2019年06月28日

■「心愛さん」事件について〜母親の執行猶予付き判決(感想)

■朝日新聞デジタル(2019年6月26日11時37分・配信)は,
 「心愛さん虐待死、傷害幇助罪の母親に猶予判決 千葉地裁」と題して,次の記事を掲載している。
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 千葉県野田市の小学4年、栗原心愛(みあ)さん(当時10)が虐待死したとされる事件で、傷害幇助(ほうじょ)罪に問われた母親のなぎさ被告(32)の判決が26日、千葉地裁であった。小池健治裁判長は懲役2年6カ月保護観察付き執行猶予5年(求刑懲役2年)を言い渡した。
 心愛さんの異常な死、救急隊は見抜いた 家庭なぜ地獄に
 判決によると、父親の勇一郎被告(41)=傷害致死罪などで起訴=は1月22〜24日、心愛さんを長時間立たせたり冷水を浴びせたりしたほか、背中に座って体を反らせるなどの虐待を加え、飢餓と強いストレスによる病的状態に陥らせた。なぎさ被告はこうした虐待を制止せず、食事を与えないなどで手助けした。心愛さんは24日深夜、自宅の浴室で死亡した状態で発見された。
 判決で、小池裁判長は「父から虐待を受け、母からも助けてもらえず、心愛さんが感じた絶望感は計り知れない」と指摘した。DV(家庭内暴力)の影響については「精神的に脆弱(ぜいじゃく)で、夫の支配的な言動に強い影響を受け、一概に非難できない」と述べた。・・・(以下,省略)
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■記事を見ながら,こう考えた。

 検察官の求刑2年に対して,裁判所は,懲役2年半を宣告。心愛さんが亡くなった経過の残酷さ,悲惨さを本人にも社会にもいくらかでもわかってもらうための司法の工夫であろう。
 しかし,その上で,実刑とするのには忍びない事情を認めて執行猶予にした点も,この母親であった被告人が,実は,加害者でもある心愛さんの父親のDVの被害を受けて,心理的に支配された中,虐待に加担したことを酌めばやむを得ない判断だ。
 この限りでは,適切妥当な答えではなかったか。

 ただ,保護観察の目的は,DVの被害を受けない点に置くのか,娘を虐待しないことにおくのか,どんなプロをサポターにするのか,裁判所の側ももっと真剣に執行猶予中の更正プログラムの作成に時間を割くべきではないか。

 少子高齢化社会では夫婦間暴力,児童虐待・ネグレクト,高齢者虐待などが発生しがちた。「密室化された家庭内犯罪」をどう防ぐのか,社会全体で取り組まなければならない。
 地縁・血縁が防波堤になった時代は終わっている。子どもや高齢者を抱えた世帯が,都会でも地方でも他人との絆を創れないまま浮遊している状態になっている。

 「浮遊世帯」が増える「無縁社会」の中で,家族を犠牲にする痛ましい犯罪が起きている,この現状をリアルにみなければならない。
 個人と家庭を結ぶ絆がない中で起きる密室犯罪を防ぐには,もう一度「地域」の「見守る力」を回復するしかない。
 それには,自治体,自治会,学校,警察,児童相談所,社会福祉協議会など様々なネットワークをつなげて,「頼れる」「救われる」「守られる」「安心できる」場所を個人でも家庭でも少なくともひとつは提供し,潜在的な加害者も被害者もともに参加して,そこでのコミュニケーションを通じて,加害のうちごもりにことで,提供していかなければならない。その際,事件を裁いた裁判所も,加害者に沿った改善更生計画の策定に関与するべきだろう。

 子どもは社会が守り育てる,という意識を社会全体で育まなければならない。


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2019年06月27日

「控訴中の保釈」と犯人の逃亡〜どう考えるか?

■朝日新聞デジタルニュース,2019年6月23日07時52分 によると,
 「神奈川逃走、容疑者逮捕 横須賀市のアパートで見つかる」との記事が配信されている。
記事では,次のように紹介されている。

「実刑判決の確定後、刑務所に収容される前に無職小林誠容疑者(43)が逃走した事件で、小林容疑者が神奈川県横須賀市森崎のアパートで見つかり、横浜地検は23日午前6時38分、公務執行妨害の疑いで逮捕した。県警が全国に指名手配して行方を追っていた。
 横浜地検によると、小林容疑者は19日午後1時5分ごろ、地検の職員5人が収容のために自宅を訪れた際、包丁のようなものを突き出し、振り回すなどした疑いがある。県警厚木署員2人も同行していた。
 捜査関係者によると、小林容疑者は「だましたな」などと大声で叫んで説得に応じず、刃物で威嚇しながら近くにあった知人名義の黒の乗用車で逃走。近隣の相模原市で警察官に目撃されたり、同県厚木市のコンビニエンスストアの防犯カメラで車を降りる様子がとらえられたりしていた。同日午後11時半ごろ、厚木市三田のアパートの敷地内で逃走車両が見つかり、県警が1500人以上の態勢で捜査。車内には衣類が残され、刃物はなかった。・・・(以下,省略)」

■ すこし整理して考えてみた・・・。

第1 控訴棄却後,保釈失効規定の整備について

(1)現行法では,控訴保釈中に控訴が棄却されて原審の実刑判決が是認されたとき,保釈がどうなるのか規程が不明確だ。
 一審については,343条が次のように規定している。

■法343条は,「禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつたときは、保釈又は勾留の執行停止は、その効力を失う。この場合には、あらたに保釈又は勾留の執行停止の決定がないときに限り、第九十八条の規定を準用する。」

 この場合,下記の98条が準用されているので,収容のための手続も明確である。
■98条[保釈・勾留執行停止の取消し等の場合の収容手続]
@保釈若しくは勾留の執行停止を取り消す決定があつたとき、又は勾留の執行停止の期間が満了したときは、検察事務官、司法警察職員又は刑事施設職員は、検察官の指揮により、勾留状の謄本及び保釈若しくは勾留の執行停止を取り消す決定の謄本又は期間を指定した勾留の執行停止の決定の謄本を被告人に示してこれを刑事施設に収容しなければならない。
A前項の書面を所持しないためこれを示すことができない場合において、急速を要するときは、同項の規定にかかわらず、検察官の指揮により、被告人に対し保釈若しくは勾留の執行停止が取り消された旨又は勾留の執行停止の期間が満了した旨を告げて、これを刑事施設に収容することができる。ただし、その書面は、できる限り速やかにこれを示さなければならない。
B第七十一条の規定は、前二項の規定による収容についてこれを準用する。

 また,一審では,被告が判決宣告を行う公判期日にも出頭の義務と権利を持つため,保釈中であっても出席するのが通例である。この場合,弁護人においても実刑が予想されるときにはあらかじめ保釈が失効すること,判決公判が終了すると待機中の検察事務官が直ちに収容手続を始めること,法廷からそのまま収容されることなどをあらかじめ警告し,収容に備えた身の回り品の準備もさせているのが通常である。この段階でのトラブルは実際上あまりないのではないか。

(2)これに対して,控訴審で控訴棄却になり,一審の実刑判決が是認されたこととなっても,法的に控訴保釈が執行する旨の規定がない。
 しかも,判決宣告とともに,基本的に控訴審弁護人の選任の効力が消滅する。その後に収容手続に関して被告に助言などをする弁護人がいなくなる。上告に関しては明文で原審弁護人の権限が規定されているが,収容手続に関する責務規定はない。
 加えて,控訴棄却後の収容手続も不明瞭である。1週間〜10日程度で出頭日の指定が本人と原審弁護人に連絡があるが,原審弁護人は,便宜上被告に連絡はするが,あくまで事実上のことであり,弁護人としての責務ではない。
 控訴保釈にあたり,収容手続に関する事前の告知もなされない。
 逮捕勾留,起訴後勾留,保釈請求・・・など一審の身体拘束に関する法令に従い,令状審査も行われる厳格な手続と比較すると,ルーズな運用を許す制度になっている。
 これは,被告にとって便利な面もある。例えば,病気など収容を遅らせたい事情がある被告にとっては,運用の裁量の幅が広い分,柔軟な対応を求めること,事実上出頭を伸ばすことなどができる。
 他面で,ケースによる差が大きすぎる。厳格な身体拘束手続を原則とする現行刑訴法の中にあって,いびつである。

(3)そこで,まずは,実刑判決に対して被告が控訴した事件で保釈が認められたが,控訴棄却となったとき,保釈の効力がなくなる旨,条文で明確にするべきだ。直ちに収容でいる法的な根拠を明確にしなければならない。

(4)もっとも,今回の事例では,控訴審の判決後,一審の実刑判決が確定している。したがって,実刑判決を執行するための収容手続が問題となっているものであった。とすると,関連規程は,刑事訴訟法の刑の執行のための「呼出し」手続関係に定められている。
 最初の事実上の呼出しで,任意に同行してくれればよかったのであるが,今回は,逃走を招く事態に至ったものである。

○第四八四条[執行のための呼出し]
 死刑、懲役、禁錮又は拘留の言渡しを受けた者が拘禁されていないときは、検察官は、執行のためこれを呼び出さなければならない。呼出しに応じないときは、収容状を発しなければならない。
○第四八五条[収容状の発付]
 死刑、懲役、禁錮又は拘留の言渡しを受けた者が逃亡したとき、又は逃亡するおそれがあるときは、検察官は、直ちに収容状を発し、又は司法警察員にこれを発せしめることができる。
○第四八七条[収容状の方式]
 収容状には、刑の言渡しを受けた者の氏名、住居、年齢、刑名、刑期その他収容に必要な事項を記載し、検察官又は司法警察員が、これに記名押印しなければならない。
○第四八八条[収容状の効力]
 収容状は、勾引状と同一の効力を有する。



第2 保釈の運用について
1 多くの事件では,保釈されるとそれまでの私生活に戻り,裁判にも出席する。しかし,まれに逃亡,再犯に至る事例もある。保釈を認める以上,事故の発生もやむをえないリスクであるが,保釈保証金を担保に逃亡を防ぐ古い時代の保釈運用に代えて,GPS装置の着用,使用自動車の登録,GPS装置設置などIT機器をもっと応用した所在の確認手続を考えるべきだ。
2 保釈にあたり再犯のおそれを考慮することは許されない。
 再犯防止のための身体拘束の継続は,保安処分を認めるのと同じである。
 犯人と疑われている者が再犯を行うかどうか予測は困難であるし,厳格な運用を行えば,保釈制度は硬直化してしまう。
3 裁判官,検察官,弁護人そして被告も交えて,「手作り保釈」を検討するヒアリングを設けることも考えるべきだ。
 有罪か無罪かはさておき,生活保護手続,精神面の治療など被告にふさわしい生活改善も含めた保釈条件の設計を考える制度があってよい。
 薬物事犯など再犯性の高い事件では,ことのほか,改善更生のプログラムの早期実施が必要で,これと保釈との連携も考えるべきだ。
posted by justice_justice at 14:15| ■刑事訴訟法一般 | 更新情報をチェックする

2019年06月23日

いわゆる「法曹コース」雑感〜どうやって法律家を育て、成長させるか?

第1 負の側面
 ○法曹コースは、予備試験と同じく早期に法曹になる道を開く。優秀な学生がチャレンジする一方、学部と法科大学院と二重のハードルを乗り越えた上、両コースそれぞれで受験科目以外の負担が課されるため、学生はまず予備試験合格を目指して勉強を続け、次善の策として法科大学院早期卒業・法科大学院進学を考えることとなろう。(1)予備試験、(2)法曹コース、(3)法科大学院オンリーと受験生の序列化が進むし、就職などにも影響が出てくるおそれはある。
 ○司法試験合格の段階で、入り口が階層分化されることは、「法曹一元」の理念を掘り崩す危険もはらむ。「一級弁護士」「二級弁護士」・・・といった等級分けを生みかねない。


第2 プラスの側面
 ○しかし、制度のハードルがなんであれ、仕事にやりがいがあれば、リーダー役となる優秀な学生や、年齢を経た社会人が法曹の世界に集まって来る。
 今や、インハウスローヤーは用語も含めて一般化しており、ますます需要が増えるであろう。
 この他、スクールローヤー、自治体ローヤーなど行政畑で組織の内側から支えるローヤー、また、国政で活躍するローヤーも出てくる。
 福祉・児童保護・老人介護などなど少子高齢化にともなう社会基盤の変化の中、弁護士が法廷中心・法律問題解決といった狭い職域から離れた多様な職種・職域で活躍が期待される。
 その意味で、法廷技術を中核とする職人芸としての弁護士の時代は大きく変わろうとしている。
 合格に至る道筋、学ぶ場の違いがなんであれ、弁護士が社会をリードする時代が来るし、それにみあった多様な道筋ができあがってくる。
 ○学部の早期卒業が許されるなら、法科大学院の早期修了も認めてよく、また高専の学生にも法科大学院入学資格を認めるべきだ。一方、5年くらいじっくりと時間をかけて法曹になる社会人向けの法科大学院も残すべきだろう。外国人入学の敷居ももっと低くすべきで、グローバル時代に対応した多彩な法曹養成もこれから始まるだろう。
 ○司法試験の受験科目はもっと絞っても良い。
 選択科目の廃止も考えるべきで、基礎力ある法曹の卵を選び出し、司法修習に入って以後、法科大学院などで学び直しをしながら、実務につく、「リカレント法曹教育」と一体となった法曹養成・法曹質向上を今後考えるべきだ。
 ○法科大学院の設立の趣旨にこだわる必要もない。それが理想的であった訳でもない。予備試験の継続を「バイパス」「抜け道」などと非難する向きもあるが、優秀な人材に早期に活躍する道を開いておくものだ。
 同時に、実のところ、どのルートで来たのであれ、バッチをつけてからが本当の力量が問われるところだ。
 有職社会人が時間をかけて合格し、職場に戻ってキャリアアップし、会社をリードするそんな時代も間近だが、そのとき、予備試験合格組がそのまま優秀である訳でもないし、実は、社会人組が必ずしも社会経験を活かした弁護士活動ができるまでの力をもつものでもない。
 バッチをつけた後の職業人としての競争が始まり、そのダイナミズムが社会を健全なものへと変えていくだろう。
 今般の法科大学院を中核とする法曹養成制度の改革、法曹コースの導入はそうしたトレンドの一部に過ぎない。
posted by justice_justice at 07:47| □教養ーまきこ先生が語る | 更新情報をチェックする