体質から抜け切っていない。一方、検察は警察の捜査をうのみにする傾向がある。今回の誤認逮捕と起訴は、そうした土壌が生んだものといえる。検察の役割は、裁判を起こして罪に問うべきかどうか批判的に事件をとらえ直すことにある。判決を踏まえ、検察は本来の役割をしっかり自覚するべきだ。
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2015年08月26日

逮捕権限の行使ー日本のありかた

 もう解決済みの事件であるが,こんなことがあった。見出しをみよう。
 「【水平垂直】トヨタ女性役員逮捕/『例外なし』警視庁毅然」
 2015/06/29の産経新聞(朝刊)に掲載された記事だ。テレビニュースでも結構取り上げられたようだ。そろそろ忘れ去られようとしている事件であるが,,,
 「世界有数の自動車メーカー「トヨタ自動車」の常務役員、ジュリー・ハンプ容疑者(55)、米国籍=が、麻薬オキシコドンの錠剤を輸入したとして麻薬取締法違反容疑で逮捕された事件の衝撃が続いている。28日で逮捕から10日が経過。大企業相手に毅然(きぜん)と捜査を進める警視庁は一方で、株主総会後に逮捕に踏み切るなどリーディングカンパニーへの配慮もうかがわせる。人材の多様化が進む中、トヨタ初の女性役員の逮捕を受け、日本企業は新たな課題に直面している。・・・・」
 企業経営の側面はさておき,こんな事件で,社会的な身分や日米関係に配慮して,警察が身柄確保を躊躇されては困る。
 場合によっては,案外悪質であったりする余地はこの段階ではあった。共犯関係も不明であった。とすれば・・・記事が続く。
 「■偽装輸入で違法性疑う 総会・株価…捜査時期に配慮も
 「相応の理由があるから逮捕している。むやみにやっているわけじゃない」
 ジュリー・ハンプ容疑者の18日の逮捕から数日後、警視庁幹部はこう話した。
 ハンプ容疑者は逮捕当初から「麻薬を輸入したと思っていません」と容疑を否認。だが、別の警視庁幹部は「ネックレスに偽装して送っている。違法性の認識があったはずだ」と話す。
 実際、ハンプ容疑者が輸入した荷物からは、違法性の認識がうかがえる。小包は「ネックレス」として輸入され、中には玩具とみられるネックレスやペンダント入りの小箱があった。問題の錠剤は小箱の底や小さな紙袋など3カ所に小分けされていた。
 「明らかに逮捕が必要な案件。大企業の幹部だからといって許されない」(警察幹部)」。

 警視庁の毅然とした対応について,次のようなコメントを出した。
 甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は、「逃走などといった捜査妨害の可能性は低いという前提があれば、容疑者の社会生活に折り合いをつけた上で逮捕を調整するのは正当な捜査手法」と説明する。
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2015年08月24日

哀しき「監視カメラ」

朝日新聞(夕刊)2015/08/22は,周知の事件について,「遺体の顔に粘着テープ/死後数日経過か/大阪・少年遺棄」とする見出しで,経緯の一端を報道している。
 「大阪府高槻市の駐車場に中学1年の平田奈津美さん(13)の遺体を遺棄したとして大阪府寝屋川市の山田浩二容疑者(45)が死体遺棄容疑で逮捕され、同級生の星野凌斗(りょうと)さん(12)とみられる少年の遺体が見つかった事件で、少年の顔全体に粘着テープが何重にも巻かれ、手も縛られていたことが捜査関係者への取材でわかった。一部は白骨化していたという。・・・
 山田容疑者の逮捕容疑は13日、高槻市の運送会社の駐車場で平田さんの遺体を縛るなどして遺棄したというもの。府警によると、山田容疑者は「確かに女の子を車に乗せて高槻市の駐車場まで行ったが、助手席にいた同乗者の男が女の子の死体を車から出して遺棄した。同乗者の名前や年齢は言いたくない」などと容疑を否認しているという。」
 平田さんが殺害された前日から当日の明け方にかけて,寝屋川市駅近くの商店街にいる二人を「防犯カメラ」ないし「監視カメラ」がくっきりと捉えており,その画像は,繰り返しテレビでも流されている。
 一方で,監視カメラの多数設置は,市民のプライバシーを侵害するものとして嫌われているが,他方で,今回のような事件が起きたときに活躍するのが監視カメラの画像であることも周知のことだ。今,日本社会は,「孤立化」の時代に陥っている。その結果が,「孤死」。無縁であること。これが人の通常の姿になってしまった。高度経済成長がもたらした,負の遺産。しかも増殖している。年々27万人規模の人口が減少している。居住する明石市が,毎年ひとつずつ空白になっている現実・・・・
 地域がまとまっていて,うるさいおじさん・おばさんがいて,子ども達が夜遊んでいると,誰彼隔てなく「あんたたち,もう遅いんだから,帰えんなさい」と叱ってくれた時代。そして,子ども達も,一瞬しゅんとなって「は〜い」といって温和しく家路についた時代。そう言っていい時代を,我々還暦を超え始めた世代,昭和がまだ中期であり,これから高度成長を日本が遂げる手前に少年時代を迎えた者は多かれ少なかれ体験していないか。
 それが,雲散霧消した。「関わらない地域」。見知らぬ家族の住む空間。そして,夫婦・親子なき孤立した生活。
 「監視カメラ」がもっと人工頭脳と一体化したらどうか。
 映画ターミネーターのように瞬時に相手の属性を判断できたらどうか。「平田さん,星野君。もう遅いよ。おうちに帰りなさい。今,ふたりの顔から顔認識システムで家が分かったから,家族に連絡するね」と過干渉なことを言う機能を持っていたらどうであったか・・・
 画像のみ正確に記録し,その後,ふたりは・・・殺された。
 監視カメラに心あらば,思っているのではないか。あのとき,声をかけられるシステムを早く開発し,導入して欲しい,と。「哀しき監視カメラ」の独り言である。
JH1st murder case 00.jpg
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2015年08月21日

二重事故の過失責任ー後続車の運転手に課される注意義務とは?

「三条・死傷多重事故/後続車の女性/2年半後に一転起訴/先行車の判決受け/地検」新潟日報(朝刊)2015/07/05は,こんなタイトルで,次の事件を紹介している。記事を引用する。

 「三条市の北陸道で2011年に2人が死傷する多重事故があり、一度不起訴となった女性が約2年半後、一転して自動車運転過失致死罪で新潟地検に在宅起訴されていたことが4日、捜査関係者への取材で分かった。
 起訴されたのは新潟市中央区の無職女性被告(53)。居眠り運転で最初に追突事故を起こした男性(32)=有罪判決確定=の後続車を運転し、死亡女性=当時(45)=の車に衝突していた。男性の判決で被告の過失に言及があり、遺族側が検察審査会に審査を申し立てた。検察は議決前に判断を覆し、異例の起訴に踏み切った。
 新潟地検は「先行車両の裁判で被告の過失もあると指摘され、検審への申し立てもあったため再捜査した。不起訴の判断は結果的に捜査が不十分だったと思うが、再捜査で起訴に至った」と説明。」

 遺族側は「被害者の気持ちを考えれば最初から起訴してほしかった」としている。被告は無罪を訴えている。
 事故は11年7月8日、三条市の北陸道上り線で発生。長岡市の女性の軽乗用車に、居眠り運転の男性のトラックが追突。さらに後続の被告の乗用車が衝突した。被告も軽傷を負った。
 県警は12年2月に両名とも自動車運転過失致死容疑で書類送検したが,男性のみ起訴されて13年3月には有罪が認められたようだ。その判決内容中,女性についても過失を認める言及があったと記事は言う。
 「判決で、女性の死亡に関する被告の過失は「相当にうかがうべき」とされ、遺族側が検審に申し立てた」。
 その結果,新潟地検が検察審査会の議決を前にして,14年12月に一転起訴したという経過だ。
 今回の起訴状では,女性も,制限速度を守らず走行し、事故で止まっていた軽乗用車に衝突後、道路に出ていた女性にぶつかり死亡させたとしているという。
 事件の詳細,証拠の詳細が分からなければなんとも言い難いのだが,先行車両が事故を起こしたとき,後続車両の運転手には,その事故の被害を拡大しないで,かつ自車が巻き込まれないようにする,特別な状況に置かれてしまう・・・今回の事故でも,予見可能で,回避可能であるし,かつ,この女性に科すべき結果回避義務がはたして市民社会がなっとくできる形で,構成できるのだろうか・・・・。審理の行方がわかるといいのだが。
 こんなコメントを出した。
<検察は証拠開示を 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話>
 過失の捉え方は市民と法律家の目線では異なることがある。検察審査会の議決前に起訴されたとはいえ、検審の公訴権に対する監視機能が働いたケースではないか。ただし、起訴までに時間がかかると、証拠が散逸したり当事者の記憶があいまいになったりして、冤罪(えんざい)を招きかねない。遅すぎた起訴は被告の負担も大きい。検察は十分な証拠開示をして、法廷で真相に迫るべきだ。
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2015年08月17日

■青酸化合物/連続変死事件の現況

しばらくマスコミが取り上げていないが,京都・大阪で発生した,青酸化合物を使って夫,内縁の夫などを連続殺害した筧千佐子事件はまだ決着がついていない。公判の見通しも全く立っていない。そんな事件の現況を読売新聞が紹介する。
「連続変死事件/青酸入手先特定/カギ/千佐子被告 業者名など明かさず」(読売新聞015/07/31(夕刊))
 「青酸化合物を使った連続変死事件で、筧(かけひ)千佐子被告(68)が今月、交際相手だった神戸市北区の男性に対する強盗殺人未遂罪で追起訴された。起訴は3度目。自供以外に犯行を裏付ける直接証拠はなく、今後の公判などで鍵を握るのが、青酸の入手先だ。千佐子被告は「もらった」と従来と同じ供述を続けているが、相手の具体名などは明かしていない。裏付けは取れないままで、捜査本部はさらに確認を進める」。
 ■核心は未特定
 千佐子被告は昨年11月、夫(2013年12月に75歳で死亡)への殺人容疑で最初に逮捕された際、容疑を否認。しかし、起訴直前の同12月、京都府向日市の自宅にあった植木鉢内の小袋から青酸成分が検出されたことを取調官に告げられ、容疑を認めるようになった。
 この際、青酸の入手先について、「プリント会社を経営していた数十年前、出入り業者に『印刷の失敗時に使えば色を落とせる』ともらった」と供述した。
 今年1月、大阪府貝塚市の元交際相手の男性(12年3月に71歳で死亡)に対する殺人容疑での再逮捕時も当初は否定していたが、その後、容疑を認め、3度目の起訴となった今回の事件も供述したという。
 ただ、青酸の入手先については、具体的な業者名や時期は明らかにしておらず、大阪府警などの捜査本部は確認作業を進めているが、今も特定できていない。
 一方、動機について捜査本部は、千佐子被告が投機性の高い金融商品への投資を繰り返していたことなどから、遺産など金目当てと判断。千佐子被告の周辺では、他に数人の高齢男性が死亡しており、捜査本部は経緯や状況を調べているが、刑事責任追及の見通しも立っていない」。

では,裁判員裁判に向けて報道の限りで,どうみたらいいか。こんなコメントを掲載してもらっている。

■高いハードル
渡辺修・甲南大学法科大学院教授(刑事訴訟法)は「殺害などの自供が翻されても立証できるかという視点で証拠を固める必要がある。最高裁は、『犯人とみても矛盾はない』という程度の証明では有罪を認めない。青酸の入手先や保管方法などが不明確なままでは、有罪の決め手に欠けるのではないか」と話している。
posted by justice_justice at 07:17 | TrackBack(0) | ■裁判員裁判ー一般 | 更新情報をチェックする

2015年08月15日

「新時代の刑事司法制度」ー検察司法復権とえん罪の危険度

「新時代の刑事司法制度」を作るというテーマで取り組まれてきた一連の刑事手続のあり方を変える立法改正案が,衆議院を通過して,参議院に送られた。おそらく今回の通常国会で成立すると思われる。
 共同通信がこれを取り上げて各誌に配信したところ,例えば,次のような記事が掲載されている。

「司法取引17年にも導入/取り調べ可視化法案/衆院を通過、成立へ」
岩手日報2015/08/08 (朝刊)
「警察と検察による取り調べの録音・録画(可視化)の義務付けや通信傍受の対象拡大を柱とする刑事訴訟法などの改正案は7日、衆院本会議で与野党の賛成多数で可決された。参院での審議を経て今国会で成立する見通し。新たに導入される司法取引制度は2017年をめどに始まる公算だ。
 司法取引は、容疑者や被告が共犯者の犯罪を解明するために供述したり証拠を提供したりすれば、検察が起訴を見送ったり取り消したりできる制度。弁護士や刑事法学者からは「虚偽の供述で無実の人を巻き込み冤罪(えんざい)を生む恐れがある」との指摘も出ており、参院での審議の焦点となる。
 取引の対象は財政経済事件や薬物・銃器事件などに限られ、弁護士の同意が必要となる。また、公判で証人に対し、罪に問わないことを約束する代わりに犯罪への関与など自分に不利益な証言をさせることができる規定も盛り込まれた。
 改正案は付則で「公布の日から2年を超えない範囲で、政令で定める日から施行する」と規定しており、法務・検察当局は警察と連携し改正法成立後すぐに準備作業を始める。
 可視化の対象は裁判員裁判対象事件と特捜部などが手掛ける検察の独自事件に限られ、全事件の3%程度。逮捕した容疑者の取り調べの全過程で実施する。
 犯罪捜査で電話やメールを傍受できる対象は薬物犯罪など4類型に限られているが、これに組織性が疑われる殺人や詐欺、窃盗など9類型を追加。NTTなど通信事業者の立ち会いは不要になる。
 公判前整理手続きで検察官保管証拠の一覧表を被告側に交付することや、勾留された全容疑者に国選弁護人を付けることなども盛り込まれた。
 可視化義務付けは改正法の公布から3年以内、通信傍受の拡大は6カ月以内に施行される。」
 これについて,各誌で採用されている編者のコメントは以下の通りである。
***********************
■冤罪危険性高める
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話 司法取引が導入されると、事件の見立てに沿った取引をする権限を検察に与えることになる。容疑者や被告が捜査機関と一体となって他人を犯罪に巻き込む供述をした場合、後に弁護人が覆すことは困難だ。改正法案は、こうした新たな捜査手法を認める一方、取り調べの可視化は一部の事件に限定している。全体として見れば冤罪(えんざい)の危険性を高める内容で、疑問が残る。
*************************
 追加の感想は以下の通りである。
 今,参議院に回っている一連の刑事訴訟法関連改正法案は,裁判員裁判制度導入=市民主義原理の導入に対向する「検察司法」復活=官僚司法主義復権を狙ったものであり,これからはその対抗軸がどのおような運用を生むのか見守り,また,市民主義原理を活かす運用を広げられるかその実践力の出所が試される時期に入る。
 その意味で,ふたつの司法取引(証人=刑事免責,被疑者・被告人=訴追合意)を軸とする事件解決のあり方がどうなっていくのか,に限らず,その周辺で起きる「勾留全件国選」制度,捜査資料一覧表開示,裁判員裁判対象事件限定録音録画(おそらく他の事件に広がらざるを得ないし,そうした運用を押し上げる機動力が必要になる),他方での,通信傍受の通常捜査化などなど全体を見つつ,今回の改正法案の行方をみる必要がある。

 *なお,2015/08/08 長崎新聞などにも掲載されている。
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2015年08月09日

乳児「窒息死」事件と逮捕権限濫用

残念な記事が大阪読売2015年8月6日(朝刊)に紹介されている。
 「乳児『窒息死』と特定/新潟地検/施術の元理事長逮捕」
 「新潟県の男児(当時1歳)にマッサージのような施術をして死亡させたとして、新潟地検がNPO法人元理事長を逮捕した事件で、同地検は5日、検察審査会による『起訴相当』の議決後に男児の死因を窒息死と特定できたことが逮捕の決め手になったことを明らかにした。同地検はいったん元理事長を不起訴にしていたが、大阪地裁が4日に別の男児の事件で有罪判決を言い渡した直後に逮捕した。
 新潟県の男児は2013年2月、同県上越市のNPO法人(解散)元理事長・姫川尚美被告(57)の施術を受けた後に死亡。新潟県警が同年11月、姫川被告を業務上過失致死容疑で書類送検し、新潟地検が翌12月、不起訴(嫌疑不十分)にしたが、新潟検察審査会が今年6月5日付で「起訴相当」と議決した。
 新潟地検の稲葉一生検事正は不起訴の理由について「司法解剖など必要な捜査はしたが、当時は死因の特定が困難だった」と説明。議決後に捜査をやり直した結果、窒息死と特定できると判断し、施術が死亡を招いた業務上過失致死の疑いが強まったとした。ただ、窒息死とする根拠は明らかにしなかった。
 一方、姫川被告は今年3月、神戸市の生後4か月の男児を死亡させたとして業務上過失致死容疑で大阪府警に逮捕され、4月から大阪地裁で公判が始まっていた。今月4日午前、禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決が言い渡されて釈放されたが、閉廷から数時間後、新潟地検検事が大阪地検の庁舎内で逮捕したという。
 検察審査会法は、議決から原則3か月以内に起訴するかを判断するよう検察に求めており、新潟地検は今後、刑事処分を決める」。
■ 新潟地検の逮捕は暴挙であり許し難い。刑事裁判は真相解明を前提にして,犯行の重み,被告の処罰の要否を判断して量刑を決める。今回の執行猶予付有罪判決でも過失の重みを判断する際に新潟の事件を経験したことも考慮され,量刑でも言及されているなどしており,重ねて裁判にかけて有罪にすることは,実質上二重処罰に等しい。
 同時に審理すれば,二度同じ事件を繰り返した被告にふさわしい量刑も期待できたはずで,執行猶予であったとしても禁錮ではなく懲役に,またより長期の刑罰が科された可能性も否定できない。
 国家機関である検察庁が強制捜査を予定しておきながら,同種事件の裁判の終了を待って直ちに被告の身柄を拘束するのは,被告の防御の利益を踏みにじる一方で,刑事裁判で真相を明らかにし事件全体にとって相応しい厳正な刑罰を実現することを期待する国民の信頼を裏切るもので,訴追権の濫用だ。被告側は,起訴されても,公訴権の濫用として手続打ち切りを強く求めるべきだ。
 市民が参加する検察審査会の意向を反映して再捜査をするのは検察庁の当然の責務であるが,法律のプロとしての責任で行うべきで,裁判所が反省し更生の余地があると認める被告を,再度同種事件で逮捕するなど正義の実現にはほど遠いし,被告の改善更生にも全く役に立たない。必罰を狙う今回の措置は納得できない。
■ 掲載コメント
 渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)は「二つの事件を併合して審理していれば、執行猶予が付いても禁錮刑より重い懲役刑になった可能性がある。一方で、別々に審理されると被告が事件全体を踏まえた主張をしにくくなり不利益にもつながる。大阪、新潟両地検はもっと連携して対応すべきだった」と話している。
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2015年08月07日

■裁判員裁判の落とし穴ー審理のやり直しはできるか?

●中国新聞2015年7月7日朝刊は,次のような興味深い事例を紹介している。
 「東京地裁(田辺三保子裁判長)で開かれた強盗致傷事件の裁判員裁判が3月から約4カ月間ストップし、6日に一部の裁判員を選び直したことが分かった。裁判員の入れ替えは異例。審理中断は、被告が起訴内容を認めた後に新たな争点が浮上し、進行を見直す必要が生じたためだった。7日に再開する。
 再開後は、元の裁判員と新しい裁判員の前で冒頭陳述などをやり直す。既に終えた証人尋問は、やりとりを録画したDVDを法廷で再生する。
 被告のルーマニア人の男(26)は、東京都世田谷区の信用金庫前で、男性から現金4300万円が入ったかばんを奪ったとして強盗致傷などの罪に問われている。3月にあった公判に被害者の男性が証人として出廷。弁護側は、男性の証言はかばんの形状が実際と異なり、信用性に疑いがあるとして、起訴内容を争う方針に転換した。
 検察側がこれに応じ、追加の証拠提出などに時間を要するとしたため公判は中断。この後、裁判員と補充裁判員計8人中3人が辞任を申し出て地裁が解任した。開廷に必要な人数を下回ったため、地裁は今月6日、裁判員と補充裁判員計4人(1人追加)を選び直した」。
●やはり疑問が残る。そもそも強盗事件の被害品の存在と形状について客観的に食いちがいがあったのに,被告人が基礎内容を認め,後にその点が公判の進行途中で争点として浮かび上がってくると言うのは,公判前整理手続段階の準備不足の観を否めない。他に,やむを得ない事情があったものかどうかは,新聞取材の限りでは分からないようだ。ともあれ,理由がなんであれ,一部の裁判員のみ交代させる審理形式は適切ではない。プロの裁判官の交代と同じ発想方法で裁判員の交代を認めることは裁判員の間に情報の格差を生じるし,ないよりも,一緒の法廷で一緒に確認した情報のみを証拠とするという公判中心主義,そして,厳格な証明手続による立証を経て事実を認定する自由心証の根本を覆すものだ。
 相当期間の延期が見込まれた段階で,日本で言えば,いったん公訴棄却とするなど手続を打ち切る処置をするべきだ。また,将来は,かかる場合に備えて,「審理無効宣言」を宣告する裁判形式を採用するべきだあろう。
 とまれ,こんなコメントを掲載してもらっている。

●甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「被害そのものが公判開始後に議論になるのは公判前の準備不足だ。裁判員は既に有罪という前提で審理に臨んでおり、原理原則からすれば、起訴をいったん取り消して、完全にゼロから裁判を実施するのがふさわしい」と指摘している。
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2015年08月06日

■特殊詐欺事件の「売り子」の責任ー運用による司法取引

■「売り子」の責任ー運用による司法取引
 2015年7月16日読売新聞(朝刊)は「裁判官『量刑考慮』供述促す/ニセ電話詐欺公判/共犯明かし刑猶予」とする記事で,興味深い司法取引の実例を紹介している。以下,記事を引用する。
 「ニセ電話詐欺で現金の受け取り役をしたとして詐欺罪などに問われた男に対し、福岡県内の裁判所が15日、懲役2年6月、保護観察付き執行猶予4年(求刑・懲役3年6月)の有罪判決を言い渡した。男は当初、報復の恐怖から共犯者についての供述を拒んだが、裁判官から、話せば量刑を考慮すると異例の説得を受け、捜査協力に応じた。判決は『本来は実刑だが真相解明に貢献した』と判断した。
 判決によると、男らは今春、熊本県内に住む女性に息子を装って電話し、数百万円をだまし取った。また、福岡県内の女性からも同様の手口で数百万円をだまし取ろうとした。男は現金の受け取り役だった。
 6月にあった公判で男は、共犯者から現金の要求や、家族に危害を加えるとの脅しなどがあったとし、『不当要求が怖くて犯行に加担した。報復があるので(共犯者について)すべては明かせない』と供述した。裁判官は『私は頭にきている。このままでは犯罪が繰り返される」と一喝。「共犯者について話せば、量刑を考慮する』と述べ、いったん結審した。
 15日は判決期日だったが、弁護側の申し立てで弁論を再開。男は頭を丸刈りにし、『裁判官からの説得で、自分が言わなければ事件の一部しか解決しないと思った』と述べ、共犯者の情報を捜査側に伝えたことを明らかにした。報復が懸念されるため、今後は住所を変えて暮らすという。
 検察側は、前回の公判で求刑した懲役4年を同3年6月に引き下げて再度求刑。即日言い渡された判決は「被害は高額だが、共犯者情報を詳細に捜査機関に述べた。実刑は酷」とした。
 判決後、男の弁護人は『被害額を考えれば、実刑もあり得た事案だった』と語った」。
 記事では次のコメントを採用してもらっている。

■渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話
 「裁判官の訴訟指揮として極めて珍しいケース。司法取引は検察側と容疑者側が行うものだが、それに近い訴訟指揮を行ったと見ることもできる。こうした手法は組織犯罪の解明には大きく貢献するが、被告が自らを有利にするため虚偽供述を行い、えん罪を招く危険もあるため、裁判官は供述を裏付ける補強証拠を求めるなど注意が必要だ」
****
 今国会では他人の事件の証拠収集,訴追に協力すれば被告人が自己の裁判で有利な処分を受けられる手続の立法化が審議されている。検察官が被疑者と協議し弁護人が必要的に介入して合意を形成する捜査主導の手続である。裁判官は関与しない。「裁判官が介在する司法取引」の運用例は立法の一歩先を行くもの。組織犯罪の解明に大きく貢献する。
 もっとも,他人に責任をなすりつける「えん罪」の危険が残る。だから,裁判官は公開の法廷で語ったことだから真実だと鵜呑みにすることなく,共犯を巻き込む供述が信用できることを裏付けるなんらかの補強証拠を求めるべきだ。
 それでも,今回の場合,被告人が自己の犯罪を認めつつ組織的背景も明らかにするので被告人に有利な事情として判断していいが,今国会で議論されているのは,自分の事件と全く関係のない重大事件について情報を提供すると,訴追免除,減軽などの利益を受けることができる制度だ。慎重な運用がなされないと,「密告社会」を作り出すこととなってしまう。戦前の一時期,特高が社会統制をした時代にならない歯止めが必要であろう。
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2015年08月05日

青酸化合物・連続変死事件 関西の不可解な事件と裁判員裁判

無縁社会・孤死の時代の殺人事件
 21世紀に入り,殺人罪の発生件数は減っている。しかし,おりおりの新聞報道をみていると,社会の道義観念の融解や地縁・血縁などしっかりした人の絆の解体とともに,不可解で不条理な人間関係を背景とする殺人事件に触れることが多い。いままだ京都,大阪両府警と京都地検,大阪地検が協議中と推測する事件が,青酸化合物を使った老齢結婚→夫殺害事件である。
 読売新聞2015年731日(夕刊)は「連続変死事件 青酸入手先特定 カギ 千佐子被告 業者名など明かさず」として,次の記事を掲載する。
 「青酸化合物を使った連続変死事件で、筧(かけひ)千佐子被告(68)が今月、交際相手だった神戸市北区の男性に対する強盗殺人未遂罪で追起訴された。起訴は3度目。自供以外に犯行を裏付ける直接証拠はなく、今後の公判などで鍵を握るのが、青酸の入手先だ。千佐子被告は「もらった」と従来と同じ供述を続けているが、相手の具体名などは明かしていない。裏付けは取れないままで、捜査本部はさらに確認を進める。
 ■核心は未特定
 千佐子被告は昨年11月、夫(2013年12月に75歳で死亡)への殺人容疑で最初に逮捕された際、容疑を否認。しかし、起訴直前の同12月、京都府向日市の自宅にあった植木鉢内の小袋から青酸成分が検出されたことを取調官に告げられ、容疑を認めるようになった。
 この際、青酸の入手先について、「プリント会社を経営していた数十年前、出入り業者に『印刷の失敗時に使えば色を落とせる』ともらった」と供述した。
 今年1月、大阪府貝塚市の元交際相手の男性(12年3月に71歳で死亡)に対する殺人容疑での再逮捕時も当初は否定していたが、その後、容疑を認め、3度目の起訴となった今回の事件も供述したという。
 ただ、青酸の入手先については、具体的な業者名や時期は明らかにしておらず、大阪府警などの捜査本部は確認作業を進めているが、今も特定できていない。
 一方、動機について捜査本部は、千佐子被告が投機性の高い金融商品への投資を繰り返していたことなどから、遺産など金目当てと判断。千佐子被告の周辺では、他に数人の高齢男性が死亡しており、捜査本部は経緯や状況を調べているが、刑事責任追及の見通しも立っていない。」
 今後の問題は,裁判員裁判で,裁判員を説得できる証拠が揃うのかどうかである。裁判員裁判の時代に入り,最高裁は,(1)事実認定の水準を厳格にすることー被告人が犯人でなければ説明できない事実が存在することの証明を求める,(2)量刑,特に死刑の選択については,基本的に裁判官の作った基準を当分守る,,,こんなスタンスで裁判員裁判をコントロールしようとしている。
 今回の事件の場合,千佐子被告の有罪を立証できるかどうかが鍵となる。こんなコメントを採用してもらっている。

■渡辺修・甲南大学法科大学院教授(刑事訴訟法)は「殺害などの自供が翻されても立証できるかという視点で証拠を固める必要がある。最高裁は、『犯人とみても矛盾はない』という程度の証明では有罪を認めない。青酸の入手先や保管方法などが不明確なままでは、有罪の決め手に欠けるのではないか」と話している。
posted by justice_justice at 08:21 | TrackBack(0) | ■裁判員裁判ー一般 | 更新情報をチェックする
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