2018年03月29日

■佐川宣寿氏前国税庁長官の国会証人喚問に寄せて〜黙秘の権利再考

 ○佐川氏は,刑事訴追のおそれがある事項と政治家の関与はないという犯罪に関わらない事実を分けて明確に証言し,今回の書類書き換えが財務局と近畿財務局が招いた組織ぐるみの犯罪であったことを明確にした。
 偽証罪の制裁のおそれがあり,国民注目の中で,国会で積極的に虚偽を述べるとは考えにくい。証言には一定の信用性を認めるべきだ。
 ○一転して,理財局と近畿財務局の関係,関係者の指揮命令系統などについて佐川氏は国会では語っていない。
 共犯と疑われる可能性がある以上,犯罪関与に関連する証言を控える権利が憲法と法律で認めらている。この選択は是認するべきものである。憲法も自己に不利益な供述の強要を禁止しているが,ここから被疑者・被告人の黙秘権が生まれてくる。市民が,国家権力に対して自己防衛する最小限度の防御権が「黙る」権利であることを再確認するべきだ。その趣旨に照らしても正当な権利行使だ。
 新聞報道などみていて気になるのは,自らの犯行関与の可能性のある事実関係に関しては黙秘した事実から,翻って,政治家の関与については否定した証言について,嘘をついている,とうがった評価をすることだ。これは,現行の議院証言制度を否定するのに等しい。
 同じように,証言を拒絶したから,文書書き換えにも加担していると疑いを濃くするのも憲法の精神を踏みにじるもので許しがたい。
 ○各党の議員が,国会の場で,「今回の書き換えには,政治家が関与している」という「見立て」を押しつけるかのように,佐川氏に証言を迫る姿は,密室で自白を迫る取調べ方法とよく似ている。
 これらは,刑事事件で容疑者や被告が黙秘するから犯人だと決めつけるのと同じで,証言拒絶権・黙秘権ともに憲法38条に由来する権利であってその正当な権利行使を本人の不利な事実に扱うことは許されない。
 刑事免責の制度も用意せずに,証人が憲法でも権利として保障されている「黙秘」を選択したことをいろいろな角度から非難し,証言したこと,しなかったことについて不利益な扱いをすることは,憲法の精神そのものを踏みにじる暴挙だ。
 ○今回のように,官僚と政治家による不正事件の疑いが濃く,政権のあり方に関する国民の選択にも関わる事件なのであれば,国会の場でこそ真実の証言が欲しい。
 国会が国権の最高機関であり,その機能を十分に果たすための国政調査権は,刑罰権を実現するための捜査権に優位すると考えてもおかしくない。
 そうであれば,憲法上の黙秘する権利,自己に不利益な供述を強制されない権利を実質上保障する措置が必要で,それが昨今導入された刑事事件における訴追に関する司法取引や証言に関する刑事免責である。
 国政調査権の円滑かつ公正な行使によって,国政の根幹にかかわる情報を提供させることが最重要なのであれば,国会で証言しても刑事事件の責任追及の資料にできないとする免責制度を導入しておくべきだ。
 国政に関わる事実を証言した場合,犯罪に関わるものであっても,刑罰権より国会の調査機能を優先させるという選択は,合理的である。
 そうした刑事免責制度や国会証言に関する刑事免責の制度のもとで佐川氏が証言したのであれば,今回証言を拒絶した多くのことについて,事実をあきらかにした可能性がある。
 国会での証人喚問のあり方をこの機会に見なすべきである
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2018年03月28日

佐川宣寿氏の国会証言について

第1 「関与者の範囲(共犯の確定)」の解明
(1) 財務省理財局と近畿財務局を中心とする「組織ぐるみ」犯罪であることは明白である,
 だが,なによりも,端的に,誰が書き換えを発案し,本省から近畿財務局に伝達したのか明らかにする必要がある。
 むろん,書き換えがあったとき,理財局長であった佐川宣寿氏が,その立場から,局内の指揮命令系統を通じて,近畿財務局に書き換えの指示命令を出したのか否かを解明する必要がある。
 佐川氏から現場で書き換え作業を行った職員まで,いかなる経路でこれが伝達されたのかも調べなければならない。
 つまり,近畿財務局の執務室の現場で書き換え作業を行った職員の特定は当然に行わなければならない。その現場に書き換え作業を指揮命令した中間か離職は誰なのかも特定するべきだ。
(2) 財務省内部の流れと別に,理財局長等に文書書き換えを依頼・打診・指示・示唆などした政治家はいたのか否か,も解明しなければならない。
 つまり,「政・官」ぐるみ犯罪としてなされた隠蔽工作なのか,「官庁の勇み足」犯罪であったのか。いずれにせよ,自民党の安定政権の元で起きた「官僚の驕り犯罪」であることは明白である。
 それにしても,理財局長が歯止めにならなかったこと,書き換え作業を黙々とこなす体質であったこと,その反応の背景はなんであったのかも明確に解明する必要がある。
(3)次に,国会に書き換え文書を提出するにあたり,佐川氏が,書き換え済み文書であると認識しながら,提出方を指示ないし許可していれば,行使罪にも問われる。書き換え指示とは異なるルートで,書き換え文書の国会提出がなされているはずで,その組織系統図も明らかにするべきだ。
(4)こうした書き換えから国会提出による行使まで,犯罪の系統図,つまり関係者の位置づけを解明し,刑事責任を追求するべき人の範囲を確定すべきだろう。つまり,「共犯」」の人的範囲の確定である。
第2 「何罪になるのか(刑法の擬律判断)」 では,佐川氏について,何罪で問責できるか・すべきか。
(1) 近畿財務局において,当初の決済文書などを職務上作成した者が現場で自ら一部削除などの書き換えをしたのであれば,同人らは直ちに公務員・公文書変造罪(刑法156条)に問える。
(2) その指示命令を佐川氏が行っていたのであれば,佐川氏と現場の職員の間には共犯関係が成立する。佐川氏は,公務員・公文書変造罪の共謀共同正犯として問責されることとなる。
(3) 次に,この書き換え文書を理財局の総務課などを介して,国会に提出している。佐川氏は,変造された公文書であることを知りながら,これを真実のものと偽り,その元で国会審議が進むことを認識しながら,提出を是認している。したがって,同行使罪(刑法158条)についても共謀共同正犯としての責任を負うことととなる。
(4)以上の擬律判断にあたり,次の点を検討しておく必要がある。
 ア:近畿財務局において,配置換えで当初の担当者は交替している可能性が高い。その場合にも,文書の管理に関する役職・権限と責務は引継ぎがなされている。事務継承があった上で,前任者の作成した文書を後に配置された職員が書き換えたのであれば,実質上同一の作成名義人たる公務員による変造とみてよく,公務員・公文書変造罪,同行使罪に問責してよい。
 イ:一般の公文書偽造変造罪,同行使罪と,公務員・公文書虚偽作成・変造罪,同行使罪は,法定刑としては同じであるが,宣告刑の段階では,犯人が公務員である場合,罪状はより悪質であって量刑に影響を与えることとなる。156条で刑責を問うことを優先するべきである。
 ウ:末端で書き換え作業を行った公務員も,仮に上司の命令に従っただけだと弁解しても,責任は軽くない。
 まず,文書書き換えが違法であることを認識しながらこれを行った以上,責任は重い。
 しかも,国家公務員は,公文書管理法上行政上の契約に関する書類などについても跡付け・検証ができるように書類を適正に作成管理することが義務づけられている。
 刑事訴訟法239条により犯罪の告発義務も負う。行政文書の作成・管理に関する重い責務を個々の公務員も負っている。
 そうした中で,明白に虚偽である文書に作り替え,しかもこれを国会の場に出すことを知りながら加担した以上,仮に末端の職員であったとしても,佐川氏とともに「正犯」としての責任を問われてもやむを得ない。
(5)(補足) 本庁の財務省理財局ー地方の近畿財務局の権限関係は解明しておく必要がある。
ア:書き換え当時理財局長であった佐川氏と国有財産処分に関する現場での処分権限を持つ近畿財務局との権限関係も明確にしなければならない。
 事実上理財局の指示命令が一般的に一定の拘束力を持っていると推測出来るが,この場合,佐川氏の指示を理財局内部で近畿財務局に伝達した職員,これを受けて部下に書き換えを指示して作業を行わせた近畿財務局の幹部,そして現場の職員は,共謀による正犯として扱ってよい。役割に応じて量刑が軽くなることは是認できるが,他方,こうした組織ぐるみ犯罪を行う指揮命令を行った佐川氏の責任は重大である。
イ:書き換え文書の行使については,総務課などの関与がうかがわれる。書き換え文書であると認識しながら,国会に提出したのであれば,これに関与した者も,佐川氏とともに,実行正犯,または共謀共同正犯として責任を免れることはできない。

第2 犯罪の成否
(条文)
 ●第155条(公文書偽造等) 行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3前二項に規定するもののほか、公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は公務所若しくは公務員が作成した文書若しくは図画を変造した者は、三年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
 ●第156条(虚偽公文書作成等)公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは、印章又は署名の有無により区別して、前二条の例による。
(解説)
ア:「偽造」とは,新たに虚偽文書を作成すること。「偽造」=「偽ニセを造る」こと。「変造」は,すでにある文書を「造り変え」こと。
 今回の事例では,既存の決裁文書の書き換え,つまり「造り変え」なので,155条でも156条でも,「変造」にあたる。
イ:155条は,公務員以外の者が,「公務員が作成している」という「形」が「有る」ように見せかける。だから,「有形」偽造・変造という。156条は,そもそも公務員が主体であり,一般的な作成権限があるから「公務員の振りをする『形』」は「無い」ので「無形」偽造・変造という。
ウ:(補足) *今回は無関係
 上記以外に,署名押印などがあって,文書作成名義の同一性,文書の正確性・信用性あるいは公定力が担保されていることが通常である。こうした「有印」文書と誰が作成したかは文面上解るが署名押印まではない「無印」文書によっても犯罪の軽重,処罰の要否が別れている。

第3 国会での証言拒否と犯罪捜査
(1)
 ・佐川氏が証言を拒否した場合、国会での真相解明は期待できない。検察の捜査に期待することとなる。
 ・従来型の密室での取調べで検察の「見立て」に従って供述を強制する手法は時代遅れだ。録音録画が導入されている時代には,こうした手法はとれない。
(2)
 ・他方,今年6月から,検察はあらたな捜査権限を駆使できるようになる。まず,公文書偽造罪などを含む一定の犯罪では,犯人が同種関連事件の解決について捜査協力をすると本人の訴追に関して有利に扱われる司法取引を行なう権限を行使できる。
 また,検察官は,証人が自己の犯罪も告白しながら共犯者の関与を証言する場合,当該証言は証人自身に対しては有罪証拠に使わない刑事免責を裁判所に請求できる権限も使える。
 こうした「損得勘定による自白」,「取引司法」の実際を国民が是認するかどうか,安定した運用が定着するかどうか見定めるのには時間がかかる。
 それはさておき,今回の財務省内部の組織犯罪解明には,「損得勘定による自白」を検察が関係者に求める権限を行使することで真相に迫ることを是認せざるを得ない。
 今後,内偵捜査により,関与者の概要がつかめた段階で,刑事責任の追及を断念しても国民も是認する末端に近い職員もでてくる。
 彼らに対しては,上記の司法取引の他,刑事免責の提供を活用し,財務省と近畿財務局それぞれの密室でのできごとを浮き彫りにさせることができる。
 むろん,実は,佐川氏自身も万が一にも政治家の関与があったときに,検察が,供述を得るにあたり,捜査協力・訴追合意や刑事免責の「損得勘定自白」を提供することもあり得る。
(3)
 ・但し,司法取引・刑事免責の運用は,検察主導の取調べで,えん罪を生む危険も高まる。
 指示命令の有無という客観証拠では立証しにくい事案であるだけに,任意の取調べ段階から取調べの全過程録音録画を行っておくべきであろう。
 
第4
1:前提〜刑罰権よりも国政調査権優先の証人尋問制度を作るべき〜
(1) 国家体制を維持・発展させる上で,国会による国政調査権と,刑罰権のどちらを優先させるべきか,という観点から考えるべきテーマ。現在は,刑罰権を優先する。
 だから,国会の証人尋問も,自己負罪供述の拒否を認め,捜査機関が捜査し,検察が起訴して,裁判所が裁き刑罰を科す手続を国政調査権によりも優先している。
 真相解明を国会の場ではなく,司法に委ねる構造となっている。
(2) しかし,刑事裁判において,検察官が刑事免責の請求権を持ち,司法取引の権限を与えられているのもひとつの法政策に留まる。これと同じく,国政調査の徹底,国会における真相解明,国政のあり方に関わる真実は国会で明らかにするという憲法41条の趣旨を体現した制度があってもおかしくない。
 国会議員が国会で発言したことについて,基本的に刑事責任の追及はされない(憲法51条)。
 同じく,憲法上の制度たる国会における証人尋問における証言に関して,国会での真相解明を優先し,ここでの証言は,同人の刑事訴追において証拠としない,という国会証言についての刑事免責制度を導入するべきだ。
 さもなければ,国政の最高機関が,別の国家機能である刑罰権を優先して国政の利益が損なわれることに甘んじなければならない。しかも,刑事裁判は,刑事罰を科すのに必要な限度でしか事案解明を行わない。民主主義の基盤を守るため,国民の知る権利に必要な情報が収集される訳でもないし,裁判後に,証拠が開示されるわけでもない。国民にとって納得しがたい。
(参考ー議院証言法)
第一条の五 証人には、宣誓前に、次に掲げる事項を告げなければならない。
一 第四条第一項に規定する者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのあるときは、宣誓又は証言を拒むことができること。
二 第四条第二項本文に規定する者が業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについては、宣誓又は証言を拒むことができること。
三 正当の理由がなくて宣誓又は証言を拒んだときは刑罰に処せられること。
四 虚偽の陳述をしたときは刑罰に処せられること。
(参考ー憲法)
●41条 国会は国権の最高機関である。
●62条 そのために国政調査権がある。証人尋問を行える。
2:佐川の証言拒否のもたらすもの
(1)政治家の関与,財務省の関与などが選挙で国民が選んだ代表のいる国会で解明されず,結局は,検察の訴追権に委ねることで,実は与野党一体となって事件をベールにくるむことを是認しているのに等しい。
 国家のあり方に関わる事件の真相が,結局,国会の場から遠ざけられることとなる。与党・野党を問わず,政治家の政治責任の追及ができなくなる。
(2)現下の国際情勢の中で,真剣に議論しなければならない国家にとっての緊急の課題は放置されることとなる。
 国有財産の一部の処理というきわめてローカルな土地問題の扱いのため,国会が時間を使わざるを得ない状態にある。
 それが,首相の進退,内閣の再編成などなど政情不安をもたらしかねない。
 他に深刻に真剣に,与野党挙げて国のあり方とからめて国会審議を深めるべきテーマがまったくなおざりにされている。国民を愚弄するものだ。
 そうした状態を官僚が造り,首相,内閣がコントロールできないという情けない状態となっている。
 国際緊張も日々変化する中,国会では,内輪もめの議論が続く。国民はしらけた気持ちで論争をみている。
 所詮,真の政治「家」(せいじか)ではなく,政治「屋」(せいじや)政治にすぎないことを露呈している。
(3)こうして,財務省の信用失墜,納税義務の意識低下,民主主義国家を支える基盤〜選挙による信頼できる政治家を選ぶこと,納税の義務を尽くすこと,勤労によって民主国家の基盤を作ること,こうした民主主義3原則が,国会の場での茶番劇をみせられことによって崩れていく。
posted by justice_justice at 07:42| ■刑事訴訟法一般 | 更新情報をチェックする

2018年03月25日

名大女子学生殺人,タリウム混入事件控訴審判決に寄せて

 18年3月23日の読売新聞のネット配信記事で,2014年に名古屋で起きた,名大女子学生による不可解な殺人事件について,名古屋高裁が一審の無期懲役の判決を是認して,被告側の控訴を棄却したとの報道に接した。

 記事によれば・・・・

 「判決によると元女子学生は19歳だった2014年12月、名古屋市の自宅アパートで知人の森外茂子さん(当時77歳)の頭をおので殴り、マフラーで首を絞めて殺害したほか、実家がある宮城県内の民家に放火し、住人を殺害しようとした。16歳だった12年5〜7月には、同級生ら2人に硫酸タリウムを混ぜた飲み物を飲ませ、殺害しようとした。

 元女子学生は1審の公判前に行われた精神鑑定で、発達障害と双極性障害(そううつ病)の診断を受けた。公判では、「重い障害の影響で善悪を判断できなかった」として無罪を主張する弁護側と、「障害の影響は限定的。犯行は計画的で、違法性も認識していた」とする検察側が対立していた。

 控訴審では、検察側が「弁護側の医師の証言は証拠能力が乏しい」として、1審判決の事実認定に誤りはないと訴えていた。判決で高橋裁判長は「精神障害の影響は限定的で、自らの意思で犯行に及んだ」としたうえで、「まれに見る重大かつ悪質な事件。犯行時少年だったことや障害の影響などを考慮しても、1審判決が重すぎて不当とはいえない」と結論づけた」という。


 こんな感想を持った。

 タイトル的には・・・

 ○「心の闇」の解明に門戸を閉ざした判決
 ○真相解明なるも,社会不安は増大。
 となる。以下,感想を項目で分けて分解してみると・・・

(1)原審・控訴審の審理を通して,一連の事件の経緯と被告の役割は解明された。真相は法廷で明るみに出たが,被告の「心の闇」の原因・背景・対策は触れられなかった。
 自閉スペクトラム症や双極性障害があってもそれぞれの犯行の善し悪しの判断はできるという判断は納得はできる。しかし,執拗に湧き上がる被告の殺人願望の原因は何であったのか,最大の謎は残ったままだ。。
(2)弁護側も,責任無能力・無罪は主張したが,被告の立場にたって「心の闇」がなぜ生まれ,これを刑事罰で処罰してもそもそも被告の責に帰することができないのは何故なのかは説明できなかった。仮に無罪になったとき,被告側としてはどう処遇するのかに関する計画も欲しかった。
(3)無期懲役を是認した裁判所の判決も物足りない。
 自閉スペクトラム症・広汎性発達障害を持つ被告を無期懲役にすることがどのような刑事政策上の効果をもつのか,検察側に説明を求めるべきではないか。
 処遇上,どうすれば「殺意の情念」を抑えることができるのか,再犯を犯さないようになるのか,検察の主張をまってこれを判決に盛り込まれない限り,市民から見れば,説得性は乏しい。被害関係者も納得できない。
(4)裁判所は,原審,控訴審通して,発達障害があっても刑法上の責任能力は問えると判断したが,家族も居る中でなぜ殺人願望が育まれたのか「心の闇」のメカニズムには迫れなかった。控訴審は形式的に原審の判断に誤りがないことを確認して控訴を棄却するのに留め,今回の事件の最大の謎,「殺人願望」が優秀な女子学生に芽生えたメカニズムの解明と対策としてどのような刑罰が必要なのかについては踏み込まなかった。問題は先送りされることとなった。
(5)21世紀日本は殺人罪などの犯罪の量は減っても不可解な人間関係,了解しがたい思い込み,ストーカー的犯行等など異様な犯罪が起きている。このため治安への不安が高まっている。この点で,原審判決が、処遇に関する意見をつけたのは画期的であった。今後とも,検察側は無期懲役を求刑する場合,刑務所での処遇計画,被告のための改善更生のプログラムも明らかにした上で裁判員と裁判官の判断を仰ぐべきではないか。
posted by justice_justice at 09:22| ■裁判員裁判ー一般 | 更新情報をチェックする